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第3章
98 授業⑥
しおりを挟む「ただいま~」
『アグニ!!』
談話室へと入るとすぐにシリウスが駆け寄ってきた。
「うお!何?どうした?」
受け止める姿勢をしつつシーラに理由を伺うと、シーラは優雅にソファに寝そべりながら言った。
「今日1日あなたがいなかったから不貞腐れてるのよ」
「え…昨日から家にいなかったのシリウスの方だろ?」
シリウスは俺が学院から帰ってきた日に家にいなかった。そして今朝もまだ帰ってきてなかった。なのでもちろんシリウスのいない間にカールが家に来て、俺もコルネリウスの家に行っていた。
『またどっか連れてこうと思ってたのに~!!!』
まじかよ!あっぶね!!!!!
先週と同じことさせられるところだったのか!
あっぶねぇ!コルネリウスまじサンキュー!!
シーラが大きくため息をついて言った。
「ほんと自分のことを棚にあげるのが得意ね…。それで?アグニは今日はどうだったの?」
「楽しかったよ!!!あ、そういえば学院に鍛冶場ができるんだ!鍛治に使う道具はファレストさんのところで買うとして、椅子とか机とかも買いたいんだけど…どこか良いお店知らない?」
シーラが少し考えてから答えた。
「あるわ。じゃあアグニ、デザインの要望を教えてちょうだい。それを書いて手紙を出しておくから。」
「まじで!?助かる!ありがとう!!」
・・・
「ははっ汚い色だな!まるでゴミのようだ!」
「ん?……あ。」
いつも通り食堂でみんなと昼食を食べていると急に頭上から罵倒に振りかかってきた。後ろを振り返るとブガラン公国の王子エベルがいた。
丁寧な挨拶をしないとまたこの前みたいに面倒なことになると思い、俺は食べる手を止めて立ち上がり礼をした。
「ブガラン公国王子殿下にご挨拶申し」
「聞こえてないのか??汚いと言っている!」
俺まだ喋ってる……って、え?
もしかして俺なんか匂う?
どこか制服汚れてる?
俺は手早く自分の体を見渡すが特に汚い部分はなかった。意味がわからず返事を返さないでいるとエベルは俺の髪の毛をぐっと掴んだ。
「なんだお前?もしかして言われたことがないのか?こんな真っ黒の髪色…みんな汚いと思ってるぞ?知らなかったのか?なぁ!!!!」
エベルが手下のように後ろに付いている2人に同意を求めた。後ろの2人は汚きたながるような素振りをしつつ嫌らしく笑った。
「ここまで真っ黒だと……エベル様、この者の先祖は帝国民ではないんじゃないですか?」
「よくこの学院にその見た目で入ろうと思えたなぁ!」
え、黒髪って・・・
そんなに蔑まれる対象なの??
確かにこの学院でも俺のような真っ黒の髪はいない。辛くても焦茶色くらいまでだ。そして確かに俺は少し前まで「非帝国民」とされていたレイやレベッカと同じ真っ黒の髪だ。
黒の一族は創世記の頃からずっと孤立していた。つまりある意味、元々の形を保っているってことだ。ならば元々はみんなも黒の髪だったはずでは……
あれ?
じゃあなんで黒髪以外がいるんだろう??
「おい聞いてるのか!!!黒髪!!!!」
「え、あ、はい!!」
意識が遠くにいってて目の前の人を見てなかった。なんだかとても怒っているように見える。何かあったんだろうか。
「~~!!!! コルネリウス!お前もこの色を汚らわしく思うよなぁ?!!」
間違いなく俺は話を聞いていなかったらしい。逆境したエベルは俺の隣にいるコルネリウスに同意を求めた。
あ!こいつ、ずるい!!
ずるいぞそれは!
伯爵家のコルネリウスは公国の王子であるエベルの意見を否定できない。同意するしかない。しかしコルネリウスはすっと立ち上がり優雅に腰を折って言った。
『エベル王子殿下にご挨拶申し上げます。……困りましたね。実は私、もう少し自分の髪色が暗ければと思っておりますので。私ごときが天使の血筋と近しい色を持つなど…とても恐れ多くて。』
コルネリウスは見事な金色の髪を触りながら言う。
『けれどもしエベル様のおっしゃる通りに黒髪は汚く金の髪は神聖なものであり、髪色だけで人が判断されるならば私の遇され方も変わってしまうのでないかと、恐ろしいばかりです……』
コルネリウスがわざと悲しそうにそう告げた。エベルは目を見開いたまま黙った。エベルの理屈だとこの場で1番立場が上なのはコルネリウスになってしまう。
『ははは!!確かにその通りならば王族もコルネリウスには敬称を付けないといけないな!』
食堂の入り口から響く声の方を見るとシャルルとアルベルトが立っていた。第4学年の授業が終わったのだろう。2人の後ろから次々に他の第4学年の生徒も入ってきた。
エベルは大きく舌打ちをして俺を睨み返した。
「……くだらない!!こうもバカばかりだと話にならん!!!つまらん行くぞ!!!」
「「 あ、……はい! 」」
エベルと手下2人はシャルルらが入ってきた入り口とは別の出入り口から急いで去っていった。シャルルとアルベルトはそのまま俺とコルネリウスのところへやってきた。
「じゃあこれから俺はコルネリウス様って呼ぶべきなのか?シャルル」
アルベルトが意地悪そうな顔をして言う。コルネリウスはさっきまでの優雅さはなくなり、慌てながら言った。
『ちょっ!アルベルト様!冗談でもやめてください!』
『けどさっきのエベルの理屈ならそうなるぞ~』
『シャルル様も冷やかさないでください!!』
シャルルとアルベルトの後ろにいた女子学生が俺に気遣うように話しかけてきた。
「アグニ大丈夫?どうか気を悪くしないでね」
あ、女子文学研究会にいた人!!
年下だと思ったら4学年だったのか!
「あ、はい!!大丈夫です!お気遣いありがとうございます!」
するとその第4学年の女子を皮切りに女子文学研究会で見かけた女子たちが口々に俺に励ましの言葉をかけた。
声をかけてくれるのは嬉しいけど……
つまり黒髪はやっぱそういう対象ってことなのか
彼女らの行動に男3人は驚きの表情で見ていた。
『おいおいアグニ。お前いつの間に他学年の女子生徒と仲良くなったんだ?』
シャルルがなかなかの強さで俺の腕をどついた。痛い。
「この前女子文学研究会にお邪魔したんだよ。だから……」
「なんでどうしていつ?!!」
アルベルトがずいっと近づいて聞いてきた。俺はバルバラの方を向いて答えた。
「バルバラに連れてってもらったんだよ。ありがとな、バルバラ!」
少し遠くの方で他の女子らと食事をしていたバルバラは急に自分が話しかけられたことに驚いたのか、急いで立ち上がって礼をした。シャルルが直接バルバラに問いかけた。
『バルバラ…クレルモンだったか?帝国全土に店舗を展開している「ホテル・クレルモン」の創業者家系か?』
「ああ!僕の王宮の近くにもあるよ!ねぇ?!」
アルベルトも遠くにいるバルバラに話しかけ始めた。バルバラは恐縮したように何度も頭を下げた。
「は、はい!「ホテル・クレルモン」オーナー、カラー・クレルモンの娘でございます!」
へぇ!
バルバラの家ってホテル経営してたのか!
初めて知った!そうだったんだ~!
コルネリウスがバルバラを優しく見ながら言った。
『我が家もよく彼女のホテルを利用します。内装も接客も食事も…どれも一流でとても良いホテルですよね。』
バルバラは顔を赤く染めて下を向いた。
「あ、ありがとう…ございます……」
「ちょっとシャルル様?急に声をかけられては驚きますわ。アグニ、あなたもよ!そんな大声で令嬢を呼びかけてはいけません。」
先ほどの第4学年の女子生徒が俺たちに注意をした。シャルルは頭をかきながらバラバラに向かって言った。
『あぁそうだな。クレルモンよ、失礼した。私もそのホテルを利用したことがあってな。今度また泊まらせてもらおう』
「あ……ありがとうございます!!!!」
コルネリウスが食堂の前にある時計を見ながら言った。
『第4学年の皆さま、そろそろ食事を始めませんと授業に間に合いませんよ。』
「おおほんとだ!急ごう!!」
『あぁまたなアグニ!』
「アグニ、また女子文学研究会にいらしてね。」
アルベルトとシャルルに続いて第4学年の生徒らが離れていった。それを見送ってからコルネリウスが笑顔で言った。
『さ、僕たちも早く食べよう!』
「おう!」
・・・・・・
「「「「 で…………きた~!!! 」」」」
1週間後、4週目4の日
学院に作っていた鍛冶場が完成した。マッハ部長を始め、技術発展研究会のみんなに協力してもらってやっと完成したのだ。
「マッハ部長…みんな…ほんとありがとう!!!!!」
俺はみんなに向かって深く頭を下げるとマッハ部長が笑顔で肩を叩いてきた。
「よかったよかった!小屋を学院に建てるのは私たちにもとても良い経験になった!なぁ、みんな!」
建築好きの数名が笑顔で頷いてくれる。
「ほんと…ありがとうございます!俺、皆さんの作って欲しい剣とか…まぁ剣以外でも何か要望があればいっぱい作ります!」
みんなから歓声が上がった。
「それは嬉しいな!アグニがどういうものを作るのかも見てみたい!じゃあみんな、研究室に戻って話し合いをしようではないか!」
「「「「 は~い!!! 」」」」
・・・
技術発展研究会の皆の「作ってもらいたいものリスト」を見ながら俺はクルトの馬車を待っていた。まだ4の日だが今日は特別に帰って、先週シーラに頼んでいた机や椅子を持ってくるつもりだ。
『何をしているのですか?』
「おおう!!!」
誰もいないと思っていたがいつのまにかシルヴィアがいた。驚きのあまり持っていたリストを落としてしまった。
「びっくりした~!今から一回帰って机とか椅子とか持ってくるんだよ。あ、ありがと…。」
シルヴィアが落としたリストを拾ってくれたので礼を言って手を出すが…シルヴィアはそれを見つめたまま質問してきた。
『なんです?これ。』
「あぁ…俺に作って欲しいものリスト!技術発展研究会のみんなに俺の鍛冶場を作ってもらったんだ。だからそのお返しにみんなの欲しいものを作ろうと思って。」
『……なるほど。こういうことをするから好かれるのでしょうね。』
「え?」
シルヴィアはリストを俺に差し出しながら真顔で言った。
『あなたは人の輪の中に入り込むのがとても上手ですね。きっとあなたのその飾らない振舞い方が物珍しいのでしょう。』
ん?ちょっと言い方にトゲがあるな。
貴族らしくないから人ウケしてるってこと?
………いや、まぁそれ事実だな!!!
「ははっ間違いない!ところでシルヴィアはどうしたの?帰るの?明日は?」
俺はすぐに肯定しシルヴィアがここにいる理由を聞いた。シルヴィアはピクリと眉を動かしたが無表情のまま答えた。
『今週はこれで帰ります。』
「へぇ~なんで?用事?」
『私があなたに理由を言う必要はありますか?』
「ないっす!!!!」
俺は急いで首を横に振るとシルヴィアは眉を寄せて機嫌悪そうな顔をした。
おおう……
生理的に無理そうな顔されてる…
ちょっともう黙っとこう。
その後すぐに金の装飾がされた馬車が門の方からやってくるのが見えた。シルヴィアの馬車だ。
馬車が止まり、2人いる御者のうちの片方が急いで馬車の扉を開けた。シルヴィアはそのまま馬車の中へと入っていき……そうなところで一度立ち止まった。
『………ごきげんよう。』
「え?!!あ、うん。じゃあな……」
まさか挨拶されるとは思っておらず、曖昧な返し方をしてしまった。
……優しい……子だよな?
俺は去っていく馬車をなんとなく、ずっと見続けた。
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