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第2章
54 絶世の美女
しおりを挟む双子とシリウスと4人で帝都を見て回ったり森の中で芸の練習をしたりして数週間が経った頃、俺と双子が朝食を摂るのを見ていたシリウスが、突然ピクリと体を固め、その後大きなため息を出した。
「なに?どしたの?」
『…ふー……アグニ、レイ、レベッカ。今から人が来る。攻撃はしないでいいよ。全力で自分のことを守ってなさい。』
「『「 え?? 」』」
その一言で俺ら3人は全身に身体強化をかけた。
ついでに俺は芸素を周囲に飛ばし、様子を見る。
あ、ほんとだ。誰かいる。
けど……歩いてきてる?
そこまで攻撃的には感じないな。
『ふーやれやれ。ほんと………宥めるのが大変そうだなぁ。』
なんてことを言いながらも、シリウスはどこか嬉しそうで楽しそうな顔をしている。仲の良い友人なのかもしれないな。
「シリウス、俺が扉開けようか?」
『え?…あーいいや。僕外に出るからさ。なんならついてくるかい?』
「え、いいの?」
『もちろんいいよ。けどさっきも言ったけど、何があっても攻撃はしないで。僕が相手だから。自分と双子の面倒をよろしくね。』
「お?おう。わかった…。」
わざわざ念入りに繰り返した事に少々驚く。そんなこと今までなかった…と思う。
シリウスの後ろを付いて、俺も双子も家の外に出た。そして双子は家の上で待機、俺はシリウスの近くで待機する。
するとすぐ、 一人の女の人が現れた。
「・・・・・・え?」
驚きのあまり、言葉を失う。
今までに見たこともないほど美しい「天使の血筋」の女性だった。
木漏れ日が差す森の中
咲き誇る大輪の薔薇のようにゆっくりと雅に歩くその様は筆舌に尽くしがたい。
シリウスほどではないが色素の薄い、輝くような金色の髪をさらりと垂らし、春の晴天を閉じ込めたかのような青い瞳のその絶世の美女は、他の人とは明らかに別次元の美しさだった。
そして…妖艶なほどに美しい体の曲線美。その人の全てを目に収めたくて、もう頭も目も混乱している。
しかし俺の視界はシリウスの背中にさえぎられた。
俺を背後に庇うかのようにしてシリウスが前に立ち、言った。
『ああ、おかえり。』
その女性が、艶やかな笑顔で発した。
「 ギフト 」
『あ…ただいまだったか…。』
シリウスが諦めた表情になる。
「 風蝶 」
え、待って!やばくね?!
って思ったけど…あれ?
急に聞いたことのない解名に緊張したけれども、特に何も起こらなかった。いや、正確に言うとその女性の周りに一頭の金や水色、黄緑色や紫など様々な色を含んだ美しい蝶が現れただけだった。
その蝶は羽ばたくことなく、ゆっくりとこちらに飛んできた。
え、なに?ちょうちょ?
これをわざわざ出したのか?
俺がその蝶に近づいた。
『あ、馬鹿…!』
「え?」
『身体強化、してるよね?』
シリウスの言葉に答える前に、その蝶が俺の目の前で一度だけ羽ばたいた。
次の瞬間、その蝶の羽ばたきからでは考えられない突風が巻き起こった。
「えっ…うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
グワァァァァ!!!バキバキバキ!!!
蝶の羽ばたきで近くの低木が折れ、飛ばされていく。俺も対処できずにそのまま吹き飛ばされ、遠くの木に身体を打ち付けた。
「いっっったぁぁぁぁぁ……」
身体強化しててよかったぁ!!
これ下手すれば死んでたぞ!!
「アグニ!」
『アグニ!大丈夫?』
双子が急いで駆けつけてくれた。
「ああ、大丈夫…。あの人、やべぇぞ…!二人とも、家の上で待ってよう。身体強化と水鏡も張っとこう…!!!」
『うん!』
「うんわかった…!」
二人と一緒に家の上に行き、シリウスの方を見ると、その女性とシリウスはもう近くにいた。
『……シーラ。』
「私、言ったわよね?」
その女性が世にも美しく笑う。
『……シーラさん。』
「なんて言い訳するつもり?」
『……シーラさま。』
「うるさいわよ ギフト 風蝶 」
なに??!!!!
その女性はシリウスのすぐ至近距離であの爆発的な蝶をもう一頭出した。あの近さであの蝶はまずい。
「シリウス!逃げろ!!!」
シリウスは一瞬で大きく上に飛び、次の瞬間、蝶が羽ばたいた。
シリウスは横に吹き飛ばされることなく、一層空の上の方へと上がっていった。
あーなるほど!!
ああやって避けるのか!
「 ギフト 鎌鼬 」
なっ!!!!
もう次?!!!
その美しき女人は表情を変えることなく、すぐ次の解名で鎌鼬を出した。そして上空にいるシリウスめがけて風の鎌で薙いでゆく。
けれどもシリウスはまるで木の葉がひらひらと空中を漂いながら落ちるように、鎌鼬の攻撃を回避し続けた。およそではないが、俺にはそんな芸当はできない。
「ギフト 氷刺 」
ええ??!!!
もう次??!!!!
その女性は近くにある川から水をそのまま頂戴し、空を覆ってしまうほど大量の氷の針を作りあげた。陽の光に氷が反射して、この場一体が光り輝く幻想的な風景に代わる。そんで……その大量の針は全てシリウスに向いている。
女性が手を下ろした瞬間、氷の針が次々とシリウスうを襲う。
「うわ!わ!アグニィ怖いよ…!」
『アグニ、シリウス死んじゃう!』
「ああ。ちょっとこれはまずいな…」
けれどもシリウスは風の芸を使っているのか、当たることなくそのまま地上に向かって降りてくる。
「シリウス…強ぇぇ……」
『す、すごい…!!!!』
「うん!…ああ!!」
シリウスが避けた氷の針が思わぬ動きをした。シリウスが避けた後、一つの氷の針がそのまま逆戻りしたのだ。どうやら女性が風の芸で氷の動きを操っているようだ。そんなことができるなんてとんでもない精度…。
『……っ!!』
氷の針がシリウスの頬をかすめ、血が滲んだ。初めてシリウスの負傷を見る。
シリウスはなんだが嬉しそうで、それでいて楽しそうだった。
シリウスは天使のような笑顔で空中を加速し、その女性の元へ降りていった。
『 ギフト ------ 』
シリウスはその女性の元へ降りつつ、空中で彼女の両頬に手を当て解名を出した。
何の芸かは風の音や氷の砕ける音でよく聞こえなかった。
その清艶な女性は 花が散るかのように、ゆっくりと地面に倒れた。
その傍らに降りたシリウスは、愛おし気にその女性を見ていた。
その光景は物語の中のように美しくて
俺ら3人は暫く言葉を発せなかった。
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