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第2章
81 セシルの興味
しおりを挟む「………なにこれ。」
「これはシーラ様宛に届いたお見舞いの品々です!」
「この量が…? ま、まじで………?」
本邸での授業を終え、いつも通り別邸に帰ると入り口には文字通り「山のような」数のプレゼントが届いていた。
理由はこうだ。
シーラが前に手紙を送った人たち宛に、暫くパーティーなどには参加しないで休むという内容の手紙を書く→手紙をもらった人たちはシーラが病気なのだと勘違い→なぜかそれをみんなに広める→各家々が「こうしちゃおれん!」と見舞いという名のプレゼント合戦を始める→それが山となって別邸に届く←今ここ。
「これ全部どうすんだよ!!!!!!」
別邸の入り口は物まみれで2階に上がることすら困難だ。クルトが笑顔で言った。
「いや~今少しずつ中を開けて分類して2階に持っていってるんで、少しだけ辛抱してください!」
「え?クルト1人でやってるの?シーラとシリウスは?」
「シーラ様に任せると言われました!シリウスさんは荷物が届き始めたあたりから見てませんね……」
………あいつ逃げたな。
「今から俺も手伝うよ。」
「あ、いやいや!シーラ様に任されたんで、このまま1人でやらしてください!」
「……ほんとに平気?」
「はい!!!」
「わかった。じゃあ一応、何か困ったことあったらいつでも言ってな?」
「ありがとうございます!」
ってなことがあったりもしつつ………
緑咲く一週目に入った。
来週の6の日に新年度パーティーがあり、その次の日に第1学院に入寮する。
入寮準備、新学期の準備はもう済んでいる。
実は、あの山のように届いたシーラ宛のプレゼントをいくつか横流しさせてもらった。たぶんめちゃくちゃ高い薬とか、天降教会で頂いたありがたい治癒品なども「ケガしたら遠慮なく使いなさいね?」と言われ、シーラから押し付……ありがたく頂戴したのだ。
なので今は、残りのやるべきことをしにハーロー洋服店に来ていた。
「おお!アグニ、とても良いぞ!」
「ほんとすか?」
「ああ!私の娘が最高に引き立つ!!」
「あ、それはよかったデス。」
前と同じようにハーロー男爵がくるくると周りを回ってチェックを行っている。しかし今回は俺だけではない。俺の隣には眠たそうなセシルが立っている。
一応世間には血縁関係だと言ってるので仲良くお揃いの服で新年度パーティに参加するのだ。
俺は焦茶と灰色がかった緑で統一したタキシードを、セシルは同色の緑をベースに、その上に焦茶のレースがかかっているドレスだ。けっこう大人っぽい色合いだが2人ともよく似合ってると思う。
「そういえば…2人で踊りの練習はしてないな?パーティーのために練習しといた方がいいんじゃないか?」
「えっパーティ―に踊る時間あるの?」
当たり前のことを聞いてしまったのだろう。ハーロー男爵はやれやれといった表情で答えた。
「もちろんあるに決まってるだろう。まさかセシルと踊らない気なのか?!」
驚いた顔で問い詰められ、俺は慌てて弁解した。
「あ、いや!!あるのか無いのかわかんなくて!あるならもちろん踊りマス!!!」
「そうか。さすがに一回は踊ってくれ。娘のためにも君のためにも」
「はい!!」
俺の隣でセシルが果てしなくめんどくさそうな顔をしている。セシル、顔に出てるぞ。
ということで、ここから数日はセシルに公爵邸に来てもらい、そこのダンスホールで練習を行うことになった。
一緒に踊ってみて…随分と踊りやすかった!もちろん天才シーラ様と比べると差はあるが、貴族の娘としてきちんと鍛え込まれていたのだろう。
「セシル踊り上手だね。俺まだ習ったばっかだからさ、踊りやすくて助かるよ。」
「…アグニも上手。踊りやすい。」
「ほんとに?よかった!」
セシルはコクンと頷いた。
あんま喋んないな。
まだちょっと気まずいし……。
「ちょっと早いけど、今日はここまでにしよっか。セシルんちに一緒に戻ろう。」
俺が言うとセシルが首を傾げながら聞いた。
「別に…アグニ来なくても平気。馬車あれば…1人で帰れる…。」
「ああ、俺ちょっとセシルんちの近くで行きたいとこあってさ。鍛冶屋で剣作ってんだけど、そっちに行きたいんだ。」
フェレストさんとこの鍛冶屋で少しまたアルバイト中なのだ。そのことを伝えると、セシルの目が途端にキラキラし始めた。
「アグニ、私も一緒に行きたい。見たい…!」
「え?でも俺が剣作ってるだけだよ?そんな面白くないと思うけど…」
セシルはずいっと一歩前に出て俺の目をじっと見ながら告げた。
「そういうの、見るの好き。見たい…!」
「あ、はい。では…一緒に行きましょうか?」
「行く…!」
眠そうじゃなくなったな。
足取りも軽くなってるし。
ほんとに好きなんだ…。
・・・
「フェレストさーん!ただいま~!」
「おうアグニ!ちょうどよかった。こっち手伝ってくれ…っと。後ろのお嬢さんは誰だ?」
「ああ、えっと、」
「セシル・ハーローと申します。見学しにきました。」
セシルがスカートを持ち軽く膝を曲げて挨拶した。フェレストはセシルを見て目を真ん丸にした。
「ってぇと……ハーロー男爵の娘…さんか!こんな汚ねぇとこお貴族様には向きませんで。あまり長居することはお薦めできませんよ」
フェレストが明らかに嫌そうな顔をしつつも、丁寧風に会釈をする。しかしセシルは構うことなく続ける。
「お気遣いは一切要りません。この場にいさせてください。」
「…………しかたねぇな。今妻を呼んできますんで、茶でも飲んでてくだせぇ。」
「ありがとうございます。」
セシルがふわっと笑ってお礼を言った。
その後ずっと俺とフェレストがただただ鍛冶をしているのを見続けていたので、休憩の時にセシルに聞いてみた。
「セシルは剣が好きなの?それとも鍛冶をしてるのが好きなの?」
「物が……作られるのを見るのが好きなの。」
「物が作られる?」
「例えば…剣は鉄を組み合わせてできる。ドレスは布を組み合わせてできる。ただの鉄、ただの布から…私たちの使える物が生まれる…その過程を見るのが好きなの」
「…なるほどね。なんとなくわかるよ。『鉄』は生まれ変わって『剣』になる。『布』は『ドレス』に生まれ変わる。同じ物のはずなのに全く見え方が違う。それが不思議だし、神秘的な気がするよね。」
俺が同意を示すとセシルは目を丸くして頷いた。
「…そう。そうなの!………私ね、将来ね、技術部で働きたいの…。」
「技術部?何それ?」
その存在を知らなかったので素直にセシルに聞くと丁寧に説明してくれた。
「帝国王宮所属には大きく3つの部門があるの。軍部、文部、そして技術部。技術部はモノを造る部門なの。」
へぇ~そんなのあるんだ!
技術部…面白そうだな。
「へぇいいな!セシル、将来働けるといいな!」
俺がセシルにそう告げると、セシルは一瞬驚いた顔をした。しかしすぐ、満開の笑顔を見せた。
「うん…!!」
「あ、今から短剣に芸石取り付けるけど、見る?」
「……見る!」
「わかった!じゃあこっちおいで」
セシルは思った以上に好奇心旺盛で、芸石を付ける場所はなぜここなのか、どんな事に注意しなきゃいけないのかなどをセシルに問われた。
もうほんの少し前の気まずさはもうない。
どうやら……きちんと仲良くなれたようだ。
・・・
「ただいま~」
『おかえり。遅かったね』
「アグニ、おかえり」
「あぁ。シリウス、シーラ、ただいま!」
「どうしたの?ご機嫌じゃない?」
「え、あぁ…そうかも。セシルと仲良くなれたんだ」
『へぇ。あの無口と?』
「それが全然無口な子じゃなかったよ。きっともっと仲良くなれる。」
「あらいいわね。アグニ、たくさん友達を作りなさいね。きっともっとあなたの世界が輝くから。」
シーラが優しい笑顔でそう教えてくれた。
「……おう!!!」
こうして着実に時は流れ、新年度パーティーの日がやってきた。
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