再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第3章

117 授業⑬

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「今日の授業は少しでも長く練習の時間を取ります!時間短縮のため、私がペアを指示しますわ!」

ダンスの授業で先生がそう言った。今週末には全学院混合のパーティ―がある。そこで学生は踊らなければならない。
そして第一学院の生徒はその場の中で最もダンスが上手で、優雅で、美しくなければならない。なぜなら貴族の子女だから。

ゆえに先生の気合の入りようは凄い。なんか難易度の高い振りを踊らせようとしている。

「ではシルヴィア様、本日はアグニさんとペアを。続いてコルネリウスさん、あなたは…」

今日の俺のペアはシルヴィアらしい。ホールで俺の隣に座っていたカールがこそっと耳打ちした。

「つまりこの学年で一番踊りが上手なのはアグニってことだな。」

「え?そうなの?」

「当たり前だろ?シルヴィア様と組ませるんだ。一番上手な相手を選ぶはずだよ」

「ほぉ……」


   悪い気はしないな!!
   今度シーラ先生に何かプレゼントしなきゃ!


俺はシルヴィアの元に行き、片手を差し出した。

「うっすシルヴィア。ダンス、よろしくな!」

品よく座っていたシルヴィアは青紫の瞳でじっと俺を見てから俺の手に手を重ね、立ち上がった。

『えぇ。どうぞよろしくお願いします。』

シルヴィアをエスコートしてホール中央へ向かう。他の生徒らもペアごとに軽く準備をし、曲が流れ始めた。


   おお……
   シルヴィアは踊りやすいなぁ~!!


ダンスの上手い下手は運動神経に比例する傾向がある。シルヴィアは武芸が達者なのでその分ダンスも上手いのだろう。もちろん努力してるってのもあるだろうけど。

「はい!皆さま大変結構です!各自休憩を取って下さい!」

ダンスが終わり各自休憩を取った。その際に先生がすぐにシルヴィアの所へやってきた。

「シルヴィア様、今週末のパーティ―でシルヴィア様はファーストダンスを致します。どうぞご準備を忘れずに、よろしくお願いいたします。」

『はい。わかりました。』

先生は綺麗にカーテシーをして立ち去っていった。

「ファーストダンスって?何すんの?」

『その名の通り、パーティーで一番最初にダンスをする人のことです。』

「へぇ~!なんでシルヴィアが任されたの?」

『……私が天使の血筋だからという以外に理由がありますか?』

「え、あ、そうなの?あぁ…まぁそっか。なるほどね」


   そうだそうだ。あっぶね。
   天使の血筋ね。そういうの忘れてたわ。


そういえばそういう枠があったなってことを思い出した。なんだかんだ天使の血筋って大変なんだな。

「さぁ!ではまた次の曲を踊りますよ!皆様、準備をしてください!」

先生が全体に声をかける。俺は再びシルヴィアと手を取り、ダンスの練習を始めたのだった。






・・・




   

芸の授業の時間、コルネリウスは一生懸命防御の芸を練習していた。

『アグニさ、水鏡を出すときってどれくらい芸素出してる?あと何か気を付けてることある?』

「えぇ?んー……必要なくらい…どれくらいって言われるとわかんねぇな。」

『んーじゃあ1回の水鏡で、自分の中で何割くらいの芸素が減る?』

「えぇ?!そんな減らないよ!10回やって1割…も減らないな。20回やれば1割減るってくらいか?」

俺の答えを聞いたコルネリウスは目を大きく開いて黙ってしまった。

『そ、そんなに芸素があるの?え、待って。ほんとに?』

「うん、本当。」

『まぁ…そうだよね。アグニは嘘をつかないもんね。けど……そんな芸素量は軍部の隊長格…いや、天使の血筋でもいないんじゃないかな……?』


   ・・・・・・っは!!!!
  まずいまずいまずい!!!!


すげぇ普通に答えちゃった!やばいやばい!そうだった!俺が皆と違うのは芸素量だった!ぬぁ~!!!ミスった!!

「おお~い!皆!集合しろ~!!」

バノガー先生がタイミングよく集合の号令をかけた。まじナイスタイミング。俺は飛ぶような速さでバノガー先生の元へ逃げた。

「お、おお…アグニ。随分と早く来たな。まぁいい。来週から学院混合交流会、それも第2学院との交流からだ!シルヴィア様、今年度第2学年の武芸総大将をお願い致します。また、芸の大将も兼任していただきます。武術の大将は、コルネリウス!お前に任せたぞ!」


   え??
   ここでもまたシルヴィア何かやるの?
   それはさすがに負担ありすぎじゃね?


『わかりました。』

けれどシルヴィアは何事もないようにすぐ了承した。たぶん事前に聞いてた話だったのだろう。もしくはこれも「天使の血筋」である自分が任されるってわかってたのか。


   なんか……天使の血筋って大変だ。
   なんでこんな色々背負わされるんだ?
   

これが「身分が上の者が下の者を守る」ってやつ?これが?


   うーん……難しいなぁ……


そして放課後の武芸研究会の時間に、俺はこの考えをシャルルとアルベルトに伝えた。ちなみに2人は第4学年なので交流会には参加しない。交流会は第2学年と第3学年だけなのだ。

『うーん…アグニはけっこうの考えをするんだね。天使の血筋じゃないのに珍しい。』

シャルルが腕を組んで少し驚いたように言った。隣にいるアルベルトは仕方なさそうな顔で笑って俺の肩に手をおいた。

「アグニの周りには天使の血筋が多いもんなぁ。俺もシャルルと幼いころから仲が良いからその気持ちわかるよ。」

「それで2人の考えが聞きたくてさ。」

俺が2人の顔を交互に見ていると、アルベルトがシャルルに代わって告げた。

「俺も、そういう天使の血筋だから任される役割ってのをシャルルが背負わされているのを見て、なんでだ?って思ったことはある。シャルルは別にやりたいなんて言ってないじゃないかって。」

『けど、誰かが死ぬほどやりたいって思う役割を、俺は無条件に手に入れることもある。武芸総大将を目指して、血反吐を吐くまで努力したのに俺がいるからってだけでそれは叶えられない。そしたら俺は、そいつの一生の夢を当たり前のように奪うことになる。』

2人は優しい笑顔で俺に言った。

「難しいよな。俺らも結論なんか出てないよ。正解はわかんないままだ。」

「……そっか。」

『けど…やっぱアグニは総大将になれなかったか。それに武術の大将もコルネリウスか。まぁ現帝国軍総司令官の息子にやらせなきゃ第1学院も軍部も示しがつかない。これもまた、仕方ない。』

「俺はコルが大将で全然構わないんだけど…でもそっか。もし俺がめちゃくちゃ大将になりたかったら、これも理不尽に感じるはずだよな。」

俺が難しい顔で考え込み始めたからだろう。2人が両側から俺の肩を組んで歩き始めた。

「んなこと悩んだって一生答えは出ないぞ!!ほら!アグニ!武芸の稽古付き合え!」

『アグニいいのか?皆、第2学院に向けてすごい気合入れて練習してるぞ?』

「え?まじで?なんで気合入れるの?」

「『 見栄だろ。』」

「ほぉ………」

『ほら!だからお前も練習だ!第2には負けるな!きちんと第1学院の強さを見せつけろよ!!』

俺はわざとらしく軍の敬礼をしてみせた。

「先輩方のご命令とあらば…俺も頑張りますよ。」







・・・








3の日、
この日の礼法の授業は他校での振る舞いや挨拶、接し方などの総復習だ。
先週の補習で、俺はなんとか目上の人への振る舞い方を頭に叩き込んだ。まぁちゃんと実践できるかはわからないけど。
授業中、先生は俺の方ばっか向いて喋った。もはや俺に向けた授業のようだ。なのできちんと「聞いてますよ!」って顔をして授業を聞いた。


そして4の日の朝、久しぶりにシルヴィアと会った。

夏が近づいてきたとはいっても、まだ日の出前の時間は薄暗いし肌寒い。けど朝は静かだし空気は綺麗だし、落ち着いた雰囲気があって好きだ。

「よ、シルヴィア。おはよう!」

『おはようございます。』

「交流会、いよいよ来週だな!楽しみだな!」

『………ええ。』

シルヴィアが少し戸惑った様子を見せた。その時になって俺は、先週のお話し合いの時間に他の生徒がみんな交流会を楽しみにしていなかったことを思い出した。

「あ、そっか。ごめん別に楽しみじゃないよな。けど俺は楽しみなんだ。初めて会う人も、見るものもたくさんありそうで!」

俺の言葉を聞いたシルヴィアはパッと目線を上げて俺に断言した。

『いいえ、私も…楽しみです。私もあなたと同じ…です。』

「……そっか!!」

なんだか嬉しくなった。シルヴィアは本当に楽しみなんだと思う。楽しみだと言った顔は晴れやかで、いつも以上に綺麗だった。

「そういやセシルも楽しみだって言ってたな。よかった。みんな、本当は嫌で嫌で仕方ないのかと思ってたから。」

『………貴方とセシルさんは親族関係でしたよね?』

シルヴィアから何かを質問するのは珍しい。

「あぁ、うん、まぁ、そうだよ。」

『……貴方は将来、ハーロー家に婿入りするおつもりなのですか?』

「ええ??婿??」

婿って言ったら……婿だよな?つまり俺とセシルが結婚するかってことか?

「え?全然そんな予定ないけど。親戚だから一緒にパーティーとか行ってるだけで、ハーロー家に入るつもりはないよ。」


   え??
   もしかして俺が知らないだけでそうなのか?
   てか皆にそういう認識されてたのか??

   あれ……?
   シルヴィアの芸素の波が穏やかになった?


『そうなのですね……じゃあ他の方とペアを組んでもいいわけですよね?』

「うん、たぶん大丈夫じゃないかな?けどセシルも一緒のパーティーならセシルと行くべきだろ?」
 
『まぁ…そうですね…。』


   ?? 
   シルヴィアの言いたいことがわかんない


「それよりさ!総大将で、ファーストダンスして、学年代表で……なんか色々と大変そうだな。」

『天使の血筋がこの学年に私しかいないのですから、当然です。』

シルヴィアは毅然とした態度で堂々と答えた。それはあまりにも王族然としていて格好良かった。

「……偉いな、シルヴィアは。けど別にお前も天使の血筋になりたくてなったわけじゃないのにな~」

シルヴィアは俺の顔を見て不思議そうな、けど驚いたような顔をしていた。あまり表情が顔に出ないシルヴィアにしては珍しい。

「まぁいいや、頑張ってな!何か手伝って欲しいこととか、言ってくれたら俺も協力するから! じゃあ俺、鍛冶場に行くから……」

シルヴィアはただずっと、じっと俺を見ていた。こうなると立ち去るにも立ち去れない。どうすればいいのかわかんない。

「ええっと……?あっ、鍛治するの見てみる?」

話の繋げ方がわからない俺は、以前シルヴィアに断られた提案をしてしまった。

けれども、今回は違った。

『………お、お邪魔でなければ……是非。』

「あははっ だよね!……っえ?!見るの?!」

シルヴィアは少しふくれた顔をして横を向いた。

『ご迷惑なら結構です。』

「あぁ、いやいや!びっくりして!!え、じゃあ……行きましょうか?」

『………はい。』


陽が昇り始め東雲色になった道を、俺とシルヴィアは共に歩いていった。









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