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第3章
82 新年度パーティ―
しおりを挟む「セシル、平気?」
「…うん。着いたの?」
「そうっぽい。」
柄にもなく少し緊張してる
この馬車から出たら、新しい世界が始まる
俺の緊張を感じたのか、セシルが緑の目でじっと俺を見つめた。
「大丈夫、緊張しなくても。…怖くないよ。」
「……そうだよね。うん、よし!じゃあ、行こうか!」
「うん……!!」
馬車の扉が開かれた。
聞こえてきたのは 無数の喋り声。そしてキラキラと輝く光、色、装飾。
うわぁ!!ここが会場ですか!!!!!
でっっっか!!!!!
場所は帝都の一等地。
近くには皇帝陛下の宮殿や、政治の場の宮廷、各国王が帝都で滞在する屋敷が並んでいる。そんな恐ろしい場所に広大な敷地を持つ第1学院。そして今日は第1学院が所有する最大のダンスホールにて、新年度パーティ―が催されている。
「アグニさん、行ってらっしゃい!」
「ありがとうクルト!」
クルトに送ってもらった礼をいい、セシルをエスコートしながらも周りをきょろつく。金色の装飾、柱や外壁に彫られた細かな模様、大きな窓、そして中から見える室内の暖かそうな光と輝き・・・
感動するには充分だった。
「……すげぇな。」
小さい声で俺が漏らすと、隣を歩くセシルがぼそっと言った。
「中、もっと綺麗……」
「ま、まじか…。」
「うぅぬっっわ…………」
なんとも情けないがこんな声になってしまう。
2階へと続く階段を上り(ここもめちゃくちゃ綺麗)、廊下を渡り(最初俺は廊下が会場だと思った)やっと中に入ると、本当に別世界だった。
色とりどりのドレスやタキシードを着た紳士や淑女、令息令嬢。芸石をふんだんに使ったシャンデリアの数々。天井に描かれた美しい絵。壁に彫られた彫刻や模様。
「これが……パーティ―ですか………」
「きれいでしょ…?」
「綺麗すぎるよ……」
全然デザインやセンスの無い俺でも、この場所は感動するしかなかった。もはや感嘆のため息しかでてこない。
「おい、きみ。どきたまえ?」
だめだ…ずっと上見ちゃうわ。
もういっそ寝っ転がっちゃだめかな?
「おい、そこの!きみ!どきたまえ!」
あ、でもセシルの父ちゃん探さなきゃだ。
あと公爵も探して挨拶しなきゃ…
「おい!聞こえないのか?おい!お前!」
「えっ、あ、なんですか?」
知らん人に肩を掴まれた。後ろを振り返ると俺より少し小さい少年が怒った顔で立っていた。
「お前には耳がないのか?!どけといっている!」
「え?」
辺りを見渡すが俺とセシルの両脇は空いている。道を塞いでないはずだけど・・・
「あぁ!真ん中通りたいタイプね!ごめんさい!今どきますね。」
まだ生まれて間もないのかな。
小さい子には優しくしないとね。
しかし俺のつい出ちゃった一言が気に障ったようだ。その少年はぷんすかぷんすかしている。
「なんだと?!…なんだと?!」
随分とボキャ貧だが図星だったようだ。俺の言葉で少し恥ずかしい思いをしたのかもしれない。ここは穏便に済まそう。
「ごめんな?家族とはぐれないようにするんだぞ?」
俺は丁寧に視線を合わせてそう言った。
「なんだと?!!!!!!」
「じゃあ、失礼して……セシル、行こうか」
「………ふふふふふふふ……うん。」
セシルが肩を揺らしていた。その様子が珍しいので理由を聞こうかと思ったところで、また別の誰かに話しかけられた。
『やぁ、さっきのは秀逸だったよ。』
後ろを振り返り、一瞬驚いた。
綺麗な金色の髪と、水色の瞳。白色と群青色のタキシードを着ていて、どっからどう見ても「貴公子」だった。
けれど・・・
『あぁ、驚いたよね。けど僕…』
「天使の血筋ではないな。」
絵に描いたように典型的な「天使の血筋」の外見だった。けどわかる。今まで見てきたシリウスやシーラ、公爵とはどこか違う。それに……わかるんだ。
俺の言葉に目を大きくした。
『…すごいな、最初からわかるなんて。よくわかったね。そう、僕は見た目はこんなだけど、天使の血筋ではないんだ。』
「ああ、だよな。じゃなくて、ですよね。あ、あとこんばんは。」
なんだかもう訳の分からない挨拶になってしまった。しかしその少年は綺麗な笑顔で俺に手を差し出してきた。
『こんばんは。君は……アグニ?』
「え??はい、そうですけど…なんで?」
俺の疑問に隣のセシルが答えてくれた。
「コルネリウス、良い夜ですね。アグニ、彼は…同じ学年の生徒。」
「え、あ、そうなの?」
その少年はにこやかにセシルに挨拶した。
『セシル、良い夜だね。あと素敵なドレスだね。とてもよく似合ってるよ。さすが、ハーロー家だね。』
「ありがとうございます…。コルネリウスもとても素敵なタキシードです。彼、アグニは…私の遠縁です。明日から同学年に編入します。」
セシルが饒舌だ!!けど…少し緊張してる?
『ああ、もちろん知っているよ。アグニ、僕はコルネリウス・リシュアールだ。明日からよろしく。』
「あ、はい!アグニと申します。明日からよろしくお願いします!」
是非今後の学生生活のためにも同学年とは仲良くしておきたい。俺は優雅さの欠片もない頭の下げ方をした。それを見てその少年は噴出したように笑った。
『ははっ、同い年なんだしそんな固くしないで。学院では基本みんな、名前に敬称を付けずに呼び合うんだ。だから僕の名前もそのままに呼んでほしい。』
「あ、じゃあ、うん。わかった…。」
コルネリウスという名の少年はそのまま笑顔で話し始めた。
『それにしてもさっきのは面白かったよ。君に絡んだあの方、誰だか知らないんだよね?』
「え?あの子有名なの?」
俺がセシルに質問すると答えてくれた。
「あれは…ブガラン公国の王子で…第1学院で一学年上…ふふっ。」
「えっ、うっそ・・・。」
やっべぇやっちまった。
年上だったのか!
しかも……当たり前だけど同じ学院か!
しかも王子だったとは!やっちまったな…
しかしコルネリウスは笑いながら答えた。
『ああいう性格の方だ。学年が違うから、今後は極力避けた方がいいかもね。アグニは意外と肝が据わってるんだなぁ。』
「え、今けっこう焦ってるけど…?」
『普通もっと焦るもんだよ!あははっ!』
そ、そうなのか・・・
肝の据わった人しか周りにいなかったからかな?
俺の感覚もずれちゃってるのかもしれない…
『それにみんな、最初僕に会った時は天使の血筋だと思って急いで挨拶をするんだ。けど君は、僕が違うってすぐわかったよね。どうして?』
「ああ~……たまたまだけど…周りに天使の血筋がいっぱいいるし……それになんか…違うなって…」
このニュアンスは正直伝えにくい。たぶん俺が天使の血筋だからこそ感じる違いだ。同族じゃないってことが、感覚的にわかってしまったのだ。
言葉を濁して伝えるとコルネリウスは面白そうな顔をして言葉を続けた。
『へぇ?すごいな…。詳しく…』
パッパランパッパッパー!!!!
「え、なに?」
大きな音に驚いているとコルネリウスが教えてくれた。
『新年度の挨拶だよ。学長の挨拶とその後に各学年の代表生の挨拶があるんだ。』
「へぇ~・・・」
前方の一段高いところにたくさんの大人が並んでいた。たぶん先生たちなんだろう。その前を30代後半くらいの男性が歩き、中央に立った。
コルネリウスが耳打ちで教えてくれた。
『あの方が第1学院学長のイルミン・フランンツィーン先生だ。フランンツィーン伯爵家当主の弟君で、4年ほど前から学長を務めてらっしゃる。』
「へぇ~~~」
コルネリウス、物知りだな。
わかんないことあったらこいつに聞こ。
「天空の神々、そして偉大なる皇帝陛下の御加護の元、またこうして次の年次を迎えることができました。・・・・」
って感じで進んでいった。特にこれといって面白いことはなかった。そしてセシルは眠そうである。その後、1学年の代表生から順番に挨拶を行っていった。
『あ、あれが僕らの学年の代表生だよ。』
コルネリウスの視線の先を追って前を見た。
そこには紫みのある艶やかな金の髪に、同じく少し紫がかった青い目の…本当に綺麗な女の子がいた。
あ、、、天使の血筋だ。
周りにいる人達はみんな食いつくようにその子を見ていた。しかし当の本人は、まったく、一切表情を変えることなく、淡々と挨拶を始めた。隣でコルネリウスがこそっと教えてくれた。
『彼女は学年唯一の天使の血筋で、帝都の北東にあるシルヴィア公国の姫君だ。』
なななんと!!姫!!!!!
んであの美貌?!えっぐ!
しかしコルネリウスが少し困った顔で言った。
『彼女は…あまり人付き合いを好まない。表情も変わらないし…その……まぁ、んー……同じ学年として、最低限の会話のみでいいかもしれない、かな…』
どうやらあまり人を好まないようですな。わかりました。最低限にしときましょ。不快な顔されたらやだもん。
「……わかった。気を付けとく。」
そしてシルヴィアという名の子の挨拶が終わり3年生の挨拶も終わった後、4学年の代表生に知り合いが現れた。
「あ、あれ?!シャルル?!」
あれシャルルじゃん!
え、うっそ。奇遇~!
俺の言葉にコルネリウスが驚いた様子で聞いてきた。
『え、アグニ。シャルル様のこと知ってるの?!』
「ああ、この前知り合って…友達になった。」
『えっ!そうなの?!』
「おう!」
すると、遠くで挨拶をしているシャルルと目が合った。シャルルがニヤリと笑うのが見えた。
なんだあいつ。
つーかよく俺が見えたな!
仕方ないので軽く手を振っといた。
とまぁ、こんな感じで挨拶が終わり、再びホールには音楽が流れ始めて自由に会話ができる時間になった。そしてさっき挨拶してた人の声が背後から聞こえた。
『よぉ、アグニ!元気してたか?』
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