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第3章
94 同級生との週末①
しおりを挟む5の日のお話し合いの時間、俺が少し遅れて談話室へ行くとコルネリウスやカールらが大きな輪になって喋っていた。
俺に気づいたコルネリウスが大きくこちらに手を振った。
『アグニ!ちょうどよかった!』
「おう。どうしたんだ?こんな集まって。」
『アグニ、週末の予定は?』
「なんもないけど…」
『じゃあ良ければ僕の家に来ないか?屋敷でガーデンパーティーをやろうと思ってるんだ。』
「ガーデンパーティー??」
なにそのめちゃくちゃお洒落な響き!
初めて聞いたんだけど
コルネリウスがパーティー慣れしていない俺を気遣って情報を付け加えてくれた。
『ランチを屋敷の庭で食べて、喋って、交流を深める…みたいな感じだよ。どうかな?少人数の集まりだからそこまで気張らなくていいし、同級生の多くは来るよ。』
みんながコルネリウスから貰ったと思われる招待状を持っていた。俺はもちろん大丈夫なので了承した。
「もちろん行くよ!凄い楽しみだ!」
『よかった!じゃあこれ、招待状。』
緑の高級そうな紙に銀色の文字で書かれた招待状には俺の名前と招待者の名前(その場ではコルネリウス)、そして場所と時間が書かれていた。
『当日は私服で良いからね!』
「おお~助かる!わかった!」
コルネリウスが数名の女子に呼ばれて遠くへ去ると、入れ替わりでカールが来て小声で言った。
「アグニ、普通の私服じゃだめだからな。」
「え?!そうなの?!!」
たった今私服でいいって言われたのに?!
カールはやっぱわかってなかったか~と言わんばかりのため息を吐いた。
「お前が寮内で着てる服じゃだめだぞ?」
「まじで?!!」
外出用の服はセシルのお店で買ってあったが部屋着とか寝巻きとかは以前の私服を使っていた。そして寮に帰った後、夜に暇な時とかはよくカールと遊んでいる。なので俺の私服を1番よく見ているのはカールだろう。
「あとランチの邪魔にならないような手土産が必要だ。……明日ガーデンパーティーの前に一緒に買うか??」
「ぜひお願いします!なんなら服装チェックもしてくれない?」
俺の言葉にカールはぴたりと止まり、俺にゆっくり確認をした。
「……ということは……アグニの家に行っていいってことか?」
「え?あ、めんどくさい?」
「何言ってんだよ!全然だよ!喜んで!!!」
お、おう?よかった。
……凄い乗り気だな?
明日家に来てもらう時間を決め、そのままみんなでお昼ご飯を食べた。
そして放課後、技術発展研究会での作業で、小屋の土台部分が作り終わった。来週からはいよいよ建物作りになる。マッハ部長らと作業工程を確認して、その日の研究会は終わった。
そして先週と同じようにセシルと馬車に乗り、俺も公爵邸へと帰っていった。
・・・・・・
「カール~!!!」
公爵邸本邸の前にカールは待ち合わせ時間ちょうどにやってきた。馬車を降りたカールは大きな花束とお洒落な真四角の箱を持っていた。
「あれ?それどしたの?」
「アグニ、まず招いてくれてありがとう。これは宰相閣下とシーラ様への手土産だ。」
「招いてくれてありがとう」は挨拶の定型文だ。俺が「ようこそいらっしゃいました」的なことを言い損ねたからカールも軽めの挨拶をしたのだろう。そして従者ではなく、貴族であるカールが直接お土産を持つというのは、相手方に大変敬意を払っていることを示している。
「わざわざありがとう!じゃまず公爵の部屋行く?」
俺の提案にカールは勢いよく首を横に振った。
「いやいや行かねぇよ?!!今日お会いする約束してないんだから!これは人を介して渡してもらうんだよ!」
「あ、そうなの?じゃこれ公爵に届けといてくれる?」
俺は公爵邸本邸にいる執事にカールのお土産を預けた後、俺もカールの馬車に乗せてもらって別邸まで一緒に行った。
・・・
「まぁ……可愛い坊やね?」
「はぅ!!あ、うっ!お…て、天使の血筋様……!!」
別邸の扉を開けて一番最初に飛び込んできたのは2階の廊下にいたシーラだった。吹き抜けの玄関なので2階の廊下はよく見える。たぶんついさっき起きたのだろう。絹のローブを金糸の装飾がされた布で緩く巻いていた。緩く巻いているせいで胸元が大きく広がり、光沢のある美しい肌が目に入ってきた。
家でのシーラはいつもこんな格好なのでもう俺は気にしてなかった。が、お客さんの前でする格好ではないことはわかる。
「シーラ!今日友達来るって言ったじゃんよ~」
シーラに不満を言うと、カールは身体強化でもしてるんじゃないかってくらい重い一撃を俺の脇腹に食らわせた。
「ぐふっ!!!!……おい!カール??!」
「アグニやめろ!お姿を拝見してしまったこちらに非があるんだ!!それにご褒美ならまだしも、迷惑なわけないだろう!」
シーラは廊下の手すりに肘をついて、妖艶な笑みで俺らを見下ろしてきた。
「その可愛い子、お名前はなぁに?」
カールは体勢を変えぬままはっきりした声で挨拶をした。
「はっ!カール・ブラウンと申します!本日、アグニとともにリシュアール伯爵家のガーデンパーティーに参加するため、アグニに服装のアドバイスをと思い、こちらに参りました…!」
シーラは肘をついたまま楽しそうに笑った。
「あら、私もアグニの服選びたいわ。ご一緒していいかしら?」
「え?シーラも?」
「もちろん!!!!喜んで!!!!」
・・・
「2人とも気を付けていってらっしゃいね」
「夕食までには帰るから~!」
「貴重なお時間をともに過ごせたこと心から感謝申し上げます!お、お邪魔しました!」
「ふふっ。お花綺麗だったわ。またいらしてね?」
「は、はい!!!!!」
「じゃ行ってきま~す!」
カールとシーラに選んでもらった服を着て、俺らは公爵邸を出た。コルネリウスへの手土産はカールの商会が運営するお店で買おうという話になり、そちらへ馬車で移動することになった。
「カール…お前シーラに気使いすぎだろ……」
カールはシーラの意見に全て「そうですね!素晴らしい!!」と同意した。俺がそのことを指摘するとカールは心外だと言わんばかりに大きく目を見開いた。
「何を言ってんだ!シーラ様の服の選択は素晴らしかった!さすが社交界の華…洋服のチョイスも一流だった!!」
「はいはい…わかったよ…。」
「あとでコルネリウスに伝えてやろう。俺はシーラ様と紅茶をご一緒したって!」
「わ~かったよ!!よかったですねぇぇ!!」
・・・
カールの商会はハーロー洋服店と同じ並びにあった。つまり一流店の並びだ。
そしてそこに2店舗分の面積のお店があった。扉は貴族用と庶民用の2つ。貴族用は大理石を使い重厚に、庶民用は煉瓦造りで可愛らしくしていた。どちらのお客さんを大切にしていることを感じる。
カールはいつもは裏から入るらしいが今日は俺も一緒なので前から入店するようだ。馬車から降りるとすぐに貴族用の扉の中から数人出てきた。馬車から降りた貴族を無事に店内まで案内するためらしい。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ。…カール様、おかえりなさいませ。」
カールは片手を上げながらスタスタと進んでいった。
「お疲れ様。お客様だ。丁寧にもてなしてくれ。」
「「 はっ。かしこまりました! 」」
中は重厚感のある赤い色合いの部屋で、蓄芸石をふんだんに使っていて明るかった。黒い制服を着た適齢の女性と男性の店員がお辞儀をして話しかけてきた。
「お客様いらっしゃいませ。カール様、本日旦那様も店内にいらっしゃいますが…お伝えして参りましょうか?」
「父上が?……すぐに呼んできてくれ。父上に、是非紹介したい人がいると伝えてくれるか?」
「かしこまりました。」
女性の店員が奥に入っていったのを見届けて俺はカールと店内を歩いた。雑貨を中心に芸石や芸石用の装飾品、高級仕様の日用品なども色々売られていた。
「カール!」
暫くすると奥から茶髪に茶目の紳士がやってきた。イケオジで、一瞬でカールのお父さんだとわかった。カールはすぐに俺とその紳士の間に立って俺のことを紹介した。
「父上、同じ学年に編入したアグニです。アグニ、私の父のダグラス・ブラウン子爵だ。」
カールの父はもう十分に俺のことを知っているのだろう。すぐに俺に手を差し出してきた。「手を出した」ということは、俺を対等な立場で見ているという意思表示になる。
「アグニ殿、初めてお目にかかる。カールの父、ダグラス・ブラウンだ。もちろん君のことは知っているよ。息子がとてもお世話になっているようだね。ありがとう。」
「あ、いえ!こちらこそいつも息子さんにはお世話になってます!アグニと申します!よろしくお願いします!」
俺の挨拶にカールのお父さんは深く頷いた。
「学院はどうだ?慣れたかい?」
「はい!息子さんをはじめ、同級生も先輩もみんなよくしてくれてるので楽しいです!」
カールは自慢するように俺のことを伝えた。
「アグニは博識ですし、飾らない振る舞いでみんなの輪に入るのはすぐでしたよ。それに噂以上に武芸が得意なようです。」
「私の優秀な部下の1人が、シリアドネ公国の武術大会で君を見ていてね。彼から熱い手紙がきたよ、君の勇姿が素晴らしかったというね。けれど報告以上のようだね?」
「はい、父上。だってあのコルネリウスがアグニを絶賛してましたもん」
カールの言葉を聞いた子爵は驚いた顔をして俺を見た。
「あのコルネリウス殿が?」
「はい。以前コルネリウスは『アグニに追いついてみせる』と口にしていました。」
すんげぇな!
よくそんなちょっとの会話覚えてるな
記憶力どうなってんだろまじで。
カールの言葉で子爵は何かを決断したような顔をした。そしてニコリと笑い話しかけてきた。
「アグニ殿はとても優秀なようだ。あぁ、すまない。手土産を選ぶのだったね?私も一緒に考えさせてもらってもいいかい?」
「あ、はい!!是非ご相談させてください!!」
「ああ。カール、お前は何か決めたのか?」
「いいえまだです。僕もここで選ぼうと思ってます。」
「そうか。じゃあ3人で一緒に選ぼうか。」
・・・
それからはカールのお父さんと学院でのことや生活のことなんかを話しながら一緒に手土産を考えた。手土産は俺は紅茶の茶葉セット、カールはルームフレグランスを選んだ。リシュアール伯爵家がよく買う商品らしいのでそれを持っていこうということになった。
そして商会の紋が大きく描かれた袋に入れてもらい、俺とカールは再度馬車に乗った。馬車が出るまでカールのお父さんは見送りをしてくれた。
「アグニ殿、これからもカールのことをよろしくな。是非また来店してくれ。」
「あ、はい!手土産選んでいただいてありがとうございます!」
「ああ。カールも気をつけて、失礼のないようにな」
「はい。では、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
カールのお父さんは見えなくなるまでずっと見送ってくれた。
服よし、手土産よし!
さぁ、初めてのガーデンパーティー楽しむぞ!!!
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