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第2章
79 ハーローさんの娘さん
しおりを挟む次の日、朝食を済ませて準備をしたらすぐに別邸を出た。ちなみにシーラはまだ寝ている。
クルトに馬車を出してもらい、まずは冒険者登録をした冒険者組合本部に行く。
保証人がハーロー男爵…つまり貴族なので今までも結構楽に色々な国に出入りできたが、ランクが1つ上がったことで入国の際に払う手続き金が少なくなった。より手軽な値段で各国に入れるようになったというわけだ。
そして銅板の冒険者札が銀板に変わった。それだけで少し高級感が出て結構嬉しかったりもする。
冒険者組合本部とハーローさんの洋服店は歩ける距離なので、適当に街をぶらぶらしながらシリウスと歩いて向かった。途中で買った、たくさんの香辛料でクタクタになるまで煮込んだ肉が美味しすぎて、そこに一度戻ったりしながらもなんとか昼時には洋服店に着いた。
カラン コロン……
「……いらっしゃいませ、シリウス様、アグニ様。オーナーをお呼びしますので少しの間お待ちいただけますか?」
『よろしく~』
すごい。お店の人もう俺まで認識してる
さすがプロだな。
暫く店の中をぶらぶらしているとハーロー男爵が現れた。
「シリウス様、アグニ様!お待たせして申し訳ありません。どうぞ二階へ。」
「あ、はい!」
二階の一室に入るとそこには二人の女性が俺の新しい制服を持って待っていた。
「こちらが制服です。続きの部屋がありますので、一度そちらに行って着てきてもらえますか?」
「はーい」
・・・
「ど、どうでしょう?」
「おお!アグニ様、よくお似合いです!」
ハーロー男爵が笑顔で俺の周りを周り、変なところが無いかを確認した。
『いいんじゃない?』
シリウスからお褒めの言葉頂きました!
いいんじゃない?は似合ってるってこと
「ほんと?よかった!」
俺の制服はスリーピースといって、スーツにベストもあるやつだ。学校の指定色が紫なので、濃紫色のスーツに、薄くチェック模様が入ったデザインだ。ネクタイはスーツよりも少し赤くて明るい色にしてある。またベストはボタンがダブルで着いており、襟有りのものと襟無しのものをそれぞれ作った。
この制服を着るだけで結構紳士に見える。やはり着るもので見た目は変わるな。
「アグニ様、予想以上にスーツがお似合いですね。デザインの提案をした私がいうのもなんですが、良いデザインですな!あはは!」
ハーロー男爵が俺の周りをくるくる回りながら言う。そこまで褒められるとつい浮かれてしまう。
「え?ほんとですかぁ??」
俺がモテ始めるのも時間の問題だな!
スーツは予備用としてもう一着、同じものを作ってもらうことになった。
そしてこれからハーロー男爵と遠縁云々の話をしなければならない。お店の人に紅茶を用意してもらった後、人払いをして3人で話し合う。
「俺、ハーローさんの遠縁ってことで本当にいいんですか?」
俺が質問すると男爵は笑顔で答えた。
「もちろんです。正直、あなたのことは結構気に入っていますし、私の娘のためにもその方が都合がよいのですよ。」
『君の娘、同じ学年だよね?今いないの?』
「ああ、いますよ。呼んでまいります。」
そう言って男爵は手元のベルを鳴らし、使用人に娘を連れてくるように伝えた。
「すぐに来ると思いますので、少々お待ちを。」
『娘さんにアグニのことは伝えてるの?』
「ええ、もう伝えました。頭の良い子です。きちんと演じられるかと思います。」
演じる、というのは俺が遠縁設定であることをって意味だろう。
『他は誰が知ってる?』
「この事を知っているのは妻と娘だけです。他の者には一切伝えておりません。」
『そう。』
コンコン・・・
「ああ、入ってくれ」
「……失礼します。」
入ってきたのはふわふわの茶色の髪の毛で濃い緑の目の、少し眠たそうな女の子だった。動物で例えるなら羊っぽい(?)感じ。けれど、さすが貴族の令嬢。立ち居振る舞いが綺麗だ。
「セシル、こちらにきてくれ。」
「はい…」
その子がハーロー男爵の隣に立ったところで、男爵が紹介をしてくれた。
「私の愛娘、セシルです。セシル、挨拶を。」
「はい。初めてお目にかかります。セシル・ハーローです。」
女の子はぽーっとしたまま、それでも綺麗にスカートを掴んで礼をした。
「あ、俺、あっ私はアグニと申します。初めまして。」
『へぇ~。君がコールの娘か~』
シリウスが楽しそうな様子でその子に近づいた。セシルは一度シリウスと目を合わせると、特に驚くでもなく再度礼をとった。
「天使の血筋様。」
『ああ、礼は必要ないよ。シリウスだ。今後も会う機会が多いだろうからよろしくね。』
「はい、シリウス様よろしくお願いします。」
けっこう肝の据わった女の子なのかもしれない。かつてシリウスを見た人の中で最も動揺していなかった。あいかわらず少し眠たそうな様子ではあるが…。
「セシル、こちらに座りなさい。」
「はい。」
セシルと言われたその子が俺の前の席に座ったところで、男爵が俺に真剣な顔を向けた。
「アグニ様、一つお願いしたいことがあるのですが…」
「あ、はい。なんですか?」
「私の遠縁ということでしたら、私がアグニ様に敬称を付けて喋るのは他の人から見たらあまりにも不自然に映ります。どうか人前でだけ、アグニ様の名をそのままお呼びすることを許していただきたい。私の娘も。」
「え?あ、全然大丈夫ですよ。なんなら敬語もいりません。人前じゃなくても不必要です。あ、もちろん娘さんも。」
俺の言葉に男爵は少しほっとした様子をした。
「ありがとうございます。ではこれからはアグニ、と呼ばせていただきます。またこれからは敬語を外した会話をします。アグニ様も私の娘をそのままセシル、と呼んでください。」
「わかりました。よろしくな、セシル。」
「はい。あっ、うん。よろしく…」
セシルは表情を変えることなく俺をじっと見てきた。
「セシル、来年度からアグニも同じ学年に入る。彼に学院のことを色々教えて差し上げなさい。」
「はい、お父様。」
男爵が一つ頷いた後、そういえば…と話を続けた。
「アグニ、新学期が始まる前に毎年パーティーがあるんだが、その際の相手役の子はいるかい?」
「え?そんなのあるの?」
俺が3人の顔を見るとそれぞれが頷いた。
『今年は緑咲く2週目の6の日にあるんだったかな?』
「そうですそうです。」
そんなものがあるとも知らなかった俺は横に首を振ってこたえた。
「今そんなのがあるって知ったんで、相手はもちろんいないです」
俺の答えに男爵がニコリと笑った。
「ではうちの娘と一緒に出てくれないかい?」
「え?あ、もちろんいいですけど、セシルはそれでいいか?」
俺の問いかけにセシルはコクンと頷いた。
「平気…」
「そ、そうか…?」
テンションが低くて本当に平気なのかがわからない。
「パーティー、行くのめんどくさいなって思ってただけだから…」
「そ、そうか……」
「お前は…いつもいつも……」
男爵が隣でため息を吐いた。
どうやら毎回その手の行事をめんどくさがっているようだ。とりあえず俺が嫌なわけではないとわかって安心した。
ということで、パーティー用の服をまた作ってもらうことになった。とりあえず今習っているダンスを早く形にしないとな……。
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