51 / 174
第2章
47 人ではないもの
しおりを挟む軍内部は見るも無残な状態だった。
建物が壊れ、あちこちから火の手が上がり、道には剣や防具が転がっていて、壁には血の跡があった。
「シリウス。まだ誰も死んでないって言ったよな?」
『ああ。死にそうな人は僕が治癒してたからね。けど、重傷者は大勢いるよ』
「そうだろうよ…!」
シリウスとともに訓練場に一目散に走った。
・・・
「あ……みんな!ドルガ!イナ!!!」
訓練場の奥に軍人らがいて、火の壁と黒の一族に挟まれている。両者が様子見の状態だった。
俺は迷うことなく黒の一族の元へ走っていった。
「みんなやめろ!このままじゃみんな殺されるぞ!」
「アグニ……!!」
「アグニ、来たんだな…」
ドルガもイナもみんなも、とても静かだった。
静かに 激昂していた。
「アグニ、もう遅い。ここまでしてしまえば、どうせただじゃ済まんよ。」
「でも!!ここであいつらを殺せばお前らは確実に死刑だ!」
「もう、構わんよ。」
「…え?」
ドルガが力強くそう言い切った。
「構わんよ。我々は、もう覚悟を決めている」
「……子どもたちは…どうするんだよ……」
「あの子らも一族の者だ。逃げられず捕まれば…覚悟を決めるだろう」
「は?!!!」
俺はドルガに掴みかかった。
「本当にそれでいいのかよ?!お前ら一族は!こうなるために今まで生きてきたわけじゃないだろ?!!」
「…………もう 遅い」
そうかよ。
ああ、そうかよ。
「じゃあ…俺も好きに止めさせてもらうよ」
「…なに?」
「あ、ヨハンネ!!!」
イナが向こうを向いて叫んだ。俺も急いでそちらを向くと、軍人と黒の一族のちょうど真ん中くらいのところに、ぽつんと白い衣装で立っていた。
軍人の方から火の矢が無数に飛んできている。砲弾も発射された。
「シリウス!!!逃げろ!!!!」
しかし、シリウスは解名を出すこともなく、氷を木のように広げて、飛んできた全てを氷の中に納めた。
荒れ狂う火の中で突然現れた氷の世界に、一瞬で目が奪われ、皆静まりかえった。
遅れて吹雪いてきた風が、シリウスの髪を覆っていた布を遠くに飛ばした。
その氷の世界の中にいても目を引くほどに美しい白金色が現れ、軍人らも黒の一族らも皆、シリウスを見ていた。
「なっ………」
「……え」
「嘘…だろ…」
「あの方は………『天使の血筋』? 」
軍人らは皆、シリウスを見て驚き、崇敬の念を示すため跪く者も現れた。そんな中、大声を上げる一人の人物がいた。連隊長だ。
「ばっ、馬鹿な!!そんなことっ……!!」
シリウスは連隊長の方を向いて、艶やかに微笑んで見せた。
『連隊長。今までのこと全部、僕が証言すれば……あなたがどうなるかは、わかるでしょう?僕が生きている限りあなたのしたことは大公様に伝わるよ』
……なんでそんな言い方をした!!??
それは殺せと言ってるようなもんだろ!
どうしてわざわざそんな言い方!!
まずい…!助けないと!!!
「ドルガ!イナ!力を貸してくれ!このままだとシリウスが危な……イナ?」
後ろにいる二人を振り返るとイナが…いや、ドルガ以外の皆、今までに見たことのない顔をしていた。
全員が剣を握りしめ、狂気に満ちた顔をしていた。
「おい…どうしたんだよ??」
「………はっ!いかん!!!!皆止まれ!!!!」
ドルガの声だけが虚しく響いた。
皆静止を受け入れずに瞳を大きく開き、口々に叫んだ。
「金の髪…それに金の目…あれだあれだあれだ。」
「「あれだ。殺せぇぇぇぇ!!!!!」」
「「コロセころせコロセ殺せころせェ!!』」
「『「 コロセェ!!!!!!! 」』」
なっ!!!!???
なんでだ!!???
皆脇目も降らずシリウスに剣を向けて走っていった。
俺は風と身体強化でなんとか皆の前に回り込み、走りながら必死で叫ぶ。
「ギフト!! 水鏡!!!! 雷獄!!!!」
俺は、自分とシリウスのいる場所の両側…軍側と一族側双方に水の盾を張り、その周りを雷の檻で囲った。これで攻撃も防げるし、感電するから直接の攻撃もできないはずだ。
けれどもそんな考えを裏切るように、黒の一族は皆その雷の檻に当たってきた。誰も怯むことなく、ずっとシリウスを狙い続けている。
俺は後ろからみんなを追いかけてきたドルガに問いかけた。
「ドルガ!!!!どういうことだ!!!!」
ドルガは青い顔で汗を垂らしながら答えた。
「…原初の本だ。…その本には、我々の使命が書かれておる。………最初の王が言ったのだ。金の髪のモノは人間ではない。人ではない。殺せ、と!!!!」
「はぁ……?!!!」
どういうことだ?!
金の髪…天使の血筋か?
それが……人ではない?!
最初の王が言っただと?
俺の頭はほとんどパニック状態だった。
感電し身体が焦げても何度もシリウスを殺そうとする。
周りからずっと、聞こえるんだ。
「「『「 ころせ殺せコロセころせ殺せコロセ殺せころせ殺せ!!!! 」』」」
軍の方も動き出した。
ほとんどの者が跪いていたが、連隊長の指示に従う数名が砲弾を準備し始めた。
「今だ!!!!あの卑しい獣どもと一緒に殺してしまえ!!!!!全てなかったことにしろ!!!ここには何もいなかった!!!!砲弾!早く!!!!」
「「「「 おう!!!!! 」」」」
まずいまずいまずい!!
ああ!!どうしよう!!!
どうすればいい?!
どうしたら収まる?!
『ふふっ 』
いつもの、聞き覚えのある笑い声
「……シリウス……」
『ねぇ。 帝国民は黒の一族を「人じゃない」と言い、黒の一族は僕のことを「人じゃない」と言う。………僕ってなんなんだろうね? ふふっ』
「……くだらないこと言ってんなよ」
『ごめんねアグニ。だから原初の本は燃やしといたんだけど…結局こうなったね』
「……あ!シリウス!!!」
「発射!!!!!!」
遠くから、炎に包まれた砲弾が数弾飛んでくる。
俺らの周りを囲っていた黒の一族数名に当たり身体が潰れた。
なのに皆、そちらを顧みることなく、シリウスを見続けていた。
なぁ。
見えてないのか?
お前の奥さん、隣で死んでんだぞ?
なぁ。
見えてないのか?
お前の下に、
仲間が転がってんだぞ?
なぁ・・・
遠くでドルガが泣きながら皆を止めている。
けれどそれももう、きっと聞こえてない。
……いつの間に、こんなに遠くなったんだろう
砲弾の一つが雷の檻を通り、水鏡を歪めた。
その数秒で、黒の一族は檻の中に入ってきた。
俺は、
昨日一緒に飯を食った友達に腹を刺され、倒れた
・・・
『ごめんよ、アグニ。けど僕、言ったよね、考えてって。この世界では考えが及ばないことがそのまま死に繋がるんだよ。それに…芸もまだまだだねぇ。甘いよ。甘すぎる。』
シリウスは倒れているアグニを見下ろしながら静かにそう言った。
『罰として、しばらく倒れてなさい』
シリウスの周囲には誰もいなかった。
正確にいうなら、すでに後方に飛ばされていた。
それも解名ですらない、風の芸で。
シリウスは白金色の髪を優雅に漂わせながら周囲を見渡して言った。
『さぁ。 君らにギフトを与えよう 』
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる