再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

文字の大きさ
上 下
94 / 174
第3章

87 授業②

しおりを挟む


以前シリウスに言われたことを思い出す。あ、そういえばシリウス元気かな。

(『いいかい?学院での芸の授業は絶対にシルヴィア以上の力を出してはだめだよ』)

理由は自分でも理解できた。実際気を付けようと思っていた。けど、芸をした後に気づいた。


   シルヴィアって…どれくらい芸できるんだ……?


目の前には黒焦げになった疑芸獣と屋外演習場の地面。先生も生徒も固まって俺を見ている。


   ああああああ!!!!!
   やらかしたかもしれん!!!


俺はダッシュでみんなの元に戻り大声を出した。

「えぇ~!びっくり~!あんな火が出るなんてな~!わ~!驚いた~!偶然~!」

コルネリウスが呆然としながらも俺に聞いた。

『ア、アグニ…君、元気だね……?』


   はっ!そうだ!ナイス!コルネリウス!
   たまたま今日は元気だったってことにすれば…


「な~!たぶんなんかちょっと調子がよかったんだわ!いつもあんなんじゃないぞ?!」

『違う違う、そうじゃなくて……芸素切れで倒れたりしないんだね…』


   ・・・・・はっ!!!そっちね?!
   そうか!まず倒れるべきだったのか!!


時すでに遅し

なぜだろう、みんなの目が初めましての時よりも怖く感じる。しかし正直なところ、こんなんで倒れてたら以前行ったアリの芸獣の洞窟ですでに俺は死んでるだろう。

「はっ!!疑芸獣はどうなった?!!!」

バノガー先生が我に返り急いで黒くなった疑芸獣へと駆け寄った。

「おぉ…よかった。黒焦げだが、壊れてはいない…」


   よ、よかったぁ!!!!


『バノガー先生、私にも練習させてください。』

凛とした声でそう言ったのシルヴィアだった。バノガー先生が少し驚きながらシルヴィアに頷く。

「あ、ああ。もちろん構わないが……」

『ありがとうございます。』

疑芸獣の走らせる場所を変え、再度蓄芸石をはめ直して稼働させる。シルヴィアはじっと疑芸獣を見た後、片手を前に出した。

ビシャァァァァァァ!

シルヴィアは俺と同程度の水の芸を出した。疑芸獣は転がって動かなくなった。

「『「「  おおぉ~!!!  」」』」

皆がシルヴィアに賛辞の拍手を送る。


   よ、よかったっ!!!!!
   シルヴィア、ナイス!
   いやぁ、まじでよかった!!
   あっぶね~!!!!


「さすがだ!シルヴィア殿!いやぁ、さすがだ!!」

『……………ありがとうございます。』

褒めるバノガー先生に無表情で綺麗に一礼し、シルヴィアは皆の元へ戻った。シルヴィアの顔がいつも以上に白い。無理をしたのかもしれない。しかし皆はシルヴィアを褒めるばかりで気遣わなかった。

「さぁ!じゃあ他も!どんどん挑戦してみろ~!」

バノガー先生の言葉で他の生徒らもチャレンジし始めた。コルネリウスは、時間はかかったが一人で動きを止めることができた。その他の生徒は誰も一人では動きを止められなかった。





・・・・・・






その後、また制服に着替えて生物の授業を受けた。内容は様々な場所の植生や芸獣を学ぶという授業だ。また薬草やキノコなど、山での必要な知識も学ぶ。これは主に軍の遠征において必要な知識なので軍部志望用の知識ではあるが…年の功だろうか、もうすでに知っていることが多かった。これはテストで良い点数が取れそうだ。

そして技術構造という授業がある。

主に芸石のことを学ぶ。つまり、ある1人は授業を受けなくても構わないのだ。

「えっ。……シルヴィアは受けないのか?」

教室から去るシルヴィアも見てコルネリウスに問うた。

『ああ。シルヴィア様は天使の血筋だろ?ご自身で芸石を使わないからこの授業を受ける意味がないだろ?』

俺以外の天使の血筋は芸石を使えない。芸石を身につけても使えない。つまりシルヴィアにはあまり縁のない授業なのだ。

「え?でも受けてもいいんだろ?」

『1年の最初の授業で先生がシルヴィア様に聞いたんだよ。この授業は皆がいつも身につける種類の芸石のことを学ぶから暇になるかもしれない、出なくても構わないって』

「そしたら?」

『わかりましたって言って退出なされた。まぁ実際、時間を潰すことになるだろうからね』

俺の後ろに座ってたカールが前のめりで言った。

「先生もシルヴィア様がいたら遠慮して例年通りの授業ができないかもしれないし…よかったんじゃないか?」

「………そっか。」






・・・・・・







放課後、研究会の時間だ!

まず手始めに今日はコルネリウスに武芸研究会に連れて行ってもらった。いつも屋外演習場を使っているらしく、そこには4学年の生徒が揃っていた。

『おぉ!アグニ!!』

「あ!シャルル!アルベルト!」

金の髪を一つに結んだ緑目と、青髪青目の男が俺に手を振る。

『シャルル様、アルベルト様』

コルネリウスがわざとらしく礼を取る。それを見て二人は笑った。

「なんだお前。急にどうした?」

『いやぁ今日ね、食堂でアグニがエベル王子に礼としろと指摘されましてね。もしお二人がそう思っていたら、と思いまして…』

コルネリウスの言葉に二人が眉を寄せて俺を見た。

『なんだ?どういうことだ?何があった?』

「いや、別に何もないよ。」

『コルネリウス。』

『急にエベル王子がアグニの所へ来られて、アグニにだけ礼をしろとご指摘なさったんです。』

コルネリウスの言葉に二人がより深く眉間を寄せた。

「で、アグニは従ったのだな?」

「まぁ……さすがに……」

向こうは王子だし公爵位。俺はシャルト公爵の後ろ盾を得ているがただの平民。こんなところで波風を立てたいとも思わない。

シャルルがため息をついた。

『まぁ、そうするしかないよな…俺らがそこにいればよかったんだが…』

「別にいいよ。あの程度なら全然いくらでもやるよ」

『「『 は??? 』」』

俺の台詞に3人ともポカンとした。コルネリウスが遠慮がちに言う。

『え、アグニ…あんなこと毎回されたら、やだろ?シャルル様とアルベルト様に協力してもらった方がいいって!』

『そうだぞアグニ。学院は社交場ではない、平等な場だ。それに王族だからと言って他者のプライドを傷つけていいってことは断じてない。』


   ん?話がかみ合わないな。


「俺…別になんとも思ってないけど。プライドとかも特に傷ついてないし…」

3人が衝撃を受けたような顔をしている。


   あれ?俺がおかしいのかな?
   あの行為で俺は傷つくべきだったのか?
   まぁ正直毎回はめんどいなとは思うけど。


3人が怪訝そうな顔で俺を見つめる。俺の態度が変わらないのを見てシャルルが諦めたように俺に言った。

『……それならそれでいいけど…もし嫌なことがあったら教えてくれ。推薦状を書いた者として、アグニの学院生活を守る義務があるからな。』

「俺にも教えてくれよ?」

アルベルトも心配してくれた。俺的には全く問題なかったが、心配してくれるのは純粋に嬉しかった。

「……ああ、ありがとう!何かあったら相談するよ!」

『いや、信用できんな。コルネリウス頼んだぞ。』

『かしこまりました!』

「おおぉい!!!」

4人で一通り笑った後、シャルルが今日の授業のことを聞いてきた。

『そういえばアグニ、今日が初授業だっただろ?どうだった?なんの授業があったんだ?』

「楽しかったよ!今日は数学、ダンス、芸、生物、技術構造…だな。」

『えっ芸の授業……。ど、どうしたんだ…?』

その一言にコルネリウスが素早く反応した。

『どうしたって…シャルル様はアグニの芸を知っているんですか?』

『ええ?!な、なにが?!』

『もしやアルベルト様も知ってらっしゃるんですか?』

「え、いや。まぁ……」


   知ってるって、何を?
   やっぱ今日なんかやらかしてたのか?


「知ってるって何を?」

コルネリウスが信じられないとばかりに叫んだ。

『アグニがあれほどまでに芸が得意ってことだよ!!いや得意ってレベルじゃないじゃないか!あんなの…あり得るのか?!』

シャルルがあきれた顔で俺に聞いた。

『アグニ……何をやらかしたんだ?』

「え?!いや、俺はベツニナニモ……」

『あそこ焦げてるの、全部アグニがやったんですよ!』

コルネリウスが向こうを指さす。そこには確かにさっき俺が焦がした地面が広がっている。

「えっ。これ…アグニがやったの?!なんでこんなんなってんのかなとは思ってたけど、今日?!」

『そうですよ!!しかも随分と余裕そうでしたよ!どういうことですか?!』

シャルルが申し訳なさそうにコルネリウスに言った。

『コルネリウス、こいつは最初からこうだ。俺以上に武芸ができる。』

『え?!芸でシャルル様を超す?!武術でも?!』

『あ、ミスった。』

「ちょっシャルル~!!!」

俺がシャルルを責めるがそれよりも前にコルネリウスが俺の肩をぐっと掴んで向き直らせられた。

『アグニ、正直に答えてくれ。芸はどこまでできる?』

「えっ………」

シャルルとアルベルトを見ると、二人とも仕方なさそうにうなずいた。答えても大丈夫ってことだろう。

「き、基本的な芸は……できるよ」

解名かいなは?』

「解名はまだ練習中だけど…一応少しは…」

『アグニはどの系統の芸ができるの?』

「えっと……炎とか、水とか…」

『氷は?』

「できる。」

『風は?』

「…できる。」

『雷も?』

「……できる。」

3人は深くため息を吐いた。

『つまり…全系統ってことだね?』

「………え??」

全系統?
今言った部類には属さない、治癒だってできるし身体強化もできる。笛を使ってげいだってできるし、最近は色鷹しきたかだってできるようになった。今コルネリウスが言ったものはほんの一系統でしかないが………

『え?何?他にもできるの?!どういうこと??』

コルネリウスが俺の顔目前まで近づいて問い詰めてきた。余計なことを自ら言う必要もないな。黙っとこう。

「ああぁぁぁ!いや?!全然?!そんな感じだよ!」

『………そう。』

なんとか離れてくれたコルネリウスにほっとしていると、コルネリウスが真剣な顔をして俺に宣言した。

『アグニ、俺はお前を超すからな。負けないぞ。』


   ……よかった。こいつの素直な反応だ。
   初めて俺に、本気の感情を見せてくれた


俺を上でもなく下でもなく、まっすぐに見つめてきてくれたことが嬉しくて、思わず微笑んでしまった。

「あぁ、じゃあ俺も…負けないよ。」

シャルルが俺と肩を組み反対側にアルベルトも立った。

『おーう。俺はアグニに教わる気でいるぞ~。ほら、練習の相手しろ~』

「俺も俺も!」

『ちょっ!先輩方は後ですよ!まずは同級生とです!』

俺の学院生活はとても充実しそうだ。
明日もきっと…もっと楽しい。


やっと、自分が人の間にいる気がして

少しだけ泣きそうになった。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...