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第4章
132 答え合わせ
しおりを挟む「ただいま~!」
「『おかえり~!! 』」
週末はいつも通り別邸へと帰った。この1週間が結構濃厚だったからか、なんだか久しぶりに帰る気がする。
窓際に座っていたシリウスが蝶のような軽やかさで近くまで飛んできた。
『交流会どうだった?第2学院どうだった?楽しかった?何した?』
「楽しかったよ。交流会で結構仲良くなったんじゃないかな。基本的に武芸の練習しかしてないけど、兵法とかいつも受けない授業も受けられたし刺激的だった。」
「シリウスの怒涛の質問にちゃんと答えるのね、アグニは。」
『アグニの芸素が強く出てた日があったよね?その日は何してたの?3の日だったかな?』
3の日ならたぶん芸獣ごっこのことだろう。俺は第2学院でしたことを説明した。
『え~!!!なにそれすごい楽しそう!だから僕も行きたかったのに!!』
シリウスがふくれっ面でシーラを見るが、シーラは変わらずすました顔で紅茶を口に運んでいる。
「侵入できるからってすぐ見に行くのやめなさい。この人ね、『見に行く~!』って言って第2学院まで行こうとしたのよ?私がなんとか止めたの。」
俺が思うにシリウスは世界一フットワークが軽い。「見に行く」の定義が世界のどこでも通用する。
「まぁバレて問題にならなきゃいいよ。俺はもうシリウスの行動の制限をするのは諦めた。というかさ、2人が学生の時って交流会どんな感じだった?」
俺は昔の話も聞きたいと思って聞いたが…2人とも首を傾げた。
『僕、学院には通ってないよ?』
「私もよ?」
「え、そうなの?あれ、けど天使の血筋とか貴族は基本的に通うんじゃないの?」
『そもそも僕は社交界にもいないしねぇ』
シリウスがにこっと笑った。シーラも態度を変えずに紅茶を飲んでいる。
「私も学院の存在を知ったのが随分と後だったから。」
「そうなんだ。じゃあ2人は学院に通ってない間、何をしてたの?」
何気ない質問だった。
けれどもシーラの芸素が若干、棘をもった。一方シリウスは芸素にも態度にも何も出さず、ただただ笑顔で告げた。
『学院に通う年齢の時は~…んー遊んでたかな?』
「………わたし、は……。ふふっ、そのうちアグニにも私の過去について話さないといけないわね。」
一瞬乱れた芸素の後、シーラはすぐに元通りに戻った。そして自身の過去について教えると言った。
俺はシーラの過去を知らない。前に、シリウスの後をついて回っていたと言ってた。けれどそれがいつの時期か、その後どうしてたのか、何も知らない。
けれど今の一瞬で、シーラが自分の過去を清算しきれていないことはわかった。
「……そっか。話せる時に、ゆっくり教えて。あ、あと明日カールを呼んでるんだ。会ってくれる?」
『いいよ~』
「えぇ、いいわよ。」
「よかった、ありがとう!」
・・・・・・
次の日、カールは昼を超えた時間に別邸へとやってきた。もちろん、大量の手土産と共に。
『それで、聞きたいことって何かな?』
シリウスはカールが持ってきてくれたケーキを口いっぱいに食べ、その隣でシーラがショコラの箱を楽しそうに開けている。
「はい、率直にお聞きします。私とアグニは動物の突然変異体が芸獣なのではないかと考えました。創世記より前は地上の芸素量は多くなかった。そして天空人のご降臨とともに地上に芸素が増えた。ならばその急激な芸素の増加に身体が追いつけなかった、もしくは適応しすぎた動物たちが芸獣へと進化を遂げた…と考えたのです。」
一瞬の沈黙。そしてシリウスが綺麗な笑顔を見せた。
『凄いね、カール。君は随分と頭がいい。おおよそ正解だ。』
「っ!!!」
「じゃあ動物と芸獣と神獣の違いってなんだよ?!」
これが一番の疑問だ。以前シリウスに聞いた時、芸獣と神獣の違いは芸素に飢えてるか飢えていないか、そして瞳の色が違うかどうかしか差はないと言っていた。けれど動物と芸獣が元は一緒なら……神獣と動物も一緒なんじゃないか?
俺の問いにシリウスが答えた。
『神獣は元々天界や地上を行き来していた。だから元々芸素を扱うことができた。カールの言った通り、芸獣は急激な芸素の増加に身体が反応しすぎてしまった個体だ。体内の芸素を上手く処理しようとした結果、失敗した。そして……常に芸素を摂取しないと生きていけない身体になってしまった。』
「つまり芸獣が上手く芸素を処理できる身体になれば…神獣と変わらないってことだよな?」
『そういうことだね。』
「…………なぜ、天空人は地上へ降りたのでしょう。彼らが地上へ降りなければ芸獣は現れなかった。創世記に、天空人は地上に平和をもたらしたと書かれていますが、本当にそうでしょうか…」
カールの呟きを聞いて、シリウスが綺麗で冷たい瞳をした。それはシリウスが一線を引いている時の表情だった。
『天空人並びに天使の血筋と、他の人間とで最も違うのは何だと思う?』
「…え??」
「…………わかりません。」
『シーラ?』
「芸素を動かすのに芸石を必要とするかしないか。」
『正解。』
シリウスの隣に座るシーラが一瞬で答えを出した。答えを知っていたのだろう。
『芸素を自らの身体で動かせる……つまり言い方を変えると天使の血筋は巨大な芸石なんだ。それも、芸素を体内に貯めておくことができる、蓄芸石のようなね。』
シリウスがソファの背にもたれ、俺たち2人を交互に見ている。
『天空人は今の天使の血筋と比べると何倍もの芸素量を有していた。だからたった1人、この世から天空人が消えるだけで世界に放出される芸素量は格段に増える。』
「つまり……天空人の存在こそが世界の芸素量を調整するバランサーの役割になっていたってことか?」
『そうだね。バランサーでもあり、芸獣を生み出さない歯止めにもなっていた。』
「………………天空人にそのような役割があることを知ったのは地上へと降りた後だったのですか?事前にわかっていたら天空人は地上へ降りることはなかったはず…いや、もしかして……」
「ん?なんだカール、どういうことだ?」
カールはひどく緊張した顔をしていた。けれども震える口で、最後の問いをした。
「天空人は…天界から離れざるを得なかった?地上に降りることを強要された、とか?」
そうか。そうでなければおかしい。
天空人が1人消えるだけで世界の芸素量が変わるのならば、一体何人消えれば芸獣が生まれる世界へと変わる?天空人が消えたのはなぜ?天界に戻らなかったのはなぜ?
『この世はそう単純ではない。』
しみじみと言ったシリウスの顔には、古き世を想う哀愁があった。口に笑みを付けてはいるが、心からの笑顔ではない。
『また答えを見つけたら、私達に聞きにくればいい。』
「………わかりました。シリウス様、シーラ様、大変貴重なお話を誠にありがとうございました。…必ずまた、次の答えを持って伺いに参ります。」
カールが綺麗な仕草で一礼をした。その様子を見て、シリウスとシーラは穏やかに微笑んだ。
「えぇ、もちろんよ。」
『いつでもおいで。』
「…はい!!」
・・・
夕ご飯は久しぶりに公爵と4人で食べた。本邸の料理はどれも豪華で(もちろんクルトの料理は絶品だけど)たまに食べるには嬉しい。たぶん毎日だと、作ってくれることへの申し訳なさと食べなきゃっていう強迫観念にとらわれるだろう。
交流会での様子等を聞かれたり、宰相職のことを聞いたりして結構あっという間に時間は過ぎた。そして本邸の談話室で各自くつろいだ後、俺は夜遅くに学院へと向かった。
『明日からは第3学院との交流会だね!楽しそうだなぁ~!』
「見に行っちゃだめよシリウス。」
『えぇ~……』
シリウスとシーラを無視し、公爵が俺に言った。
『気を付けていってきなさい。』
まだ3人と一緒に喋ってたかったけど、また交流会が始まる。
「…はい!!行ってきます!!」
『「『 いってらっしゃい 』」』
俺は3人に見送ら、第1学院へと帰っていったのだった。
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