59 / 174
第2章
55 同居人
しおりを挟む「……んっ」
「あ、起きましたか?」
あの女性が倒れた後、シリウスと二人で彼女を彼女の部屋に運びこんで寝かせた。
そして今俺はシリウスから、「目覚めるまで待機」という最重要役得任務を与えられている。こんな任務を与えてくださったシリウス様を崇めたくて仕方がない。
けど彼女からしたら、起きて一番最初に目にしたのが知らんガキでさぞかし驚いたことだろうと思い、早々に自己紹介に移ることにした。
「あ、俺、アグニっていいます。今この家に住んでます。シーラさん…であってますか?」
俺がそう聞くとベッドから上半身だけ起こし、魅惑的な笑顔で答えた。
「シーラでいいわよ。アグニね。よろしく。」
なっ!!!エガオ…!!!
笑顔は凶器にもなるのか…!
人自体にすら免疫が無いのに、こんな絶世の美女に微笑まれたら、もうあわあわしかできない。
「あ、今シリウス…でかけてて。たぶんすぐ帰ってくると思います。」
「なぁに?敬語もいらないわよ。ふふっ。」
「え、あ、そう……シーラさん、じゃなくてシーラ、ここに住んでたんだよね?」
そう。森の家の同居人は、シーラだったのだ。今現在シーラが寝ている部屋は、その同居人の部屋である。シリウスの野郎は事前にそれを俺に伝えるってことができなかったのか。
「ええ、そうよ。あのアホがあなたに会いに行く前までここで一緒に住んでたのよ。一年で帰るって言っておいて、あのバカ、一年以上も手紙も連絡も言伝も一切無し!だから私、探しに行ってたのよ。けどすぐ町から居なくなるし…帝都に居続けてくれて助かったわ。」
えええええええええ……
シリウスの野郎…!!!!
よくこの人を置いていけたな!
「そうだったんですね…すいません俺全然知らなくて…ご迷惑をおかけしました…っ!!」
「敬語、無しって言ってるでしょう?」
そう言って美貌の女性は俺の口に手を当てた。俺の心臓はとうに爆はぜている。
「ごめん…。あ、そうだ。これ、なんかよくわからないけどシリウスからお花…」
そう言って俺はシリウスから預かった花を数本シーラに渡した。花束ですらない。けれどもシーラはその花を受け取り、花も恥じるくらい美しく微笑んだ。
「ふふっ…『ごめん』じゃないわよ。ほんとに…」
「え?なに?」
「いいえなんでもないわ。ありがとうアグニ。それと一つ頼んでもいいかしら?」
「いくらでもどうぞ!」
「ふふっ。ありがと。このお花を生けるコップか花瓶か、なんでもいいから持ってきてくれる?」
『これでいい?』
シリウスが小さい花瓶を片手にシーラの部屋に入ってきた。シーラはシリウスを見て、笑顔のまま、ため息をついた。
「いいわよ、お水入れて」
『はいはい』
シリウスは花瓶の中に芸で水を満たした。そしてシーラの枕元の机に置く。シーラは丁寧にその花瓶に花を入れた。
「あ、じゃあ俺そろそろ行くわ。シーラ、お大事にね。」
「あら、どこに行くの?」
「ちょっと出かけたいところあって。夜になる前に戻るから!」
『アグニ、気を付けてね』
「はいよ~。行ってきます!」
「『 いってらっしゃい。 』」
シリウスとシーラの二人に見送られて、俺は部屋を後にした。
・・・
「それで?謝る気はあったのね?」
シーラが花を見ながら言うと、シリウスは頭を掻き申し訳なさそうな顔をした。
『いやぁ…なんかつい…忘れちゃって…ごめんね』
「よく私の事忘れられるわね?そんな言い訳が通用するの、あなただけよ」
『いや、忘れてないよ。連絡するのを忘れてたってことね』
「どっちも一緒だわ」
『そうだよね……』
シーラはベッドの上で腕を組んでシリウスを見る。
「けど……彼なのね?」
『うん、そう。』
「思ってたよりずっと格好良くてびっくりしちゃったわ。それに言ってた通り、あなたと同じ色の瞳なのね。」
『ああ』
「彼は自分が天使の血筋なのは知ってるの?」
『ああ、もう知ってる。彼の名前はシュネイだ。』
「えっ…シュネイ……!!!?」
『ね、僕もびっくりしちゃったよ。まさか生きてたなんて。』
「……そうね……」
『なに?そんなに驚いた?』
「何言ってるの当たり前でしょう?まだ驚いてるわよ。」
『ははっ。僕も最初そうだったな。』
シーラは優しい笑みでシリウスを見た。
「けど…嬉しいわね。」
シリウスもそれに答えるようにシーラを見た。
『うん。やっと、やっとだ。最初の一歩が動いたんだ』
「……えぇ。」
『シーラ』
シリウスは真剣な眼差しで、金色の目をシーラに向けた。
『 ここに、いるかい? 』
シーラは少し目を見張り、すぐに花が綻ぶように笑った。
「何言ってるの。もちろんよ」
シリウスは悲しそうな、けれどどこか安心したような顔をした。
『…そうか。』
「シリウス、私のことは気にしないで。けれども!今回みたいに連絡が一切ないのは勘弁よ。私がそれを嫌がることはわかってるでしょう?」
『ははっ。ああ、わかったよ。』
「それといつも通り、お土産もね。」
『はいはい。』
・・・
コンコン…
「シリウス、シーラ、ただいま」
『あれ?アグニ?』
「あら。もうこんなに時間が経ってたのね。」
その日の終わりを告げるかのように濃い橙色が部屋を彩っていた。
「シーラ、これ。シリウスからシーラは短剣を持つって聞いて…」
俺は余った素材と、帝都で買った素材を組み合わせて誰にあげるでもなく短剣を作っていた。今俺がでかけていたのは、その短剣を置かしてもらっていたフェレストの鍛冶場へ行っていたからだ。
透明度のある白縹色の剣の芯に金色の線が見える。また刀身の側面と柄には群青色と金の模様が入ってる。思った通り、シーラの綺麗な青い目とよく似た色だった。
「これ、私に?」
「うん。もしよかったら、貰って。」
シーラは貰った剣を見て驚いているようだった。けれどもすぐ、その美しい顔を上げて俺に礼を言った。
「アグニ、ありがとう。使わせてもらうわ。」
「あぁよかった。うん、是非使ってあげて」
「ええ。嬉しいわ。ありがとう。」
「あ、それと今更だけど、俺もここに住んでいい?」
俺が聞くとシーラもシリウスもきょとんとした顔でこちらを見てきた。
『え?なんで?』
「え?だってここシーラの家でもあるんだろ?ならシーラにも許可貰わなきゃだろ?」
俺的には物凄い当たり前のことを言ったと思ったのだが、どうやらシーラには面白かったらしい。美人が肩を揺らして笑っている。
「ふふっ…あはははは!なによアグニ、あなた可愛いわねぇ!もちろんよ!」
「ああ~よかった!ありがとうシーラ!」
『アグニ…君は真面目だね』
「あら、手紙すら書かないどこかの不真面目さんよりよっぽどいいわよ。」
『あっ僕、双子呼んでこようかな』
「…逃げたわね……」
シーラが肩を竦めてシリウスが出てった扉を見る。それが妙に面白くて思わず笑ってしまった。笑っている俺に、シーラが大きくため息を吐いて、手を差し出してきた。
「アグニ、これからよろしくね。」
俺もシーラの手を握り返した。
「ああ!よろしく、シーラ!」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

(短編)いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる