再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第2章

62 天降教会

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シュエリー公国の中心にある「天降てんこう教会」

帝国でこの教会のみ、『神殿』という名を冠する。

現在も天空にあるとされる天空の町。
元々『神殿』とは、天空の町の本当の名前を知らない地上の民が仮名かりなとして付けたものなのだ。


天降教会にも『神殿』という呼び名を付けたということは、天降教会は天空王、天空人、そして現人神である皇帝のための『神の町』として考えられているということなのだ。

故にこの教会は、とされており、帝国内の他の教会とは全くタイプが違う。


「へぇ~なんか……だだっ広いな!」

『……君さ、もう少しマシな表現できないかな?』

「え?じゃあ……空がよく見える…?」

『………』

シリウスがため息を吐いた。


   そんなこと言われてもボキャ貧には辛いっすよ
   だって周りに芝生と柱しかないじゃん!!


大理石の巨大な柱がたくさん立ってはいるが建物らしい建物が少ない。噴水や石の庭?みたいなのがところどころあるだけだ。

「というかさ、この教会『神殿』なんだろ?つまり神々の地上用の町ってことなんだよな?なのに普通にみんな入れるんだな」

実は神殿は帝国全員に解放されている。貴族も平民も、帝国民はみんな入れるのだ。

『この国で天空王その他諸々を崇拝していない人はいない。だからこそ、全員にここを解放するのが1番なんだよ。』

「効果的?」

『神殿に行きやすくなることで信仰の対象がより身近に感じるようになる。みんなが神への祈りを日常生活の中で普通に行うようになる。宗教の統一には効果的なのさ』

「ああ…なるほどな」

『アグニ、あっちの建物に行くよ』

フォード公国の民族衣装を身につけているシリウスが遠くの石造りの大きな建物を指さした。だだっ広いこの神殿で数個ある建物の一つだ。

「了解です。」

俺は特に何も考えずシリウスの後ろをついていった。
建物の入り口には誰もいなかった。


   誰もいない……しかも中が暗いな。
   あれ?なんだこれ?膜??


石造りの階段を数段上ると、巨大な入り口があり、その入り口を遮るように様々な色に変化する透明の膜が張られていた。

「シリウス、この膜なんだ?通って平気なのか?」

『平気だよ。あぁ、けどこの膜がこの先、数十枚あるんだけど、通る時は毎回軽くでいいから芸を出して。』

「ん?そうなんだ。わかった。」

『よし。あ、あとこれは取るね。』

そう言ってシリウスは俺の首と手首に付いている芸石を取った。

「え?なんで取ったの?」

『天空の神々は芸石を使うのを嫌がるらしいよ~ん』

「へぇ~そうなんだ」

そう言って俺とシリウスはその膜の間を何度も通り、最後の膜を通った時、建物の中が急激に明るくなった。

「えぇ?!…明るっ!!!」

『ふふふ。さっきの膜が暗く見せてただけで、本当はずっとこの明るさだったんだよ』

「そうだったのか!それに…すげえ綺麗だな」

上がガラス張りでそれも精巧にカットされてるのか、差し込む陽の光が乱反射し部屋中がキラキラと光っている。明るくて暖かい。
そして案の定、この建物の中にも巨大な大理石の柱が並んでおり、その最奥に祭壇があった。

「シリウス、あれが祭壇か?」

『ああ、そうだよ。あそこがお祈りする場所』

祭壇のところに陽の光が集まるように工夫されているようで、そこだけがまるで別世界のように、一層輝いていた。

「なんか…天空人の像とか何もないんだな」

『うん、「置かない美学」的な感じだよ。』

「へぇ~」


コツ…。

後ろから足音が聞こえ、シリウスと振り返った。


   あ… この人がシュエリー大公だ。


一瞬でわかった。

差し込む陽の光を一身に浴びて長く伸びる金色の髪が発光しているかのように輝いている。そして巨大な緑の宝石のような瞳。白く美しい肌に、早摘みの果物のように可憐な唇。白に金の装飾の神殿の服を着ている姿はより一層神々しい。

神聖さ、清純さを感じる、美しい女性だった。

『………シリウス様?』

『あぁ、シュエリーじゃないか。久しぶりだね』

『まぁ、お久しぶりでございます。本当に久しぶりですわね。以前お会いしてからもう10年になりますわよ。』

『えぇ?嫌だなぁ。もうそんなに経ってたのか』

『もう貴方様は来られないのかと思ってましたの。またお会いできて嬉しいですわ。けれども…シリウス様?久しぶりすぎて神殿のルールはお忘れですか?』

『ん?』

『この建物に、どうやって入れたのですか?私が心優しい人間でなければ、彼は極刑ですわよ?』

そう言って、その可憐な女性は俺の方を見た。


   ………え!??俺?!!俺極刑?!!!


「お、おい!シリウス!どう言うことだよ!!」

俺がシリウスの肩を揺さぶって聞くと、シリウスはその女性に不適な笑みを見せた。

『君は親切な人間ではないだろう?何度も何度も僕を捕らえようとしといてよく言うよ』

その女性は無垢で純粋そうな美しい笑顔で言った。

『毎度毎度あなたに逃げ切られて、その度に我が国軍のレベルに失望していますわ。本当に屈辱です。』

『で、君は今、僕に貸しができたと思っているね?』

『あなたが笑顔を見せた時点でそれは無理だとわかりましたわ。けれど……あなたの弱点かもしれないと…今大変に浮かれていることは事実ですわね』


  麗しき御仁同士が笑顔で口喧嘩してる……
  ……めっちゃ怖いんですけど。


その清純な女性は綺麗な笑みを浮かべたまま、こちらに歩み寄る。

コツ コツ コツ………

『少年、あなたは 誰ですか?』

俺の方をじっと見つめる目線。

疑い、疑惑、そして少しの嫌悪、興味…

ただの笑顔で、様々な感情が見える。

「……僕はアグニと申します。今シリウスとともに旅をしています。」

『……シリウス様?』

彼女は俺から目線を外し、シリウスに説明を求めた。シリウスは…やはり上手うわてだ。何も読み取らせない笑顔で言った。

『彼は、ここに入る資格を有している。』


『天使の血筋だ』


シリウスのその一言はきっと衝撃だったのだろう。その女性は目を大きく見開き、芸素が不安定に溢れ出た。

『……意味がわかりませんわ?』

『ふふっ。君はいつまでたっても頭でっかちだね。』

『彼が天使の血筋ではないことは一目見ればわかります』

『そう思うなら、君は節穴だな。』

『黒髪なんて…前例がありません』

『僕の髪色も他にはいないよ。それにアグニは君よりも明るい…僕と同じ色の瞳を持っている。』

『…………』

その女性は完璧に押し黙った。もう笑顔も作っていない。シリウスは最後の決め台詞とばかりに、まるで演説かのように堂々と言った。

『アグニは天使の血筋しか入れないこの場所に入ることができた。彼は明確に天使の血筋であることが、今証明された。』


   え・・・初耳なんすけど。
   この場所ってそういう場所だったの?
   あ!だから極刑って話だったの?!!
   あああああああびっくりしたぁ~!


俺が内心で物凄く安心している傍ら、その女性は信じられないものを見るかのように俺のことをガン見している。先ほどの綺麗な笑顔はもう吹き飛んでいる。

『……アグニ?その名前はなんなんです?本当の名前はなんなんですか?』

「あ、アグニも本当の名前ですよ。」

『……は?』

「僕ずっとアグニって名前で呼ばれてますし、これからもアグニって呼ばれる気でいるので、そっちの名前使ってください。もう一つの名前はシュネイです。」

『天使の血筋の…高潔な名を……?』

いよいよその女性は顔面を取り繕わなくなってきた。もう何が言いたいのか顔でわかる。すると、その彼女の顔を見てシリウスが噴き出した。

『あははは!!シュエリ―。君さ、やっぱりおしとやかを通すのには無理があるよ。まぁ随分とになったとは思うよ?けどもう途中からそのキャラ剥がれてたよ』

『…はぁ、うるさ。ここには天使の血筋しか入れない。なら別にいいだろうが。……はあぁ。こんな見たこともない前例をぶち込んでくれてどうもありがとう、シリウス様。』

『気に入っていただけたようでよかったよ』

『ふざけるなよ?』

『ははっ。いつまでも治安が悪いなぁ。もういい年なんだし、子どもも大きいんだから。もっと取り繕うの上手くなりなさいな。』


   ん?子ども?いい年?え??


「え、シュエリ―大公様は…お子様がいらっしゃるんですか?」

『は?いるわよ。もう今年19歳よ。私の事、いくつだと思ってるわけ?』

「ファッ!?????19?!」


   いやいや嘘だろ?!!
   俺と見た目あんま変わんないじゃんか!
   見た目年齢で俺のちょっと年上かな?くらいだと思ってたよ!


『そんなこと言って。アグニだって60年は生きてるじゃんよ~』

『はぁ?!!60?!!』

次はシュエリ―大公の方が大声を出した。

「あ、僕そうです。たぶん…」

『……あり得ない。年上かよ。』

「…お互いびっくりですね……」

『ほんとだよ。いくら天使の血筋はあんまり老けないからって言っても…60過ぎれば老けるのに…』

『ははっ。それはアグニに子供がいないからだよ。子どもがいない限り天使の血筋は老けない。まぁ寿命はあるけど。』

『…この世の中、天使の血筋の最大の義務は子どもを作ること、天使の血筋の血筋を確実に残すこと。そうなってるじゃない。いつまでも独り身なのなんてシリウス様とシーラ様くらいだろ?』

「え?シーラ?」

急にシーラの名前が出てきて思わず反応してしまった。

『そうよ。あ、シーラ様ってご存じ?』

シュエリ―大公が俺にそう問いかけた時、横のシリウスが笑顔のまま言った。

『アグニは知らないかな。僕も数回見た程度だけど…この帝国で唯一天使の血筋なのに「踊り子」だと言い張ってる謎の人物なんだよ』


   これは……合わせたほうがいいのか?
   けどまぁ普通に知らない情報だ。


「へぇ…踊り子?」

『うん。まぁでも踊り子って言ってもそんなに踊らないらしいけどね』

『シーラ様を敵に回したらもうおしまいよ。帝国中の権力者が敵になるわ。彼女は世界中にパトロンがいるって思いなさい。生きたかったらあなたみたいな世間知らずのガキは近づかない方がいいわよ。そもそも嫉妬で他の権力者に殺されかねないぞ。』


   おおおおおいいい??!!シーラ?!
   えっ、それ俺の知ってるシーラ?!
   そんな激ヤバの人だったの?!!!!


さっきから情報過多で俺の頭は爆発寸前だ。なんでシリウスはシーラを知らないフリしてるのかわかんないけど、とりあえず俺が知らないフリをするべきなのはわかったため、「へぇ~そうなんだ~」みたいな表情を必死で作る。

俺の必死さが天の神に伝わったのか、話題が変わってくれた。ナイス!

『まぁ、それは置いといて。アグニ…だっけ?あなたはどうするの?ここに入れたってこと、帝国全土に公表する?』

この神殿の建物に入れた時点で天使の血筋であることが確定した。つまり俺がシュエリ―の力を借りてそのことを公表すれば俺は確実に天使の血筋だと認められるってことだ。

『いや、しないよ。』

けれどもシリウスはきっぱりと断った。

『…どうして?』

『残念だけど、君の意見だけでは不十分だ。もっと…もっと大勢に、確実にアグニが天使の血筋だってことを認識させる必要がある。報告だけで天使の血筋だと認められるのでは足りない。君もさっき言った通り、んだから。』

『……それもそうね。けどそんな機会があると思う?』

『あるよ。そのうち。きっとアグニが自分で作るさ』

「えっ俺が?」


   そんなこと言われてもよくわからんな。
   何をしていいのかもわかんない。


『大丈夫大丈夫。まだわからないけど、僕はそう信じてるからさ』

「……毎回思うけど、弟子に訳わかんない過度な期待を持ちすぎじゃないか?」

『ははっ。ならそれ以上の成果も見せてくれ』

「…わがままかよ」

シュエリ―大公は、呆れたようにため息を吐いた。

『わかったよ。協力するわ。今回は教会の沽券にかかわる事案だもの。このことは借りにはできない。感謝しろよ、シリウス様。』

『ああ、ありがとう。』

『っは~まったく…。さあ、もう二人とも一緒にここから出るよ。もうめんどくさいから帰ってちょうだい。』

「あ、はい。」

『ふふっ。まぁもういい時間だしお暇しようか』







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