再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第3章

113 リノスペレンナ

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「うぉ~!!!!!!!すげぇ~!!!」

俺とシリウスはそれぞれレベッカとレイの芸獣に乗って空を飛んだ。そんな大きくはない中型の芸獣だったが2人くらいならば全然安定している。

『きゃはは!レイ!旋回!』

「うん!!」

「うぉぉぉ~!!!!」

レベッカの号令で2人が一気に方向を変えた。
すると海と見違えるほどに大きな湖が眼下に広がった。そしてその湖の中央には天にも届きそうな『世界樹』が構えていた。圧巻の景色だった。

「すっげぇ………あの樹、リノスペレンナだっけ?」

俺が前に座るレベッカに話しかけると元気よく頷きながら答えた。

『そう!リノスペレンナ!湖がイミタラッサ!』

とても遠くに立っているはずなのに、樹が大きすぎて近くにある気がする。俺らは空を飛んでるのにまだまだ樹の頂上は見えない。

「すっげぇな……」

「けどこれ以上は進めない……」

近くで飛ぶレイがこちらに呼びかけた。俺が前に座るレベッカに目で問うと説明してくれた。

『リノスペレンナに一定の距離以上近づくのは禁止されてる。シャノンシシリー公国教会所属の騎士しか近づいちゃいけないの。しかもその騎士でもね、リノスペレンナへの上陸は禁止されてるの!』

そういえば以前シリウスが言っていた。リノスペレンナの根元の島にはシャノンシシリー公国大公の許可が必要だと。

「そっかぁ。ちょっと残念だな。けど今すんごい気持ちいいよ。ありがとな2人とも!」

俺が2人に礼を言うと、2人とも嬉しそうに笑った。




・・・




「おかえりなさ~い!!」

先ほどの訓練場へ戻ると、ギャラは元気に手を振りながら俺たち4人を迎えた。そしてなぜか大公も増えてる。

『2人とも、どうだった空の旅は?』

シャノン大公に聞かれ、俺はレベッカの芸獣から降りて答えた。

「気持ちよかったです!この辺りは飛ぶと気持ちいいですね!」

『そうかそうか!』

『シャノン、3人があの樹に行きたいって。』

ずっと黙っていたシリウスが急に大公に宣言した。これはシリウス流の『連れて行け』の意味だ。もちろんシリウスと長い付き合いのシャノン大公に、その意味がわからないわけがない。シャノン大公は仕方なさそうな顔をしながらも頷いた。

『わかった。連れて行こう。その代わりシリウス、またあの樹の芸素を動かしてくれまいか。』

『えぇ~またぁ??』

『お前はまたって言うかもしれんがもう随分と前のことだぞ?』

『えぇ~だる~ほんのちょっと前にやったじゃんよ~』

シリウスがブーブーと文句を言うが素直に言うことを聞くつもりらしい。珍しい。


   樹の芸素を動かす??
   リュウを使って芸素を震えさせるって意味か?


「え、ていうか俺ら本当に行っていいのかよ……?」

俺が遠慮がちに大公とシリウスに問うと2人ともコクンと頷いた。

『ああ。君も私と同等の資格がある。レベッカとレイは2人の移動のために同行を許可する。』

明言はしなかったが、俺が天使の血筋だから問題ないということらしい。いつもはリノスペレンナまで船で移動するらしいが、今回は特別に芸獣使いによる空での移動にしてくれるってことだ。

「え、そんな……平気なんですか……?」

俺がシャノン大公に再度聞いた。なぜリノスペレンナまでの移動でアルダを使わないかというと、芸獣を神聖なる世界樹へ近づけさせないためだ。なのに今回シリウスのわがままを発端にして、大公の一存でその決まりを破るとなると…色々反感を買いそうだと思った。

けれど大公は大きく笑って言った。

『心配せずとも大丈夫だ。良いか?この国では「私」が何よりも神聖な存在なのだ。つまり私の意見以上に重要なものはない。まぁ…シリウスの意見を除いて、な。』

「………なんでそんなシリウスの意見が絶対なんですか?この樹はシャノンシシリー公国の管轄でしょう?」

俺は思う疑問をぶつけた。どうしてそんなにシリウスに発言権があるのかがわからない。シリウスはいったい何をしたというのか?

俺の発言にシャノン大公は考え込むようにして言った。

『ふむ……。実に惜しいな、己の近くにいる存在の大きさに気づかないのは。まぁ明日リノスペレンナへ行った時に少しはわかるであろう。』





・・・





翌朝、陽が昇る前に俺たちはイミタラッサの沿岸部に集合した。この時間が1番静かで空気が澄んでおり、純粋な祈りを樹に届けられると考えられているかららしい。

俺はまたレベッカの、シリウスはレイの芸獣に、大公はギャラの芸獣に乗って移動をした。下には教会所属騎士の船が数隻ついて来ており、俺らの周りにも他のアルダが護衛のため飛んでいる。結構な大移動だ。


リノスペレンナのある島へと上陸した。
そこには天降てんこう教会で見たような大きな柱が立ち並んでいた。まだ薄暗い中なので各所に光を発する蓄芸石が付いている。

よく管理が行き届いており、いかにこの島が神聖な場所とされているかが伝わってきた。

「…………えげつねぇくらい大きいな………」

徐々に近づいていくにつれ、その大きさに唖然とする。

『帝国が誕生する前のだから樹齢2050年くらいじゃない?』

俺の呟きに反応を示したのはシリウスだった。

ちなみに今、シリウスとシャノン大公は軽やかな絹の衣装に身を包み、腰には金の刺繍がされた絹の布が巻かれている。それに加えてシリウスは薄手の白布を頭から被せている。服は天空人が着ていたとされる形で、正式な場では天使の血筋はこれを着ることになっているらしい。確かに過去の記憶でこんな感じの服を着ていた気がする。

ちなみに俺は正式に天使の血筋と認められているわけではないので着ていない。

「2050年?何かそう書かれてる歴史書とかあるのか?」

俺は具体的な数値を出したシリウスを不思議に思い、聞き返した。するとシリウスは少し驚いた顔をして、けどすぐに楽しそうに笑った。

『記述はないよ?けどたぶんそんなもん。』

「ふーん……」

俺たちはしばらく進み、樹の根元にある祭壇へとたどり着いた。その祭壇の手前には小さくて美しい湖がある。水底が見えるくらい透明度の高い湖は、まるで誰も樹へ触れることを許さないと言っているかのようだった。

『アグニ、この樹に何か感じる?』

シリウスが俺に問うた。

「んー…別にこれといって何か感じるわけじゃないな。正直、妖精の森の方が実際の芸素の感じとかは凄かったかもしれない。」

シリウスは俺の答えをお気に召したようで、白布越しににっこりと笑った。

『そう。この樹は確かに天空人が植えたけど、木自体はどこにでもある普通のものなんだ。けどね、木も生きている。記憶を 持つんだよ。』

深い霧の中でシリウスの瞳だけがよく見える。

「…どうしてこの樹はこんなにも巨大で長寿なんだ?」

『……ふふっ。シャノン、』

『ああ。』

シリウスに声をかけられたシャノン大公は急にシリウスへの態度を改め、片膝を地につけて首こうべを垂れた。

『シリウス様、どうか……再度お力をお貸しください。』

大公を護衛する騎士らが目を見開き驚愕の顔をした。そりゃそうだ。自国の大公が誰かに対して最大限の敬意を払った礼をしたところなんざ見たことないだろう。

シリウスは跪く大公をいつもと変わらない笑顔で見ていたが返事を返すことなく、くるっと後ろを向いて悠然と樹へ歩みを進め・・・

……トンッ!

一蹴りで手前の湖を飛び越え、祭壇の上に飛び乗った。

「っちょっ!!!!………閣下!?!?」

騎士の1人がシリウスの行動に怒りの声を上げた。そりゃ祭壇の上に立っているんだ、怒るのもわかる。けれどもシャノン大公はその騎士にすぐ静止の指示をした。

シリウスはちらっとその騎士を見て、わざとらしく微笑んだ。騎士は苛立ち半分、怯え半分の表情をしている。

そしてのんびりと腰からリュウを取り出し、静かに吹き始めた。



リュウを吹き始めて 空気が変わった。
辺りが清く浄化されたように張りつめる。

空間の芸素が 震え始めたのだ

樹の周りで風が吹き、ざわざわとした音が一帯を包む。

「………っあ!」 

その時、世界樹から金の芸素が降り落ちた。それはいつかの、妖精の森で見たものと同じで、特別な雰囲気を作り出した。樹の中の芸素を震わせたことで、外にも芸素が舞い散っているのだろう。

キラキラ キラキラと

『……どうだ?美しいだろう?』

「………はい。本当に。」

俺の隣に立つ大公が輝かく世界の中で祭壇の上にいるシリウスを見上げながら言った。

『何十年も前にこの景色を見せられて そこから私の信仰は唯一となった』


樹が気持ちよさそうにしていると感じた

久しぶりって言っているように思えた

旧友との再会に歓喜しているかのようだった


   そうか。
   樹にも、命や意思はあるのか。


世界樹と呼ばれる樹の意思は 驚くほどに美しかった。








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