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第3章
87 授業②
しおりを挟む以前シリウスに言われたことを思い出す。あ、そういえばシリウス元気かな。
(『いいかい?学院での芸の授業は絶対にシルヴィア以上の力を出してはだめだよ』)
理由は自分でも理解できた。実際気を付けようと思っていた。けど、芸をした後に気づいた。
シルヴィアって…どれくらい芸できるんだ……?
目の前には黒焦げになった疑芸獣と屋外演習場の地面。先生も生徒も固まって俺を見ている。
ああああああ!!!!!
やらかしたかもしれん!!!
俺はダッシュでみんなの元に戻り大声を出した。
「えぇ~!びっくり~!あんな火が出るなんてな~!わ~!驚いた~!偶然~!」
コルネリウスが呆然としながらも俺に聞いた。
『ア、アグニ…君、元気だね……?』
はっ!そうだ!ナイス!コルネリウス!
たまたま今日は元気だったってことにすれば…
「な~!たぶんなんかちょっと調子がよかったんだわ!いつもあんなんじゃないぞ?!」
『違う違う、そうじゃなくて……芸素切れで倒れたりしないんだね…』
・・・・・はっ!!!そっちね?!
そうか!まず倒れるべきだったのか!!
時すでに遅し
なぜだろう、みんなの目が初めましての時よりも怖く感じる。しかし正直なところ、こんなんで倒れてたら以前行ったアリの芸獣の洞窟ですでに俺は死んでるだろう。
「はっ!!疑芸獣はどうなった?!!!」
バノガー先生が我に返り急いで黒くなった疑芸獣へと駆け寄った。
「おぉ…よかった。黒焦げだが、壊れてはいない…」
よ、よかったぁ!!!!
『バノガー先生、私にも練習させてください。』
凛とした声でそう言ったのシルヴィアだった。バノガー先生が少し驚きながらシルヴィアに頷く。
「あ、ああ。もちろん構わないが……」
『ありがとうございます。』
疑芸獣の走らせる場所を変え、再度蓄芸石をはめ直して稼働させる。シルヴィアはじっと疑芸獣を見た後、片手を前に出した。
ビシャァァァァァァ!
シルヴィアは俺と同程度の水の芸を出した。疑芸獣は転がって動かなくなった。
「『「「 おおぉ~!!! 」」』」
皆がシルヴィアに賛辞の拍手を送る。
よ、よかったっ!!!!!
シルヴィア、ナイス!
いやぁ、まじでよかった!!
あっぶね~!!!!
「さすがだ!シルヴィア殿!いやぁ、さすがだ!!」
『……………ありがとうございます。』
褒めるバノガー先生に無表情で綺麗に一礼し、シルヴィアは皆の元へ戻った。シルヴィアの顔がいつも以上に白い。無理をしたのかもしれない。しかし皆はシルヴィアを褒めるばかりで気遣わなかった。
「さぁ!じゃあ他も!どんどん挑戦してみろ~!」
バノガー先生の言葉で他の生徒らもチャレンジし始めた。コルネリウスは、時間はかかったが一人で動きを止めることができた。その他の生徒は誰も一人では動きを止められなかった。
・・・・・・
その後、また制服に着替えて生物の授業を受けた。内容は様々な場所の植生や芸獣を学ぶという授業だ。また薬草やキノコなど、山での必要な知識も学ぶ。これは主に軍の遠征において必要な知識なので軍部志望用の知識ではあるが…年の功だろうか、もうすでに知っていることが多かった。これはテストで良い点数が取れそうだ。
そして技術構造という授業がある。
主に芸石のことを学ぶ。つまり、ある1人は授業を受けなくても構わないのだ。
「えっ。……シルヴィアは受けないのか?」
教室から去るシルヴィアも見てコルネリウスに問うた。
『ああ。シルヴィア様は天使の血筋だろ?ご自身で芸石を使わないからこの授業を受ける意味がないだろ?』
俺以外の天使の血筋は芸石を使えない。芸石を身につけても使えない。つまりシルヴィアにはあまり縁のない授業なのだ。
「え?でも受けてもいいんだろ?」
『1年の最初の授業で先生がシルヴィア様に聞いたんだよ。この授業は皆がいつも身につける種類の芸石のことを学ぶから暇になるかもしれない、出なくても構わないって』
「そしたら?」
『わかりましたって言って退出なされた。まぁ実際、時間を潰すことになるだろうからね』
俺の後ろに座ってたカールが前のめりで言った。
「先生もシルヴィア様がいたら遠慮して例年通りの授業ができないかもしれないし…よかったんじゃないか?」
「………そっか。」
・・・・・・
放課後、研究会の時間だ!
まず手始めに今日はコルネリウスに武芸研究会に連れて行ってもらった。いつも屋外演習場を使っているらしく、そこには4学年の生徒が揃っていた。
『おぉ!アグニ!!』
「あ!シャルル!アルベルト!」
金の髪を一つに結んだ緑目と、青髪青目の男が俺に手を振る。
『シャルル様、アルベルト様』
コルネリウスがわざとらしく礼を取る。それを見て二人は笑った。
「なんだお前。急にどうした?」
『いやぁ今日ね、食堂でアグニがエベル王子に礼としろと指摘されましてね。もしお二人がそう思っていたら、と思いまして…』
コルネリウスの言葉に二人が眉を寄せて俺を見た。
『なんだ?どういうことだ?何があった?』
「いや、別に何もないよ。」
『コルネリウス。』
『急にエベル王子がアグニの所へ来られて、アグニにだけ礼をしろとご指摘なさったんです。』
コルネリウスの言葉に二人がより深く眉間を寄せた。
「で、アグニは従ったのだな?」
「まぁ……さすがに……」
向こうは王子だし公爵位。俺はシャルト公爵の後ろ盾を得ているがただの平民。こんなところで波風を立てたいとも思わない。
シャルルがため息をついた。
『まぁ、そうするしかないよな…俺らがそこにいればよかったんだが…』
「別にいいよ。あの程度なら全然いくらでもやるよ」
『「『 は??? 』」』
俺の台詞に3人ともポカンとした。コルネリウスが遠慮がちに言う。
『え、アグニ…あんなこと毎回されたら、やだろ?シャルル様とアルベルト様に協力してもらった方がいいって!』
『そうだぞアグニ。学院は社交場ではない、平等な場だ。それに王族だからと言って他者のプライドを傷つけていいってことは断じてない。』
ん?話がかみ合わないな。
「俺…別になんとも思ってないけど。プライドとかも特に傷ついてないし…」
3人が衝撃を受けたような顔をしている。
あれ?俺がおかしいのかな?
あの行為で俺は傷つくべきだったのか?
まぁ正直毎回はめんどいなとは思うけど。
3人が怪訝そうな顔で俺を見つめる。俺の態度が変わらないのを見てシャルルが諦めたように俺に言った。
『……それならそれでいいけど…もし嫌なことがあったら教えてくれ。推薦状を書いた者として、アグニの学院生活を守る義務があるからな。』
「俺にも教えてくれよ?」
アルベルトも心配してくれた。俺的には全く問題なかったが、心配してくれるのは純粋に嬉しかった。
「……ああ、ありがとう!何かあったら相談するよ!」
『いや、信用できんな。コルネリウス頼んだぞ。』
『かしこまりました!』
「おおぉい!!!」
4人で一通り笑った後、シャルルが今日の授業のことを聞いてきた。
『そういえばアグニ、今日が初授業だっただろ?どうだった?なんの授業があったんだ?』
「楽しかったよ!今日は数学、ダンス、芸、生物、技術構造…だな。」
『えっ芸の授業……。ど、どうしたんだ…?』
その一言にコルネリウスが素早く反応した。
『どうしたって…シャルル様はアグニの芸を知っているんですか?』
『ええ?!な、なにが?!』
『もしやアルベルト様も知ってらっしゃるんですか?』
「え、いや。まぁ……」
知ってるって、何を?
やっぱ今日なんかやらかしてたのか?
「知ってるって何を?」
コルネリウスが信じられないとばかりに叫んだ。
『アグニがあれほどまでに芸が得意ってことだよ!!いや得意ってレベルじゃないじゃないか!あんなの…あり得るのか?!』
シャルルがあきれた顔で俺に聞いた。
『アグニ……何をやらかしたんだ?』
「え?!いや、俺はベツニナニモ……」
『あそこ焦げてるの、全部アグニがやったんですよ!』
コルネリウスが向こうを指さす。そこには確かにさっき俺が焦がした地面が広がっている。
「えっ。これ…アグニがやったの?!なんでこんなんなってんのかなとは思ってたけど、今日?!」
『そうですよ!!しかも随分と余裕そうでしたよ!どういうことですか?!』
シャルルが申し訳なさそうにコルネリウスに言った。
『コルネリウス、こいつは最初からこうだ。俺以上に武芸ができる。』
『え?!芸でシャルル様を超す?!武術でも?!』
『あ、ミスった。』
「ちょっシャルル~!!!」
俺がシャルルを責めるがそれよりも前にコルネリウスが俺の肩をぐっと掴んで向き直らせられた。
『アグニ、正直に答えてくれ。芸はどこまでできる?』
「えっ………」
シャルルとアルベルトを見ると、二人とも仕方なさそうにうなずいた。答えても大丈夫ってことだろう。
「き、基本的な芸は……できるよ」
『解名は?』
「解名はまだ練習中だけど…一応少しは…」
『アグニはどの系統の芸ができるの?』
「えっと……炎とか、水とか…」
『氷は?』
「できる。」
『風は?』
「…できる。」
『雷も?』
「……できる。」
3人は深くため息を吐いた。
『つまり…全系統ってことだね?』
「………え??」
全系統?
今言った部類には属さない、治癒だってできるし身体強化もできる。笛を使って藝だってできるし、最近は色鷹だってできるようになった。今コルネリウスが言ったものはほんの一系統でしかないが………
『え?何?他にもできるの?!どういうこと??』
コルネリウスが俺の顔目前まで近づいて問い詰めてきた。余計なことを自ら言う必要もないな。黙っとこう。
「ああぁぁぁ!いや?!全然?!そんな感じだよ!」
『………そう。』
なんとか離れてくれたコルネリウスにほっとしていると、コルネリウスが真剣な顔をして俺に宣言した。
『アグニ、俺はお前を超すからな。負けないぞ。』
……よかった。こいつの素直な反応だ。
初めて俺に、本気の感情を見せてくれた
俺を上でもなく下でもなく、まっすぐに見つめてきてくれたことが嬉しくて、思わず微笑んでしまった。
「あぁ、じゃあ俺も…負けないよ。」
シャルルが俺と肩を組み反対側にアルベルトも立った。
『おーう。俺はアグニに教わる気でいるぞ~。ほら、練習の相手しろ~』
「俺も俺も!」
『ちょっ!先輩方は後ですよ!まずは同級生とです!』
俺の学院生活はとても充実しそうだ。
明日もきっと…もっと楽しい。
やっと、自分が人の間にいる気がして
少しだけ泣きそうになった。
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