129 / 174
第3章
120 ダンス
しおりを挟む「そういやなんでシドが俺のことを迎えにきたんだ?」
天使の血筋は普通のパーティーでも従者を数人は連れてくる。今回は貴族以外の人たちもいるので通常よりも多くの人数を連れてきてるはずだ。シドが俺と話したいのならば従者のうちの1人が俺を探し出すはずだ。
シドは振り返ってニヤッと笑った。
『撒いてきたんだ。』
「え?撒いてきたの??」
『ああ。……俺の側から離れない者が1人いてな。アグニにはその者を紹介したかったんだよ。』
「……なら別にその人と一緒に俺のところに来ればよかったじゃんよ。」
俺の言葉にシドは、その綺麗な水色の瞳を大きく見開いて笑った。
『ははっ!!その通りだな!逃げるのが楽しくてな、その考えは抜けていた。』
シドはちょっと天然なのかもしれない。新たな一面に好感を持っていると猛烈な勢いでこちらに近寄ってくる芸素に気づいた。
「っ!!!!」
俺がその芸素の方向を振り返ると、その男性は俺が振り返ったことにとても驚いた。
しかもその人は腰にある剣の柄に手をかけていた。剣を抜く気かよ危ねぇな、おい。
『おぉ!オズムンド!よかった!見つけてくれたな。』
「シド様!!どうしてお一人で歩かれているのですか!この者はどなたかご存知ですか?!」
シドは剣に手をかけるその人に明るく話しかけた。その人は俺を睨み警戒しながら言葉を返していた。けどシドはその様子を気にするでもなく俺との間に立った。
『アグニ、オズムンド・バルリアスだ。第2学院の第2学年にいる。アグニとは同学年だな。彼の父はシド公国の文部に勤めており、辺境伯の地位を与えられている。』
「辺境」という肩書は、各国が独自に認める爵位のことだ。その国で優秀な成果を残した家柄に与えられ、一家の繁栄のために国から苗字をもらえる。自国内では貴族としての立ち場を持つが、帝都貴族からすると「田舎者の成り上がり」という印象が強いらしい。また、貴族の特権の幅も帝国から爵位をもらった貴族より少なくなる。辺境伯は伯爵位ではあるが、帝都貴族の子爵位に相当するイメージらしい。
オズムンドと紹介された男は焦茶色の髪に同じ色の瞳で、ほどほどに日焼けをしていた。見るからに健康そうな人だ。身長も高いが、シドが結構大柄なので隣に並ぶと一見小さく見える。
そして俺を……ずっと睨んでる。
「オズムンド、俺はアグニだ!同学年同士、よろしくな!」
俺は明るく優しくいい人そうに挨拶をしながら片手を差し出した。が、オズムンドは片方の眉を上げて睨むだけで全然挨拶を返してくれない。シドが困ったように笑いながら言った。
『も、申し訳ない。僕が逃げたことをアグニのせいだと思ってるんだ。オズムンド、きちんと挨拶をしなさい』
シドの言葉でようやくオスムンドは礼をした。俺の手は宙ぶらりんのままだ。
「オズムンド・バルリアスです。よろしく。」
『オズムンドは武芸に秀でていて、とても優秀な子だ。天使の血筋にも負けないくらいだ!な!オズムンド!』
シドが明るくオズムンドに言った。するとオズムンドは見るからに嬉しそうな顔をして(芸素が飛び出しまくってるし)シドに言葉を返した。
「僕はまだまだです!このオズムンド・バルリアス、シド様の最側近護衛になれるよう、これからも誠心誠意武芸に励む所存です!!」
どうやらシドのことをとても尊敬しているらしい。
けどもしそうなら、シドに気を使わせるなよとも思うが、これを言ったら火に油を注ぐだけだろうから黙っとく。
「じゃあ、とりあえず来週からよろしくな!」
俺が再度話しかけるが相変わらず対応は悪い。シドが苦笑いをしてどうしようかと困っているのが視界に入ったので、俺はそのまま素早く立ち去った。
………疲れたわ。なんか飲も。
俺は近くの飲み物が配られる場所へと足を向けた。
「お、シルヴィア!」
『……こんばんは。良い夜ですね。』
おっとやべ。ミスった!
同年代でも、例え仲が良くても、正式な場では天使の血筋に頭を下げてなければならない。そしてこちらから話しかけてはならない。
今俺はそれら全てをすっ飛ばして普通に話しかけてしまった。シルヴィアの後ろにいる知らん男女数名が芸獣でも見るかのように俺のことを見ている。
俺は急いで飲み物を近場のテーブルに置いて頭を下げようとしたが……
『もうかしこまる必要はありません。結構です。』
「あ、おう。ご、ごめん……。えっと、お疲れ様?」
俺はファーストダンスという任務を完遂したシルヴィアに対し(踊ってたの見てないけど)労を労った。しかし後ろの男女が飛びかかる勢いで俺とシルヴィアの間に立とうとした。
『やめなさい。………アグニさん、会場は見て回りましたか?』
シルヴィアは彼らの動きを制止させ、俺との会話を続けた。
「……え?!まぁ、うん。そういえばあっちの飯が美味かったぞ!あとで食べてみろよ!」
『………普段、こう言った場で食事はしません。』
あ、そっか。毒の心配?
けど天使の血筋なら治癒もできるだろうし……
俺もいるし、大丈夫だろうけどな。
「あ、じゃあ俺が最初に食べるよ。そんで毒入ってないってわかったやつを食べればいい。な!」
『えっ……』
青紫の綺麗な瞳が不思議そうにこちらを見ている。今日のシルヴィアの格好はいつもの制服に飾り用の芸石を付け、髪を緩く三つ編みにしている。その髪に芸石や花が付けられ、とてもキラキラしていた。
「あ、ここから動いちゃだめなのか?じゃあ俺がなんか持ってこようか?」
俺の提案にシルヴィアは数秒遅れてふっと笑った。珍しい。こんなちゃんと笑ってるのを見たのは初めてかもしれない。
『……いいえ、私もどんなものがあるのか見たいので一緒に行きます。貴方達はここまでで結構です。』
シルヴィアは後ろの男女にそう声をかけ、俺の片腕を取った。
『アグニさん、案内をしてください。』
「お、おう……。」
・・・
「あ、あとこれも美味しいよ。」
俺はチーズとテリーヌと塩味の聞いた肉のスライスが乗ったクラッカーを手に取り、指から若干芸を出して綺麗に2つに分けた。そして片方を自分の口に放り込み、頷く。
その様子をじっと見てからシルヴィアもゆっくりと口の中にクラッカーを運んだ。
『……ほんとですね。美味しい…。』
「だろ?!こういう簡単に食べられるやつってパーティーでしか出ないから、シルヴィアは食べたことないだろ?」
『ええ。初めて食べました…。これらは本当に食べ物だったのですね……。』
シルヴィアが驚きと興味を合わせたようなキラキラした顔で食事の乗った台を見回していた。今まで1度もパーティー会場の食事を食べなかったらしい。
お腹が空いたらどうするかって?
我慢だとよ。
暫く食べていたら、曲が止まっていることに気づいた。
「あれ?なんだ?どうしたんだ?」
『次が最後のダンスになるということでしょう。……食べてばかりではよくありませんね。』
シルヴィアが少し改まった様子で俺のことを見た。
え?何?
なんでこっち見てんの?
…………えぇ?!
俺とダンスするってこと?!
「えっ、えぇ?シルヴィア、俺と踊るの??」
俺の言葉にシルヴィアは驚いた顔をした。そして急に芸素が揺れ始めた。よく見ると耳が芸獣の目並なみに赤い。
『べっ、私は別に他に踊る人はいますよ?あなたがいないでしょう?』
「え、あぁ…たしかに……。」
そういやさっきセシルと別れてからまだ会ってない。芸素を辿ればセシルと会えるが…たぶん最後のダンス直前で天使の血筋を放置しちゃまずい。
「あーじゃあ…シルヴィア様、お相手をしていただけますか?」
俺はわざとらしく改まったように片手を出すと、シルヴィアは少し大きめのため息を吐いて、俺の手を取った。
『お受けします。』
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

(短編)いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
我儘女に転生したよ
B.Branch
ファンタジー
転生したら、貴族の第二夫人で息子ありでした。
性格は我儘で癇癪持ちのヒステリック女。
夫との関係は冷え切り、みんなに敬遠される存在です。
でも、息子は超可愛いです。
魔法も使えるみたいなので、息子と一緒に楽しく暮らします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる