再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第4章

129 再出発

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「………あぁ………おわりだ。」

絶望を体現したら、きっとああいう姿になるだろう。
真っ黒の物体の中に2つの金色。その金色がこっちを見ていた。

『も、もうやめろ!!終わりでいい!十分だ!』

第2の誰かが大声でその物体に言った。
あの勇気は……平民ながらあっぱれだった。誇れる果敢さだった。

けれど、声を出したから 彼は狙われた。

ビィシッ!!!! ビリリリリリィィィィ!!!!!

「っ!?!」

「う…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」

『やられたあぁぁぁぁあああぁぁあ!!!!』

最も勇敢な少年は、一瞬にして地べたに転がり落ちた。

雷だった。けれど俺にわかったのはそこまでだ。何が起きたのかはわからない。耳をつんざく激しい落雷のような音と、生徒が倒れたという事実しかわからない。


ゴゥワ・・・・バキバキバキバキバキ!!!!

黒ローブの後ろにある唯一の出口が、見たこともないほどの巨大な氷で覆われた。完全に出口を塞がれたのだ。
ただの巨大な氷。だけど『見たことのないもの』というのはそれだけで異様で、とても恐ろしかった。

そして黒ローブは1人の生徒をじっと見ていた。俺の同級生で友達のルーカスだ。今朝の授業で第2の生徒と口喧嘩になったのはルーカスだった。それを黒ローブも知っていたのか、彼を指差して言った。

「 剣を構えろ 」

「………はぃ?」

ルーカスは震える手で持ち慣れない剣を構えた。

ッパァァァァァン!!!!

「ひぃ!!!!!」

ルーカスの持っていた剣が弾かれ、遠くに飛んでいった。転がる剣の音しか聞こえない。それほどまでに静かだった。
黒ローブが動いた。落ちた剣の方へと進んでいく。そして剣を拾い、ルーカスに投げ渡して言った。

「剣を構えろ」





・・・・





『うぅ……………。』

「ぐすっ。 ふぇぇ………ん。」

「………………。」



いったい、何回目だろう。

剣を弾き、黒ローブが剣を拾って、また構える。
この繰り返しを、何度も何度も見ていた。

ルーカスは汗と涙でボロボロだ。手に力も残ってはいない。
周りの生徒はこの繰り返される悪夢に絶望していた。けれど誰も、止めに入ることはできなかった。誰も間に入れるほどの実力を持っていなかったからだ。


もう十分に理解した。我々が剣を習い、芸を学ぶことの意義を。

搾取されない「生」を得るためだ。

選択肢を増やすためだ。

もし……もし万が一、俺が黒ローブと同程度に武芸ができたら、きっと俺は自由に動けた。俺のペアの第2の生徒を救うこともできた。この場から皆を解放できた。

もうわかったよ。十分だ。伝わったから……


黒ローブが1つ、ため息を吐いて周りを見渡した。俺たちの存在をやっと認識したようにも思えた。

「…………飽きたな」 

………バチチチチィィ!!!!

「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

『うわあぁぁぁぁl!!!!!』

黒ローブは、先ほどの生徒同様にルーカスを沈めた。
瞬間的な結末。そして今後の予測不能な展開に俺たちはただ震えていることしかできなかった。

黒ローブは再度俺たちを見渡して

そして

ルーカスの剣を、俺に投げた。

「 次。」

「 ……………え 」



ドンドンドン!

『終了だ!!2時間経った!!!!』

氷の壁の先…屋内演習場の外から第2学院の総長の声が聞こえた。

『な、なんだ?冷たっ?!! 氷?!扉ごと凍らせたのか!!!おい、おい!アグニ!!ここを開けろ!!』

・・・・・・・アグニ?

「……わ~ったよ!じゃあ少し扉から離れといて!」

ローブの下から更に暗い色……真っ黒の髪が現れた。そして黒と相反するかのように、光り輝く金の瞳があった。

ゴゥワ・・・・アアアアアアアア!!!!!!

「っっ!!!!」

それは火事のようだった。
一瞬にして世界が橙色へと変わり、猛烈な熱気に身の危険を感じた。さきほど、第2の生徒が『炎球』という解名を出していたけれど明らかにこちらの方が何倍も大きく、脅威だった。

これを……ただの芸で出せるのか…!!?

火で溶かされた氷はそのまま水蒸気へと姿を変えた。やっと開くようになった扉から、第2の総長やシルヴィア様、他数名が急いで入って俺たちの様子を見ると一瞬驚いたような顔をした。けれどすぐに第2の総長は凛とした姿に戻り、はっきりと伝えた。

『この2時間、長かったか?』

「………………。」

長いなんてもんじゃない。もう一生経験したくない。

『今回のこと、これは実際に起こり得る。貴族の名を持つ君たちならなおのことあり得る。帝都が安全であると誰が言った?現在も馬車の移動時による殺害は多いし、商人が盗賊に殺された事案も多い。だから軍や護衛騎士が存在している。』

何も言い返せない。もう俺たちは「そんなこと言ったって」と気軽に返せなかった。

『そのような事件で命を落とした者の多くが、君たちと同じような考えをしていたのだろう。「自分は平気だ」「武芸なんて必要ない」と。』

「……………………。」

『けれど……もし多少なりとも武芸に嗜みがあって、自分の身だけでも守れる程度に強かったら…もしくは今回のように、たった2時間生き延びることができていたら、時間さえ稼げていたら……助けが来たかもしれない。軍が動いて、命が救われたかもしれない。』

「…………。」

あぁ、嫌になる。もう本当にその通りなんだよ。
俺もルーカスも、きっと他の第1の生徒も、自分達が浅慮だったことはもう理解している。

『君たちは、生き残るためにあらゆる方法を用いて……勝たなくても、ケガをしても、少なくとも誰かが来てくれるまでの時間を稼がなければならない。』


『それが、護身術だ。』





・・・・・・






「では………かんぱ~い!!!!」

『「『「『かんぱ~い!』」』」』

俺の音頭でこの飲み会…正式名称は知らんが、この『こっそり洞穴で集まろうの会』が始まった。そしてなんと!この前は俺とコルネリウスだけだったが、今回はシルヴィアもデボラも参加しています!そんなに大きくないこの洞穴に10人も集まっているのだ。

『アグニ、お前に憎まれ役を任せて悪かったな。けどこれはやっぱりお前にしかできなかったよ』

リカルドが何度も頷きながら俺の杯に発泡酒を注いでいく。

「俺も案外楽しかったよ。今回の件で皆が護身術に真剣に取り組んでくれるといいな!」

『それはきっと大丈夫だと思うよ。逆に脅かしすぎだよ』

「ほんとよ!こっちは本当に怖かったんだからね?!」

コルネリウスが甘めの花酒を少しずつ飲み、その隣でデボラが米酒を煽りながら言った。そして2人の発言に周りの生徒らが大いに頷いている。

「えっ………やばいかな…俺、問題になる?」

『なりませんよ。』

俺の隣に座るシルヴィアがすぐに否定した。シルヴィアは綺麗な仕草で葡萄の発泡酒を飲んでいる。

『アグニさんが問題にならないために私が許可を出したんですから。それに…怪我人はもうおりませんし、校舎も多少の修繕だけです。』

怪我人を俺がすぐに治癒していたことが功を奏したらしい。芸獣ごっこ終了後にリカルドが第2学院の治癒師を連れて生徒たちの容態を確認した時、もう誰も怪我をしていなかった。そのおかげである意味、証拠不十分となったので学院や生徒らは俺のことを強く咎めることができなくなったのだ。

「ありがとな、シルヴィア。というか……シルヴィアはここにきてよかったのか?」

なんてったってここは薄暗い洞穴だ。一応布を引いてあるけど、普通に土臭いし。
けれどもシルヴィアは可憐な花が綻ぶように小さく笑みを見せた。

『えぇ。光栄です。この会に参加できて。』

「……そっか!」


『焦ったぞ~廊下に転がってる生徒たちを見た時は!』

先輩たちが陽気に笑いながら会話していた。

「一瞬まじで殺しちまったのかと思ったよな?」

『ああ!そんで急いで駆け寄ったら…怪我すらしてねぇんだもんな!』

「それよりも屋内演習場前のあの冷気…やばかったよな!?」

『しかもその直後のあの熱気!まじで中の人間全員死んだと思ったよ!!』

先輩たちの会話を聞きながら、俺は発泡酒を飲み進めていた。今日は一段と酒が上手くて困る。

この場には第1も第2も揃っている。身分に関係なく、皆が喋っていた。
だからこそ、今日の酒は旨いのかもしれないな。




・・・・・・





4の日の朝、朝食会場でのこと。

一人の生徒が立ち上がり、リカルドのところへ向かっていった。オズムンドと喧嘩を始めた第1学院の3年生だ。……俺が雷の芸で気絶させちゃったけど、どうやら元気そうだ。

「………第2の総長、少しよろしいか。」

『ああ。なんでしょうか?』

その生徒は1つ深呼吸を行うと、はっきりと告げた。

「我々の……護身術の指導をお願いしたい。」

辺りはとても静かで、皆が彼の様子を見守っていた。

「私は…私達は、昨日十分に理解した。自分自身で身を護ることの大切さを。生きる可能性を上げるための最低限の努力を、私達もすべきであるということを。今までの授業態度を謝罪する。どうか、残りわずかではあるが、限られた時間の中で、指導を頼みたい!」

学院交流会の日程は1週間しかない。今日は4の日。つまり今日を入れても授業はあと2日しかない。

けれども、意識は変わった。向き合い方が変わった。
リカルドは立ち上がり、にっと笑った。

『あぁ!また皆で挑戦しよう!こちらこそ、よろしく頼む!』

あぁ、よかった。動き出したんだ。
2つの学院が手を取る道を探し始めた。


ここからまた、出発だ。








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