再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

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第2章

42 小競り合い

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「え?なんですか?」

「だから、あなたが傭兵隊の副団長です」

「え?なんですか?」

「だから!!!!」


   …暫くなに言ってるのかわからなかった


昨日の傭兵隊試験から一転、俺はシド公国非正規軍傭兵隊副団長に任命された。昨日俺と戦った人が団長。名前はマースと言う。俺にあんな怖いこと呟いておいて、意外と気に入ってくれたらしい。

「ようガキんちょ。副団長としてしっかりまとめてくれよ?」

いつのまにか現れたマースが茶色の髪をかきあげて格好良く言った。生きてる年数は俺の方が倍近いが人生経験もここでの立場も年数も向こうが上なのでがっつり先輩だと思わせてもらおう。

「あ、はい!よろしくお願いします!!」

「アグニ、だったな?とりあえず今日は全員のポテンシャルを再度見る。それで各々の役割を決める。それの手伝いをお前もしろ」

「はい!わかりました!」

最初からなかなか責任ある仕事に携われた。と、思ったが……俺は全員と対戦する役だった。
片っ端から木刀で相手し、それぞれの弱点や良い点をマースに伝えるのだ。


   1番疲れる役…!!!!!


何人も相手にした後、昨日会ったヘストが現れた。

「あ!ヘストさん!受かったんですね!」

「そっちもな。しかも副団長だもんなぁ?」

「あー……はい。なんか、そうなりました」

「ほぉ…まぁお前強かったもんな!よろしく頼む!」

「はい!よろしくお願いします!」

そうしてヘストと向かい合って構える。構えてすぐ、ヘストが突きを出してきた。

「…!!!」

今の一瞬でヘストが攻撃、俺が防御の型になってしまった。ここから立場を逆転するのは難しい。両手や片手を上手に組み合わせるヘストの戦い方は今まであまり見たことがなく扱いづらさもあった。

早さもなかなかなものだ。けど・・・軽い。

暫く追い込まれているように演技をしつつ、ヘストが片手での攻撃を連続で繰り出したタイミングで、一気に重さをつけて剣を打つ。

「っつ!!!!」

手に重さが響いたのだろう。ヘストが痛そうな顔をした。けれど剣を離さなかった。


   おおっさすが!
   けど、これで攻守逆転だな。


そこからはすぐだった。重さを加えたら急に弱くなり、ヘストが尻餅をつき、試合は終了。俺はヘストに片手を差し出して礼を言う。ヘストは悔しそうな顔をした後、ニヤッと笑って俺の手を握り返し、起き上がった。

「ほんとに強いなお前。後で練習付き合ってくれ」

「もちろん!喜んで。」





・・・





「アグニ、ヘストはどうだった?力が弱い他に何か問題は?」

マースの元に戻るとすぐにそう聞いてきた。

「んー動きが速い弊害なのかもしれませんが、腰の落とし方が甘い気がします。」

「あいつの剣は独学なのかもしれないな。これで全員だが、どれが1番使えそうだ?」

「そっすね…それこそヘストさんかもしれません。すでに動けるので。」

「そうか。わかった、ありがとう。怪我したやつがいたらヨハンネさんがそこにいるから連れてってくれ」

「あ………はい。」

噂のヨハンネさんの方を見ると、教会の服を着ているシリウスが立っている。


  あいつまたヨハンネの名前使ってんのか!


しかも俺が連れて行くまでもなくすでにみんなシリウスの方にいる。この場で唯一の女子…だとみんな思っているのでチヤホヤされているのだ。

そんな様子を見ていたら、軍服を着た若めの男が走ってきた。

「マース大隊長!海岸に戦闘民族が現れました!!」

「!!なんだとっ!」

「まだ向こうは攻撃してきてませんが、どうするのかわかりません。連隊長が傭兵隊を海岸へ連れてこいと仰っています!」

「わかった、すぐ向かう。傭兵隊!!30秒で準備しろ!!すぐ海岸へ向かう!!」

「「『「 おう!!!! 」』」」





・・・





海岸に着くと壊れた小船と4名の真っ黒な髪と目の男女が警戒心丸出しで立っていた。その周りを正規軍が囲むように立っている。マースがその4人を睨み付けている軍人の元へ近づいていく。

「連隊長!傭兵隊ただいま参りました。」

「うむ。連中はまだ攻撃をしてきていない。けれど少しでも余計な動きをしたらすぐ攻撃しろ。」

「わかりました。では傭兵隊には周りを囲ませます」

「そうしてくれ」

「はっ!」


  あ、今気づいたけどこの前会った人だ。
  連隊長だったのか。


連隊長の指示通り、マースは俺らに周りを囲ませた。・・・けれど・・・

「マースさん。彼ら、船壊れて困ってるんじゃないんですか?助けはしないんすか?」


   俺の目にはそう見える。
   逆にそうとしか見えない。


しかしマースは警戒を緩めるでもなく、きっぱりと告げる。

「だからなんだ?船が壊れてたら俺らに攻撃してもいいのか?俺たちに許可なく近づいていいと思うのか?」

「え……ダメなんすか?」

「…はぁ??」

マースは俺をバカをような目で見てきた。


   え?なんで??
   向こうは困ってるんだろ?
   なら助けて欲しいって近づくだろ?
   それもダメなのか??


マースはため息とともに言葉を吐き出した。

「はぁ……相手は非帝国民だ。人だと思うな。芸獣と同じだ。……芸獣は見つけたらすぐ討伐するだろ?こちらがすぐに攻撃しないだけましだろう。」


   え?
   彼らは人ではないんですか?
   ……どうしてそうなったんだ?


俺はその言葉が衝撃的で呆然としてしまった。しかしすぐに事態は動いた。向こうがずっと構えていた槍を上段に構えた。

けど・・・ただ構え直しただけだったのだ。

たったそれだけだった。なのに

「動いた!攻撃態勢だ!芸師!!火矢を発射しろ!!」


   はぁっ!!!!?


連隊長の指示が飛ぶ。

俺は驚き、そしてあまり考えることもなく言葉を発していた。

「ギフト!!!!! 水鏡すいきょう!!!!!」

の民族の前に巨大な水の盾が立つ。
それに当たった火矢はシュ~という音と煙を出し盾の中に吸い込まれていった。

「なっ……!!!!!」

連隊長やマース、そして当の黒の一族たちも目を見開いて俺を見る。

「は~びっくりしたな!当たってないよな?大丈夫?船壊れただけだよな?」

身をかがめて座っていた彼らの元に俺は近寄って話しかけた。彼らはじっと俺の顔を見続けて、数回頭を上下に動かした。


   なんだ。言葉わかるんじゃん。


「船直せば大丈夫だよな?別に攻撃しないよな?」

再度そう聞くと、再び頭を上下に動かした。

「よし……マースさん!船直せば戻ってくれるそうです!何か借りれる船ありませんか?!」

俺が遠くから呼びかけるが、すぐに返事は帰って来ない。どうしようかと悩んでいると、シリウスが連隊長とマースの元に近づき、何かを喋りその後すぐシリウスがこちらに来た。黒の一族は近づいてくるシリウスに再び警戒心を見せた。

しかしシリウスはそんな彼らの事を見向きもせず、俺に告げた。

『君はもう少し、人というものを理解したらいいね』

「あ?どういうこと?」

『ふー…とりあえず、彼らを向こうの島まで送る。そのことについて話すから、こちらに戻ってきなさい』

「……いやだ」

『アグニ。』

「俺が離れたら、その間に軍がまた攻撃するかもしれないだろ!」

『……その攻撃をまた防げばいいだろ?』

「それじゃあ、怪我はしなくても…怖いだろ…」

『ふっ。君は優しいねぇ~。いいから早く来な』

わざとらしい笑顔を作ってシリウスが去っていった。俺も行かなければ話し合いが始まらない。けど離れたら危険なのはわかる。

「……ごめんな。ちょっとの間、待てるか?置きっぱなしにしとくからさ」

俺が水鏡を指しながらそう答えると、彼らは素直にうなずいた。





・・・






「お待たせしました。俺が向こうに送りに行きます。」

開口一番にそう告げると、連隊長もマースも渋い顔をした。

「当たり前だろう!君は非常に勝手な行動をとった。その責任を取るべきだ!しかし傭兵一人には任せられん。……マース、一緒についていけ。それと正規軍からもう二人連れていけ。」

連隊長がそう指示を出すと、シリウスがにこやかに間に入った。

『私も行きます。治癒師がいたほうが、もしもの時良いでしょう?』

「う、うむ。…では、お願いします。無理をせず、危険ならすぐ芸を出してください」

『…はい。もちろんです。』




こうして俺らは、黒の一族の島へ向けて出港した。









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