再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第3章

90 初めての週末

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学院に俺の鍛冶場が作られることになった。

広大な敷地を誇る第1学院の最北端に小屋を建てる。小さな雑木林がすぐ隣にあり、そこなら作業音がうるさくても寮棟や校舎の方にまでは聞こえないだろうとのことだ。

とりあえず設計や建設が好きな技術発展研究会の上級生らが小屋の見取り図を作ってくれるらしいので、俺はありがたくお願いすることにした。そして設計図ができ次第、研究会の他のみんなにも協力してもらって小屋を建てていくらしい。今から物凄く楽しみだ!

そして研究会での話し合いが終わり、学院を出る時間になった。

「あれ?アグニじゃない!セシルは?ここで待ち合わせしてるの?」

校舎入口近くでセシルを待っていたら赤茶髪に緑目の女の子がやってきた。

「バルバラ!うん、今セシル来るの待ってる。バルバラも帰るの?」

「ええ。基本的に毎週帰るようにしてるわ。ねぇ、この本セシルに渡しておいてくれる?私もう馬車が来てるから行かなくちゃいけないの。」

そう言ってバルバラは装飾の綺麗な本を俺に手渡した。

「うんいいよ。これなんの本なの?」

俺のなんとなく聞いた質問にバルバラは答えにくそうな表情をした。

「えっと…恋愛小説よ。女子文学研究会の次の題材で…」

「へぇーそうなんだ。」


   恋愛小説か。俺一度も読んだことないな
   昔の家にあったの全部専門書だったし…
   せっかくだからどんな感じか知りたいな


「バルバラ、俺もセシルの後に読んでいい?」

俺のお願いにバルバラは目を見開いて戸惑った様子を見せた。

「え…でも…恋愛ものよ?女の子が主役だし…あまり男性は好まないと思うのだけど…」

「俺今まで恋愛小説読んだことないんだよ。だからよくわかんねぇけど経験として読んでみたいんだけど…だめかな?」

俺が遠慮がちに聞き開けすとバルバラはぷるぷると首を横に振った。

「いいえ!全然構わないわよ!興味を持ってくれるのは純粋に嬉しいし…。じゃあセシルが読み終わったらそのまま借りて?」

「おう!ありがとう!」

「では、良い週末を。」

「良い週末を~」

バルバラがいなくなった数分後にセシルが来たので迎えにきてくれていたクルトの馬車に乗り、まずはハーロー洋服店へと向かった。そこでセシルを降ろし、男爵と少し会話を交わしてから俺も公爵邸へと帰っていった。


『おかえり!』

「ただいま~!!!」

「おかえりなさい、アグニ。」

うわ~!5日しか経ってないのに随分長く会ってなかった気がする!シリウスは大きく開けた窓に腰を掛け、シーラは優雅にソファに寝ころんで葡萄酒を飲んでいた。いつも通りの配置だ。

『学院はどうだったかい?』

「楽しい!初めて学ぶことも多いし、同じ学年の子があんなに何人もいる状況も初めてだし…何もかもが新鮮だ!」

「ふふっ良い笑顔ね。よかった。安心したわ。」

シーラが心から慈しむような美しい笑顔をみせた。そしてシリウスがこちらに歩み寄りながら聞いてきた。

『週末の予定は?入れてない?』

「おう!何もない!!」

するとシリウスは天使のような笑顔で恐ろしい事を言った。

『じゃあ暇だね?ハイセン村に行こっか!』

「……え?ハイセン村?あの、エール公国の…洪水が起きて、小麦植えた…あのハイセン村?」

『うん。』

「はぁ?!いや無理だろ?!」

エール公国のハイセン村は帝都から馬車で1週間程度はかかる。だからこそ洪水が起きてすぐ軍が来られずに大変だったわけだ。

「俺、週末2日しかないんだぞ?!」

俺の叫びを全て無視してシリウスはシーラに笑顔を見せた。

『今夜から出てくるね。』

「せっかくアグニが帰ってきたのに?私の相手は誰がするの?」

『じゃあシーラも一緒に行くかい?』

「行かないわよ。」

『7の日の夕食前には帰るからさ。ね?』

「………。」

シーラはふてくされたような顔でシリウスを無視した。シリウスは仕方なさそうに弱い笑顔をしてため息を吐き、俺に向き直った。

『夕ご飯食べてお風呂入ったらすぐ帝都を出るからね』

「ねぇ俺の話聞いてるぅぅ??!!!」

シリウスは白金の髪を後ろで結びながら綺麗に笑った。

『身体強化と風の芸をずっと使って直線距離で行ったら大丈夫だよ。』

「ほんとに?!馬車で一週間かかる場所を?!一日で!?」

『荷物は剣だけにしてね。じゃ、準備しといて!』




・・・





あの後すぐお風呂に入り、公爵も含めて4人で夕ご飯を食べた。辛うじてこの時に学院でのことを公爵に報告できた。そして夕食会場からそのまま公爵邸の裏門へと向かった。

『行ってくるね。』

フォード公国の民族衣装を着ているシリウスが2人に笑顔で別れを告げた。公爵はクックッと笑いながら片手をあげた。

『君の突飛な行動はいつも通りだが…アグニはせっかくの週末だったのになぁ。シリウス、毎週は控えてやってくれ。』

『毎週はしないよ。大丈夫大丈夫。』

「アグニ、芸素切れに気を付けてちょうだいね?」

「シーラ…公爵…行きたくないよ…」

『じゃあ、行ってきます!』

「『「 いってらっしゃーい 」』」

「あぁぁぁぁぁぁ………」





・・・・・・





貴族街になっている帝都東部から一番近い東の門から出て、そこからエール公国まで一気に北へと向かう。東から出てそのまま北に…言葉通り直線で行ったとこにハイセン村があるらしい。

直線上にある山や丘、川や崖なんかも全部ぶっとばじて進んでいった。

休憩は一度、それも数分だけ。
全然体力回復してないのに芸素回復薬を飲み終わったらすぐ、『もう平気だね。行くよ!』と言われて先に行かれてしまった。

そして相変わらずあいつは凄かった。

シリウスは呼吸の乱れもなく、芸素回復薬も飲まず、俺の全力のスピードでずっと前を走り続けていた。


   くっそ…!!こいつ…!!!!
   全然敵わないじゃねぇかよ!!!!


久しぶりに感じるこの圧倒的な差。
同学年でも年上でも軍人相手でも芸獣でも、ここまで差を感じるのはこいつしかいない。


   あぁぁぁ!!!!くっそ腹立つ!!!
   もう意地だ!!ぜってえ負けない!!!


俺は変わらない表情で気持ちよさそうに飛んでいくシリウスの背中を見続けながら必死で後を追いかけた。




・・・






「はぁ、はぁ、はぁ…うぅ…っ!…うぇぇ…」

『あーあ吐いちゃったね。けどちゃんと追いついたねぇ、偉いよアグニ。ほら、ちゃんと着いたよ。』

俺らは予定よりも早くハイセン村へと到着した。ぎりぎり日が傾く前だ。一年前、洪水が起きた当初の絶望的な村の荒廃ぶりはすでになく、目の前には青々とした小麦畑が広がっていた。

・・・けど正直今はそれどころではない。

「胃が…全身倦怠感がひどい…自分の脈がうるさいし…芸素もほとんどない…」

『じゃあ治癒かけてあげるよ。』

「え…?シリウス…芸素足りるの?疲れてないのか…?」

『芸素は問題ないよ。疲れてるは疲れてるけど。』

「ま、まじか………」


   一回も芸素回復薬飲んでないのに
   まだ治癒できるのかよ……。
   まじでどうなってんだあいつの芸素量


「え…アグニさん…?あぁ!て、天使の血筋様?!!」

俺とシリウスはしゃがんだまま声の方向を見ると……

「あ、村長…久しぶり…もしよかったら家で休ませてくれませんか……?」







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