再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第3章

106 帝都の教会と図書館

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「ハーロー男爵!昨夜ぶりです!」

「おおアグニ!今日も娘を頼んだぞ。」

「はい!!もちろんです!」

セシルは俺と男爵の横を素通りし、馬車へと入っていった。その様子を男爵は悲しそうに見て、俺に小声で話しかけた。

「最近娘が冷たいんだが……どうすればいい?コミュニケーション不足かもしれないと思ってたくさん話しかけるようにしているのだが……」

「………奥さんはその事についてなんて言ってます?」

セシルのお母さん、つまりハーロー男爵の奥さんはただいま第3子妊娠中でシルヴィア公国の別荘にいるらしい。俺もまだ会ったことはない。

「妻は『あなたからはできるだけ話すな』って……」

「なら、そうしといた方がいいと思う………」

この前バルバラが言っていた。お父さんがむやみやたらと色々な事を聞いてくるのが本当に不快だと。しかも説明しづらいことも聞いてきて本当に不快だと。

たぶんだけど、16歳の少女とお父さんは一度距離を置いた方がいい。今は、数年すれば関係がまた元に戻るか、そのまま数十年間会話不足の状態を引きずるかの瀬戸際だ。ここで無理やりコミュニケーションを取ろうとしてはいけない。

男爵は寂しそうに馬車を見上げていたが、その瞬間に開いていた馬車の小窓が閉ざされた。
その様子を見て俺は断言した。

「しばらく…無理に話しかけない方がいいと思う…」

「しばらくってどれくらいだ?」

「す、数年……?」

「す?!!!!!!!」

男爵が再び情けない顔で馬車を見上げた。俺は男爵の肩にポンと手を置き、深く頷いて言った。

「…………そろそろ行ってきます。」


馬車での移動中、前に座っているセシルにそれとなく聞いてみた。

「お父さん……寂しがってたぞ……?」

「…………鬱陶しいの………」

「そ、そっか………」

「うん。」

そこから暫く、お互い無言だった。



俺は経験し損ねたけど、これが世に言う反抗期なのだろう。






・・・・・・








帝国共通教会と帝国大図書館は第1学院から結構近くにあった。場所でいうと、ハーロー洋服店と第一学院の間らへん。

帝国共通教会の外観は白く、荘厳で緻密な装飾がされていて格好良かった。なるほどこれは祈りに行きたくなるなと納得できる。

そして向かいにある帝国大図書館も同様に巨大だが、こちらの方が外装はシンプルだ。たくさんの柱が狭い間隔で並んでいて屋根をささえている。一つ一つの柱には縦線がたくさん入っているのでこれがある意味装飾になっている。

教会の敷地内まで馬車で入れたのでそこまでクルトに送っていってもらった。

馬車から降りて、面白いことに気づいた。近くには誰も案内役の人がいなかったのだ。通常、貴族の屋敷とかだと客人を迎え入れて、場所を案内するために必ず数人は立って待っている。
こういうところで礼拝者を平等にしているのかと思ったが、馬車を停める位置は天使の血筋と王族、貴族、他市民の3つに分かれていた。

「こっち……」

「あ、うん。」

セシルの指指す方に歩いて行く。少し中に入っただけなのに街の喧騒は全く聞こえなかった。

そのままセシルの案内で緻密に装飾された石造りの入り口に向かった。入口の向こうに白と黒の大理石で描かれた幾何学模様の床が見える。

そのまま歩みを進め中へと入る。

そこは巨大な……本当に巨大なホールだった。千人は軽く入りそうな大きさの講堂だ。

俺たちは西側の入り口から入ってきたようだ。東側と南側にも似たような入り口があって、南側の入り口が1番大きく、そこの人の出入りが1番多い。南の入り口から北側に一直線に金色の縁取りがされた真紅のカーペットが伸びている。

そして北側に目を疑うほど荘厳で美しい祭壇があった。

教会の外装も相当すごいと思ったが、それ以上に緻密で、金色をふんだんに使っている。髪に金色を施された美しい人達の石像が祭壇の周りを飛び回るようにデザインされていて、その中央には……

何もなかった。

周りを飛び回る石像はみんな、真ん中の方を慈しむような笑顔で見ている。けれどその肝心の真ん中には真っ白な大理石の背景しかなかった。

「セシル…なんで真ん中に何もないの?」

俺は小声でセシルに聞いた。ここの雰囲気的にあまり大声で話してはいけない気がした。セシルはいつも以上に小声で教えてくれた。

「あの中心は…天空王の場所」

「………天空王の?」

「そう。天空王、もしくは天空王の子孫である皇帝陛下のみが立てる場所……。そのお二方の場所に仮の像を置くのは……失礼でしょ…?」

天空王は天空を、皇帝陛下は地上を治めている。もちろんその2人は今も生きている……とされている。

正直、天空王が今もいるというのは怪しい。というか、いないだろう。けどまぁ創世記に記載されている内容だと、天空王は天空に戻って今も生きている。

「あーなるほど…。まだ存命だから中心の場所は空いてるってことか。」

「うんそう……。」

目を離せないほど美しい祭壇の前に、他よりも一段高い場所があることに気づいた。

「セシル、あそこは?」

「あそこは天使の血筋がお祈りする場所……」

「え?場所違うの?」

共通教会ってのはみんな祈る場所も同じなのかと思ってたが、天使の血筋は別らしい。セシルがコクンと頷いて説明してくれた。

「天使の血筋にとって教会は…神に祈る場でもあるし、祖先と会う場でもあるから…他の人とは別の場所…」

「あー……なるほど。墓参りの要素もあるってか。」

「そう。だから天空人の家族として…特別に祭壇に直接お祈りに行くことができるの…」

「ほぉ~~~」

俺の反応を見てセシルは少し呆れたような声で言った。

「天使の血筋や貴族と一緒に…一般市民が同じ場で祈れるのは…普通あり得ない。」

「そ、そっか……。」

俺は未だにこの世界を理解してないらしい。一般市民と貴族が同じ空間にいることすら珍しいのに、神の子孫まで一緒ってのはもう奇跡らしい。セシルから聞いた話だと、この場に天使の血筋が来た時はみんなそっちに祈り始めちゃうらしい。

祈りを終え、南の扉に向かって真紅のカーペットの上を歩いていくと南の扉の上に巨大なステンドグラスがあることに気づいた。たぶん帝国最大の大きさだろう。ステンドグラスには天空人と思われる1人の人間が、少し小さめの木に上から手をかざしてる図が描かれていた。

「セシル…これ何?」

セシルはすぐに何を聞いてるかを理解してステンドグラスを見上げながら言った。

「これは…木に芸をしてるんだって……。」

「芸?」

「うん……。なんか……木を育ててるらしい……。」


   解名かいなの方のげいか。
   そういえば失われた芸だって言ってたな


「こうやってみると確かに美しいな。」

「うん……。私も最初このステンドグラス見た時…ずっと忘れられなかった。」

「へぇ~!セシルはこの絵、結構気に入ったんだ。」

「………ほとんどの人がそうだよ……?」

「え、あ、そうなの?」


   やべ。もう少し感動しとくんだった。
   俺ってこういう感情の機微に疎いなぁ
   てかこの絵の人……
   なんとなくシリウスに似てるな


俺たちはそのまま南の扉から出て、教会の中庭を通り、暫く歩いてようやく外に出た。そろそろ帝国大図書館に向かわねばならない。本来は向かいにある大図書館に行くにも馬車で移動すべきなのだがちょっとそれは流石にダルすぎたので、セシルには絶対守るからと伝えてそのまま歩いて向かわせてもらった。

貴族の何がめんどくさいって移動だ。

歩いてすぐのところでも馬車で移動する。けどもちろん馬車移動が早いわけじゃない。なんならめっちゃ時間がかかる。けどそれをしてこそなのだと。正直、学院から帰るのもセシルと一緒じゃなければ歩いて帰りたいところだ。もしかしたら俺がそういう考えをすると知ってセシルと一緒に帰らせてるんじゃないかな。

大きな入り口に入るとすぐに赤と白の大理石でできた登り階段があり、そこを登っていく。そして長い廊下にはいくつもの部屋があった。

「…そういやどこに集合するんだろ。」

「………知らなかったの?」

「え、もしかしてセシルも知らない?!」


   やっべここにきて迷子じゃん!
   どこの部屋から探せばいいんだ?
   とりあえず誰かの芸素を探して…


「貴族しか入れない区域があって……たぶん、そこの一室…」

セシルは廊下の端に立っている兵の先を指差して言った。場所を知っていたようだ。

「あ、ほんと?よかったよかった……。」

「学院の芸石…持ってきた?」

「持ってきた!ここで使うのか。」

「そう……。あそこの騎士に見せるの……。」

第1学院に編入した際、学院から紋章の入った芸石をもらっている。基本みんなペンダントのようにして持ち歩くのだ。俺もペンダントにして基本的にポケットに入れてある。
立っている兵にその芸石を見せるとすんなりと通らせてくれた。第1学院の生徒は全員貴族って認識は帝国共通らしい。

暫く歩くと鉄製の檻があった。その前にはカウンターもあり、再度そこで身分を証明する。俺とセシルは再び第1学院の芸石を見せ、中に入ることを許された。

「代表のカール・ブラウン様を含め、数名の方がすでにお着きです。第5の部屋へご案内します。」

受付のお姉さんがそう言って綺麗な笑顔を見せた。俺とセシルはそれぞれお礼を言って、案内してくれる人の後ろを歩き、第5の部屋へ向かった。

そしてまた廊下を歩く・・・

コンコンコン……ガチャ

「お、2人とも!遅かったじゃないか!」

ノックをして扉を開けるとすぐにカールが目に入った。

「ごめん待たせたか?」

「いや、そんなことはないよ。まだ全員は揃ってない。コルとパシフィオは少し遅れるそうだ。」

カールがコルネリウスからと思われる手紙をひらひらさせて答えた。

「へぇ珍しい。どうしたんだろ?」

「さぁ……?後で聞いてみよう。」

「だな。」

この図書館には部屋ごとに世話係りがいるらしい。紅茶とか、必要な本とかを持ってきてくれるとのことだ。なのでとりあえず俺とセシルは好きな紅茶を頼んどいた。

15人近く座れる巨大な円形のテーブルを皆で囲んで勉強するらしいので、俺はカールの隣に席を決め座る。これでわからない問題があってもすぐに聞ける。

カールと暫く喋っていると徐々に人が揃ってきた。

バタン!

「悪ぃ!遅れた!!」

『ごめんね。もう皆、始めてる?』

パシフィオとコルネリウスがやってきた。カールが代表で立ち上がって2人の席を指さした。

「いや、まだだよ。2人とも、席そこ空いてる。」

「わかった!あ、ダージリンを。」

『僕はアールグレイで。』

2人ともすぐに世話係の人に紅茶を頼んだ。世話係りの人は綺麗に一礼して再び去っていった。この場所を使い慣れている感がすごい。そして2人が席に着き、やっと今日のイベントが始まる。






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