再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第2章

47 人ではないもの

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軍内部は見るも無残な状態だった。
建物が壊れ、あちこちから火の手が上がり、道には剣や防具が転がっていて、壁には血の跡があった。

「シリウス。まだ誰も死んでないって言ったよな?」

『ああ。死にそうな人は僕が治癒してたからね。けど、重傷者は大勢いるよ』

「そうだろうよ…!」

シリウスとともに訓練場に一目散に走った。





・・・





「あ……みんな!ドルガ!イナ!!!」

訓練場の奥に軍人らがいて、火の壁と黒の一族に挟まれている。両者が様子見の状態だった。

俺は迷うことなく黒の一族の元へ走っていった。

「みんなやめろ!このままじゃみんな殺されるぞ!」

「アグニ……!!」

「アグニ、来たんだな…」

ドルガもイナもみんなも、とても静かだった。
静かに 激昂していた。

「アグニ、もう遅い。ここまでしてしまえば、どうせただじゃ済まんよ。」

「でも!!ここであいつらを殺せばお前らは確実に死刑だ!」


「もう、構わんよ。」


「…え?」

ドルガが力強くそう言い切った。

「構わんよ。我々は、もう覚悟を決めている」

「……子どもたちは…どうするんだよ……」

「あの子らも一族の者だ。逃げられず捕まれば…覚悟を決めるだろう」

「は?!!!」

俺はドルガに掴みかかった。

「本当にそれでいいのかよ?!お前ら一族は!こうなるために今まで生きてきたわけじゃないだろ?!!」


「…………もう 遅い」


   そうかよ。
   ああ、そうかよ。


「じゃあ…俺も好きに止めさせてもらうよ」

「…なに?」

「あ、ヨハンネ!!!」

イナが向こうを向いて叫んだ。俺も急いでそちらを向くと、軍人と黒の一族のちょうど真ん中くらいのところに、ぽつんと白い衣装で立っていた。

軍人の方から火の矢が無数に飛んできている。砲弾も発射された。

「シリウス!!!逃げろ!!!!」

しかし、シリウスは解名かいなを出すこともなく、氷を木のように広げて、飛んできた全てを氷の中に納めた。

荒れ狂う火の中で突然現れた氷の世界に、一瞬で目が奪われ、皆静まりかえった。
遅れて吹雪いてきた風が、シリウスの髪を覆っていた布を遠くに飛ばした。


その氷の世界の中にいても目を引くほどに美しい白金色が現れ、軍人らも黒の一族らも皆、シリウスを見ていた。

「なっ………」

「……え」

「嘘…だろ…」

「あの方は………『天使の血筋』? 」

軍人らは皆、シリウスを見て驚き、崇敬の念を示すため跪く者も現れた。そんな中、大声を上げる一人の人物がいた。連隊長だ。

「ばっ、馬鹿な!!そんなことっ……!!」

シリウスは連隊長の方を向いて、あでやかに微笑んで見せた。

『連隊長。今までのこと全部、僕が証言すれば……あなたがどうなるかは、わかるでしょう?僕があなたのしたことは大公様に伝わるよ』


   ……なんでそんな言い方をした!!??

   それはと言ってるようなもんだろ!
   どうしてわざわざそんな言い方!!
   まずい…!助けないと!!!


「ドルガ!イナ!力を貸してくれ!このままだとシリウスが危な……イナ?」

後ろにいる二人を振り返るとイナが…いや、ドルガ以外の皆、今までに見たことのない顔をしていた。

全員が剣を握りしめ、狂気に満ちた顔をしていた。

「おい…どうしたんだよ??」

「………はっ!いかん!!!!皆止まれ!!!!」

ドルガの声だけが虚しく響いた。
皆静止を受け入れずに瞳を大きく開き、口々に叫んだ。

「金の髪…それに金の目…あれだあれだあれだ。」

「「あれだ。殺せぇぇぇぇ!!!!!」」

「「コロセころせコロセ殺せころせェ!!』」

「『「 コロセェ!!!!!!! 」』」


   なっ!!!!???
   なんでだ!!???


皆脇目も降らずシリウスに剣を向けて走っていった。
俺は風と身体強化でなんとか皆の前に回り込み、走りながら必死で叫ぶ。

「ギフト!! 水鏡すいきょう!!!! 雷獄らいごく!!!!」

俺は、自分とシリウスのいる場所の両側…軍側と一族側双方に水の盾を張り、その周りを雷の檻で囲った。これで攻撃も防げるし、感電するから直接の攻撃もできないはずだ。

けれどもそんな考えを裏切るように、黒の一族は皆その雷の檻に当たってきた。誰も怯むことなく、ずっとシリウスを狙い続けている。
俺は後ろからみんなを追いかけてきたドルガに問いかけた。

「ドルガ!!!!どういうことだ!!!!」

ドルガは青い顔で汗を垂らしながら答えた。

「…原初の本だ。…その本には、我々の使命が書かれておる。………最初の王が言ったのだ。金の髪のモノは人間ではない。人ではない。殺せ、と!!!!」

「はぁ……?!!!」


   どういうことだ?!
   金の髪…天使の血筋か?

   それが……人ではない?!

   最初の王が言っただと?
   

俺の頭はほとんどパニック状態だった。

感電し身体が焦げても何度もシリウスを殺そうとする。

周りからずっと、聞こえるんだ。

「「『「 ころせ殺せコロセころせ殺せコロセ殺せころせ殺せ!!!! 」』」」

軍の方も動き出した。
ほとんどの者が跪いていたが、連隊長の指示に従う数名が砲弾を準備し始めた。

「今だ!!!!あの卑しい獣どもと一緒に殺してしまえ!!!!!全てなかったことにしろ!!!ここには!!!!砲弾!早く!!!!」

「「「「 おう!!!!! 」」」」


   まずいまずいまずい!!
   ああ!!どうしよう!!!
   どうすればいい?!
   どうしたら収まる?!



  『ふふっ 』


いつもの、聞き覚えのある笑い声

「……シリウス……」

『ねぇ。 帝国民は黒の一族を「人じゃない」と言い、黒の一族は僕のことを「人じゃない」と言う。………僕ってなんなんだろうね? ふふっ』

「……くだらないこと言ってんなよ」

『ごめんねアグニ。だから原初の本は燃やしといたんだけど…結局こうなったね』

「……あ!シリウス!!!」


「発射!!!!!!」


遠くから、炎に包まれた砲弾が数弾飛んでくる。

俺らの周りを囲っていた黒の一族数名に当たり身体が潰れた。

なのに皆、そちらを顧みることなく、シリウスを見続けていた。



   なぁ。

   見えてないのか?

   お前の奥さん、隣で死んでんだぞ?


   なぁ。

   見えてないのか?

   お前の下に、

   仲間が転がってんだぞ?


   なぁ・・・



遠くでドルガが泣きながら皆を止めている。
けれどそれももう、きっと聞こえてない。


……いつの間に、こんなに遠くなったんだろう


砲弾の一つが雷の檻を通り、水鏡を歪めた。
その数秒で、黒の一族は檻の中に入ってきた。



俺は、

昨日一緒に飯を食った友達に腹を刺され、倒れた









・・・









『ごめんよ、アグニ。けど僕、言ったよね、考えてって。この世界では考えが及ばないことがそのまま死に繋がるんだよ。それに…芸もまだまだだねぇ。甘いよ。甘すぎる。』

シリウスは倒れているアグニを見下ろしながら静かにそう言った。

『罰として、しばらく倒れてなさい』

シリウスの周囲には誰もいなかった。

正確にいうなら、すでに後方に飛ばされていた。

それも解名かいなですらない、風の芸で。


シリウスは白金色の髪を優雅に漂わせながら周囲を見渡して言った。


『さぁ。 君らにギフトを与えよう 』







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