97 / 174
第3章
90 初めての週末
しおりを挟む学院に俺の鍛冶場が作られることになった。
広大な敷地を誇る第1学院の最北端に小屋を建てる。小さな雑木林がすぐ隣にあり、そこなら作業音がうるさくても寮棟や校舎の方にまでは聞こえないだろうとのことだ。
とりあえず設計や建設が好きな技術発展研究会の上級生らが小屋の見取り図を作ってくれるらしいので、俺はありがたくお願いすることにした。そして設計図ができ次第、研究会の他のみんなにも協力してもらって小屋を建てていくらしい。今から物凄く楽しみだ!
そして研究会での話し合いが終わり、学院を出る時間になった。
「あれ?アグニじゃない!セシルは?ここで待ち合わせしてるの?」
校舎入口近くでセシルを待っていたら赤茶髪に緑目の女の子がやってきた。
「バルバラ!うん、今セシル来るの待ってる。バルバラも帰るの?」
「ええ。基本的に毎週帰るようにしてるわ。ねぇ、この本セシルに渡しておいてくれる?私もう馬車が来てるから行かなくちゃいけないの。」
そう言ってバルバラは装飾の綺麗な本を俺に手渡した。
「うんいいよ。これなんの本なの?」
俺のなんとなく聞いた質問にバルバラは答えにくそうな表情をした。
「えっと…恋愛小説よ。女子文学研究会の次の題材で…」
「へぇーそうなんだ。」
恋愛小説か。俺一度も読んだことないな
昔の家にあったの全部専門書だったし…
せっかくだからどんな感じか知りたいな
「バルバラ、俺もセシルの後に読んでいい?」
俺のお願いにバルバラは目を見開いて戸惑った様子を見せた。
「え…でも…恋愛ものよ?女の子が主役だし…あまり男性は好まないと思うのだけど…」
「俺今まで恋愛小説読んだことないんだよ。だからよくわかんねぇけど経験として読んでみたいんだけど…だめかな?」
俺が遠慮がちに聞き開けすとバルバラはぷるぷると首を横に振った。
「いいえ!全然構わないわよ!興味を持ってくれるのは純粋に嬉しいし…。じゃあセシルが読み終わったらそのまま借りて?」
「おう!ありがとう!」
「では、良い週末を。」
「良い週末を~」
バルバラがいなくなった数分後にセシルが来たので迎えにきてくれていたクルトの馬車に乗り、まずはハーロー洋服店へと向かった。そこでセシルを降ろし、男爵と少し会話を交わしてから俺も公爵邸へと帰っていった。
『おかえり!』
「ただいま~!!!」
「おかえりなさい、アグニ。」
うわ~!5日しか経ってないのに随分長く会ってなかった気がする!シリウスは大きく開けた窓に腰を掛け、シーラは優雅にソファに寝ころんで葡萄酒を飲んでいた。いつも通りの配置だ。
『学院はどうだったかい?』
「楽しい!初めて学ぶことも多いし、同じ学年の子があんなに何人もいる状況も初めてだし…何もかもが新鮮だ!」
「ふふっ良い笑顔ね。よかった。安心したわ。」
シーラが心から慈しむような美しい笑顔をみせた。そしてシリウスがこちらに歩み寄りながら聞いてきた。
『週末の予定は?入れてない?』
「おう!何もない!!」
するとシリウスは天使のような笑顔で恐ろしい事を言った。
『じゃあ暇だね?ハイセン村に行こっか!』
「……え?ハイセン村?あの、エール公国の…洪水が起きて、小麦植えた…あのハイセン村?」
『うん。』
「はぁ?!いや無理だろ?!」
エール公国のハイセン村は帝都から馬車で1週間程度はかかる。だからこそ洪水が起きてすぐ軍が来られずに大変だったわけだ。
「俺、週末2日しかないんだぞ?!」
俺の叫びを全て無視してシリウスはシーラに笑顔を見せた。
『今夜から出てくるね。』
「せっかくアグニが帰ってきたのに?私の相手は誰がするの?」
『じゃあシーラも一緒に行くかい?』
「行かないわよ。」
『7の日の夕食前には帰るからさ。ね?』
「………。」
シーラはふてくされたような顔でシリウスを無視した。シリウスは仕方なさそうに弱い笑顔をしてため息を吐き、俺に向き直った。
『夕ご飯食べてお風呂入ったらすぐ帝都を出るからね』
「ねぇ俺の話聞いてるぅぅ??!!!」
シリウスは白金の髪を後ろで結びながら綺麗に笑った。
『身体強化と風の芸をずっと使って直線距離で行ったら大丈夫だよ。』
「ほんとに?!馬車で一週間かかる場所を?!一日で!?」
『荷物は剣だけにしてね。じゃ、準備しといて!』
・・・
あの後すぐお風呂に入り、公爵も含めて4人で夕ご飯を食べた。辛うじてこの時に学院でのことを公爵に報告できた。そして夕食会場からそのまま公爵邸の裏門へと向かった。
『行ってくるね。』
フォード公国の民族衣装を着ているシリウスが2人に笑顔で別れを告げた。公爵はクックッと笑いながら片手をあげた。
『君の突飛な行動はいつも通りだが…アグニはせっかくの週末だったのになぁ。シリウス、毎週は控えてやってくれ。』
『毎週はしないよ。大丈夫大丈夫。』
「アグニ、芸素切れに気を付けてちょうだいね?」
「シーラ…公爵…行きたくないよ…」
『じゃあ、行ってきます!』
「『「 いってらっしゃーい 」』」
「あぁぁぁぁぁぁ………」
・・・・・・
貴族街になっている帝都東部から一番近い東の門から出て、そこからエール公国まで一気に北へと向かう。東から出てそのまま北に…言葉通り直線で行ったとこにハイセン村があるらしい。
直線上にある山や丘、川や崖なんかも全部ぶっとばじて進んでいった。
休憩は一度、それも数分だけ。
全然体力回復してないのに芸素回復薬を飲み終わったらすぐ、『もう平気だね。行くよ!』と言われて先に行かれてしまった。
そして相変わらずあいつは凄かった。
シリウスは呼吸の乱れもなく、芸素回復薬も飲まず、俺の全力のスピードでずっと前を走り続けていた。
くっそ…!!こいつ…!!!!
全然敵わないじゃねぇかよ!!!!
久しぶりに感じるこの圧倒的な差。
同学年でも年上でも軍人相手でも芸獣でも、ここまで差を感じるのはこいつしかいない。
あぁぁぁ!!!!くっそ腹立つ!!!
もう意地だ!!ぜってえ負けない!!!
俺は変わらない表情で気持ちよさそうに飛んでいくシリウスの背中を見続けながら必死で後を追いかけた。
・・・
「はぁ、はぁ、はぁ…うぅ…っ!…うぇぇ…」
『あーあ吐いちゃったね。けどちゃんと追いついたねぇ、偉いよアグニ。ほら、ちゃんと着いたよ。』
俺らは予定よりも早くハイセン村へと到着した。ぎりぎり日が傾く前だ。一年前、洪水が起きた当初の絶望的な村の荒廃ぶりはすでになく、目の前には青々とした小麦畑が広がっていた。
・・・けど正直今はそれどころではない。
「胃が…全身倦怠感がひどい…自分の脈がうるさいし…芸素もほとんどない…」
『じゃあ治癒かけてあげるよ。』
「え…?シリウス…芸素足りるの?疲れてないのか…?」
『芸素は問題ないよ。疲れてるは疲れてるけど。』
「ま、まじか………」
一回も芸素回復薬飲んでないのに
まだ治癒できるのかよ……。
まじでどうなってんだあいつの芸素量
「え…アグニさん…?あぁ!て、天使の血筋様?!!」
俺とシリウスはしゃがんだまま声の方向を見ると……
「あ、村長…久しぶり…もしよかったら家で休ませてくれませんか……?」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる