再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第2章

71 上手く芸ができて調子に乗って

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毎年の事ながら、今年も俺の国にシャルルが来ていた。

天使の血筋でお隣の国の王子だ。同い年で、国同士の中も良く、互いに王子同士。しかも気が合う。もう当たり前のように一緒にいる。

火の月に入り、学校が休みに入った。

社交活動でほとんどが終わるこの月のわずかな休みを、結局学校と同じように一緒に過ごしていた。


そして事件が起きた。


我が国軍が報告をしてきたのだが、それがなんとも荒唐無稽な話だった。オアシスが急にできた、とか言う報告だ。けどまぁさすがに総隊長が報告に来たら……皇太子の俺が直接動くしかない。

『アルベルト、俺も言っていいか?』

「ん?別にいいけど…知ってると思うが暑いぞ?」

『ああ、構わない。俺もその話題は気になるからな』

「じゃあ父上と…シャルル、お前のお父様にも知らせておくぞ。」

『おお、助かる!』

そんなこんなで、結局一緒に宮殿を出てずっと東に行き、砂漠を進み続け……


「う、うそだろ・・・」

『本当にオアシスはなかったんだな?』

「ああ、間違いない。」

『…………』

遠くの方に豊かな緑地…砂漠の天国が見えた
半ば呆然としながらもそのオアシスへと進む。

 まてまてまて!!!!どういうことだ?!
 畑がある!!!??砂漠に?!

「なっ………なんですか?! ここ?!!!」

『あ、あそこに誰かいるぞ!!』

シャルルの指さした方向を見るとそこには二人の男がいた。

「あ、どうしよう。バレた…シリウス、バレたぞ!」

『えっ うっそ~ん。』

 え、まてまてまて……

「『 天使の血筋?!!!!!! 』」

『あ、まずい。アグニ~ばれちゃったよ』

「なんでお前布取ってんだよ!!」

『水浴びてたんだもん』

「あーあ。どうすんだよ~……」

よくわからないけど…ここにずっといたのか?何かこのオアシスのことを知ってるかもしれないな。けど……どうして天使の血筋がここに?

大公家の天使の血筋の方々の顔は全員インプットされてる。けどこの方は知らない。つまり大公家ではない。
ならば……この場で最も権力が高いのは天使の血筋であり大公家である、シャルルってことになる。シャルルに場を仕切ってもらうのが最善ってことだ。

「シャルル……頼めるか?」

『あぁ、もちろん。そこのお二方、お話を伺っても?せっかくですから、一緒にお茶でもいかがですか?すぐにご用意しますので。』

天使の血筋が相手なら、こちらも最大限好意的に接しなければならない。
向こう2人は顔を見合わせて、頷いた。

「あ、はい。ごめんなさい……」

 ん?なんで今あの人は謝ったんだ?

「すぐに準備させます。しばしお待ちを。」

こうして、謎の2人とのお茶会が急に始まったのだった。







・・・・・・







   あーあ。絶対怒られるやつじゃん。
   そりゃそうだよな。
   勝手にオアシス作ったらキレるよな…


絶対に身分の高い、同い年くらいの男の子が二人も来た。そして急にお茶会を行うことになった。もはや俺らに拒否権はないだろう。黙って従います。

『さて……まず、大変恐縮ですがあなた方のお名前を伺えますか?』

相手の天使の血筋の男が聞いてきた。

「アグニと申します。えっと…一応冒険者です」

『 シリウス 』

礼儀のなってないシリウスの自己紹介に向こうも少々面喰う。けどすぐに表情を取り繕い、向こうも自己紹介をしてきた。

『シャルル公国の、シャルルです。』

「フォード公国皇太子、アルベルトです。」

そういって二人は身に着けていた民族衣装を取った。

シャルルは紛れもなく天使の血筋だ。綺麗な金色の髪に薄緑の瞳。アルベルトは…これもまた珍しい、青灰色っぽい髪と瞳、そして褐色の肌だ。

この砂漠の持ち主であるフォード公国皇太子、アルベルトが聞いてきた。

「お二方はいつこちらに?何かこのオアシスのことをご存じですか?」


   あ~…俺らが作ったあそんだことバレてるな…
   もう素直に謝ろう……


「あ、はい。あの~えっと~ちょっと…二人で芸の練習をしておりまして…その練習をしていた結果、オアシスができてしまいまして…ほんとごめんなさい。あの、砂漠に戻しますか…?」

俺の言葉に二人はきょとんしている。よくわからなかったようだ。もう一度説明しようと思っていたらシリウスが言葉を続けた。

『僕たちがこのオアシスを作ったんだよ。』


   端的な説明だなおい!
   もっと言い訳してくれよ!!


シリウスの言葉に王子二人は目をこれでもかと見開いた。

「えっ、あの…え?お二方が…オアシスを作った…?」

「あ、はい、そうです……ご、ごめんなさい。」

『作った…?ん?どういうことだ?どうやって作ったというんだ?』

「え、だから…芸で……」

俺がこんなに縮こまっているのに、シリウスは呑気にオアシスを見ながら茶を飲んでいる。もうそろ殴ろうか。

シャルルという名の王子が呆然としている。

『…そんな芸を…あなた方はできるのか?』

「あ、はい。それの練習をしてましたので…」


   おい、シリウス。助けろよ。
   なんで足組んで横向いてるんだよ。
   前向けや。


するとシャルルとアルベルトが互いに顔を見合わせた。そして2人はコクンと頷くと、真剣な顔でこちらを見た。

「シリウス様、アグニ殿。よろしければ我が宮殿にいらっしゃいませんか?」

「え、宮殿に?!」


   え、これ、大丈夫なやつ??
   それともそこで殺される系のやつ?


俺の訝しげな顔を見て、アルベルトが急いで告げる。

「あぁ!もちろんご招待です!オアシスを本当に作ってくれたのなら、我が国の救世主です。是非、わが父フォード国王からも感謝を伝える機会を下さい!」


   え…ほんと?救世主?そんなに?


俺がまだビビっていると、隣にいたシリウスが天使のような笑顔で言った。

『なら、せっかくだからお邪魔しようかな』







・・・・・・








俺たちのいたオアシスからずっと西に進み、フォード公国の首都「チエルバ」に着いた。ここは砂漠とは打って変わって結構自然も多く、水も多い。

元々帝国最大のオアシスがここにあり、その後、人工的に設計された都市らしい。街のそこかしこに噴水や水路や池があり、「水」を象徴するような設計になっている。そして「水」に彩りを加えるように、たくさんの色鮮やかな花々や木々が植えてあった。

宮殿はあまり見慣れない建築様式だ。窓が大きくて建物は比較的横長な感じ。けど宮殿の作りが一つ一つ精巧で、お金をかけているのは一目瞭然だ。

宮殿の前にも綺麗で大きな池と噴水があり、ここでも「水」の重要性が伺える。

馬車から降りるとアルベルトが言った。

「中へどうぞ。僕個人の宮殿なので少し小さいですが」


   え……あなたの個人宅ですか??
   俺んち何個分あんだよここだけで!!


全力でツッコみを入れたいところをなんとか抑え、笑顔のまま中に入る。
床は白い大理石で、窓から入る温風がめちゃくちゃ気持ちがいい。ダラけたい。もはや住みたい。

そんなことを思っていたら、後ろを歩いていたシリウスが俺の耳元で言った。

『ね?この国の民族衣装着る気持ちわかるでしょ?すんごい住みたくない?』


   そうか。そういうことだったのか。
   俺も今後あの民族衣装着ようかな。
   俺も今、すんごい住みたいよ。







・・・







「父には先ほど手紙を送りましたので、返事が参りましたら父の宮殿へまた移動になります。よろしいですか?」

「あ、はい。大丈夫です。」

「ありがとうございます。……あの、どうやってオアシスを作られたか、伺っても?」

『それは秘密。』

「おいシリウス!」

急にシリウスが言った。王子二人もびっくりしてる。シリウスは笑顔のまま口元を隠し、横にいる俺にしか聞こえない声で言った。

『アグニ、君が「藝」ができたってことは黙っておきなさい。基本、天使の血筋しかできないんだから』

「え、そうなの?」

芸素の量が多い天使の血筋でも困難な芸。かつそれに必要な芸素量を満たしていたとしても、俺と同じように方法がわからない人がほとんどな芸。だから天使の血筋しかできない芸ってことか。

「…わかった。もう一つの方は?」

『そっちは…まあ良しとしよう。』

「了解です。」

俺は王子二人に向き直って言った。

解名かいなの、天変乱楽てんぺんらんがくを使いました。あと、シリウスは解名のげいを使いました。」

俺の説明に二人の王子は………見事に固まった。

「て、天変乱楽?それはあの……?」

『シ、シリウス様は…藝ができるのですか?』

『うん。できるよ。』

「あ、風の芸のやつです。」

それぞれがそれぞれの質問に答える。

『この世に藝ができる人はいないと思っておりました…失われた、古代の芸だと…認識しておりましたので……』

「ア、アグニ殿は……その………芸素が足りるの?」

「え、あぁ、でも今は一日5回が限界ですね。そんなにはできません。」

『「 5回??!!!!! 」』

「え、はい……?」

シャルルとアルベルトは二人して前のめりになって口々に行った。

『私は天使の血筋だが一度もできん!!!そもそもその芸ができる段階まで芸素量が足りてない!!』

「無理中の無理ですよ?!!なんすか5回って!!!!一回もできないもんなんですよ!!!」

たぶんこの二人とは仲良くなれる。
机をバンバン叩きながら抗議する姿は俺によく似てる。もしかしたら性格が近いのかもしれない。

ところで…1回もできない?
それはさすがに謙遜しすぎじゃないか?

「え、そうなんですか…?」

俺がシリウスの方を伺うと、優雅に茶を飲んでいた。そして俺の目線に気づき、ニコっと笑って答えた。

『できないもんだよ。普通は。』

「はぁぁぁぁぁ??!!!!」


  このやろう……このやろう!!!!
  最初、簡単にできるって言ってたじゃん!
  ほんとうにこいつ嘘しか言わねぇな!!!


俺は握りこぶしを作りつつも、目の前の王子たちの無礼にならないように、必死に笑顔を作った。

「すいません。僕ずっと田舎におりまして。あまり勝手がわかってなかったというか……」


   苦し紛れの言い訳を発動。
   さぁ、どうでる?


『だとしても、おかしいですよ??』


   はい、一蹴。

   あーあ。
   調子に乗って芸はするもんじゃねぇな



今回の最大の学びは、藝でも天変乱楽でもなく、「調子に乗って芸をすると良くない」に決定です。













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