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第3章
101 船の上
しおりを挟む『うわぁぁぁ~~!!!!!』
コルネリウスが叫びながらも剣を抜いて構えた。言葉と行動が合ってなくて、こういうとこほんと良いと思う。そして代わりに叫んでくれたからか、俺は少し冷静になれた。
とりあえず1番まずいのは……
船を壊されることだな。
時間はないから解名は無理!
あ~もうとりあえず燃やしちまえ!
俺は全身真っ赤に光る魚の芸獣に炎の渦を当てた。
「グルルルルルル……!」
嘘だろなんで?!!!
君、お魚さんでしょ?!
その芸獣は何もダメージを浴びなかった。マストの上に腰掛けているシリウスがにやにやしながら俺たちを見ている。
炎でダメージを受けなかった芸獣はそのまま船に落ちてきそう………なところでコルネリウスが剣に風の芸を乗せて横に薙いだ。
「ギャオゥゥゥゥゥ!!!」
大きく開かれた口に直接風の芸が入った。芸獣は口から血を流して再度海に落ちていった。
「ナイス、コル!!!」
『いや、アグニもありがとう!助かった!!』
コルネリウスが剣を構えながら言った。さすがだ。もう落ち着いているようだ。
「あいつ、炎は通用しないっぽい!けど風は効くんだろうな。最初のシリウスの攻撃もコルの攻撃も反応良かったし。」
『そうだね……。あ!!シリウス様は?!!!』
コルネリウスが顔を青くしながら周囲を見渡した。
「あいつはもう上だよ。」
俺が上を指差しながら言うとコルネリウスはすぐに上を見た。そして唖然とした顔になった。
『ほ、ほんとだ…。いつのまに……』
「シリウスのことは考えなくて良い。とりあえずこいつをどうするかだ。」
真っ赤な芸獣は船の周りをぐるぐると回っていた。けど体が赤いおかげで場所がわかりやすくて助かる。
「とりあえず…解名の鎌鼬を当ててみる。もし反撃がきたらその時はよろしく!」
『わ、わかった!!』
コルネリウスが顔を引き締めて俺の前に出て再度剣を構えた。
「 ギフト 鎌鼬!! 」
俺は海中の芸獣に向かって思い切り手を振り、鎌鼬を放った。
ドォォォォン!!!!
「ギャアアアオオオオオオ!!!」
轟くような悲鳴が上がった。どうやら上手く当たったらしい。けれど水が緩衝材の役割を果たしてしまい致命傷に欠ける。案の定、反撃とばかりにその芸獣はこちらに泳ぎ寄ってきた。海面から飛び上がり、こちらに牙を見せる。
ザシュッ!!!!
「キャオゥゥゥゥゥ!!!!」
コルネリウスが大きく広がる口を下から斬り上げた。血飛沫が飛び、確実にダメージを与えられたことがわかる。もう先程よりも叫び声も鈍い。
『アグニあともう少しで倒せそう!!』
「だなっ!! あっ!! コル!!!」
芸獣の背びれがコルネリウスに直撃した。コルネリウスの背丈ほどの大きさもある背びれだ。
『くっ……! あ!!!!』
コルネリウスは背びれの衝撃に耐えようとしたが、海水で濡れた船の上は滑りやすく、そのまま足を取られて背びれに突き落とされるように海に向かって落ちていく。
やばい!!!!!
今海に落ちたらまずい!!!
「コルネリウス!!!!」
俺は急いでコルネリウスの手を掴み、船の上に投げ入れよう……とした反動で代わりに自分の身を船から落ちてしまった。
『アグニ!!!!!』
コルネリウスが悲鳴を上げる。
ぬあ~ミスった!
けどまじで今落ちたら終わる!
落ちるわけにはいかない!!!!
俺は海に落ちる寸前、芸素フル稼働で風の芸を海にぶっ放した。すると、風が当たった海面はそのまま俺に風を跳ね返した。そして跳ね返された風の力で俺は海に落ちることなく、空中に停止した。
え…… まじで??
俺……浮けるの?
っと思っていたが、風の芸が当たった場所の海面がえぐれていった。流動物である海面は衝撃が加えられれば形が変化する。
うおやっべぇ!沈んでく!!
すぐ船に戻らんと!!
俺は再度全力で風の芸をぶっ放し、なんとか海に落ちずにそのまま船に戻ることができた。俺の一連の様子を見ていたコルネリウスは呆然としながら言った。
『ア、アグニ……え、あの……今の……なに?』
「え、いや。俺もよくわかんないけど…たぶん……浮いた?」
そうだ。ほんの一瞬だが、俺は浮くことができたのだ。
俺はマストの上の方にいるシリウスを見上げた。けれどシリウスはただただ楽しそうにこちらを見ているだけで、まだ降りてくるつもりはないようだ。
「……コル。とりあえずこの芸獣をやっつけるぞ。」
『う、うん。わかった!』
コルネリウスと互いに頷き合い、俺たちはまた赤色の芸獣へ攻撃を再開したのだった。
・・・
『2人ともお疲れさん。』
芸獣と戦い終わった直後、シリウスは花びらのように上から舞い降りてきた。その様子を見てコルネリウスはすぐに敬礼をした。
『シリウス様、お怪我はございませんか?』
『うん、全然大丈夫~。僕見てただけだし。』
『すぐに仕留められず申し訳ありません……。』
『ん?まぁいいよ。最初だしね。それよりも海に落としちゃった方がなぁ……』
芸獣はコルネリウスが剣で胴体をぶっ刺して仕留めた。最後ぶっ刺した後、コルネリウスはそのまま芸獣を海に突き落としたのだ。
シリウスの言葉でコルネリウスは顔色を青くした。
『も、もしや商品価値のあるものだったのでしょうか…?す、すいません!!!』
シリウスは海面を覗き込みながら言った。
『ん~食べようかと思ったんだけど……ちょっともう沈んじゃって見えないなぁ。次からは捨てないでね。』
『は、はい!!大変申し訳ありませんでした!!』
コルネリウスが深く頭を下げて謝罪した。
「何?あれ美味しいの?」
『美味しい。ホクホクしてて、川魚みたいに淡白だけど味付けするとよく沁みて…』
「へぇ~そうなんだ。」
珍しい。
シリウスがあんま文句を言ってない。
今日はコルが一緒だから優しいのかな?
俺が同じ失敗したら1日中文句言うのに
しかし、別に優しいわけじゃなかった。
シリウスは俺たちの方を向き、優しい笑顔を見せた。
『まぁじゃあしょうがないね。あっちのはちゃんと持って帰ってきてね?』
『「 ……え? 」』
『あの芸獣にギフトを 氷刺』
『「 え??? 」』
シリウスが先ほどよりも遠くの海面に1発、解名の氷刺を放った。
「ギャオゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」
『「 ええ???????? 」』
さっき倒した芸獣と同じ声がする。
俺とコルネリウスは無言でシリウスに顔を向けると、シリウスは天使のような笑顔で言った。
『次が来たよ。ほら、2人とも頑張って。』
・・・・・・
『お疲れ~。いやぁ、たくさん狩ったねぇ』
『はぁ、はぁ、はぁ……は、はい…!!』
「まじで……さすがに疲れた………」
もう空には夕闇がかかり、これ以上の戦闘は難しいと思っていたところでシリウスが声をかけてきた。
結局最初の芸獣からずっと続けて戦っていた。1匹倒すとすぐにシリウスはどこかからか芸獣を持ってくる。それの繰り返しで……たぶん海の芸獣はもう100匹くらい狩ったのではないか。
コルネリウスは息を整えながらシリウスに聞いた。
『シ、シリウス様……これから…帰るのでしょうか?』
『ん?今日は船上泊かな。幸い食べ物もたくさんあるわけだし。明日の朝に帰ろう。』
「まじで?……コル、大丈夫?」
コルネリウスは自分のお父さんに海に行くことは了承してもらったが、次の日に帰るとは言ってない。急な予定変更に納得してもらえるかがわからない。
『う……うん。たぶん……朝帰れば大丈夫……かな?』
ちょっと不安そうなコルネリウスに、シリウスは笑いを堪えながら言った。
『大丈夫大丈夫!君の父君は優しいから!シャルトからも連絡するだろうし、安心してね。』
『あ、はい!そう…ですね…ありがとうございます!』
『よし!じゃあ真っ暗になる前に魚焼いちゃおうか!』
『はい!!』
「うぃ~っす」
・・・
夕食時に魚の匂いに釣られてか、何度も芸獣が来た。けど今回は全てシリウスが対応してくれた。
シリウスはまじで一瞬で芸獣を沈めていった。
シリウスは一回一回の攻撃が抜群に正確なうえに威力もある。けれど何よりも驚いたのは、察知の早さだ。俺とコルネリウスは基本的にシリウスの攻撃音で芸獣が来たことに気づくって感じだった。つまり俺たちよりもずっと早く芸獣の存在に気づくのだ。途中からコルネリウスは自身とシリウスのレベルの差に笑い始めていた。
そして俺がシャワー担当ってことで温水を出す係りになり、みんなで軽く体を洗い流し、船の中央にある小屋のような室内へと入っていった。
俺とコルネリウスが毛布に身をくるんで寝ころんだのを見てから、シリウスは室外へと出ていった。
『じゃあ、2人ともよく休みなさい』
「おう、おやすみ~」
『………え??』
コルネリウスが飛び起きてシリウスを見た。
『シ、シリウス様は……寝られないのですか…??』
コルネリウスがとても不思議そうな顔をして聞いた。その顔を見たシリウスは吹き出して笑った。
『あははははっ!みんなその質問するんだねぇ。………「寝ちゃったら危険でしょ?あほなの??」』
『でしたら私が起きています!!シリウス様のお手を煩わせることはできません!』
『あははっ隣の子と同じ返し方をするんだね。「僕は寝なくても平気だから。お子様は遠慮せずに寝なさい」』
シリウスはにやにやしながら前に俺に言ったことと同じ言葉を繰り返して、部屋から出ていった。俺はため息を吐いてコルネリウスの方を向く。
「コル、シリウスは寝なくても平気らしい。家でも全然寝てないっぽいから大丈夫だ。俺たちは遠慮せずに寝ようぜ。疲れただろ?」
『……それはほんと?シリウス様はそんなに睡眠を取られないの?』
「うん。俺今までシリウスが寝てるとこ見たことない。」
俺の言葉にコルネリウスが眉間に深く皺を寄せた。
『アグニ聞いて。この世に寝なくても平気な人間なんていないんだよ。シリウス様がお休みにならないのなら、それには何かしら理由があるはずだ。』
「………けど本人曰く、たまには寝るらしいぞ?そういう体質の人もいるんじゃないのか?」
俺の意見にコルネリウスははっきりと首を横に振った。
『毎日体を休めることは絶対に必要だ。……アグニ、シリウス様のお体に障りが出る前に……何か方法を考えて差し上げて。』
「そうなんだ………うん。わかった。」
コルネリウスがあまりに真剣な顔でそう告げるので俺は素直に頷くしかなかった。
・・・
『もう起きたの?』
「あぁ。俺は十分に寝たよ。」
『そう……。君も睡眠時間が少ないんだね。』
シリウスは船頭に座っていた。まだ空も明るくなっていない頃だったが、目が暗闇に慣れたおかげで問題なく目を見て会話ができる。
「この世には寝なくても平気な人間はいないってコルネリウスが言ってたぞ。」
俺の言葉にシリウスは薄く笑いながら言った。
『……元々、天空人は空の上に住んでいたよね?』
「え?あぁ…うん。」
『空の上は地上よりも陽が昇るのが早い。沈むのも遅い。人は元々、陽とともに生活する生き物だ。それでまぁ…その名残からか、天使の血筋は睡眠時間が短くても大丈夫なんだよ。』
「天の上では夜が短くて、その体質が今も残ってるってことか?」
『そういうこと。体力も他の人より格段にあるしね』
「ってことは天空人でさえも毎日少しは寝てたってことだよな?シリウス。」
俺が力強く問うとシリウスは少し驚いた顔をした。けれどすぐにいつもと変わらない笑顔をみせた。
『アグニは……最近は過去の記憶は視ないの?』
「あ?急になんだ。ちょいちょい視るよ。けどまぁどれも歌ってるとか遊んでるとか……楽しそうだけど別にこれと言って大したことのない記憶だな。」
『そっか』
「けど……懐かしいって感情なのかな?なんかそういう記憶を視るとすげぇ切なくなる。」
『ふふっ。もう存在しない日常だからね。みんないつも楽しそうで、笑顔で…幸せそうだよね。』
「あれ?シリウスも結構視るのか?」
空が黒色から濃紺へと変化していく。
『そうだねぇ………』
シリウスはその空を…朝が来るのを待ち遠そうに眺めていた。
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