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第3章
*7 私の神が信ずる者
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*閑話 とあるシャノンシシリー公国の騎士の話です。
そもそも俺は、『あの人』が嫌いだ。
どういう訳か知らないけど、いつもいつもシャノン大公陛下に対して尊大な態度を取るし、当たり前のように上座に座る。なのにシャノン大公様はそれを普通に受け入れてしまわれるし、会いに来いと何度も仰られるのだ。
それにいつも笑顔なのに決して隙は見せないし、誰も近寄らせない。我々軍人や執事、召使いなど目下の者に大きい態度を取らないが、異様なほどに人を使い慣れている。
『あの人』がよくわからない。そう、わからなかったのだ。だから俺は嫌いだった。
私の神はシャノン大公陛下ただお一人。
幼い頃、街を行進するシャノン大公陛下を見た。後になって知ったことだが、それはシャノンシシリー公国大公陛下になった際の祝賀の列だったらしい。つまり先代のシシリー様が崩御された時だ。
けれど、シャノン大公様は笑顔だった。
自信と力を見せつけ、全てを光に変えてしまうような。
俺みたいな小さい子どもには、彼こそがこの世の主なのだと見えてしまうような格好良さだったのだ。
もうそれだけで十分だった。
その時から、私の唯一の信仰は 変わらない。
・・・・・・
また来たのかよあの人………
1年前に来たばっかじゃないか。
アグニとかいう訳の分からない平民も連れまわすようになってるし。しかもアグニとかいう奴、平然とシャノン大公閣下と喋ってる。どうして閣下はそれを咎めないんだ?閣下が一言お命じ下されば、皆喜んで罰するのに。
それにあんなにも閣下が会いたいと仰ってるのに、実際に会いに来るのは多くても年に数回。その間、アグニとかいう男を連れまわしてるわけだろ?王族への不敬罪もいいとこだ。どうして大公閣下が我慢をされなければならない。本当に嫌いだ。というか誰なんだよ。
私の神を、神と思わない人間がいる。
この世で1番の存在を、そうではないとあの人が示す。
それが許せなかった
他の1番なんか存在しない。
この世の唯一はシャノン様だ。
・・・
その日は朝早くから仕事だった。シャノン大公様をお守りする大変重要な任務だ。
今日はリノスペレンナへ上陸するらしい。なんでも、また『あの人』が無理矢理閣下にお願いしたって話だ。一体なぜ閣下は従っておられるのだろう。
予定の時間に現れた『あの人』は、閣下と同じ服を着ていた。軽やかな絹の衣装と腰には金の刺繍がされた絹の布が巻かれている。この服装はかつて天空人が着ていたとされるものだ。
閣下と同じ服を着れるのは、俺ではない。
やっぱりあの人は…まぁ一目でわかるんだけど、天使の血筋なのだ。俺には無い、シャノン大公様との共通点。
不変の事実を目の前で見せつけられたように思えた。本当は目をそむけたかった。
・・・
リノスペレンナの祭壇はこの世で最も美しい。異論は認めない。
天まで届く巨大な世界樹は、根も巨大だ。その根の間に埋め込まれている祭壇は美しく、神々しい。祭壇の前に広がる小池も驚くほど水が透明で鏡のようだ。
その場が神域であることは誰の目にも明らかだ。
『アグニ、この樹に何か感じる?』
あの人が黒髪の少年に問うた。
「んー…別にこれといって何か感じるわけじゃないな。正直、妖精の森の方が実際の芸素の感じとかは凄かったかもしれない。」
はぁ??こいつ…脳無しか????
この景色を見てよくそんなことを言えたな。
バカもセンスの無さも大概にしてほしい。
帰れよ。というか妖精の森ってどこだよ。
しかしその後、驚くべきことが起きた。
シャノン公国大公陛下が『あの人』に、膝をついた。
俺も、俺の周りの騎士も、この場にいる全員が驚きのあまり固まってしまった。片膝をつき頭を下げるシャノン大公閣下は乞うような真剣な声で仰られた。
シリウス様、どうか…お力をお貸しください、と。
神は頭を下げない。下げる相手がいないはずだからだ。
なのに、、、最敬礼……?!!
配下の者が王であるシャノン大公様より頭上が高くていいはずがない。俺を含めた周りの騎士たちは急いでシャノン大公様以上に頭を下げた。
なのにあの男は跪く閣下を一瞥するだけで特に何も声をかけることなく、世界樹の方へ悠然と歩んでいった。
……トンッ!
空を飛ぶような飛躍をして、あの男は祭壇の上に飛び乗った。
「っちょっ!!!!」
あのやろう!!! これは明らかな侮辱だ!!!
祭壇を踏むだと??!極刑に処してもおかしくない!
どれだけ閣下に屈辱を与えれば気がすむのだ!??
「閣下………!?!?」
閣下は剣を抜こうとしていた私の腕を止められた。
どうして!?
こんな…こんなことを許しては!!!!
・
・
・
その時、『あの人』と目があった。
後で気づいたことだが、目が会ったのはこの時が初めてだった。
その目は 気持ち悪いくらいに 綺麗だった。
そして気付いてしまった。
あぁ…この場はこの人のものなのだ
驚くほど美しい微笑みを見せた『あの人』は近寄れない空気を持っていた。こんな言い方はおかしいが、神域がとても似合う人だった。
リュウの音が広がる。悲しいくらい心に響く。
そして、そう思うのは俺だけじゃなかった。周りの騎士や軍人の中には目に涙を浮かべている者もいた。『あの方』から目を逸らせなくなっている者や、ずっと手を合わせている者もいた。
樹が騒いだように感じた。
「………っあ!」
思わず声を上げてしまった。
世界樹から金の粒が降ってきて、それはまるで天からの祝福のようだった。
『……どうだ?美しいだろう?』
「………はい。本当に。」
閣下が黒髪の男に話しかけられていた。
朝日がじきに昇る。
その予感を感じさせる色に世界が変わっている。
俺は、池を見てしまった。
そして泣きたくなった。
その池には別の世界が映っていた。
天空人がいた。
淡く色づき金の粒子が立ち昇る世界で、楽しそうに笛を吹いていた。その世界には濁りはなく、不安もなく、幸福しかない。池鏡の中の世界はそう見えた。
『何十年も前にこの景色を見せられて そこから私の信仰は唯一となった』
あぁ、ずるい。ずるいよこんなの。
こんなものを見せられたら、もう抗えないじゃないか
キラキラと キラキラと 世界が煌めく
それはあまりにも 美しすぎた。
・・・・・・
「どうかしましたか??」
若くしてアルダの隊長になったギャラという女性が口の中いっぱいにサンドイッチを頬張りながら問いてきた。今は閣下の移動手段に関する会議の休憩中だ。昼はもう過ぎたのに、何用の飯なのだろう。
「いや、なんでもない。少し…疲れていてな。」
「あ~朝からリノスペレンナは大変でしたよね~」
ギャラは口を動かしながらうんうんと頷いている。
「………ギャラは、あの方…シリウス様のことはどれほど知っている?」
俺が遠慮がちに聞いてみるとギャラは記憶を辿るようにゆっくり答えた。
「え~っと、たしか今は帝都にお住みで、んーっと……あ!先代大公様、シャノン大公様の母君が亡くなられた時にシャノン様をお支えしたのがシリウス様でした。」
「は???どういうことだ?」
ギャラの言葉には矛盾がある。明らかにシリウス様の方がお若い。当時のシャノン様をお支えするような年齢ではなかったはずだ。
「これは先先代のアルダ隊長から聞いたんですけど、シャノン様が悲しみに暮れて暫く心を閉ざしていた時に」
「ま、まて……」
「はい?」
「シャノン様が悲しみに暮れていた?心を閉ざしていただと…?」
俺には信じられなかった。だってシャノン様は即位の際の行進ではあんなにも笑顔だったじゃないか。あれほどまでの威厳を示していたではないか。
しかしギャラは俺の質問にケラケラと笑った。
「そりゃあそうですよ!シャノン様と先代様は天使の血筋には珍しく仲の良い親子でしたもん!亡くなられたら悲しいでしょう。」
「…………信じられない。」
私の呟きにギャラはふむふむと頷いて、言った。
「シャノン様は、人間ですよ?」
「…………………そりゃあ………そうだろ」
「あははっ!ものすごい当たり前のこと言っちゃいました!」
ギャラは頭を掻きながらまたサンドイッチを食べ始めたが、俺は心に槍が突き刺さったような気分だった。
「大公閣下はこれから抱えなければならない地位や責任、国民からの信頼を背負える自信がないと仰って一歩も部屋から出られない日が続いたそうですよ。けどシリウス様が暫く宮廷にお住みになってシャノン様の心の拠り所となって下さったと。それで次に部屋から出てきた時には、今のシャノン様のように立派な王として振舞われていたそうですよ。」
ギャラはむしゃむしゃと口を動かしながら続けた。
「というか、先代のシシリー様が先先代のシャノン様を亡くされた時にも、シリウス様がシシリー様をお支えしていたって聞いたことがあります。」
「え………?」
「その当時は先先代のシリウス様が支えて下さったんですかね?ちょっとよくわからないですよね~」
「……………。」
「きっと、私たちの知らないところでずっとこの国を支えて下さってたんでしょうね~」
まるで、リノスペレンナのようだと思った。
何千年も前から存在し、我々を見守り、我々に希望を与え、心の拠り所となる世界の樹。
私が知らなかっただけで、ずっと存在していたのだ。
シリウス様はずっと、この国の神である歴代シャノンシシリー公国大公陛下をずっと支えていたのだ。
そうか
あの方がリノスペレンナだったのか
ならばもう仕方がないよな
大公閣下が崇拝してしまうのは。
我々は崇めることに慣れている。これは天使の血筋を国王とする国民の性だ。そして国民の王であるシャノン大公様がそうでないはずがない。
すっと心に風が通った。
何かが抜け落ちたような喪失感と、淀みがなくなったような爽快感があった。
・
・
・
信じるものがあるというのは幸福だ。
自分の中の「絶対」が存在する。それが信条であれ、人であれ、物であれ。守るものがある人間は強い。
だからこそ、
大公閣下に信じるものがあることに、心から安堵した。そして大公閣下がなぜあれほどまでに強いのかを知った。
きっと閣下より先にあの方に出会っていたら私の神はあの方になっていただろう。
先に拝謁したのがシャノン大公様でよかった。きっと、『あの方』を慕う世界も存在したから。
けれどこの世界で俺は今、閣下のお側にいる。
私の神にも、神がいた。
その神にも 神がいるのだろうか。
この先は どこまで続くのだろう
あの人が抱える重圧は どれほどのものなのだろう
まぁちっぽけな自分には関係のないことだ。
けれど、この世でみんな生きている。
それがなんだか不思議だった。
しょうがない。まず知ることから始めよう。とりあえず……次からはきちんと挨拶をしてやろう。
シリウス様と、
あの人が大事にしているアグニとかいう人にも。
そもそも俺は、『あの人』が嫌いだ。
どういう訳か知らないけど、いつもいつもシャノン大公陛下に対して尊大な態度を取るし、当たり前のように上座に座る。なのにシャノン大公様はそれを普通に受け入れてしまわれるし、会いに来いと何度も仰られるのだ。
それにいつも笑顔なのに決して隙は見せないし、誰も近寄らせない。我々軍人や執事、召使いなど目下の者に大きい態度を取らないが、異様なほどに人を使い慣れている。
『あの人』がよくわからない。そう、わからなかったのだ。だから俺は嫌いだった。
私の神はシャノン大公陛下ただお一人。
幼い頃、街を行進するシャノン大公陛下を見た。後になって知ったことだが、それはシャノンシシリー公国大公陛下になった際の祝賀の列だったらしい。つまり先代のシシリー様が崩御された時だ。
けれど、シャノン大公様は笑顔だった。
自信と力を見せつけ、全てを光に変えてしまうような。
俺みたいな小さい子どもには、彼こそがこの世の主なのだと見えてしまうような格好良さだったのだ。
もうそれだけで十分だった。
その時から、私の唯一の信仰は 変わらない。
・・・・・・
また来たのかよあの人………
1年前に来たばっかじゃないか。
アグニとかいう訳の分からない平民も連れまわすようになってるし。しかもアグニとかいう奴、平然とシャノン大公閣下と喋ってる。どうして閣下はそれを咎めないんだ?閣下が一言お命じ下されば、皆喜んで罰するのに。
それにあんなにも閣下が会いたいと仰ってるのに、実際に会いに来るのは多くても年に数回。その間、アグニとかいう男を連れまわしてるわけだろ?王族への不敬罪もいいとこだ。どうして大公閣下が我慢をされなければならない。本当に嫌いだ。というか誰なんだよ。
私の神を、神と思わない人間がいる。
この世で1番の存在を、そうではないとあの人が示す。
それが許せなかった
他の1番なんか存在しない。
この世の唯一はシャノン様だ。
・・・
その日は朝早くから仕事だった。シャノン大公様をお守りする大変重要な任務だ。
今日はリノスペレンナへ上陸するらしい。なんでも、また『あの人』が無理矢理閣下にお願いしたって話だ。一体なぜ閣下は従っておられるのだろう。
予定の時間に現れた『あの人』は、閣下と同じ服を着ていた。軽やかな絹の衣装と腰には金の刺繍がされた絹の布が巻かれている。この服装はかつて天空人が着ていたとされるものだ。
閣下と同じ服を着れるのは、俺ではない。
やっぱりあの人は…まぁ一目でわかるんだけど、天使の血筋なのだ。俺には無い、シャノン大公様との共通点。
不変の事実を目の前で見せつけられたように思えた。本当は目をそむけたかった。
・・・
リノスペレンナの祭壇はこの世で最も美しい。異論は認めない。
天まで届く巨大な世界樹は、根も巨大だ。その根の間に埋め込まれている祭壇は美しく、神々しい。祭壇の前に広がる小池も驚くほど水が透明で鏡のようだ。
その場が神域であることは誰の目にも明らかだ。
『アグニ、この樹に何か感じる?』
あの人が黒髪の少年に問うた。
「んー…別にこれといって何か感じるわけじゃないな。正直、妖精の森の方が実際の芸素の感じとかは凄かったかもしれない。」
はぁ??こいつ…脳無しか????
この景色を見てよくそんなことを言えたな。
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しかしその後、驚くべきことが起きた。
シャノン公国大公陛下が『あの人』に、膝をついた。
俺も、俺の周りの騎士も、この場にいる全員が驚きのあまり固まってしまった。片膝をつき頭を下げるシャノン大公閣下は乞うような真剣な声で仰られた。
シリウス様、どうか…お力をお貸しください、と。
神は頭を下げない。下げる相手がいないはずだからだ。
なのに、、、最敬礼……?!!
配下の者が王であるシャノン大公様より頭上が高くていいはずがない。俺を含めた周りの騎士たちは急いでシャノン大公様以上に頭を下げた。
なのにあの男は跪く閣下を一瞥するだけで特に何も声をかけることなく、世界樹の方へ悠然と歩んでいった。
……トンッ!
空を飛ぶような飛躍をして、あの男は祭壇の上に飛び乗った。
「っちょっ!!!!」
あのやろう!!! これは明らかな侮辱だ!!!
祭壇を踏むだと??!極刑に処してもおかしくない!
どれだけ閣下に屈辱を与えれば気がすむのだ!??
「閣下………!?!?」
閣下は剣を抜こうとしていた私の腕を止められた。
どうして!?
こんな…こんなことを許しては!!!!
・
・
・
その時、『あの人』と目があった。
後で気づいたことだが、目が会ったのはこの時が初めてだった。
その目は 気持ち悪いくらいに 綺麗だった。
そして気付いてしまった。
あぁ…この場はこの人のものなのだ
驚くほど美しい微笑みを見せた『あの人』は近寄れない空気を持っていた。こんな言い方はおかしいが、神域がとても似合う人だった。
リュウの音が広がる。悲しいくらい心に響く。
そして、そう思うのは俺だけじゃなかった。周りの騎士や軍人の中には目に涙を浮かべている者もいた。『あの方』から目を逸らせなくなっている者や、ずっと手を合わせている者もいた。
樹が騒いだように感じた。
「………っあ!」
思わず声を上げてしまった。
世界樹から金の粒が降ってきて、それはまるで天からの祝福のようだった。
『……どうだ?美しいだろう?』
「………はい。本当に。」
閣下が黒髪の男に話しかけられていた。
朝日がじきに昇る。
その予感を感じさせる色に世界が変わっている。
俺は、池を見てしまった。
そして泣きたくなった。
その池には別の世界が映っていた。
天空人がいた。
淡く色づき金の粒子が立ち昇る世界で、楽しそうに笛を吹いていた。その世界には濁りはなく、不安もなく、幸福しかない。池鏡の中の世界はそう見えた。
『何十年も前にこの景色を見せられて そこから私の信仰は唯一となった』
あぁ、ずるい。ずるいよこんなの。
こんなものを見せられたら、もう抗えないじゃないか
キラキラと キラキラと 世界が煌めく
それはあまりにも 美しすぎた。
・・・・・・
「どうかしましたか??」
若くしてアルダの隊長になったギャラという女性が口の中いっぱいにサンドイッチを頬張りながら問いてきた。今は閣下の移動手段に関する会議の休憩中だ。昼はもう過ぎたのに、何用の飯なのだろう。
「いや、なんでもない。少し…疲れていてな。」
「あ~朝からリノスペレンナは大変でしたよね~」
ギャラは口を動かしながらうんうんと頷いている。
「………ギャラは、あの方…シリウス様のことはどれほど知っている?」
俺が遠慮がちに聞いてみるとギャラは記憶を辿るようにゆっくり答えた。
「え~っと、たしか今は帝都にお住みで、んーっと……あ!先代大公様、シャノン大公様の母君が亡くなられた時にシャノン様をお支えしたのがシリウス様でした。」
「は???どういうことだ?」
ギャラの言葉には矛盾がある。明らかにシリウス様の方がお若い。当時のシャノン様をお支えするような年齢ではなかったはずだ。
「これは先先代のアルダ隊長から聞いたんですけど、シャノン様が悲しみに暮れて暫く心を閉ざしていた時に」
「ま、まて……」
「はい?」
「シャノン様が悲しみに暮れていた?心を閉ざしていただと…?」
俺には信じられなかった。だってシャノン様は即位の際の行進ではあんなにも笑顔だったじゃないか。あれほどまでの威厳を示していたではないか。
しかしギャラは俺の質問にケラケラと笑った。
「そりゃあそうですよ!シャノン様と先代様は天使の血筋には珍しく仲の良い親子でしたもん!亡くなられたら悲しいでしょう。」
「…………信じられない。」
私の呟きにギャラはふむふむと頷いて、言った。
「シャノン様は、人間ですよ?」
「…………………そりゃあ………そうだろ」
「あははっ!ものすごい当たり前のこと言っちゃいました!」
ギャラは頭を掻きながらまたサンドイッチを食べ始めたが、俺は心に槍が突き刺さったような気分だった。
「大公閣下はこれから抱えなければならない地位や責任、国民からの信頼を背負える自信がないと仰って一歩も部屋から出られない日が続いたそうですよ。けどシリウス様が暫く宮廷にお住みになってシャノン様の心の拠り所となって下さったと。それで次に部屋から出てきた時には、今のシャノン様のように立派な王として振舞われていたそうですよ。」
ギャラはむしゃむしゃと口を動かしながら続けた。
「というか、先代のシシリー様が先先代のシャノン様を亡くされた時にも、シリウス様がシシリー様をお支えしていたって聞いたことがあります。」
「え………?」
「その当時は先先代のシリウス様が支えて下さったんですかね?ちょっとよくわからないですよね~」
「……………。」
「きっと、私たちの知らないところでずっとこの国を支えて下さってたんでしょうね~」
まるで、リノスペレンナのようだと思った。
何千年も前から存在し、我々を見守り、我々に希望を与え、心の拠り所となる世界の樹。
私が知らなかっただけで、ずっと存在していたのだ。
シリウス様はずっと、この国の神である歴代シャノンシシリー公国大公陛下をずっと支えていたのだ。
そうか
あの方がリノスペレンナだったのか
ならばもう仕方がないよな
大公閣下が崇拝してしまうのは。
我々は崇めることに慣れている。これは天使の血筋を国王とする国民の性だ。そして国民の王であるシャノン大公様がそうでないはずがない。
すっと心に風が通った。
何かが抜け落ちたような喪失感と、淀みがなくなったような爽快感があった。
・
・
・
信じるものがあるというのは幸福だ。
自分の中の「絶対」が存在する。それが信条であれ、人であれ、物であれ。守るものがある人間は強い。
だからこそ、
大公閣下に信じるものがあることに、心から安堵した。そして大公閣下がなぜあれほどまでに強いのかを知った。
きっと閣下より先にあの方に出会っていたら私の神はあの方になっていただろう。
先に拝謁したのがシャノン大公様でよかった。きっと、『あの方』を慕う世界も存在したから。
けれどこの世界で俺は今、閣下のお側にいる。
私の神にも、神がいた。
その神にも 神がいるのだろうか。
この先は どこまで続くのだろう
あの人が抱える重圧は どれほどのものなのだろう
まぁちっぽけな自分には関係のないことだ。
けれど、この世でみんな生きている。
それがなんだか不思議だった。
しょうがない。まず知ることから始めよう。とりあえず……次からはきちんと挨拶をしてやろう。
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あの人が大事にしているアグニとかいう人にも。
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