再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第4章

136 君が払った代償

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「逮捕………?」

エベルが気持ちよさそうな顔で鷹揚に頷いた。

「ああ。貴様の人生は…終わったな!」


   そうか…………

   まぁ、それはどうでもいいや。
  

俺は床に倒れているセシルへ近づき、今の状態を確認した。

「おいセシル、セシル!!大丈夫か?」

だめだやっぱ意識がない。頭を強く殴られてたもんな。

「おい平民!!動くな!お前はもう犯罪者だ!!」

「ぐすっぐすっ…。」

エベルが喚き立て、カミーユも嘘泣きを続けている。……さっきからうるせぇなぁ。

「ギフトを… 治癒 」

金に輝く光の粒子がセシルを身体ごと包んだ。怪我は頭だけだとは思うが一応身体全体に治癒をかけておき、俺はカミーユに近づいた。

「 …お前、俺の友達に手出したな 」

「ひっ………」

俺は自分の芸素を全部、カミーユにぶつけた。これは芸ではない。けれど重圧が体にかかり、威圧に近い効果がある。カミーユの顔がみるみる青くなり、呼吸も浅くなる。息がしづらいのだろう。だが同情の余地はない。

「 代償だ。しばらく苦しめ。 」

俺はカミーユの耳元でそう呟き、改めてエベルを見た。

「退学は構わない。逮捕もすればいい。だが証拠は不十分だろう。」

「っは!!!これだから平民は困る!!!」

エベルが大きな声で俺のことを鼻で笑い、堂々と宣言した。

「いいか?この世界は証拠以上に重要なものがある。権力という名の信頼だ!意見かが重要なのだ。証拠がない?なおさら好都合だ。証拠の代わりとなるのだからな!!!」

「い、いえ……証拠……なら、あります……!」

「セシル!!!」

セシルが意識を戻し、上体を起こした。俺は急いでセシルの体を支えると、セシルは一度にこっと笑ってから胸元のブローチに手をかけた。

「これです……!!」

「………あぁ?なんだそれは?」

エベルが迷惑そうな顔でセシルに問いかけた。証拠だと言われた以上、エベルもセシルのブローチに警戒をしなければならない。

「これは…世界初の……映像記録石です!!」

「………なんだと?」

「えぇ!?セシル、この前イサックと一緒に考えてたやつ、もう作ったのか?!」

待て待てすごいぞ!!こんな早く新たな芸石を作り上げるなんて!!!

セシルは嬉しそうな顔で俺のことを見てからコクコクと何度も頷いた。

「今ね、これを文部に申請手続きしててね、認められたら私とイサックが共同開発者として…研究費が下りるの!!」

「おおおおおい!!まじかよすっげぇじゃん!!え?!研究費?!じゃあもう技術者になれるのか?!すげぇなおい!やったなぁ!!!!」

「うん!!!!」

『え、え、え?アグニ、セシル…どういうこと??』

その場にいたコルネリウスは訳がわからないという様子で俺らに聞いた。隣のシルヴィアも混乱しているようだ。

「セシルが映像を記録させることができる芸石を開発したんだ!」

「まだ……通信はできないから……手紙の代わりにはならないけど……」

セシルが遠慮がちにいうが…何を言ってるんだ!十分すごい!!!

「けど手紙の形が変わるかもしれないな!紙じゃなくて映像で届ける……すげぇ!!すげぇよ!!」

「あ、ありがとう……!!」 

セシルは幸せそうな嬉しそうな顔をした後、コホンと一度咳払いをしてから立ち上がり、エベルに向き直った。

「エベル王子殿下、今申し上げた通りこの芸石は映像を記録できます。そして私は……カミーユさんが声をかけてきた途中からこれを起動していました。今もしています。……証拠はここに映っています。」

「っ…!!!!!」

セシルの言葉でエベルの表情が崩れた。

『セシルさん、その芸石の記録を止めて映像を見ることはできますか?』

シルヴィアが遠くからでもよく透る声でセシルに問う。セシルは綺麗に礼をしながら答えた。

「もちろんでございます。」

『そうですか…。では今、映像を確認しましょう。』

「なっ!!!!なんで??!!!!」

カミーユが急に泣き止んだ。顔を覆っていた手を退け、シルヴィアの意見に食ってかかる。だが残念ながらシルヴィアは意見を覆す気はないらしい。

『カミーユさん、あなたは嘘をつきましたか?』

「え、……い…いいえ………。」

『そうですか、では意見がアグニさんと対立しています。どちらが正しいのかを確かめ、嘘をついた者を罰するために、これは必要なことだと思いませんか?』

シルヴィアは貴族然とした綺麗な姿勢のまま、真正面からカミーユを見ていた。その姿はあまりにも高貴だった。
カミーユはシルヴィアから目線を外し、エベルの方を見ながら言った。

「け、けど!!この映像が嘘の可能性はないのですか?!ねぇ、ねぇ?!!エベル王子様!!!」

「さぁ?まぁもう良い。映像を見てみようではないか。」

「そ、そんな……!!!!!」

……予想外だ。てっきり今のカミーユの言葉に乗っかると思っていたがそうではなかった。エベルはすでにいつもの様子に戻っている。


   なんだ?なんで急に態度が戻った?
   今は明らかにピンチのはずだ。
   どうして映像を見ることに同意した?


エベルの行動に疑問が残るが、もう問題はない。セシルは俺に一度頷いてみせると芸石を起動させた。ブローチから出た映像が壁に投影され、先程の様子が映る。


          ・

          ・

          ・


「あ、ありがとう…!あ、ハンカチが……」

「あぁ俺あるよっ…て、行っちゃったな。セシル、一緒に来てくれる?」

「ほら、カミーユ……って、あれ?」

ボコッ!!!!!

「うぅっ……!!!!」

「っ!! セシル!!」

「……おい、カミーユ!!どういうことだ?!」

「……………こうするのよ。」

ビリッ!!!

「きゃあぁぁぁぁ!!!!!!!」

「?!!」

ドタドタドタドタ・・・

「なんだ?!一体なんの悲鳴だ?!」

          ・

          ・

          ・


映像は荒い。けれど音声もあるし、セシルが横向きに倒れてくれたおかげで、カミーユが自分で服を破いた様子が撮れている。

結論は出た。

カミーユは身体を震えさせ、エベルの方をすがるように見ていたが、エベルは全く気にしない様子でその場に立っていた。


   あ、こいつ………
   まさか!!!!!


エベルは大きな声で宣言をした。

「映像を見た結果、苗字無し・名カミーユによる虚偽の証言であることがわかった!!………嘘をつき、冤罪を作り出そうとした貴様は……犯罪者であり、学院も退学だ!!!」

「な、な、なっ……!!!!エ、エベルさまぁ!!!」

カミーユがずりずりと四つん這いでエベルに近づいて懸命に言う。

「わ、わたしは…!わたしはあなたの…あぁ!!」

「穢らわしい………! 私に触るでない平民が!」

エベルは足を大きく張り上げカミーユを払い、そのまま足で突き飛ばした。


   こいつ、やりやがったな!!!


今回のカミーユの行動の裏には絶対エベルの指示がある。けれどそれこそ、証拠がない。切り捨てるつもりだったからエベルは余裕だったのだ。

シルヴィアがカミーユに近づいて問いかけた。

『カミーユさん、あなたに事情を話す場を与えます。どうしてあの映像のような行動を起こしたのか、、正直に話してください。』

「かみ~ゆ~ぅぅぅぅ????」

「ひっっ……!!!!!」

シルヴィアの言葉の後、すぐにエベルがカミーユの名を呼んだ。


   ……くそっだめだ!
   エベルがカミーユを喋らせない!
   たぶん何か弱みを握ってるんだ!!


カミーユは震える声で、静かに言った。

「わ、わたしが……アグニ、さんを……貶めようとして…ひ、ひとりで…やりました…。」

「皆の者、聞いたな!!この女が個人的な恨みによって、この男に冤罪をかけようとした!ここにいる全員が証人だ!!」

「「 はい!! 」」

エベルの後ろにいた2人の学生は明らかに安心した様子ですぐさま返事をし、その場にいた他の生徒も戸惑いながらも返事を返した。シルヴィア、コルネリウス、セシルのみが返事を返さなかった。

残念だが、カミーユは退学になる。
が、俺はエベルを許せるほど寛容な人間ではない。

「おい、」

「ああぁ???くそが……貴様には私に話しかける権利はないのだが?」

「おーおーおー、威勢がいいな。黙れよ。」

「っ!!!! 貴様!!!!」

エベルが腰に下げていた短剣を抜き、俺に向けた。

「ははっ…華美な装飾のわりに随分と出来の悪い剣だな。俺が打った剣の方がよほど上等だ。」

俺は芸でエベルの突き出した剣に氷をまとわせ刃を使えなくした。その上でエベルに近づき目をまっすぐに見ながら告げた。

「いいか?俺は平和主義なんだよ。だから俺の平和を壊すような奴は、排除する。……もう二度と、俺の仲間に手を出すような真似すんなよ。」

エベルは焦った顔をした。芸素も緊張している様子だった。
しかしエベルは生粋の王家至上主義の下、育てられてきた王子だ。俺のことを平民だと思っている以上、どんなに俺が恐ろしく見えてもプライドを突き通す。

「………図に乗るなよ平民が。……おい行くぞ。」

「「 は、はいっ!!!! 」」

そうしてエベルはその場を去っていき、入れ替わりで数名の学院の騎士と先生たちが入ってきた。






・・・






「本当に……申し訳ありませんでした…!!」

アイシャならびに第3学院の生徒たちが一斉に俺に頭を下げた。急遽、談話室へ全員が集められ、先ほど起こった事が伝えられたのだ。カミーユはすでに先生たちに預けられている。

「いえいえ!アイシャさんたちが謝ることじゃないっすよ!誤解も晴れましたし…それに…」

カミーユだけの仕業ではない。

『アイシャさん、そちらが全て悪いわけではありません。こちらにも原因があります。残念ながら、そのを証明することは……困難ですが……』

第1学院の総長としてシルヴィアが告げた言葉にアイシャは首を横に振って笑顔を見せた。

「いいえ、寛大なお言葉に感謝申し上げます。……どうか来年も……よろしくお願い致します…!」

『えぇ、もちろんです。』

この交流会の間で、驚くことに2組の婚約が決定したらしい。女子生徒同士も随分と仲良くなった。エベルとカミーユのことがなかったらこの交流会は大成功だったのだ。

だからこそ、残念で仕方がなかった。




・・・・・・





「ただいま~……」

「あら?アグニじゃない!遅かったわね。交流会どうだったの?」

『わぁ!!アグニだー!!おかえりー!!!』

家に帰って2人のいつもの様子を見て、俺はやっと息をつけた。

『あれれれ~??どうしたの?なんか面白いことでもあった?』

「なんだか疲れてそうね?そんなに大変だったの?」

俺の変化に2人は気づいたらしく、シリウスは楽しそうな顔で、シーラは心配そうな顔で俺のことを見た。

「……大変だったよぉ~~。聞いてくれよ、実は……」

こうして俺はこの一週間何があったのかを全部話した。

俺の話を聞き終わったシリウスはすっと立ち上がると、近くのソファに置きっぱなしだったフォード公国の民族衣装を被り、自身の目と髪を隠した。

「シリウス……どっか行くのか?」

シリウスはスカーフの奥からにこっと妖艶に笑い、窓へと向かった。

『うん。そのカミーユって子の家、探してみようかなって。』

「え?カミーユの??……どうやって探すんだよ?」

俺の問いかけにシリウスはくるっと振り向いて、いたずらっ子のように笑った。

『頑張って探してもらうんだよ。頼む相手の名はラウル、帝都の北西部にいる。そのうちアグニにも彼を使わせてあげるね。んじゃっ!!』

「あ、おい!!!!」

シリウスは好き勝手に言い残して窓から飛び去っていった。シーラは諦めたように小さくため息を吐き、紅茶を口に運んだ。

「………最近ブガラン国王からも、パーティーで自分のパートナーをするように命じる手紙が度々届くのよ。マナーのなっていない文面でね。まったく……親子そろって迷惑ね。」

シーラは困ってそうな表情をしていたが芸素は何も動じていない。実は困ってなさそうだ。

「そうなの?その誘いってどうしてるの?」

「もちろん全部断ってるわよ?」

「え、それ大丈夫なのか?!」

「当たり前でしょう。私を誰だと思ってるの?」

「そ、そうでした……社交界を牛耳るシーラ様でしたね。」

コンコンコン・・・

「シーラ様アグニさん、夕食の準備が整いました!……あれ、シリウスさんはどこへ?」

クルトが辺りを見渡しながら談話室に入ってきて、座っていたシーラに手を差し出した。シーラはクルトの手を取りながら立ち上がった。

「ラウルのところよ。夕食、シリウスの分も準備してくれてたわよね?ごめんなさいね。」

「そんな!シーラ様が謝ることではありません!!明日僕が食べますね。」

「え?シリウス今日帰ってこないの?」

依頼して帰ってくるだけなのかと思ったけど、どうやら違うらしい。

「あの人は依頼の結果が出るまでその場に残ることが多いわ。ついでに色々用事を済ませてくるのよ。帰ってくるのはたぶん明日ね。」

「へぇーそうなんだ……栞のデザイン、相談したかったんだけどな。」

「しおり?アグニさん、しおりを作るんですか?」

「え?!なになに??恋?恋の話?!」

シーラの食いつきが思った以上によくてビビった。けど残念ながらそんな話ではない。
俺はシルヴィアに栞を作る約束をしたことを話した。

「えぇ~!!何よそれ?!いやだ!素敵じゃな~い!!」

「え、そうかな?あ、そうだ!セシルにも渡そ=~。今日めっちゃ助かったし。」

「え……それはどうなんすかね……?」

「………いやだわこの子。」


その後、俺はクルトとシーラと3人で夕食を食べ、栞のデザインについての意見ももらった。セシルに栞を作ることを2人は渋ってたけど、ちゃんとセシルの分のデザインも考えた。

そして結局シリウスは帰って来なかった。






・・・・・・





「アグニ、学院に帰らなくて大丈夫なの?」

「うん、明日の朝でも大丈夫だから。ぎりぎりまでシリウスを待ってみるよ。クルト、明日朝早いけど、よろしくな」

「お任せください!!」

結局シリウスは7の日の夜にも家に帰って来なかった。明日から第4学院との交流会なので本当は学院に戻らなきゃなのだが、カミーユのことを調べてくれているわけだし俺はギリギリまで帰りを待つことにした。


       ・

       ・

       ・


『………アグニ、アグニ。』

「ん……んん?…おぉ…シリウスじゃん…」

シリウスはまだ暗く、月が出ている時間に帰ってきた。シリウスがフォード公国の服を取ると、白金の髪が月明りに輝いてみえた。

『アグニ、いい知らせと悪い知らせがあるよ。』

「……え?なんだ?」

『まず、いい知らせね。ラウルがカミーユの家を見つけたよ。』

「おお!すげぇ!仕事早いな!」

『そうだね、まぁまぁ大きな商家だったよ。』

「へぇ~そうか!んで、悪い知らせは?」

月明りの下で綺麗に笑うシリウスは、まるで月光でしか咲かない花のようだった。


『 その家、全焼したよ。 』





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