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第2章
58 シャノンシシリー大公閣下
しおりを挟むマルガに案内され応接間に入ると、雌黄色と橙色で統一されたとても暖かい色合いの室内だった。窓や部屋の角に大きめの植物があって、緑色が良いアクセントになってる。
ここもまたセンスがいいなぁ
エメルもマルガも流石だな
マルガがカミュール茶を出してくれた。以前俺はシリウスと森で飲んだが双子は初めての味だった。けど表情が明るいのでどうやら気に入ったようだ。
「で、シリウス。この国の軍部を見るとか言ってたけど、どうするんだ?」
シリウスがカミュール茶を一口飲んで答える。
『うん、とりあえず明日大公に手紙出すから、軍部見るのは明後日かな。』
「あ!手紙!シーラに手紙書かなきゃ!というか…え?大公様の予定は?急に『会いましょ~』って言って会える人じゃないだろ?」
会いに行く相手が一国の王ともなれば、当たり前だが何週間、下手したら何ヶ月も前にお伺いを立てる。そしてもちろん、向こうは一国の王な訳だからやる事も多いだろうし、スケジュールはきつきつだろう。
俺は至極真っ当なことをシリウスに聞いたはずだ。
なのに白金髪の御人は、お得意の呆れ顔をした。
『は~…。アグニ、僕を誰だと思ってるの?』
「え?ふらふら旅をしているシリウス様、ですが?」
『なっ!?そうだけど!!君はすぐ「天使の血筋」の重要性を忘れるね!』
あーそういえばそうだった。
というか俺もそうだったな。
「ああ、ね。で?天使の血筋だとすぐに会えるの?」
そう聞くといよいよ呆れた顔をされた。
『君…ちょっと世の中に疎すぎるよ?「天使の血筋」が面会を求めてるんだよ?それが最優先案件になるんだよ。』
「…ほぉ。そうでしたか……」
『天使の血筋のみが使える便箋があるから、大公にすぐに手紙も届くしね。マルガ、持ってきてくれる?』
「はい。かしこまりましたよ。」
マルガが応接間から出ていき、すぐに戻ってきた。そしてシリウスに便箋と紙を渡す。
『アグニ、これだよ。見てみ?一目で誰からの手紙かわかるでしょう?』
よく見ると白い便箋に金色の柄が付いている。
「ああ…なるほど。金色を使える人間は天使の血筋しかいないもんな。」
『ちなみに天使の血筋以外が使ったら、一般市民なら鞭うちとかだからね。貴族なら…まぁ社交界から外されるのは確実だとして、あとは仕事がなくなる…とかかな。』
「はぁ?!!罪おっも!!!!それだけで?!」
『はぁー……君に説明しといてよかった。君はまだ使っちゃだめだからね?レイとレベッカも。もしこの封筒使っていいよ~って誰かに言われても使っちゃだめだからね?』
「『 わかった~! 』」
「わっかりました~……」
・・・
二日後
シリウスの言った通り、大公様と面会することが可能になり朝に王宮から迎えの馬車が来た。
着いた先は湖にほど近い場所にある、金色と白と露草色の立派な王宮だった。
「ほ~……綺麗だなぁ…」
『すごーい!青色きれい!!』
「おっきい……」
『おっきいよね。けどこの建物は「王宮」。大公閣下の居住場所なんだよ。仕事を行う「宮廷」は別にある。』
「まっまじか……」
さすが「天使の血筋」…
金回りが良いんだな……
「シリウス様、お連れ様。ようこそお越しくださいました。私、バリヤが案内いたします。どうぞこちらへ…」
馬車を出てすぐに、ピシッとした紳士が綺麗な仕草で腰を折って挨拶してきた。
「あ、ありがとうございます。」
「『ありがとうございます!』」
俺と双子が礼を言ったら、バリヤと名乗った紳士が少し驚いた顔をして、一層深く頭を下げ、応接間に案内をしてくれた。
・・・
バッターン!!!
『シリウス!!!よく来てくれた!』
『やあシャノン、久しぶりだね』
『全くだよ!もっと頻繁に来てくれ!』
おおう!めっちゃ明るい親父だ!
応接間に入ってきた人を一目見て大公様だとわかった。「天使の血筋」だ。大公様は豊かな金色の髪をオールバックにした、緑色の目の渋い紳士だった。
『シリウス、元気そうでよかったよ!おっ。この3人は?』
『ああ、紹介するよ。彼はアグニ、そしてこの二人はレイとレベッカ。』
「アグニと申します。初めまして」
「レイです。」
『レベッカです!』
俺ら三人の自己紹介を聞いて、大公様はにっこりと笑った。
『アグニ、レイ、レベッカ。よろしくな。この王宮の庭園は綺麗だぞ。そこでお茶でもどうだ?』
「あ、はい!是非!」
「『ありがとうございます!』」
・・・
案内された庭園は、めちゃくちゃ綺麗だった。
湖とほぼ同じ高さに庭園はあり、まるでそのまま湖と繋がっているかのように思える。花も緑も鮮やかで、とても贅沢な空間だ。
双子が庭園を散策していて、俺は大公様とシリウスと三人でお茶を飲んでいた。
『シリウス、彼が前に言っていた少年かい?』
『ああ、そうだよ。』
「え?なんですか?」
俺の話は共有されてたらしい。大公様が面白がるように俺を見た。
『へぇ~。本当に真っ黒の髪なんだなぁ。なのに「天使の血筋」なんだね?』
「えっ…!!!!!」
なんでご存じ?!
シリウスさん?!言ったんですか?!
俺が急いでシリウスの方を見ると、スカした顔で茶を飲んでいた。大公様は俺が焦ってるのがわかったのだろう。大きい笑い声を出した。
『あはははは!大丈夫だ。以前シリウスから聞いていたんだよ。スリーターの大公が長年ずっと隠し続けている「天使の血筋」がいるってね。』
「えっそうだったんですね……」
『アグニ、君のもう一つの名前はなんなんだい?』
「『シュネイ』と言います。」
『ほぉ……?社交の場では聞いたことがない名だな。本当にずっと隠されていたんだろうね?』
そう言って大公様はちらりとシリウスの方を見た。するとシリウスは大公様ににっこりと笑って答えた。
『シュネイは、よく知る人物だ。』
その一言で大公様が目を大きく見開き、俺の方を凝視した。
え、なに…。なんの話?
誰がよく知ってるって?
シリウスが?それとも俺が?
言っている意味がわからず、大公様とシリウスの顔を交互に見ていると、大公様が再び大きく笑った。
『そうかそうか!!あははは!!!あ~自分の無知が嫌になるな。シュネイ…ではないな。今はアグニか。今後とも仲良くしてくれ。是非、シリウスを支えてやってくれ。』
「??…あ、はい。もちろんです。こちらこそよろしくお願いします大公様。」
差し出された手を握り返すと、大公は明るい笑顔で言った。
『私のことはシャノンと呼んでくれ。知ってるだろうが、この国の名はシャノンシシリー公国だ。そして生まれてきた天使の血筋が男なら「シャノン」、女なら「シシリー」と呼ぶ。だから私の名はシャノンなんだよ。』
ほぉ!!!そんな工夫があるのか!
面白いな!
「そうなんですね!では、シャノン様。よろしくお願いします!」
『ああ!!あっははははは!』
元気で明るい紳士でよかった。シリウスとも旧知の仲のようだし。良好な関係を築けそうだ。
『あ、そうだシャノン。手紙にも書いたけど軍の練習を見せて欲しいんだよ』
『ん?ああ、そういえばそうだったな。もちろんだとも。すぐ行くかい?』
『いつでもいいよ』
『そうか。ではこの紅茶を飲んだら向かおう。宮廷は王宮の隣だが馬車で移動せねばならないからな。』
『そうだね。じゃあアグニ、そろそろ双子を呼んできてくれるかい?』
「ん?おうわかった。」
その後、シャノンとシリウス、俺と双子で2ペアに分かれて馬車に乗り宮廷へと向かった。宮廷には数分で着いたが、宮廷内の最奥に駐屯地があるようので、俺たちはそのまま馬車で目的地まで進んでいった。
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