再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第4章

137 第4学院:1日目

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「………は?全焼したって……え、カミーユは?」

俺の質問にシリウスは綺麗な笑顔で首を振った。

『まだわからない。』

「え、え……なんでだ?偶然…じゃない?」

『アグニ、まだわからないよ。』

シリウスは俺を無理やりベットに横にさせた。

『明日も学校でしょ?お子様は寝なさい。』

「…………寝れるわけないだろ。」

『あはは、そうかそうか。』

シリウスはくるっと後ろを向いて俺の部屋のドアを開けた。

『クルトを起こすよ。学院に行きなさい。』

「え、」

『じゃあ。』

「あ、おい!!!」

シリウスは俺の呼びかけに応じず、そのまま部屋を去っていった。





・・・・・・





「お、アグニおはよう。いつ学院に戻ってきたんだ?」

寮内のダイニングでカールが俺を見つけ、声をかけてきた。

「……今朝、かな。まだ暗い時間だった…。」

「そうか。…なんか顔色悪いぞ?あんまり寝れてないのか?」

結局俺はあの後、寮に帰ってからも眠ることはなかった。
寮まで送ってくれたクルトには「何か情報が入り次第、すぐに知らせてほしい」ということを伝えていた。そんなすぐに情報が入るわけはないとわかっていても、落ち着くことができず眠れなかったのだ。

「しばらくしたら第4へ移動する。その間、少しだけでも目を閉じて身体を休ませたほうがいい。」

第4学院との交流会は、最初の2日半は第1があちらの学院へ行き、残りの日数は第4がこちらの学院に来る。そのため、初日の今日は俺らが第4学院へと移動するのだ。カールはその移動の時間のことを言っているのだろう。

「……ああ、だな。」

俺は軽く返事をして、残りの朝食をまた食べ始めた。





・・・・・・




第4学院は帝都の南部に位置している。
第2学院の建物より壮大さはないが、赤茶のレンガ調の学院は知的で可愛らしい。学院の入り口には芸石による光の演出で、第4学院の紋章が浮かんでいるように見えていた。さすが技術に力を入れている学院だ。

第4学院の生徒はほとんど貴族ではない。商人や技術職の家庭に生まれた子が多いらしい。男女比は6:4程度だ。

食堂へ行き、第4学院の総長であるイサックとシルヴィアの挨拶で交流会は始まった。けれども席が第1と第4で分けられていたので、特に第4の生徒と話すことなくそのまま昼食の時間は過ぎた。

「エベル王子は……いつも通りだな。」

「え?」

食器を片付け終わり、会議室に移動しようとしていた時だった。カールの目線の先を見ると、エベル王子が食堂を汚らしそうに見渡しながら歩いている。たぶん今ここに来たのだろう。第2学院でも初日は昼過ぎに来ていたし。

エベル…………

カミーユの家の火事にあいつは関与してるのか?けど関与してなければこんなタイミングよく家が燃えるなんておかしい気もする。カミーユを口封じとして……殺したのか?
けどエベルの様子・芸素に変化はない。通常通りだ。もし本当にそんなことをしたのなら…こんな平然と過ごせるだろうか?


  ……エベルの仕業じゃないのか?


「どうしたアグニ?置いてくぞ?」

気が付いたらカールはもう食堂の入り口まで歩いていた。俺も急いでカールのところまで走っていった。



・・・・・・




午後には技術構造の授業があり、その後すぐに研究会の時間だ。第4学院は授業数が少なく、その分、研究会に割り振られる時間数が多いそうだ。

そして初日の今日は俺たち第1の生徒が様々な研究会を自由に見て回るらしい。

「カールはどこ見に行く?」

授業終わりに俺がカールに聞くと、カールは文学研究会の男子数名と席を立った。

「俺たちは文学研究会に行こうかなって思ってる。その後に時間があったら他も見ようかなって。」

「そっか。俺は技術の方に行くから、またあとでな!」

「ああ、わかった。また。」

「コルは?どうする?」

『ん~第4には武芸研究会がないらしいからなぁ。……アグニについていってもいい?』

俺もさっき知ったのだが、第4学院には武芸研究会がないらしい。つまり護衛騎士や軍部志望者はほとんどゼロなのだ。コルネリウスは第1学院でも武芸研究会にしか所属していないので行きたいところがないのだろう。

「おう、いいよ。セシルと一緒にイサックに案内してもらうんだけど、いいだろ?」

『ハストン子爵家のイサック殿だよね?もちろん、構わないよ。』

ここで第4学院の総長って情報よりも貴族家の情報が出てくるところがコルネリウスらしいな。コルネリウスは本当に貴族社会の情報に詳しい。

「よし!じゃあ2人のとこに行こうぜ!」




・・・




「第4学院は技術研究会が分野別で存在しています。日用科、武芸科、治癒科、農業科、工業科、地方科など……まぁ自分達で研究したい分野を『科』と呼んで、どんどん枠を増やしていった感じですね。」

イサックが案内をしてくれながら簡単に説明をしてくれた。第1では技術発展研究会という名だが、第4では技術研究会というらしい。そして「科」というものを作って分野を極めているそうだ。

「アグニは……どこ、行きたい?」

「んー…武芸科かな。俺は鍛冶師だし、第1でも鍛冶してるしな。第4でどんなことをしてるのかを見たいな。」

「うん……じゃあまず、そこ行こ。…イサック、案内…してくれる?」

「うん、もちろんだよ!こっち!」

セシルに頼られたのが嬉しいのか、イサックは頬が落ちるんじゃないかってくらい嬉しそうに笑った。芸素も飛び跳ねている。イサックとセシルは思った以上に仲良くなってたみたいで、俺とコルネリウスは2人の後ろに続いて武芸科へと向かった。

カーン カーン カーン

カコン カコン コンコンコン・・・

キーン! ・・・キーン!!


   おお~!!!打ってる打ってる!
   うわ~テンション上がってきた!


第4学院には専用の鍛冶場が存在した。そこには炉や冷却場が複数あり、たまに行くフェレストさんのとこに似ていた。

『うわぁ…!!すごいね!鍛冶場ってこんな感じなんだ~!』

コルネリウスもその場の音や熱気に感動したようで、結構食いつきがいい。

「金属の加工は普段はあまり行われてません。今日は稀な日ですよ。武芸科で行うのは主に、芸石の取り付けです。剣にどう芸石を取り付けたら一番効果を発揮しやすいか、使う芸ごとにどの素材の金属を使うのがいいかなどを研究しています。」

イサックの説明であたりを見渡してみると、確かにみんな、金属を打つのはあまり得意ではなさそうで動きがぎこちなかった。けど他の生徒の鍛冶を見るのは初めてだったから俺はそれだけでなんだか嬉しかった。

「……あ、もう少し火に入れてから打った方が方がいいっすよ。」

「…………え?」

『アグニ~!次行くよ~!』

「あ、おう!!」


   やっべ。いらぬ世話を焼くところだった
   集中を途切れさせちゃったかな。


俺らはその鍛冶場から出て、次の科に案内をしてもらった。



・・・




「ここは農業科です。」

「『「 お~!!!! 」』」

農業科は、農業で使うと役立つ道具の開発を行っている。金属を使う時は武芸科の鍛冶場を貸してもらうらしい。

「ん?あれは……」

農業科の小屋の中に見覚えのある道具があった。以前洪水が起きたハイセン村に行った時、シリウスが造った土掻き機だった。
俺の目線の先に気づいた生徒の一人が説明をした。

「あぁ、あれは土を掻く道具です。第1の皆さまはご存じないでしょうけど、農業で最も大変なことの一つは種植え前の土ほぐしなんですよ。」

「………いや、知ってる。あれは土掻き機だろ。あの下部に互い違いで刃がついていて回転する。従来の鍬と比べて長時間使いやすい。エール公国ハイセン村が発祥……か?」

俺がその生徒に追加の説明をすると、その生徒は驚いたように眉を上げた。

「………その通りです。いや、驚きです。なぜそこまでご存じなんですか??え、もしかして農業科に興味があるとか?!」

急に俺への態度が変わった。瞳をキラキラさせて同志を見るような目になっている。

「あ、ああ。まぁ……興味はなくはないかな。けど俺、知識が全然なくて…」

「お教えしますお教えします!!!あ、じゃあハイセン村のもう一つの発明はご存じですか?」

「え?もう一つの発明?……いや、ごめん。知らないや。」

「それはですね~」

その生徒は急いで黒板の方へと走っていき、何やら地図と図解を書き始めた。

「この村は洪水のせいで農業に深刻な被害が生じました。最も問題だったのは、畑に流入してくる土砂を防げなかったことです。防ぐ機能がなかったんです。そこで!この村の技術師が混合土で頑丈にした「灌漑かんがい用水路」を造ったんです!!!」


   ん?それって……
   俺が造ったやつのことか?


図解を指さしながらその生徒は話を続けた。

「今も多くの村では土の溝を川まで掘って水を排出しています。そのため壊れやすく、雑草なども生えやすいんです。けれどもこの…混合土で作られた溝は…洪水時には水を防ぐこともできるんです!!!!」


   うん。これ俺が造ったやつだ。


俺はハイセン村の農業用水が流れる溝に細工を施した。石の道のようにしたのだ。そして川から流れてくる水の量を調整できる仕組みも作った。

「………すごい…その発想は…なかった!」

「へぇ…あの村でそんな発明があったのか…。」

セシルもイサックも今の説明を聞いて感動している。コルネリウスは何がそこまで凄いのかわからなかったようで、無言で笑顔をキープしている。

「けどこの開発、誰がしたのかわかってないんですよ。村の人間ってのは確かなんですか、誰も名乗り出ないんです。だから結局エール公国に指揮管理権や特許が認められて…これでエール公国は一稼ぎしたって聞きました。」

「ん?特許?」

とっきょ…なんて初めて聞いた。けれども皆はその言葉の意味を知っているらしい。

「特許は…何か有用な発明をした人、とか商家に与えられる権利。……独占権。」

「独占権を持ってるからその発明品を使用したいと申し出る人に対して、お金を要求できるんだ。」

『帝都の文部がその権利を出してたと思うよ。』

3人からの説明を聞き、俺は焦った。

「え、え、え……そ、それって……どれくらい儲かるの…?」

「貧乏なエール公国が一稼ぎして助かってるくらいには…儲かったんじゃないか?」

「まじかよ?!!!!!!!」


   ぬあ~!!!!!!
   そんな権利があったなんて!!!!
   シリウスは教えてくれなかったぞ?!
   おおおおいまじかよぉぉぉ!!??


『アグニ?!どうしたの?!』

膝から崩れ落ちた俺を見てコルネリウスが焦ったように外傷を調べるが、これは心の傷だ。問題ない。いや、ある。なんでシリウスは教えてくれなかったんだ。この権利があれば俺は一生遊んでくらせたのに!!!!!!今すぐ理由を聞きに行きたい。

「………今すぐ家に帰りたい!!」

「アグニ……今日まだ1の日…。」

「知ってるよぉ!!!!!!」



・・・・・・




「はぁ~……」

「どうした?寮に帰ってきてからずっとそんな様子じゃないか。」

「いやぁ……大金が…」

「え?」

「あ、いや、なんでも……」

俺たちは今、第4学院内の寮にいる。
第4学院も第2の時と同様に、西と東で男女を区切っただけの巨大な一つの寮だった。いつもは別の寮にいて夜に喋れない生徒たちとも喋れるので楽しい。まぁ結局カールと一緒にいるけども。

今は男子寮の談話室でダベっていた。
意外なことに、第2ではあんなに嫌悪感たっぷりだった第1の生徒は第4ではそんなひどい態度は見せていない。第2に特別対抗心が高かったことと、第2の古めの校舎を経験済みだったことが功を奏したらしい。

「アグニ様はいらっしゃいますか?」

談話室の入り口で寮父さんの声が聞こえたので俺は振り返って手を挙げた。

「あ、はい。俺アグニですけど。」

寮父さんはすぐに俺の近くまで来て、トレーの上に乗せた手紙を差し出してきた。

「シャルト公爵家よりお手紙が届いています。」

「あ、はい……。」

「ん?手紙?なんだ?どうしたんだ?」

カールは後ろから声をかけてきたが、俺はなんでもないように振舞った。

「あぁ……まぁくだらない会話だよ。……ちょっと俺もう部屋に戻るな!おやすみ。」

「お、おう。わかった。おやすみ。」

俺は急いで寮の個室に入り、手紙の内容を確認した。
そこにはシリウスの書いた文字で、ラウルから伝えられた内容が記されていた。


カミーユの家の焼け跡から、複数の焼死体が発見されたとのことだった。







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