再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第2章

63 不思議な夢の正体

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建物を出ると、巨大な柱や石造りの建造物が目に入った。そしてなぜか急に懐かしいような、切ないような…思い出深いような…説明しづらい気持ちになった。

『アグニ?どうしたの?』

急に足を止めた俺に対し、シリウスが不思議そうな顔をする。

「うん…何かがひっかかって…うーん……ああ!わかった!夢だ!」


   夢で見た世界と同じ雰囲気なんだ!
   ああ~すっきりした~!


『夢?夢がなんだ?』

シリウスの隣にいるシュエリ―大公が俺に聞き返す。

「ああ、いや、別に大したことではないです。何回かこんな感じの場所が夢で出てきたことあるな~ってだけで。すいません、行きましょうか。」

俺が止まっていた足を進めると、反対にシュエリ―大公が歩みを止めた。

『なんだって?夢を見るのか?』

「え?夢見ないんですか?」

『あほか!夢は見るよ。そうではなくて、視るのか?』

「先祖の記憶?え?あれって先祖の記憶なんすか?」

俺の質問にシュエリ―大公は驚いた顔をし、そのあとすぐシリウスを睨んだ。

『…シリウス様。何も教えてないんですか?』

『えへへ。だってアグニはまだ正式に天使の血筋だって認められたわけじゃないし~』

『ったく……みんな一回でも視たら死ぬほど喜んで報告にくるのに!!なんであなたは違うのかなぁ?!』

『あはは。』

『あははじゃねぇんですよ』

『あはは』


   えっと、どういうこと?
   夢のことは伝えた方がよかったの?


「何か…僕ミスりました?」

ビクビクしながら聞くと、シュエリ―大公は特大のため息を出して教えてくれた。

『たぶんあなたが見た夢ってのは、あなたの先祖の、天使の血筋の記憶なんだ。』

「あっ、へ~そうなんすね」

『もっと感動してもいいとこだぞ?!』

「あ、そうなんすね」

『……君は喜怒哀楽の感情が少ないな。それは人としてまずいぞ?』

「え?そうすか?俺今ちゃんとびっくりしてますよ」

シュエリ―大公は苦々しい顔をして話を続けた。

『まぁとにかく、その夢で視た情景や情報が過去の新たな発見や、歴史を知る手掛かりになる。だから天使の血筋は、基本視たら報告するんだよ。ほとんど義務的に。』


   あ~らら。まずいなそれは。
   じゃあ俺は義務を放棄してたのか


「すいません、俺知らなくて…」

『いいよ。シリウス様が教えてないんだもん。仕方ないさ。けど、夢の内容は教えてくれる?』

シュエリ―大公のその言葉にシリウスが答えた。

『さっきも言ったけど、それはアグニが天使の血筋だと正式に認められてからだ。』

シリウスの有無を言わせぬ微笑みに、シュエリ―大公は舌打ちをした。

『…ちっ!わかったわよ。アグニ、どんな過去を視たのか、絶対に忘れないで』

「あ、はい。あの、シュエリ―大公様は視たことないんですか?」

『ない。一度もない。というか一度も視たことない人がほとんどなのよ。』


   え?そうなの?みんな一回もないの?


不思議そうな顔をする俺にシリウスが答えた。

『ほとんどないからこそ、視たらみんな報告するのさ。夢の内容は今までの君の血筋、全ての人の記憶の中から無造作に、そして部分的しか視られない。だから誰の、いつの記憶だかわからないんだよ。それに遠い先祖の記憶ほど視る率が少ない。本当はみんな天空人だった時の夢を視たいんだろうけど、もう帝国ができて二千年以上だ。その間に生まれた他の先祖の記憶が邪魔をして、なかなか視ることができないんだよ。』

「へぇ~そうなんだ!誰の夢かわからないのか」

シリウスが自虐的な笑みをした。

『天使の血筋の代を重ねるほど、天空人の記憶は遠のいてゆく。そうやって忘れ去され、誰も知らない事実のみが過去に残ってくすぶり続けるんだよ』

じっとシリウスの言葉を聞いていたシュエリーが視線を外し、遠くを見た。

『……風が強い。そろそろ今日の船の便も終わる。…泊まるところは?』

「あ、えっと今からこの辺の宿を探します。」

『いいや、今日はもうこの国を出るよ。』

シリウスの言葉にシュエリー大公が首をかしげる。

『ん?今からか?』

『あれ、追いかけっこはもういいのかい?』

シリウスがいたずらっぽく笑うとシュエリー大公は金色の髪をガシガシ掻いた。

『さっきあなたが言ったでしょ。大人になれって。どうせ逃げられるし、もうやめるよ』

『なんだつまらない。』

『いい性格してるよなまったく。シリウス様、あなたのことはずっと気になってるけど、それは別に殺したいからじゃない。自分の中の知りたいっていう欲求に従ってただけだ。』

『ふふっ、そんなに僕を気にしてくれてありがとう。』

『………ちっ。 アグニ、またな』

「あ、はい。」

シュエリ―大公は金色の髪を風になびかせながら、神殿の中を歩き去っていった。

こうして、たった一日のシュエリ―公国への旅は幕を下ろした。






・・・・・・







船の最終便に飛び込みブガラン公国に着いて、そこで宿を探そうということになった。新緑の季節となり寒さも消え、夜でも街中を歩く人は多くなっていた。

街中で二人の男が喋っているのが聞こえた。

「え?ほんとかよ?」


   ん?なんの話だろ?


「ああ、今日起きたんだってよ!」

「エール公国で?」

「ああ!小麦が収穫前だったから悲惨らしい。野菜とかも全部だめになったってよ…」


   ん?だめになった?どういうこと?


俺は立ち止まって話している人たちを見た。すると俺の視線に気づいた一人が訝し気な顔で俺に聞いた。

「……あ?なんだ兄ちゃん?」

「エール公国でなにかあったんですか?」

「ああ?いや、今日な、エール公国で大きな洪水があったらしい。山の雪解けが一気に来たんだって話だ。」

「え?洪水?」

「ああ、そうだ。そのせいで育ててた作物がほとんどだめになったって話だ。」

別の男が付け加える。

「ただでさえ金回りの良くない国で、必死に作物育ててたのになぁ。もう生きられないんじゃないか?」


   エール公国……聞き覚えがある。
   たしか……


『前に帝都の酒場で聞いた国だね。覚えてる?』

「ああ、あの時聞いたな。洪水って…そんなやばいのか?」

俺が後ろにいるシリウスに聞くと、シリウスは笑顔のまま言った。

『まぁね。餓死者が出るんじゃないかな?元々貧乏な国だしね。』

「えっ……?」


   なんでそんなに、明るく答えるんだ?
   当たり前のことなのか?これも?
   仕方がないことなのか?


話していた男が腕を組みながら言った。

「まぁ仕方ねぇな。あの国にいるわけだし。そんなこともあるだろ。その点やっぱこの国はいいよなぁ~」

「ははっ違えねぇ。兄ちゃん、もういいか?これから酒場に行くんだよ。じゃあな」

そう言って男たちが去っていった。


「……仕方ない……のか?」

『アグニ、』

「なぁシリウス。」

俺はシリウスの言葉を遮り、真正面から伝えた。

「エール公国に行きたい。どんな状況で、どんなに困ってるのか、俺に何かできることがないのかを知りたい。本当にのか、確かめたい。」

『…わかった。いいよ。明日の朝すぐに向かおうか』






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