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第2章
68 砂漠の灼熱
しおりを挟むエール公国のハイセン村を出た後、またいつも通りのシリウスとの旅が始まった。
「なぁシリウス、俺もあの芸できるようになりたい。」
『どの芸?』
「植物を成長させた、『藝』。」
『ああ、あれね。いいよ。』
「……いいのか?めっちゃ難しそうだから無理って言われると思ったんだけど。」
『実はあれ、そこまで難しくないんだよね。君、笛は吹けるでしょ?』
「あぁ、まぁ。シリウスから何回か貸してもらって吹いてるし……」
実は旅の途中めっちゃ暇な夜とかにシリウスから借りて、教えてもらっていた。
『うん、じゃあ大丈夫じゃない?』
「笛吹くのってそんなに重要なのか?別に吹かないとできないわけじゃないだろ?」
『まぁね。でも、気づいたと思うけど、あの笛を吹くと芸素が揺れるんだ。』
揺れる…なるほど。それが一番適切な表現かもしれないな。まるで芸素が動きそうな感じ。でも動くわけではない。動かすのは芸を行う当人だから。
芸素は世界のどこにでもある。人の中にも、建物にも。大地や、風や、川にも。だからこそ我々は自然を扱う技として、それらを動かす「芸」を身に着けたのだ。
『あの笛は芸を伝えやすくする。ある意味、我々が使える唯一の芸石なんだ。まぁ、君は普通に芸石も使えるけどさ。』
「へぇ、なるほどね。」
『けど面白いことに、あの笛は我々にしか使えないんだ。その他の人間は笛は吹けても、芸素を揺らすことはできない。』
「え、そうなの??天使の血筋以外だと、ただの笛になるってことか?」
『ああ。』
「…俺もちゃんとあの笛使えるのかな?」
『大丈夫だよ。見てたらわかる
見てたらわかる?
「ふーん?まぁ使えるならいいや。教えてよ」
『じゃあ…んー…フォード公国に行こうか』
「フォード公国?えっと確か…シャルル公国の東側にある国だったな?前に行った酒場で、オアシスが消えたって話してた気がする。暑い国で…水売りの業者が儲けてるとかなんとか。」
前を歩いてたシリウスが振り返って驚きの表情を見せた。
『おお…!よく覚えてたね~偉いぞ~』
「俺はガキか。」
『ははっ。フォード公国は帝国の最北端に位置してる。帝国は南に行くほど寒くなり、北に行くほど暑くなる。だからフォード公国は暑いんだ。』
「でもそれならシャルル公国も暑いんじゃないのか?」
以前、トラの芸獣を狩るので行ったけど、そんな印象はなかった。
『シャルルは山脈だらけの国で、標高が高いんだ。だから暑い場所にあるんだけど暑くないんだよ。フォードは別に標高が高いわけじゃない。それに加えて結構乾燥してて、湿度が低い。だから砂漠化が進んでて…今じゃ国の大半が砂漠だ。』
「まじで?俺砂漠見たことないんだけど!」
初砂漠!楽しみだ!
どんくらい暑いんだろ??
俺が少し楽しそうに言うとシリウスがにやりと笑った。
『そう……たぶん、楽しめると思うよ。』
・・・・・・
「う、嘘だろ‥‥‥」
『あれ?楽しめない?』
「た、楽しめるわけねぇだろ………」
もう一言で言うと、「帰りたい。」
喉は乾くし陽の光はずっと降ってくるし下の砂も重いし歩きづらいし熱の伝わり方がひどい。
「ここ、人の住める場所じゃないだろ……」
『なんなら人どころか植物の住める場所でもないんだよ。だからオアシスが消えるんだ。』
オアシスとは簡単にいえば、砂漠の中にある緑地。地下水等が砂漠の上に沸き上がり、湖のようになった場所。その周りは植物も育ち気温も低くなるため、砂漠を移動する人間の給水地点としてとても重要になる。
「……オアシスが消えるのは、まぁまぁやばいよな?」
『まぁまぁやばいね。オアシスに人は住む。つまり人の住める場所が減ってるってことだ。まぁその分、芸獣の数も少ないけどね。』
「そもそも、ここ芸素少なくね?」
『よく気づいたね。同じ大地でもハイセン村と全然違うでしょ?人によって芸素量が異なるように、大地によっても芸素量は異なる。砂漠は特に少ない。』
「……なのに俺に『藝』の練習をここでさせようとしてるわけだな?」
俺が睨みながらシリウスにいうと、「なにか問題でも?」とでも言いたげな顔をしてきやがった。
「この辺の人がシリウスがいつも着てる民族衣装を着てるわけだな?」
シリウスがいつも着ているのはフォード公国の民族衣装だ。こいつは自身の髪や目を隠くのに都合がよいから着ているが……
『そうだよ。なんでかわかったでしょ?』
「ああ。ああいう服を着て、髪を隠して体を隠しておかないと…焼け死ぬな。」
『そういうこと。君も着とく?』
「お願いします。」
やっと今あの民族衣装の有用さが理解できた。
・・・
『はい、じゃあこの辺でいっか。解名の藝、出してみて。』
「ええ??急に?!」
また指導とか無しですか??
砂漠のど真ん中、もはやここがどこだかもわかんない。見えるのは果てしない砂漠と青空だけだ。
『ああ、そうか。ごめんごめん。』
「おお…教えてくれるんですね…」
俺が胸をなで下ろして安心していたら、シリウスは鞄をガサゴソさせ、いくつもの種を地面に撒き散らした。
『はい。じゃあ芽出させて』
「やっぱ指導は無しなの?!」
彼は教えるってことを知らないのか?!
俺が暑さに汗をだらだらかきながら文句を言うと、うるさそうな顔をした。
『なに~?別にそんな難しいことじゃないじゃんよ。普通にいつも通りだよ。』
「普通にいつも通りって…いつも通り植物を成長させたことないんですけど?」
『あーもー。治癒に似た感じだよ。芸素を感じて~芸をする~。それで終わり。その間に笛吹けばどうにかなるって。』
「えええ?!そんなことある?!それができたら今頃みんなやってるよね?!」
待ってこれは俺がおかしいのか?!
なんでそんな当たり前感を出す?!
俺の要領が悪いのか?!
『説明しづらいんだよね~。自分でやり方探してみてよ。』
「……やり方探してみてよ………」
たぶんこれ以上何を言っても無駄だ。
教える気はないらしい。
もうとりあえず、もがくしかない。
「わかりましたよ……じゃあ、とりあえずやってみますよ…」
『向こうの方にテント張っとくね~』
「はい……」
・・・・・・
全然できない。
種は動きもしない。
それに暑すぎて集中ができない。
俺が今できる芸でこの暑さを凌げるものは風と水の芸だ。それと身体強化でなんとかずっとこの灼熱の中に居続けてるが……その分、芸素を使いまくってる。それに加えて笛を吹き続けてるのも地味にしんどい。
朦朧とする。
一方のシリウスはテントの下で自分に風の芸を送りつつ、優雅に寝そべっている。
もう4日だ。
ずっとこの状態。疲れも取れない。
『藝』がわからないからいっそのこと治癒をかけてみたけどダメだった。芸素を一つ一つの種に流してみたけど…芽は出なかった。
わからない。
何かが違う。けどそれが何かわからない。
なんであいつは…教えてくれないんだよ…
あ、
まずい。
芸素が尽きた…
ドサッ
『あれ? いつの間に倒れた?』
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