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第2章
49 夢での会話 現実での会談
しおりを挟むあ、これ 夢だ。
自分の意志とは無関係に身体が勝手に動く感じ
懐かしく、久しぶりに感じるこの空気
上には真っ青な空が広がり、俺は芝生に座っていた。
空の上なのかな?家がないな
『ただいま』
後ろから聞こえた声に振り返った。そこにはシリウスによく似た人物が立っていた。
見たことのない服を着ていて、白金色の髪が風になびいている。
あ、でもこの人…シリウスじゃない。
「お戻りになられたんですね」
おおう!俺の口!!勝手に喋るんか!
『今さっきみんなと戻ってきたよ。あの子は?』
「向こうの島へ行かれましたよ。……なにか、ありましたか?」
その人は少しだけ楽しそうに喋った。
『さっき、あちらの人に会ったんだよ』
「え?来ていたんですか。珍しいですね」
『ね。…そこでね、小さい子供がいて。その子が僕を見て涙を流したんだ』
「……??」
『僕を見て、神様だーとかなんとか言ってた。それでね、まだ小さい子なのに急いで地面に頭をつけてね。驚いたよ』
「……あなたはよくそういうことをされますよね…」
『ね!もう毎回じゃないかな?ははっ。……どうして僕を神って言うんだろうね』
「………」
『彼らは……そんなにも僕と一緒は嫌なのかなぁ 』
その人は泣きそうな顔で 笑っていた。
違うよ。
そんなことないよ。
早く、早く言わないと……
・
・
・
「……シリウス」
『 起きたの?』
あれ、 これは夢じゃないのかな
でも目が見えないし、現実ではないかも
「………」
『あぁ、熱いよね。今消すよ』
そうだ。
言わなきゃいけないことがあったんだ。
「シリウス…お前は人だよ。」
・・・・・・
『今回の移民に対する不適切な処置並びに軍駐屯地での不必要な戦闘を引き起こしたのは、上役幹部の…ひいてはこの国の王である私の管理監督の不十分さにある。そしてその事態を阻止せんと身体を張って止めてくれたアグニ殿、シリウス殿には心から感謝している。……ありがとう。』
事件の1週間後、シド公国の応接間で一国の王と王子に頭を下げられ、感謝の言葉を告げられた。
お、お、おう。俺なんもしてないんだが…
感謝されていいのか…??
シド公国現国王と王子は美しい金髪と青い目のよく似た親子だった。2人とも短髪なのもあって、とても似てみえる。
『アグニ殿、もう身体の怪我は大丈夫か?』
王が心配そうな顔をして質問してきた。
「あ、もう全然大丈夫です!ご心配おかけしました」
『そうか、よかった。………この争いで十数人もの命が失われた。全員、本来なら失われなかった命だ』
「………あの、黒の一族はこれからどうするんですか?」
俺が王に質問すると、シリウスが答えた。
『シド国王、先ほども言ったが黒の一族には会うな。彼らは間違いなく我々を殺そうとする。……しばらく、時間が必要だ。』
シリウスの言葉を聞いて、王も王子も悲しそうな顔をした。彼らは黒の一族に直接謝ることができない。
もし会えるなら二人は必ず頭を下げただろう。それほどまでにこの親子は誠実な人間だ。けど会うだけで向こうが殺そうとするなら、一国の主は会うわけにはいかない。一族に犯罪を犯させないためにも、会うわけにはいかないのだ。
『……わかりました。ドルガ殿と再度直接面会し、今後のあり方を考えていきます。彼らはもう、私の国民ですから。』
・・・
帰り道はシドの王子が直接案内してくれた。
『アグニ様、そしてシリウス様……今回の事、本当にありがとう。』
シドの王子が帰り道に再度頭を下げた。
ガタイも良く、身長の高い人なのに俺達に後頭部が見えるくらいまで頭を下げた。シド国の王子は帝都の第二学院に在学中で、黒の一族が国内に移住したと聞いて急いで国に戻ったらしいのだが、国に着く前にこの騒動が起きてしまったのだそうだ。
「あ、いいえ。僕は結局なんもしてませんし……」
『そんなことない!!船が漂流した時に君が体を張って彼らを守ってくれなければもっと深刻な事態になっていた。その後もずっと彼らに寄り添ってくれた。…それだけで十分すぎるくらい有り難い。……俺こそ、何もできなかったしな……』
『ねぇ、君が第二学院に入ったのはこれが理由?』
シリウスがシドの王子に問うた。シリウスはここでは髪も瞳も隠していない姿だ。王子は少し困った顔をしたが、すぐに頷いた。
『はい……。この国は海沿いですし、西には無主地の平原や森があります。国を守るためにも軍事に力を入れてきましたし、軍部には一定の権限を与えてきました。けれど…徐々に軍部の内側が不透明になってきました。なので次の国王である私自らが軍部に顔を出せるように、第2学院に入ったのです』
ああ、だからか。
第2学院は軍人系の学校だったな。
その話を聞いてシリウスは優しい笑顔を作った。
『その考えはとても良いと思うよ。頑張りなさいな』
王子はシリウスに対し敬礼をした。
『はい!今後一層精進します。アグニ様も、今後ともよろしくお願いしますね。』
「あ、敬称なんてつけなくていいですよ。敬語もいりません。こちらこそ、よろしくお願いします。」
『なら私もそのまま名前でお願いします。敬語も無しで。』
「えっ」
『……そこはお互い合わせましょうよ……』
「わかりま…った。えっと、シド…?って呼べばいいのかな…。あ、でも国王と同じ呼び方になっちゃう?」
王子はふっと柔らかく笑って答えた。
『「シド」で。父上は「シド公国王」だ。すでに「シド」という名前は私に移っている』
「え?…どういうことですか?」
『天使の血筋は子が生まれたら、その名前は子のものになる。だから「シド」は私の名前だ。』
「え?じゃあ…シドが大公になったらお父様はなんて呼ばれるんだ?」
『父上は「先代シド」もしくは「先代大公」とかかな。』
肩書の名前しかないのか。
なんかそれは………寂しいなぁ
「そうなんだ……」
考えていたことが伝わったのだろう。シドは少し寂しそうに言った。
『この呼び方は「天使の血筋」共通だ。いつか、慣れるしかない』
・・・・・・
「アグニ、本当に…我が一族が申し訳ないことをした。お前にはたくさん助けられたというのに…」
「ドルガも、みんなも…そんなに謝らないでくれよ。俺は全く怒ってないよ。」
黒の一族全員が俺に頭を下げた。急に距離が開いたようで少し辛い。
「彼らは今はヨハンネ…ではなくシリウス様には会わない。必ず感情を制御できるようになり、その時に改めて全員で謝罪する。」
「……ああ。わかった。シリウスにはそう伝えておくよ」
「……ありがとう。」
みんな、暗い顔だ。あの日のうちに十数人もの死者が出た。今やっと、そのことを実感できるくらいまで落ち着いたのだ。
「アグニ、シリウス様と一緒に私の部屋まで来てもらえないか?」
「ん?おう、わかった。」
・・・
「ドルガ、シリウス連れてきたよ。入っていい?」
「ああ。」
ドルガの部屋の中に入ると、ドルガの他にレイとレベッカもいた。
「あれ?二人ともどうしたの?」
そう言うと、急にドルガが頭を下げた。
「頼む!この二人をそなたらの旅に連れて行ってくれんか」
「……………えええ?!!」
きゅ、急に?!!なぜに?!
「この二人には私以外家族はおらん。私は二人にここを出て、色々な場所を見てきてもらいたい」
「え……レイ、レベッカ。お前らはどうなんだ?」
二人を順番に見ると、二人とも真剣な顔をしていた。
「私は…アグニと、シリウスと一緒に行きたい」
「僕も…行きたい」
『へぇ…二人とも行きたいんだ。それに君らは僕を見ても平気なんだね?』
シリウスの問いかけにドルガが答えた。
「我々がシリウス様を見て感情を制御できなくなったのは……度を越した信仰の結果だ。原初の本に則り、代々一族は金の色を敵視し、その色を見ただけで身体が勝手に殺すよう動くレベルまで鍛え上げる。けれど…私は偶然だが、この国の王が金の髪であることを知っていた。ゆえに本来は許されないことだが…この二人には宗教教育を行わなかった。」
この二人の親代わりであるドルガは、今後のためにと、二人にあえて教育を与えなかったのだ。
「いつか必ず、一族が陸へ上がる日が来る。そう思っていた。だからこそ…二人には色で差別をしてほしくなかったのだ…」
この一言で、文化が全く違ったんだなと理解した。この世界で金の色が差別されるなんてことはありえない。けれど黒の一族には、金色は「人ではない」と差別される色だったんだ。
「……ドルガの考えは間違ってないよ」
俺の言葉にドルガは切なそうに微笑んだ。
『レイ、レベッカ。一緒に行くかい?』
「…うん!!」
「行く!」
『おお…アグニより元気がいいね。いいよ。一緒においで。』
「ありがとう!」
「シリウスありがとう!アグニも、いい?」
4つの黒い目が俺の顔色を伺っている。
「ああ、もちろん。一緒に行こう!!!」
こうして双子のレイとレベッカを加え、新たに4人で旅を始めることになった。
・・・・・・
数日前 シド公国王宮の一室
『シリウス殿、これでいかがか?』
『見せて。……うん、推薦状はこれでいい。ありがとう。助かるよ』
『いいえ。アグニ殿含め皆の治療をしてくださったのですから…これくらいは。』
シリウスは懐に書き終えたばかりの推薦状を入れた。
『僕のことは不問にしてくれるの?』
『……』
『ははっ。不問にするしかないよね。僕が殺した人らはどうせ殺人と横領罪で死刑だった。帝国法には「法と同等の刑罰を天使の血筋は代わりに行使できる」って明記されてるものね?あぁ、あと「天使の血筋の殺害及び殺人未遂は極刑」って法もあったしね?』
『……帝国法に則ればあなたはあそこにいたほぼ全ての者を正当に誅するができました。そうなさらなかった…寛大なご配慮に…感謝しております。……しかし、どのようにしてあの者たちの不正をお知りになったのでしょうか?』
シリウスはどかっと椅子に座り頬杖をついて答えた。
『別に…聞いただけだよ。僕、耳が人一倍よくてね』
『それだけではありますまい。横領した記録をどう集めたのですか?』
『僕の周りの子たちが教えてくれた』
『………どこで調べたのかは?』
『それは知らない。僕は証拠を集めてって言っただけだし。後は向こうが勝手に動いたし。…あ、けど動きやすかったって言ってたよ』
『ふぅ…。きちんと軍の内部を調査しなければいけませんね。』
『そうだね。それが賢明だよ』
『私は…この国を守りたいのです』
『知ってるよ。けど、足りてないね』
『……どうすればよいのでしょう』
『知らないよそんなの』
シド大公は机に置かれた酒を自身で注ぎ、一気に飲み干した。
『……「天使の血筋」は絶対です。だからこそ、誰も指摘しない。誰も間違いを教えてくれない。私のしたことが全て善であり正解となる。』
『…そうだねぇ』
『この国で私に何かを教えてくれる人はいない。だからこそ、あなたにご指摘いただきたいのです』
シリウスも机にある酒を飲んだ。
そして腰の袋から紋章の入った芸石を取り出した。
『……これは街灯と同じように、芸素を溜める専用の芸石に接続させれば誰でも使える芸石だ。』
シド大公はその芸石を手に取り、目を見開いた。
『なっ…これは、宰相閣下の紋章!!!!なぜ……』
『それあげるよ。宰相と直接連絡取れるから彼に相談するといい。』
シド大公は席を立ち、シリウスに深く頭を下げた。
『………ありがたく、頂戴します。』
『…ああ。』
シド大公は再び席に座り、シリウスの杯に酒を注いだ。
『お礼が推薦状だけでは足りなくなりました。』
シリウスは注がれた酒を飲みながら笑った。
『律儀だなぁ。そうだな、じゃあ……この国の軍部の体系を見直すことと、アグニに息子のシドと喋る時間を与えてくれ』
『そんなもので良ければいくらでも……』
『あ、別にきちんと席を用意して欲しいわけじゃない。今度アグニと二人で城に上がった時の帰り道に、シドを案内役にしてくれ。』
『………その程度でよろしいのですか?』
『ああ。十分だ。』
『…かしこまりました。必ず。』
シリウスは酒の入った杯を目線まで上げて大公に綺麗に微笑んだ。
『よろしく頼むね、シド大公。』
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