143 / 174
第4章
132 答え合わせ
しおりを挟む「ただいま~!」
「『おかえり~!! 』」
週末はいつも通り別邸へと帰った。この1週間が結構濃厚だったからか、なんだか久しぶりに帰る気がする。
窓際に座っていたシリウスが蝶のような軽やかさで近くまで飛んできた。
『交流会どうだった?第2学院どうだった?楽しかった?何した?』
「楽しかったよ。交流会で結構仲良くなったんじゃないかな。基本的に武芸の練習しかしてないけど、兵法とかいつも受けない授業も受けられたし刺激的だった。」
「シリウスの怒涛の質問にちゃんと答えるのね、アグニは。」
『アグニの芸素が強く出てた日があったよね?その日は何してたの?3の日だったかな?』
3の日ならたぶん芸獣ごっこのことだろう。俺は第2学院でしたことを説明した。
『え~!!!なにそれすごい楽しそう!だから僕も行きたかったのに!!』
シリウスがふくれっ面でシーラを見るが、シーラは変わらずすました顔で紅茶を口に運んでいる。
「侵入できるからってすぐ見に行くのやめなさい。この人ね、『見に行く~!』って言って第2学院まで行こうとしたのよ?私がなんとか止めたの。」
俺が思うにシリウスは世界一フットワークが軽い。「見に行く」の定義が世界のどこでも通用する。
「まぁバレて問題にならなきゃいいよ。俺はもうシリウスの行動の制限をするのは諦めた。というかさ、2人が学生の時って交流会どんな感じだった?」
俺は昔の話も聞きたいと思って聞いたが…2人とも首を傾げた。
『僕、学院には通ってないよ?』
「私もよ?」
「え、そうなの?あれ、けど天使の血筋とか貴族は基本的に通うんじゃないの?」
『そもそも僕は社交界にもいないしねぇ』
シリウスがにこっと笑った。シーラも態度を変えずに紅茶を飲んでいる。
「私も学院の存在を知ったのが随分と後だったから。」
「そうなんだ。じゃあ2人は学院に通ってない間、何をしてたの?」
何気ない質問だった。
けれどもシーラの芸素が若干、棘をもった。一方シリウスは芸素にも態度にも何も出さず、ただただ笑顔で告げた。
『学院に通う年齢の時は~…んー遊んでたかな?』
「………わたし、は……。ふふっ、そのうちアグニにも私の過去について話さないといけないわね。」
一瞬乱れた芸素の後、シーラはすぐに元通りに戻った。そして自身の過去について教えると言った。
俺はシーラの過去を知らない。前に、シリウスの後をついて回っていたと言ってた。けれどそれがいつの時期か、その後どうしてたのか、何も知らない。
けれど今の一瞬で、シーラが自分の過去を清算しきれていないことはわかった。
「……そっか。話せる時に、ゆっくり教えて。あ、あと明日カールを呼んでるんだ。会ってくれる?」
『いいよ~』
「えぇ、いいわよ。」
「よかった、ありがとう!」
・・・・・・
次の日、カールは昼を超えた時間に別邸へとやってきた。もちろん、大量の手土産と共に。
『それで、聞きたいことって何かな?』
シリウスはカールが持ってきてくれたケーキを口いっぱいに食べ、その隣でシーラがショコラの箱を楽しそうに開けている。
「はい、率直にお聞きします。私とアグニは動物の突然変異体が芸獣なのではないかと考えました。創世記より前は地上の芸素量は多くなかった。そして天空人のご降臨とともに地上に芸素が増えた。ならばその急激な芸素の増加に身体が追いつけなかった、もしくは適応しすぎた動物たちが芸獣へと進化を遂げた…と考えたのです。」
一瞬の沈黙。そしてシリウスが綺麗な笑顔を見せた。
『凄いね、カール。君は随分と頭がいい。おおよそ正解だ。』
「っ!!!」
「じゃあ動物と芸獣と神獣の違いってなんだよ?!」
これが一番の疑問だ。以前シリウスに聞いた時、芸獣と神獣の違いは芸素に飢えてるか飢えていないか、そして瞳の色が違うかどうかしか差はないと言っていた。けれど動物と芸獣が元は一緒なら……神獣と動物も一緒なんじゃないか?
俺の問いにシリウスが答えた。
『神獣は元々天界や地上を行き来していた。だから元々芸素を扱うことができた。カールの言った通り、芸獣は急激な芸素の増加に身体が反応しすぎてしまった個体だ。体内の芸素を上手く処理しようとした結果、失敗した。そして……常に芸素を摂取しないと生きていけない身体になってしまった。』
「つまり芸獣が上手く芸素を処理できる身体になれば…神獣と変わらないってことだよな?」
『そういうことだね。』
「…………なぜ、天空人は地上へ降りたのでしょう。彼らが地上へ降りなければ芸獣は現れなかった。創世記に、天空人は地上に平和をもたらしたと書かれていますが、本当にそうでしょうか…」
カールの呟きを聞いて、シリウスが綺麗で冷たい瞳をした。それはシリウスが一線を引いている時の表情だった。
『天空人並びに天使の血筋と、他の人間とで最も違うのは何だと思う?』
「…え??」
「…………わかりません。」
『シーラ?』
「芸素を動かすのに芸石を必要とするかしないか。」
『正解。』
シリウスの隣に座るシーラが一瞬で答えを出した。答えを知っていたのだろう。
『芸素を自らの身体で動かせる……つまり言い方を変えると天使の血筋は巨大な芸石なんだ。それも、芸素を体内に貯めておくことができる、蓄芸石のようなね。』
シリウスがソファの背にもたれ、俺たち2人を交互に見ている。
『天空人は今の天使の血筋と比べると何倍もの芸素量を有していた。だからたった1人、この世から天空人が消えるだけで世界に放出される芸素量は格段に増える。』
「つまり……天空人の存在こそが世界の芸素量を調整するバランサーの役割になっていたってことか?」
『そうだね。バランサーでもあり、芸獣を生み出さない歯止めにもなっていた。』
「………………天空人にそのような役割があることを知ったのは地上へと降りた後だったのですか?事前にわかっていたら天空人は地上へ降りることはなかったはず…いや、もしかして……」
「ん?なんだカール、どういうことだ?」
カールはひどく緊張した顔をしていた。けれども震える口で、最後の問いをした。
「天空人は…天界から離れざるを得なかった?地上に降りることを強要された、とか?」
そうか。そうでなければおかしい。
天空人が1人消えるだけで世界の芸素量が変わるのならば、一体何人消えれば芸獣が生まれる世界へと変わる?天空人が消えたのはなぜ?天界に戻らなかったのはなぜ?
『この世はそう単純ではない。』
しみじみと言ったシリウスの顔には、古き世を想う哀愁があった。口に笑みを付けてはいるが、心からの笑顔ではない。
『また答えを見つけたら、私達に聞きにくればいい。』
「………わかりました。シリウス様、シーラ様、大変貴重なお話を誠にありがとうございました。…必ずまた、次の答えを持って伺いに参ります。」
カールが綺麗な仕草で一礼をした。その様子を見て、シリウスとシーラは穏やかに微笑んだ。
「えぇ、もちろんよ。」
『いつでもおいで。』
「…はい!!」
・・・
夕ご飯は久しぶりに公爵と4人で食べた。本邸の料理はどれも豪華で(もちろんクルトの料理は絶品だけど)たまに食べるには嬉しい。たぶん毎日だと、作ってくれることへの申し訳なさと食べなきゃっていう強迫観念にとらわれるだろう。
交流会での様子等を聞かれたり、宰相職のことを聞いたりして結構あっという間に時間は過ぎた。そして本邸の談話室で各自くつろいだ後、俺は夜遅くに学院へと向かった。
『明日からは第3学院との交流会だね!楽しそうだなぁ~!』
「見に行っちゃだめよシリウス。」
『えぇ~……』
シリウスとシーラを無視し、公爵が俺に言った。
『気を付けていってきなさい。』
まだ3人と一緒に喋ってたかったけど、また交流会が始まる。
「…はい!!行ってきます!!」
『「『 いってらっしゃい 』」』
俺は3人に見送ら、第1学院へと帰っていったのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる