89 / 174
第3章
82 新年度パーティ―
しおりを挟む「セシル、平気?」
「…うん。着いたの?」
「そうっぽい。」
柄にもなく少し緊張してる
この馬車から出たら、新しい世界が始まる
俺の緊張を感じたのか、セシルが緑の目でじっと俺を見つめた。
「大丈夫、緊張しなくても。…怖くないよ。」
「……そうだよね。うん、よし!じゃあ、行こうか!」
「うん……!!」
馬車の扉が開かれた。
聞こえてきたのは 無数の喋り声。そしてキラキラと輝く光、色、装飾。
うわぁ!!ここが会場ですか!!!!!
でっっっか!!!!!
場所は帝都の一等地。
近くには皇帝陛下の宮殿や、政治の場の宮廷、各国王が帝都で滞在する屋敷が並んでいる。そんな恐ろしい場所に広大な敷地を持つ第1学院。そして今日は第1学院が所有する最大のダンスホールにて、新年度パーティ―が催されている。
「アグニさん、行ってらっしゃい!」
「ありがとうクルト!」
クルトに送ってもらった礼をいい、セシルをエスコートしながらも周りをきょろつく。金色の装飾、柱や外壁に彫られた細かな模様、大きな窓、そして中から見える室内の暖かそうな光と輝き・・・
感動するには充分だった。
「……すげぇな。」
小さい声で俺が漏らすと、隣を歩くセシルがぼそっと言った。
「中、もっと綺麗……」
「ま、まじか…。」
「うぅぬっっわ…………」
なんとも情けないがこんな声になってしまう。
2階へと続く階段を上り(ここもめちゃくちゃ綺麗)、廊下を渡り(最初俺は廊下が会場だと思った)やっと中に入ると、本当に別世界だった。
色とりどりのドレスやタキシードを着た紳士や淑女、令息令嬢。芸石をふんだんに使ったシャンデリアの数々。天井に描かれた美しい絵。壁に彫られた彫刻や模様。
「これが……パーティ―ですか………」
「きれいでしょ…?」
「綺麗すぎるよ……」
全然デザインやセンスの無い俺でも、この場所は感動するしかなかった。もはや感嘆のため息しかでてこない。
「おい、きみ。どきたまえ?」
だめだ…ずっと上見ちゃうわ。
もういっそ寝っ転がっちゃだめかな?
「おい、そこの!きみ!どきたまえ!」
あ、でもセシルの父ちゃん探さなきゃだ。
あと公爵も探して挨拶しなきゃ…
「おい!聞こえないのか?おい!お前!」
「えっ、あ、なんですか?」
知らん人に肩を掴まれた。後ろを振り返ると俺より少し小さい少年が怒った顔で立っていた。
「お前には耳がないのか?!どけといっている!」
「え?」
辺りを見渡すが俺とセシルの両脇は空いている。道を塞いでないはずだけど・・・
「あぁ!真ん中通りたいタイプね!ごめんさい!今どきますね。」
まだ生まれて間もないのかな。
小さい子には優しくしないとね。
しかし俺のつい出ちゃった一言が気に障ったようだ。その少年はぷんすかぷんすかしている。
「なんだと?!…なんだと?!」
随分とボキャ貧だが図星だったようだ。俺の言葉で少し恥ずかしい思いをしたのかもしれない。ここは穏便に済まそう。
「ごめんな?家族とはぐれないようにするんだぞ?」
俺は丁寧に視線を合わせてそう言った。
「なんだと?!!!!!!」
「じゃあ、失礼して……セシル、行こうか」
「………ふふふふふふふ……うん。」
セシルが肩を揺らしていた。その様子が珍しいので理由を聞こうかと思ったところで、また別の誰かに話しかけられた。
『やぁ、さっきのは秀逸だったよ。』
後ろを振り返り、一瞬驚いた。
綺麗な金色の髪と、水色の瞳。白色と群青色のタキシードを着ていて、どっからどう見ても「貴公子」だった。
けれど・・・
『あぁ、驚いたよね。けど僕…』
「天使の血筋ではないな。」
絵に描いたように典型的な「天使の血筋」の外見だった。けどわかる。今まで見てきたシリウスやシーラ、公爵とはどこか違う。それに……わかるんだ。
俺の言葉に目を大きくした。
『…すごいな、最初からわかるなんて。よくわかったね。そう、僕は見た目はこんなだけど、天使の血筋ではないんだ。』
「ああ、だよな。じゃなくて、ですよね。あ、あとこんばんは。」
なんだかもう訳の分からない挨拶になってしまった。しかしその少年は綺麗な笑顔で俺に手を差し出してきた。
『こんばんは。君は……アグニ?』
「え??はい、そうですけど…なんで?」
俺の疑問に隣のセシルが答えてくれた。
「コルネリウス、良い夜ですね。アグニ、彼は…同じ学年の生徒。」
「え、あ、そうなの?」
その少年はにこやかにセシルに挨拶した。
『セシル、良い夜だね。あと素敵なドレスだね。とてもよく似合ってるよ。さすが、ハーロー家だね。』
「ありがとうございます…。コルネリウスもとても素敵なタキシードです。彼、アグニは…私の遠縁です。明日から同学年に編入します。」
セシルが饒舌だ!!けど…少し緊張してる?
『ああ、もちろん知っているよ。アグニ、僕はコルネリウス・リシュアールだ。明日からよろしく。』
「あ、はい!アグニと申します。明日からよろしくお願いします!」
是非今後の学生生活のためにも同学年とは仲良くしておきたい。俺は優雅さの欠片もない頭の下げ方をした。それを見てその少年は噴出したように笑った。
『ははっ、同い年なんだしそんな固くしないで。学院では基本みんな、名前に敬称を付けずに呼び合うんだ。だから僕の名前もそのままに呼んでほしい。』
「あ、じゃあ、うん。わかった…。」
コルネリウスという名の少年はそのまま笑顔で話し始めた。
『それにしてもさっきのは面白かったよ。君に絡んだあの方、誰だか知らないんだよね?』
「え?あの子有名なの?」
俺がセシルに質問すると答えてくれた。
「あれは…ブガラン公国の王子で…第1学院で一学年上…ふふっ。」
「えっ、うっそ・・・。」
やっべぇやっちまった。
年上だったのか!
しかも……当たり前だけど同じ学院か!
しかも王子だったとは!やっちまったな…
しかしコルネリウスは笑いながら答えた。
『ああいう性格の方だ。学年が違うから、今後は極力避けた方がいいかもね。アグニは意外と肝が据わってるんだなぁ。』
「え、今けっこう焦ってるけど…?」
『普通もっと焦るもんだよ!あははっ!』
そ、そうなのか・・・
肝の据わった人しか周りにいなかったからかな?
俺の感覚もずれちゃってるのかもしれない…
『それにみんな、最初僕に会った時は天使の血筋だと思って急いで挨拶をするんだ。けど君は、僕が違うってすぐわかったよね。どうして?』
「ああ~……たまたまだけど…周りに天使の血筋がいっぱいいるし……それになんか…違うなって…」
このニュアンスは正直伝えにくい。たぶん俺が天使の血筋だからこそ感じる違いだ。同族じゃないってことが、感覚的にわかってしまったのだ。
言葉を濁して伝えるとコルネリウスは面白そうな顔をして言葉を続けた。
『へぇ?すごいな…。詳しく…』
パッパランパッパッパー!!!!
「え、なに?」
大きな音に驚いているとコルネリウスが教えてくれた。
『新年度の挨拶だよ。学長の挨拶とその後に各学年の代表生の挨拶があるんだ。』
「へぇ~・・・」
前方の一段高いところにたくさんの大人が並んでいた。たぶん先生たちなんだろう。その前を30代後半くらいの男性が歩き、中央に立った。
コルネリウスが耳打ちで教えてくれた。
『あの方が第1学院学長のイルミン・フランンツィーン先生だ。フランンツィーン伯爵家当主の弟君で、4年ほど前から学長を務めてらっしゃる。』
「へぇ~~~」
コルネリウス、物知りだな。
わかんないことあったらこいつに聞こ。
「天空の神々、そして偉大なる皇帝陛下の御加護の元、またこうして次の年次を迎えることができました。・・・・」
って感じで進んでいった。特にこれといって面白いことはなかった。そしてセシルは眠そうである。その後、1学年の代表生から順番に挨拶を行っていった。
『あ、あれが僕らの学年の代表生だよ。』
コルネリウスの視線の先を追って前を見た。
そこには紫みのある艶やかな金の髪に、同じく少し紫がかった青い目の…本当に綺麗な女の子がいた。
あ、、、天使の血筋だ。
周りにいる人達はみんな食いつくようにその子を見ていた。しかし当の本人は、まったく、一切表情を変えることなく、淡々と挨拶を始めた。隣でコルネリウスがこそっと教えてくれた。
『彼女は学年唯一の天使の血筋で、帝都の北東にあるシルヴィア公国の姫君だ。』
なななんと!!姫!!!!!
んであの美貌?!えっぐ!
しかしコルネリウスが少し困った顔で言った。
『彼女は…あまり人付き合いを好まない。表情も変わらないし…その……まぁ、んー……同じ学年として、最低限の会話のみでいいかもしれない、かな…』
どうやらあまり人を好まないようですな。わかりました。最低限にしときましょ。不快な顔されたらやだもん。
「……わかった。気を付けとく。」
そしてシルヴィアという名の子の挨拶が終わり3年生の挨拶も終わった後、4学年の代表生に知り合いが現れた。
「あ、あれ?!シャルル?!」
あれシャルルじゃん!
え、うっそ。奇遇~!
俺の言葉にコルネリウスが驚いた様子で聞いてきた。
『え、アグニ。シャルル様のこと知ってるの?!』
「ああ、この前知り合って…友達になった。」
『えっ!そうなの?!』
「おう!」
すると、遠くで挨拶をしているシャルルと目が合った。シャルルがニヤリと笑うのが見えた。
なんだあいつ。
つーかよく俺が見えたな!
仕方ないので軽く手を振っといた。
とまぁ、こんな感じで挨拶が終わり、再びホールには音楽が流れ始めて自由に会話ができる時間になった。そしてさっき挨拶してた人の声が背後から聞こえた。
『よぉ、アグニ!元気してたか?』
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる