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第3章
83 休業後、初の場として
しおりを挟む「シャルル!!お、アルベルトも!久しぶり!!」
振り返るとあの2人が立っていた。この前フォード公国で会って以来なのでなんだかんだ半年ぶりくらいだ。
『よぉアグニ、受かったんだな!よかったよ!』
「アグニ入学おめでとう!今度寮で祝わせてくれよ」
シャルルとアルベルトは俺の頭をこねくり回して合格を祝ってくれた。しばらくして2人がセシルとコルネリウスの存在に目を向けた。
『よぉコルネリウス、さすがに行動が早いな。君は…コルネリウスと同じ学年の子だよな?』
コルネリウスは優雅に一礼して答えた。
『天空の神々のお導きに感謝申し上げます。シャルル様、アルベルト様お久しぶりです!アグニと知り合いだなんて知りませんでしたよ。』
コルネリウスに続いてセシルもスカートを持ち上げて軽く会釈をした。
「セシル・ハーローと申します。新年度もどうぞよろしくお願い申し上げます。アグニとは遠縁にあたります。」
セシルの言葉を聞いてアルベルトが少し驚いた顔をした。
「アグニの遠縁?へぇ…!」
『ああ、そうだ、セシルだったな。ハーロー男爵には我が国もとても世話になっている。是非男爵にもご挨拶申し上げたいが、どちらにいらっしゃるかわかるか?…って、え??アグニの遠縁?!』
シャルルが驚いた顔で俺とセシルの顔を見るので説明を加えた。
「そうなんだよ。セシルとは親戚なんだ。今日は一緒にここ来たしな。」
『そうなのか?!……これはますますハーロー男爵とお話しせねば…』
アルベルトがコルネリウスの方を見て聞いてきた。
「ところでアグニ、コルネリウスとはいつ知り合ったんだ?」
「さっきコルネリウスから声をかけてくれたんだよ。逆に2人は知り合いなの?」
「もちろん。コルネリウスとはよく武芸の練習をするしな。そうじゃなくてもコルネリウスは有名だぞ?」
ん?有名なの?なんで??
俺の疑問が顔に出ていたのだろう、シャルルが答えてくれた。
『コルネリウスの父君はリシュアール伯爵家の当主で現帝都軍総司令官だ。この帝国の軍部の頂点におられる。そのリシュアール家の三男坊でしかもこの外見、天使の血筋をも超える武芸の達者さ……。アグニ、気づいてないのか?周りの女子の目線。』
「え??目線?」
俺は周りを見渡すと、、、
確かに女性しかいない!!
いつの間に囲まれた……?!!!
俺はずっと芸獣と戦ってきた。周りの変化には山賊以来結構気をつけていた。にもかかわらず、、、俺が気づかなかっただと?!
結構なショックに愕然としているとアルベルトが笑いながら言った。
「天使の血筋のシャルル、互角に有名なコルネリウス、俺もフォード公国の皇太子だし、アグニは謎の編入生だ。この集団を気に留めない者がいたら、逆にその者は貴族には向かないよ。セシル殿…大丈夫か?」
セシルが半分冷ややかな目で答えた。
「…………お気遣い、感謝します。」
すると後ろから先ほどと同じ声がした。
「あ!そこのお前…!!!!」
あ、さっきの…えっと…
あぁ、そうだ。ブガラン公国の王子!
睨んでいるそのブガラン公国の王子を見てシャルルとアルベルトが聞いてきた。
『あれは…3年のエベルだな。どうしたんだ?』
「アグニ、エベル殿とも知り合いなのか?」
「あ、いや…なんかさっきミスって……」
「『 え?? 』」
先ほどの流れを説明しようと思ったが、すごい勢いでブガランの王子がやってきて俺の目の前に立った。
「貴様!先ほどの振る舞いは我がブガラン公国を愚弄するのと同じだ!!お前はブガランと敵対する意思があるのだな?!」
えっ、はぁ!?まじで言ってます!?
シャルルが顔を顰めつつ仲裁する。
『なんだ、どうしたエベル。そんなにも取り乱した姿を一国の王子が取っては国の品位に関わるぞ?アグニ、何をしたんだ?』
「え、あぁ…俺が間違えて小さい子だと思って接しちゃったことですかね…?」
その一言でアルベルトの口角が最大限に上がった。後ろからセシルの「ふっ……」って声も聞こえた。しかしブガラン公国の王子は勢いを止めず大声で話す。
「シャルル殿!!この私、ブガラン公国の王子エベルに対して!この男が!屈辱的な言葉を投げかけたのだ!!私を知らなかったからでは済まされない問題だ!!!」
『落ち着けエベル。彼は今年初めてこの学院のことを知るんだ。最初で最後の間違いだと思って許してやれ。』
「あの~、先ほどは本当にすいませんでした…」
こうなったら申し訳なさそうな顔をする!
仕方ない!周りの同情票を買おう!!!!
ブガランの王子、エベルは俺の態度にニヤリとして、わざとらしく自分のネクタイを床に落とす。
「ほら、拾え!…って、おい!!!」
俺は咄嗟の反射で、拾えと言われる前にギリ空中でキャッチしてしまった…
あぁぁぁぁ!!!!!しまった!!
親切ポイント稼ごうと思っただけなのに!
落ちてから拾わなきゃいけないやつか!
たぶん落としたものを命令して俺に拾わせて、屈辱を返したかったんだろう。しかし俺はそこまで頭が回らなかった。もし意図に気づいてたらちゃんと床に落ちてから拾ったのに!!!さっきからずっとミスってばっかだ。
シャルルが噴き出してしまった。アルベルトは満面の笑顔になってしまったし…コルネリウスとセシルはなんか違うとこ見てる。俺は申し訳なさそうにエベルという名の王子にネクタイを返した。
「……すいません拾っちゃって…。あ、これ…どうぞ……」
「貴様~!!!!もう一度だ!!!」
エベルが再度ネクタイを落とすべく、大きく横に手を振り回したところ……
バシンッ!!
「誰だ?!!!!」
エベル王子の手にぶつかった人物は……
「あら?お遊戯の邪魔をしちゃったかしら?」
妖艶に微笑むシーラが立っていた。
スレンダータイプの濃紺のドレスには細かな宝石がたくさんついていた。そして金に光る絹のような髪はまさに圧巻の美しさで、この場の誰もを魅了させた。
一瞬だった。
さっきまで周りには女性しかいなかったのに、いつの間にか周りには紳士しかいなくなっていた。
そして紳士達は見ていた。事の始まりを。
そしてシーラの鎖骨下が若干赤みを帯びていることを。
(『シーラ様を敵に回したらもうおしまいよ。帝国中の権力者が敵になるわ。彼女は世界中にパトロンがいるって思いなさい。』)
いつかシュエリ―大公がそう言っていた。そして今この場に彼女の敵はいない。エベルは王子だがシーラは神の子孫である天使の血筋…
しかし周りの紳士やエベルが何か行動するよりも早く、どこからか現れた黒のタキシードを着た男がエベルの脇に立ち、深く頭を下げた。
「天使の血筋様、どうかご慈悲を・・・・」
「ふふっ…最初で最後と思って…許してあげるわ。」
「寛大なご処置に感謝申し上げます。天空の神々のお導きがまたございますように……行きますよエベル様!」
「なっ…!!ま、まて…あのお方の名は…!」
「いいから!!早く…!」
そうして従者らしき男に連れ去られ、エベル王子は去っていった。
「あれ?シーラ今日来ないって言ってなかったっけ?」
俺の言葉に周りにいた全ての人がぎょっとした顔で俺を見てきた。シャルルが大慌てで俺に言う。
『ばっばかアグニ!シーラ様にその態度…!』
「え???」
周りを見ると…コルネリウスにセシル、アルベルト、そして周りに立っている紳士らも皆礼を取る姿勢になっていた。シャルルは同じ天使の血筋だから関係は互角。しかしそれでもシーラに軽く腰を折ってから話し始めた。
『シーラ様、シャルル公国のシャルルと申します。今日、この夜にお会いでき大変幸福でございます。以前に我が国に足を運んでいただき、誠にありがとうございました。』
シーラは大人の色気を持つ笑顔で優雅に会釈した。
「シャルル、この前は急な訪れにも関わらず温かな歓迎、ありがとうございました。アルベルト、あなたとの会話も楽しかったわ。」
『シーラ様であれば我が国はいつでも歓迎です…!!』
「天空の神々のお導きに感謝申し上げます。フォード公国皇太子、アルベルトです。私のことを覚えていて下さったなんて…こんなにも嬉しいことはありません…!」
「ふふっありがと。皆さま、どうか楽にしてください」
その一言で周りの人たちは姿勢を元に戻した。
し、知らなかった・・・・・・
天使の血筋って
こんな丁寧な扱いを受けるのか……。
ここまで明確な差があるとは知らなかった。ここにいる人たちは皆、上流階級だ。にもかかわらず、彼らは天使の血筋の許可なく頭を上げなかった。
呆然としている俺にシーラが聞いてきた。
「アグニ、このお2人は?」
「えっああ、紹介するよ。コルネリウスとセシルだよ」
俺の説明にコルネリウスが慌てながら急いで言う。
『天使の神々の巡り合わせに感謝申し上げます。天使の血筋様、初めてご挨拶申し上げます。リシュアール侯爵家、コルネリウスです。第1学院ではアグニと同学年になります。』
「ああ、あなたがリシュアール伯爵の末の息子さん…100年に一度の武芸の天才にして美青年と噂の子ね?それにこんなに礼儀も正しいなんて……素敵な男性ね」
「あ、ありがとうございますっ!今後も精進します!」
「天空の神々のお導きに感謝申し上げます。…セシル・ハーローと申します。」
「あぁ、あなたが……アグニの親戚の子ね?アグニはとても良い子だわ。あなたと同じ血を継いでいるからかしら?」
「………ありがとうございます…!」
『……ところで、アグニとシーラ様は…なぜ…?』
シャルルが俺とシーラの関係を聞いてきた。シーラはふんわりと微笑んだ。
「アグニとは一緒に住んでいるの。もう彼は私の最愛の弟のような存在よ。」
「『「『「 ええ?!!!! 」』」』」
なぜか遠くの方からもびっくりした声が聞こえた。コルネリウスが目を大きく見開いて俺を見る。
『ア、アグニ……い、一緒に…住んでる…のか?』
「あーまー…………うん。」
『「『 まじか!!!! 』」』
シーラが俺の肩に手を置いてわざとらしく近づく。
「もう私、アグニが可愛くて仕方ないの。アグニ、何か困ったことがあれば何でも教えて頂戴ね?」
「え?あぁ、うん……」
周りの人全員が俺の事を凝視する。大変居づらくなった時、ワルツが流れ始めた。
「あ!セシル、踊ろっか。」
『「『 え?!今?! 』」』
シャルルとアルベルトとコルネリウスが同時に叫んだ。けど仕方ないじゃないか。そういえば今日まだ踊ってないって気づいたんだもん。セシルの父ちゃんとも約束しちゃったし。
「シーラ、踊ってきてもいい?」
「仕方ないわねぇ。じゃあ、私との練習の成果を見せてちょうだい」
『ええ?!シーラ様が直接ご指導なさったんですか?!』
シャルルはいちいち驚くし、アルベルトとコルネリウスも無言で俺に信じられないとでも言いたげな顔をしてくる。セシルがぽつりとつぶやいた。
「……アグニの踊り、みんな見る…。踊りにくい…」
すると、コルネリウスが深く深呼吸をして決闘を申し込むかのような顔でシーラに手を差し出した。
『シーラ様、どうか私と…一曲だけ、ご一緒していただけませんか?』
『あ、このやろっ!』
「なんだって?!」
隣でシャルルとアルベルトが騒ぐ。けれどもシーラは艶やかに微笑んでコルネリウスの手を取った。
「……そんな美しくない誘い方では次はないわよ。アグニの友達だから…特別に大目に見るわ」
『っ!!!あ、ありがとうございます!!!』
こうしてコルネリウスはシーラの休業後初のダンスの相手になったのだった。
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