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第2章
50 4人での旅
しおりを挟むシドの街を出る前にヘストとイナが、俺とレイとレベッカに会いに来た。
「結局アグニはここからいなくなるんだな」
「うん。ヘスト、お前はどうするんだ?」
「俺は正規軍にスカウトされたよ。それを受けるつもりだ。」
「え?!そんなのありなの?!」
傭兵から軍にそのまま入る道があるだなんて知らなかったので結構驚いたが、ヘストはため息をついて答えた。
「あのなぁ…傭兵から軍への中途入隊はよくあるぞ?ほとんどの人がそれ目当てで傭兵隊に応募するんだからな?」
「ええっ……そうだったのか…」
ヘストはくすくすと笑いながら言った。
「お前…せっかく傭兵隊副団長だったのに…絶対に入隊できたのに…もったいないなぁ。けどまぁ、今この国の軍部めちゃくちゃだしな。行きたいところがあるなら、行っちまった方がいい。」
「…ヘストは、ここに残るのか?」
俺が心配げに問うと、ヘストはいたずらっぽく笑った。
「俺はこの国出身だしな。憧れてた軍にやっと入れるんだ。まぁけどこんな事件も起きたし、合わなかったら気にせずやめてやるけどな!」
「ははっそうか。…イナ、元気でな。ドルガとみんなにも伝えてくれ。」
俺はヘストの隣に立つイナに向かって声をかけた。イナはあの事件から一回も俺と目を合わせていない。
「……アグニ、本当にごめん」
「もういいって。気にすんな!」
俺が明るくイナの肩を叩くと、ようやく決心がついたのか、イナが俺の顔を見た。
「アグニ…俺も、皆も…シリウスを殺そうと思ってた。金色の髪見て。けど、いつの間にか金色の瞳を殺そうとしてた。…みんな、アグニのことも殺そうとした。」
「へっ?そうだったの?俺も?」
イナは頷いて、じっと俺の瞳を見た。
「わからない。けど…目、離せなかった。」
「……そうか。でも今は平気なんだな?」
「うん……もう大丈夫。レイとレベッカを…よろしく」
イナが頭を下げた。双子はイナに近寄って抱きしめた。
『イナ、行ってくるね』
「行ってきます」
「イナ、二人の事…任せてくれ。」
イナはやっと、笑顔を見せてくれた。
俺らはシドの街を出た。
冬の寒さも弱まり、春の風を感じる頃だった。
・・・・・・
「シリウス、どうする?次はどこ向かうんだ?」
広い平原を4人で歩きながらシリウスに聞くと、白金色の髪を風に遊ばせながら答えた。
『一度帝都に戻ろう。二人に家を知っておいてもらいたいし。人に慣れてもらいたいからさ』
「ほぉ~なるほどね。レイ、レベッカ。結構遠いから、覚悟しろよ?」
振り返って二人を見ると、二人とも目をキラキラさせていた。
「帝都?帝都って……帝都??」
『いっぱい人もお店もあるんでしょ?!行く行く!』
俺も徐々に二人の性格が見えてきたな。常に元気な方はレベッカ。レイはいつも慎重だし比較的静かだ。双子だが、どちらかというとレベッカの方がお姉さんぽくてレイは弟っぽい。
シリウスが二人を見ながらに爽やかな笑顔で作った。
『二人はもちろん芸獣と戦ったことあるよね?』
『あるよ!』
「島の周りでよく狩ってた」
二人から証言を得たシリウスは遠慮なく言い切る。
『そう。じゃあこれから帝都までの道は二人だけで芸獣の相手をして』
「…は?おいシリウス!二人ともまだ12歳とかだろ?そんなの無茶だよ!な??」
二人を急いでかばうが、レベッカははっきりと言い切った。
『わかった。二人で狩る。』
一方レイは少し困ったような表情で小さく言った。
「え…レベッカ、危ないよ…、島でも二人では狩らなかったでしょ…」
『何言ってるの!これからは二人しかいないの!やるしかないでしょ!』
「えぇー……」
なっ、なんて強い子…!!!
俺だって未だにぶーぶー言ってるのに…
シリウスはレベッカの頭を撫でて美しく笑った。
『強いねぇ。じゃあまずあれ、頑張ってね』
シリウスが指さしたのは空を飛ぶ数匹のワシの芸獣だ。
「え、シリウス。あれは芸出さないと無理だろ…」
ただの鳥であれば矢でも十分狩れる。しかし相手が芸獣の場合は下手に矢を使うと逆上させる恐れもあるから危険だし、そもそも攻撃にならない。何かしら矢に芸を乗せる、もしくは「 鎌鼬 」など遠距離攻撃の芸を出すしかない。
「二人とも、身体強化以外の芸ってできるのか?」
俺の質問に二人とも首を横に振った。しかしシリウスは構うことなく、二人に告げた。
『時間かかってもいいから、倒してきなさい。道具も何使ってもいいから』
「おいシリウス!!」
『…わかった』
「……はい」
二人は背負っていた荷物を下ろし、レベッカは剣を、レイはシリウスから弓矢を貸してもらってその芸獣の方向に向かっていった。
・・・
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『はぁ、はぁ、っレイ!逃げて!!』
「あっ!!!!!!!」
最初二人が剣や矢で攻撃し始めてしまったため、ワシの芸獣は二人を敵と判断し、その後ずっと二人を攻撃し続けている。ワシは上空からの氷の芸と、急降下して直接攻撃する2つを使い分けていた。
一匹であればどうにかなったかもしれないが、三匹の芸獣が代わるがわるずっと攻撃をしてくるため、逃げることしかできなくなってしまった。
いくら二人とも身体強化ができるからといって、まだ子どもの体力しかない。徐々に疲れが見え始め…今さっきレイが氷の礫に当たり、倒れた。
「おい!!!シリウス!!!!」
『………。』
俺はさっきからずっと焦っているが、シリウスは静かに二人を見続けている。
「シリウス!レイが危ない!助けてもいいだろ?!」
『……だめって言ってるよね?』
「だって!今もう倒れてるじゃんかよ!このままじゃ本当に危ないぞ?!」
レイの左の肩と足から血が出ている。身体を起そうと一生懸命もがいている。レベッカはレイを背後にかばいながら剣を構え、3匹の芸獣を交互に見ていた。
しかし獲物が倒れたのに、芸獣が見逃すわけがない。
ワシの芸獣は二人の上をゆっくり旋回し、三匹同時に氷の芸を出した。
「レイ!レベッカ!!!」
ドオォォォーン!!!!‥‥‥
砂埃が舞った。
二人の姿が見えた時、血の気が引いた。レイもレベッカも倒れており、二人の回りには血の付いた氷の粒がたくさん落ちていた。
「……うっ。」
『………っ!』
「レイ!レベッカ!!!!!」
二人とも意識がある…!
「シリウス!!!!!!」
俺がシリウスの方を振り返って叫ぶと、シリウスは眉間に皺を寄せ、ため息を吐いた。
『……アグニ手伝ってきて。』
その一言を聞き終わるか否かの間に俺は全力で二人の元まで駆けつけた。
「 ギフト!! 雷刺!! 」
バリッ!!!……バリリリリ!!!!
俺の手から雷が生じ、空中で三又に分かれてそれぞれの芸獣を撃ち落とした。
「レイ!レベッカ!!…っギフト 治癒!」
すぐに二人に治癒をした。二人とも意識ははっきりしており俺の方を見ている。
「アグニ……ごめんね」
『……ありがとう』
「そんなんいいから!喋らないで休んでろ…!」
二人はけっこう疲れていたのだろう。治癒が終わった時には眠りについていた。
・・・・・・
「………あれ?」
『起きたかい?』
「……シリウス……」
『お腹すいてるかい?さっきアグニが二人にってサンドイッチを作っといてくれたよ』
「……食べる。」
『はい、どうぞ』
「……ありがとう」
いつの間に夜になってたんだろう。狩ってた時は昼過ぎだったのに…
隣を見るとレベッカとアグニが横になって寝ていた。僕はシリウスから渡されたパンを食べた。
『レイ。さっき二人を助けた時のアグニを見てた?』
「うん。」
『どう思った?』
「……強かった。すごく。」
アグニはすごかった。
僕とレベッカはずっと攻撃できなかったのに、アグニは一瞬でやっつけた。
『そうだね。アグニは強くなったんだよ。そして、君たちは弱い。』
「………」
『今日、もし本当に二人だけだったら君らは死んでたかもね。』
「………」
『君はアグニを、そしてレベッカを守れるまで強くならなければならない。』
「……うん。」
『どうすればいいと思う?』
「わからない…」
シリウスは柔らかく笑って言った。
『なら、二人で考えなさい。何がアグニのためになるか、どの力が必要か。どうするのが一番か』
「…はい。」
『うん。…とりあえず今日はもう一度寝なさい。明日から同じように帝都に向かうからね』
「はい。」
レベッカの隣に横たわり、あれ?と思った。
「……シリウスは寝ないの?」
『みんな寝ちゃったら危険でしょ?あほなの?』
「……そっか……ごめん。」
『ははっ嘘だよ。前にアグニに同じこと聞かれたなぁ。僕は寝なくても平気だから、お子様は遠慮せずに寝なさい』
「…うん、おやすみ。」
『はい、おやすみ。』
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