再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

文字の大きさ
上 下
68 / 174
第2章

64 エール公国

しおりを挟む



エール公国
帝都からみて北北東にある国で、帝都や周辺国の食糧を生産している農業国。

そのエール公国の山奥にあるハイセンという村で、大規模な洪水と洪水による土砂災害起きた。

ハイセン村の周辺は小麦の栽培が盛んだった。きっとこの時期には夏前に収穫する小麦の畑が一面に見れたはずだ。

けれど俺とシリウスが見たのは、そこに畑があったのかさえ怪しいと思えるくらい、無惨に散らばった小麦の茎や根や葉、水気がありジュグジュグになった土砂、そして村の人の絶望の顔だった。

「………シリウス。これは相当なものだよな?」


   俺は農業には詳しくないけど……
   この状況が深刻なのは嫌でもわかる。


『まずいねぇ。全部だめになってる。食べるものも売れるものもなくなったね。』

「そうだよな……」

村の外に一人の老人が座っていたので、俺は彼に近寄り話しかけた。

「すいません、あの……この村、今どうなってるんですか?食べるものとか…ありますか?」

老人は疲れ切った顔を俺に向けていった。

「ないよ。コムギも他の野菜も全部流された。川の氾濫で下の方の町へ行けないから食べ物を買ってくることもできない。援助が来るのもまだ先だ。もうみんな……ぎりぎりだよ。」

「………そうですか……」

川の洪水で流れた土砂が道を塞いでしまって帝都やエール公国軍の救助や食料援助が来るのにはたぶん一週間程度かかるだろうとのことだった。
俺とシリウスは身体強化と芸を使って強行突破してきたが、それは他の人にはできないし、食糧を運ぶ馬車ではなおさら不可能だ。


   ……よしっ!!


「じゃあ俺、なんか少し獲ってきますね!」

「ああ。………え?なんだって??」

「逆に山の上の方に行って何か狩ってきます!」

「おいおいお兄さん。そんなことしたら危ないぞ。まだ水で土がぬかるんでる。滑って落ちたりしたら大変だ。」

「あ、大丈夫っす。ちなみにこの村、何人くらい人いますか?」

「え、ああ、全部で60人くらいだが…」

「わかりました!行ってきます!」

「え、あ、おい!!」


   さぁさ!
   今すぐに俺ができることをとりあえずしよう。
   腹が減ってはなんとやら、っていうしな。


「シリウス!行こうぜ!」

『えっ、行くの?』

「は?行くに決まってるだろ。」

俺がシリウスにそう言うと、シリウスは不思議そうな顔をして聞いてきた。

『ん~なんで君は助けるの?彼らを』

「え?なんでって……別にそんな理由はないけど。まぁ強いて言えば困ってる人が目の前にいて、俺がそれを助けられるのに動かないっていうのはおかしいかなって思ったっていうか……」

俺が頭を掻きながらそう言うとシリウスは首を傾げた。

『君は目の前の困ってる人は全員助けるの?』

「え?まぁ困ってるなら助けるよ。」

『どこまで?』

「え?」

『どこまで助けるの?』

「…どういうこと?」

シリウスは一層わざとらしく首を傾げた。

『君は彼らのためにどこまで犠牲を払えるの?自分のしたい分だけ?彼らがそれに満足していなくても君が満足になれば、そこでもうそれ以上は助けない?』

「…彼らが必要な分だけ、助けるよ。」

『例えば君が死ぬか、村人一人が死ぬかなら?その一人のために君は死ぬ?』

「は?」

『君のエゴをどこまで通すつもりなのかって聞いてるんだよ。そんな難しい?』

シリウスは無垢そうな顔で聞いてくる。わざとそういう質問をしているのに。

「……そんなんわかんねぇよ。別にどこまで、とか決めてるわけじゃない。俺にできることならする。けど別に俺を犠牲にしたいわけじゃない。だから助ける側と助けられる側がともにプラスで終われるところまで、助けるんだ。」

『ふーん。じゃあまぁ君が飽きたらそこでこの遊びは終わりってことね。』

「………遊び?」

『え?遊びじゃないの?人救いゲーム。「いったい何人救えるのか?!」って、ははっ』

シリウスは楽しそうに歩いていった。

「お前、 何言ってるんだ?」


   バカにするにもほどがある。
   なんだその言い方?
   困ってる人を前によくそんなことを…


「お前。いい加減にしろ。人の命はそんな軽くないんだぞ?」

俺の言葉にシリウスは一瞬理解できないような顔をして、その後、笑い出した。

『あっははははは!!!!君が!!僕に?!人を語るの?!はっははははは!!!楽しいねぇ!君は人の命は重いという。なのに君はそんな命を60個も救う気でいる。あはははは!!!!楽しいねぇ!!!あははははは!!!!』

「ふざけるなよ!!!なんなんだよさっきから!!!やれることを片っ端からやっていけばいいじゃないかよ!そんないちいち考えて物事を難しくして!!何ができるんだよ?!お前は考えた上で助けない方がいいって思うのかよ??!!」

俺の言葉に天を向いて笑っていたシリウスがピタリと止まった。
そのまま俺の方を向き、残忍な笑顔を見せた。

『君は 人を知らない。 そしてそれ以上に自分のことを理解していないねぇ。 芸は自然を動かす以上に人の心を動かす。君の行動が周りにどう見えるのか、それをわかっていない。』

シリウスが俺に向きなおり、真正面から笑顔で告げた。

『わかった。このゲームは君の方向性でいこう。僕も僕にできる事を彼らに最大限してあげよう。僕は「困ってる人を見たら無我夢中で助けちゃう人」だからね。』


   どうしてこうも曲がってるんだよ?
   なんでそんなに助けたくないんだよ?

   けどこいつの力があれば…必ず助かる。


「……………頼むぞ。」

『ああ。じゃあとりあえず60人分、狩ろうか』








・・・・・・












村に三度往復し、その度にクマやイノシシの芸獣、その他野鳥やハーブなどを大量に持って村人たちに渡した。そしてそれらを大量に料理してもらい、星空の下、村人60人とともに騒がしく、楽しく夕飯を食べた。

「アグニ、ミシェル!本当に本当にありがとう!!今日の夕飯は最高だよ!!」

「アグニ!ありがとう!まだ子どもが小さいからどうしようかと思ってたの!」

「こんなにたくさん捕まえて……大変だったでしょう?本当にありがとねぇ…」

「宿として泊まれるのはうちしかないから今日はうちに来なさい!お代なんてもちろん要らないから!!ほんとにありがとねぇ~!」

「いくら金があっても今日食べるものがなければ話にならない。本当にありがとうアグニ、ミシェル!」

村人らは俺らをとても感謝してくれた。この村には芸を使える人は3人ほどしかおらず、そのうちの誰も、狩りをするほどの能力は持ってなかった。だからこそこの村は農業に力を入れていたのだ。
ちなみにシリウスは今ミシェルと名乗っている。

「いえいえ!本当によかったです!もしよければ援助が来るまで、俺らに手伝わせてください!」

「え!!!!! いいのかい……?」

「もちろん!」

村人たちから歓声が上がる。
みんなの顔が明るくなり、希望的な表情に変わった。

この村の村長である年老いた男性が杖をつきながらこちらに近づき、頭を下げた。

「アグニ、ミシェル、本当にありがとう。どうか、援助が来るまで、我々と一緒にこの村を助けてくれ。」

「ああ!!!」






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

(短編)いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...