再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第3章

*5 森でピクニック・前編

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*カール視点の閑話です。

ーーーーーーーーーーーーーーーー





昨日の夜、家に帰ってすぐコルネリウスに手紙を送った。

そして明日の朝は一緒に行かないかという提案もした。コルネリウスからはすぐに「わかった」という返事が帰ってきた。本当は別にコルネリウスと一緒に行かなくてもいいのだが……昨日のこともあるし、一人で行くのは怖かったのだ。

 アグニはあの家で生活してるのか……

俺からすると考えられないことだ。たぶん初日で胃がキリキリして死んでしまう。

 けどシーラ様と一つ屋根の下か……

急に大丈夫な気がしてきた。けどシーラ様も十分恐ろしい方だ。ずっと一緒は…。

目の前に座るコルネリウスは今日のピクニックが楽しみなようだ。彼は以前海に行った時にシリウス様と会っていたらしい。コルネリウスはシリウス様をどう思ったのだろう?

そんなことを考えていたらすぐに公爵邸に着いてしまった。リシュアール伯爵邸と公爵邸はそれほど離れていないってことを失念していた。まだ心の準備ができてない。




・・・





「こちらでお待ちくださいませ。」

「はい。」

『ありがとう。』

昨日会った執事に応接間に通され、俺とコルネリウスはそこで待機した。品の良い装飾で統一された室内はさすがとしか言いようがない。

バタン!!

「カール!コルネリウス!お待たせ!!」

すぐにアグニが応接間へとやってきた。ネクタイ無しのシャツにズボンというラフな格好だ。ピクニックで汚れるからだろうか。けど公爵家の財力ならどんな高級品でも一回で使い捨てられるだろう。ってことはこの格好はアグニの私服ってことかな。

『アグニ!僕まで招いてくれてありがとう!昨日カールから話を聞いてとても楽しみにしてたんだ!』

コルネリウスが満面の笑顔でそう告げる。コルネリウスの凄いところは嫌な態度を取らず、なんでも笑顔で受け入れらる器の大きさだ。俺は楽しみではなかった。緊張と恐怖のの方が何倍もある。

けどもちろんそんなことは言わない。

「アグニ、招いてくれてありがとう。俺も楽しみだよ。」

アグニは嬉しそうな顔をした。

「ほんと?よかった!急だったから迷惑だったらどうしようかと思ってたんだ。」

「そんなことない。こんな機会は滅多にないしな。」

『うんうん!シリウス様とシーラ様とご一緒できるなんてな!夢みたいだ!』


「あら、嬉しいわ。 ね?シリウス。」

『そうだねぇ。』

応接間に輝かんばかりのオーラを纏ったお2人が入室された。俺とコルネリウスはすぐに礼を取った。

「あら、そんなかしこまらないで?せっかくのピクニックなのにそんな態度じゃ悲しいわ。」

『そうだよ。そんな調子じゃ疲れるだろう?今日は態度を気にしないでいいよ』

 そんなこと言われても……無理だろ。

「あ、ありがとうございます…。」

『ありがとうございます!シリウス様、シーラ様、本日は私のこともお誘いくださって誠にありがとうございます!』

コルネリウスはすぐに態度を軽めにした。けれどもお2人とも嫌な顔一つせずにそのまま話し始めた。もう結構コルネリウスとは打ち解けているのかもしれない。

 俺は……ゆっくり打ち解けよう……
 昨日みたくキャパオーバーで体調を崩したくないしな。

宰相閣下は今日はすでに外出されているとのことで……とても安心した。俺たちはアグニが言う『森の家』に向けて馬車で移動することになった。馬車はシリウス様とシーラ様で一台、俺とアグニとコルネリウスで一台使って向かう。馬車の中でやっと息を付けた気がした。




・・・




「失礼いたします。到着いたしました。」

「あ、着いたって!」

「聞こえてるよ。じゃ降りるか。」

『どんな場所なんだろう?楽しみだなぁ!』

俺はアグニの後に続いて馬車から降りて……驚いた。

「ここ……帝都の中……だよな?」

「おう!静かで気持ちいいだろ?」

『すごい!!本当に森なんだ…!!』

豊かで美しい森だった。帝都の喧騒は全く聞こえない。

シーラ様の乗る馬車の御者をしていた男を先頭に、森の中を暫く歩いた。使いの者はこの御者の男しかいない。他は全員、馬車を降りたところで離れた。天使の血筋が2人と伯爵家三男と子爵家長男がいるのにあまりにも警備が少ない。この御者は1人で全ての警備を賄えるほどの実力者なのか?けど別にそうは見えない。

 …………警備すら必要ないってことか?

そう考えて一瞬ゾクッとした。いや、けどあり得る。アグニですらあの実力だ。そのアグニの師匠だというシリウス様はいかほどの実力者なのだろうか?

 まぁ………警備のことはもう深く考えないでおこう。




・・・




まずは森の家へ案内され、そこで少し休んだ。その間に我が家が用意した昼食を御者の男が馬車から持ってきてくれるそうだ。

「カール昼食用意してくれてありがとな!」

アグニが明るく礼を言う。

「とんでもない。気に入ってくれるといいんだが……」

俺が謙遜を返すと大きなソファに寝そべるシーラ様(はたしてそんなご様子を見ていいのか?さっきから俺の心拍数が凄いことになってるぞ。)が妖艶に微笑んだ。

「ブラウン家の昼食でしょう?とても楽しみだわ。」

「はっ……もったいないお言葉です…!」

「皆さまご準備できましたー!!」

御者の男が大きな声でこちらに叫んだ。
この男の立場がわからない。こんな風な呼びかけ、普通貴族にすらしないのに天使の血筋のお2人に対してしているのだ。こんなん普通なら即刻アウトだ。けどそれをシリウス様とシーラ様もアグニも全く気にする様子はない。

 実はどこかの貴族の子息だったりするのか?
 今一時的に預かってるだけ、とか?
 だから3人ともこの男の態度を気にしないのか?

相手がどんな立場かわからない以上、下手な行動はできない。俺は素直にその御者に礼を言ってついていった。





・・・





今日持ってきた料理はサンドイッチ各種、ミートパイ、スープ、サラダ、マリネ、燻製肉、焼き菓子、飲み物各種など、そこまで豪華なものではない。けど我が商会が運営してるレストランのシェフ達に作ってもらったもので味は絶対悪くない。

「すごい豪華だな!!!………おぉ!しかも上手い!」

アグニがミートパイに食らいつき嬉しそうな顔をした。

『カール美味しいよ!ありがとう!』

コルネリウスからも感想をもらい、ひとまず安心する。シーラ様とシリウス様は燻製肉をつまみながら持ってきた飲み物のうちの果実酒を選ばれて飲まれている。

『アグニは?何か飲まないのかい?』

「そうよ。この果実酒美味しいわよ。程よく酸味もあって。」

シリウス様とシーラ様がアグニに酒を勧める。アグニはいそいそと飲み物を選び、結局麦の発泡酒を手に取った。

「ぷはぁぁぁぁ…………困るなぁ~上手い!!!」

アグニが陽気に笑った。学院内での飲酒は禁止されているので飲んでいるところを見たことはなかったがどうやらお酒は慣れているらしい。

「カール、貴方も飲みなさいよ!勿体ない!」

シーラ様が俺に果実酒を勧められた。本当は飲まないつまりだったがシーラ様が手ずから注いでくださったこの一杯にはとんでもない価値がある。飲まないわけないだろ。

『コルネリウス、君は?いらないかい?』

シリウス様がコルネリウスにも聞いた。コルネリウスは少し迷った顔をしたがすぐに年相応の笑顔を見せた。

『あまり飲み慣れていないので多くは飲めませんが…是非!』

こんな感じでけっこうみんなで楽しくピクニックをした。今は雷の月 5の週の7の日。湿気も少なく寒さもなく、緑の美しい最高の季節だ。俺も天気に踊らされ、冷えたお酒を気持ちよく飲み進めていった。





・・・





「気分がいいわ。」


食事を終え、各々酒を片手にだらだらとしていた。シーラ様は青々とした芝生の上で横向きに寝転んで、近くを流れる小川を見ていた。シーラ様の後ろで木にもたれかかって座るシリウス様が、優しい顔でシーラ様に聞いた。

『珍しいね。見せてくれるのかい?』

「ん~どうしようかしら」

お2人の会話の内容はよくわからないが、話の邪魔をすることはできない。

「なに?何を見せるの??」

さすがだアグニ。こういう時は本当に使える。俺もすぐ、アグニと同じ疑問を持っていることを示すように頷いた。するとシリウス様は俺達の方を一瞬ニヤっとした顔で見て、再び優しくシーラ様に話しかけられた。

『ほらシーラ、皆見たいってさ。』

「あなたは?」

シーラ様が横になったままの姿勢で顔だけをシリウス様に向けた。シリウス様はずっと優しい表情のまま、大きく頷いた。

『もちろん僕も。』

「……そっ!それじゃあ仕方ないわね~。リュウは持ってきてる?」

『あぁ。』

 え、え、え、えぇ!もしかして……!!!! 

『え、もしや……シーラ様……?』

コルネリウスも察したようだ。コルネリウスの問いにシーラは起立することで肯定をしました。

「え?何?どういうこと?なんの話??」

アグニだけがキョロキョロと俺達の顔を見ながら不思議がっている。その様子を見てシーラがアグニの頬に手を当てて美しく微笑んだ。

「アグニ。私の職業、なんだか覚えてる?」

アグニは記憶を辿るような表情で言った。

「ええっと…『芸者』って聞いたことある。あと『踊り子』?」

「そう。私は芸を用いて踊りを披露するの。それを続けてきたらいつからか『芸者』という名前がつけられたの。もう今は気分がいい時と必要な時しか踊らないけどね。」

「え、じゃあ踊りを見せてくれるの?!!」

「えぇ。特別よっ。」

シーラがウインクをして答えた。そのウインク、俺にして欲しかった…!!!!

シーラ様はそのまま小川の中へと入っていった。美しいおみ足が見えただけでドキッとしてしまう。川の水で足首まである絹のワンピースの裾が濡れた。けれどそれに構うことなく足に感じる水を楽しんでいるようだった。

一閃いっせんの光のように、高いリュウのが響く。

まるで鳥の鳴き声だ。

そしてそれを合図に、シーラ様の纏う空気が変わった。

つねからシーラ様は高貴で、でも妖艶で、絶対的な品格を備えられていた。

けれど踊り子の彼女は……女神だった。

小川から水滴が舞い上がり、陽の光が反射する。それを楽しそうに操りながらシーラ様が軽く舞う。水も木も風も光さえも、彼女のことを心の底から愛しているかのようだ。そしてシーラ様はそれらを心から愛しているかのような表情を見せる。


― 世界を愛し、愛された女神 ―


 あぁ…そりゃあこんなの見せられたら
 あなたのことを神聖視しちゃいますよ。

リュウを吹くシリウス様の瞳も金色に輝いている。

そして



「っ!!!!!」

 やっぱり……なのか??!


俺はリュウの音色を聴きながら昨日のことを思い出した。





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