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第4章
130 第2学院:俺のスタンス
しおりを挟む4の日も相変わらず武芸の練習だ。けれども午後の練習では初日と同じように武術の試合を行うらしい。
俺の相手はオズムンドだった。向こうからの指名だ。昨日、皆のことをビビらせすぎたせいで俺と戦ってくれる人がいなくて困ってたからなんなら少し助かった。
「じゃあ…よろしくお願いします!!」
「…………よろしくお願いします。」
互いに木剣を構えたところで、第2の先生がスタートをかけた。
『では・・・・・・はじめ!!!!!!』
オズムンドはすぐに俺に飛び掛かってくることはなく、少しずつ距離を詰めながら俺のことを警戒していた。オズムンドは昨日、屋内演習場にいた。あの場で俺のことをずっと見ていたはずだ。それが理由なのか、オズムンドの芸素が必要以上にピリついていた。
そんで、武芸において必要以上に力が入ると・・・必ずボロが出る。
ッカアァァァァン!!!!!
「っ!!!!!」
俺は思いきり前方に飛び、一瞬でオズムンドとの距離を詰めた。その速さに反応できたのは良し。けれども力みすぎている。
と思ったが…
「っおおっと!!!?」
急に俺の鳩尾に拳が入ってきた。危なかったぜ!ギリ吐かないレベルだが、結構パンチは重かった。
「………そうか。オズムンド、お前は体術が得意なのか。」
オズムンドは剣を両手に持っていたが、それを片手に持ち直して右手を自由にして、その手で俺の鳩尾を打ったのだ。
「…………あなたを負かせられなければ、僕はシド様の護衛を辞めます。」
「………はい??」
急な宣言にどうしていいのかわからない。どうしてそんな考えに至ったのかもよくわからない。けれどもオズムンドには確固とした理由と意思があるようで、独特の構えを取りながら再度言った。
「ここで勝てないようならば、シド様のお近くにいてもお命をお守りすることはできない。………この勝負に全力をかける!!」
「………えぇ~・・・・・・・」
そういうの困るんだよね~。俺と一緒のスタンスで戦おうよ。あ、もしかして遠回しに負けろって言ってる?そんな人生をかけた戦いみたいな提案をしないでもらえるかな?
オズムンドは剣を振りながらも右手や足での攻撃も同時に繰り出す、見事な技を俺に重ねていった。
実際、本当にとても強かったと思う。
けど、シリウスほどじゃない。
でもまぁここは俺が負ける流れだし・・・
ドォスッ!!!
「うっ・・・・・・・」
いっっってぇ~…………
腹に力入れといてよかった~
俺はオズムンドが腹に攻撃する軌道を読み、予め身体強化で腹を保護しておいた。それでもなかなかに痛い。
よし、このまま上手く膝をついて倒れて……
「何してるんですか?立ってください。」
「……ええ??いや、終わりだよ。俺今膝着いてんじゃん。」
「は?ふざけないでください!!!!」
『えっと………試合やめ!オズムンドの勝利!!』
遠くから見ていた先生は理由がどうあれ、俺が膝をついた時点で試合を中断しなければならない。もちろん全く不自然な流れではなかったので実際試合を止めるのが正解だ。
けれどオズムンドは、そうはいかなかった。
「先生!今のは彼の演技です!本当は膝をつくほどではないはずです!彼はまだ戦えます!!!」
「せんせ~、お腹痛いので試合はできませ~ん」
「おまえ…………ふざけるなよ?!?!?!」
オズムンドがキレた。キレた勢いで、木剣をこちらに投げ飛ばしてきた。危ないな。今の当たったらそれこそ試合どころじゃねぇよ。そもそも物に当たる人間って俺嫌いなんだよね。作った職人のことを何も考えてない。
「……オズムンド。この試合で今後のお前の未来を決めるつもりなら、どうしてそれを口に出した?俺にお前の未来を背負わせる気か?」
「間違えるな!!お前に俺の人生を背負うことなどできない!!!これは俺が、俺自身に課した挑戦だ!!」
「そうか、まぁならやっぱ俺は負けるわ。俺は勝ちも負けも、どっちでもいいからな。」
俺は立ち上がって膝の砂を払うとそのままその場を離れようとした。しかし後ろからオズムンドが声をかけてきた。
「……昨日あれだけ戦うことが大事だと言って、生徒の恐怖を必要以上に掻き立てた人間が、勝ち負けはどちらでもいいと言うのか?!」
ん~…‥そうかぁ。
こいつ、何もわかっていなかったんだな。
俺は振り返ってオズムンドの目を見返して言った。
「オズムンド、昨日俺が皆に伝えたかったのは学ぶことの大切さだ。勝ち負けなんてどうでもいいんよ。まぁもちろん、ここが戦場で周りは全員敵、勝てば生き負ければ死ぬ…そんな世界なら俺は勝つことを諦めないよ。」
「ならばここをそう思え!!周りは敵で俺も敵!俺はお前の命を獲る!そう思って俺と戦え!!!」
「………生きるか死ぬかの瀬戸際はお前よりわかってんだよ。そんで、今はその時ではない。」
オズムンドは俺をじっと見ていた。積年の恨みがあるかのように、酷く顔を歪ませて俺を睨んでいた。
そんな様子を見て、俺は初めて自分とオズムンドとの年齢差を感じた。俺の目にはオズムンドはとても幼く見えた。きっと今まで思い通りにならないことなんてなかったのだろう。
「………悪いな、お前の自己満に付き合ってあげれなくて。けど俺は面倒ごとはごめんだし、少しでも平和に過ごしたいんだよ。俺のスタンスを知らずにあんな宣言をした、お前のミスだ。」
少し厳しい言い方かもしれないが、はっきりと伝えなければならない。
それに今は授業中だ。この後に他の人の試合もある。すぐにここを空けなければならない。
俺はもう振り返ることはなく、その場を後にした。
・・・・・・
「ねぇ、アグニ………」
「お、どうしたバルバラ?しかもデボラと一緒なのか?」
「うん…護身術のコツを少し聞きたくて…」
夕食の時、バルバラがデボラと一緒に俺に話しかけてきた。そして……なぜかバルバラが緊張している。芸素の出方がいつも俺と話す時とは違う。デボラを連れているのも珍しいし。
何かあったのかな…?
「いいよ!カールと一緒に食べるつもりだったから、一緒に食べようぜ。」
「うん…。」
俺らは自分自身の夕食を持って長机の一角に座った。
「んで………なんだ?どうした?」
俺が斜め向かいに座るバルバラの方を向くと、バルバラがビクっと怯えた様子をみせた。バルバラの向かい(俺の隣)に座っているデボラが薄く笑いながら言った。
「昨日のアグニのことが忘れられないのよ。しょうがないじゃない。怖かったものね?」
「ええ??まじで?……バルバラ、そうなの?」
俺がバルバラに確認を取ると、バルバラはカールやデボラの方を確認しながら小さく頷いた。
「ご、ごめん…!いや、全然大丈夫だよ…!ただちょっと…ちょっと…まだ怖い、かな~って…」
めっちゃ怯えられてる…!!!
しかしバルバラの隣(俺の向かい)に座るカールが乾いた笑いをしながら言った。
「まぁそりゃそうだよな。俺もアグニと暗闇で会ったら、怯えない自信ないよ。正直今日ちょっとアグニのこと避けてたし。」
「えええぇ???!!」
ここ数日で一番の衝撃だ。まさか友達関係にヒビが入るとは!
けれどもバルバラもデボラも激しく頷いている。
俺は最大限の笑顔を見せながら優しく言った。
「ダイジョブだよ~コワクナイよ~」
「ひぃっ!!」
「あははははは!アグニ!それは逆効果よ!!」
「アグニってたまに狂うよな。」
「そ、そんなぁ~……」
その後俺は最大限優しくにこやかに、3人に武芸のコツを教えた。
そんで結局、食堂を閉めると職員の人に言われるまで、俺たちは仲良く語り合っていた。
・・・・・・・
5の日、今日が最終日だ。そして今日も相変わらず武芸の練習。
この5日間で第1の生徒も結構体力がついたようで、基礎練習でへばっていた生徒たちは9割から5割にまで減少していた。見た目でも筋肉が付いたことがわかるくらいだ。
一方俺はこの5日間で身体強化をバレずに使うことが得意になった。
午後は少し特別な練習だ。
『いいか~勝手に檻に近づくなよ~。護身術組は武芸組の後ろにいろ』
第2の先生が何度もそう伝えているが、それもそのはず。実は今、目の前には芸獣の入った檻がある。それもいくつも。
これから本格的な芸獣との対戦を行う。そしてその様子を護身術組も見学するらしい。
正直、めちゃくちゃ小物の芸獣なのでそんな警戒しなくても大丈夫なのだが、一応この場には第2学院の治癒師も帝都軍の軍人もきていた。そして生徒たちはいつもとは違う授業の雰囲気に浮足立っている(第2学院の3年生はすでに何回かこのような練習を行ったことがあるらしくて場慣れしてる感があったけど)。
「すげぇな…あれが芸獣か…」
「なんか…やっぱまぁ怖いけど…」
「うん………」
「『「『ぶっちゃけアグニの方が怖かったわ 』」』」
「…………………はい?」
予想外の皆の台詞に固まってしまった。周囲を見渡すが、俺のことを残念そうな顔で見てくる奴しかいない。あれ、おかしいな。この前の芸獣ごっこで俺は警戒しろってことを伝えたかったはずなのに、逆にみんな芸獣を見ても警戒しなくなっている。
『……これは予想外だったね。』
コルネリウスも隣で驚いている。いやまじそれな。
「数人ずつで芸獣と戦ってもらう!用意した芸獣は芸を使わないから安心して、怯えずに、正確に戦ってくれ!」
先生の言葉で皆の顔が引き締まった。今回用意されたのはトリ型の芸獣だ。けれど飛ぶことはなく、芸も出さない。まじでその辺の動物とあまり変わらないレベルだ。けれどまぁ足が速いので仕留めるのは若干大変かもしれない。
「1組ずつ演習を行う!1班準備!!」
「「「「「 はい!!!! 」」」」」
1班として呼ばれた第2の生徒5人が実剣を持って前に出た。第1学院の生徒はそもそも実剣を持つ機会もないので、たぶんそれだけでも結構良い練習になるだろう。
「じゃあ、放つぞ!……戦闘、開始!!」
第2の生徒5人は一気に真横に展開し、芸獣の逃げる場を塞いだ。そして徐々に距離を詰めていく。
トリの芸獣が一度大きく鳴き、1人の生徒に狙いを定めた。しかしその生徒は遠目にはおびえた様子を見せず、剣できちんと対応していた。
「………すごいな。」
いや、あっぱれだ!同じ生徒のはずなのに、こんなにも連携ができるのか。俺の師は連携に関しては全く教えてくれないしなぁ。
芸獣はその後すぐに生徒らに倒された。
『ふーん……やるね。』
隣でコルネリウスがちょっと悔しそうに感心している。
「コルネリウスはやっぱり芸獣に慣れているの?あまり怖がってないわよね?」
コルネリウスの後ろで芸獣の様子を見ていたバルバラがひょこっと前に出てきて聞いた。
『アグニと一緒に海に行ったりしたからね。同年代の中では芸獣に慣れてるんじゃないかな。……あの時は広い海の上で……怖かったなぁ』
「ちょっとアグニ!コルネリウスにそんな危険なことをさせていたの?!」
バルバラが信じられないとでも言いたげに俺の方をみた。今めちゃくちゃ「だってシリウスが!」って言い訳したい。
「次!2班!前へ!」
「あ、デボラだわ!」
バルバラの言葉で前方を見ると、女子5人の組が横一列に並んでおり、その中央にデボラがいた。
「あれは……鞭か?」
デボラは鉄色の鞭を持っていた。今回のトリ型の芸獣は襲う力はそんな強くないけど逃げ足が速い。確かに鞭を扱えるのであれば効果的だろう。
しかも………
『かっこいい…!!』
コルネリウスが俺の気持ちを代弁してくれた。こいつ、シーラといいデボラといい……結構好みわかりやすいな。あれ、バルバラの芸素が飛び散ってる…?
「どうしたバルバラ?」
「えぇえ?!何よ?!」
俺が後ろを振り返ると、バルバラの顔がものすごいことになってた。
「えぇ……ごめんて……」
「なによ?!」
その後デボラが芸獣の足に攻撃を当て、その間に他の生徒が仕留めるという連携を見せて終わった。
「なぁ、アグニ。俺も……無理だろうけど、俺も戦ってみたい。」
近くにいたカールが小声で自信なさそうに言ってきた。
「ん?大丈夫だよできるよ。俺サポートに回ろっか?」
カールの芸素がぱぁっと飛び散った。嬉しそうだ。
「えっ私も…………」
おっと。バルバラも戦ってみたかったか。
『あ、じゃあ…バルバラ、もしよければ僕がサポート役になってもいい?』
コルネリウスがすぐに提案をした。たぶん一人ずつサポートを付けないと護身術組に戦う許可は出ないだろうから、正直助かる。
「お、じゃあそうしてくれ!」
「えっ…!そんな…!!」
バルバラの芸素がまた一気に広がった。
なんなんだろ?
バルバラってコルネリウスのことになると芸素が不安定になるな…。
え、まさか・・・・・・・
コルネリウスのこと好きなのか?!!
「ええええええ~!!!!!!!」
『うわ何っ。アグニ急にどうしたの?』
コルネリウスが耳を塞いでいるけど、こっちはもうそれどころじゃない。
俺、気づいちゃったよ!!!!!
どうしようどうしよう!
誰かに言いたい!
「アグニ~!次、俺らの番でいいって!」
先生に練習の許可を取りにいってたカールがこちらに戻ってきた。次…というか、すでにもう俺らの番だ。
『じゃあ、いこっか。バルバラ、きちんと守るから、安心して戦ってね。』
「え、えぇ…!!あの、ありがとう!!」
『うん、こちらこそ。ほらアグニ行くよ!』
「いやいやいや!え待って!今かよ~?!」
その後、カールとバルバラは浅いながらも芸獣に一撃を入れることができた。そして最後にコルネリウスが仕留めて、俺たちの順番は無事終わったのだった。
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