46 / 174
第2章
42 小競り合い
しおりを挟む「え?なんですか?」
「だから、あなたが傭兵隊の副団長です」
「え?なんですか?」
「だから!!!!」
…暫くなに言ってるのかわからなかった
昨日の傭兵隊試験から一転、俺はシド公国非正規軍傭兵隊副団長に任命された。昨日俺と戦った人が団長。名前はマースと言う。俺にあんな怖いこと呟いておいて、意外と気に入ってくれたらしい。
「ようガキんちょ。副団長としてしっかりまとめてくれよ?」
いつのまにか現れたマースが茶色の髪をかきあげて格好良く言った。生きてる年数は俺の方が倍近いが人生経験もここでの立場も年数も向こうが上なのでがっつり先輩だと思わせてもらおう。
「あ、はい!よろしくお願いします!!」
「アグニ、だったな?とりあえず今日は全員のポテンシャルを再度見る。それで各々の役割を決める。それの手伝いをお前もしろ」
「はい!わかりました!」
最初からなかなか責任ある仕事に携われた。と、思ったが……俺は全員と対戦する役だった。
片っ端から木刀で相手し、それぞれの弱点や良い点をマースに伝えるのだ。
1番疲れる役…!!!!!
何人も相手にした後、昨日会ったヘストが現れた。
「あ!ヘストさん!受かったんですね!」
「そっちもな。しかも副団長だもんなぁ?」
「あー……はい。なんか、そうなりました」
「ほぉ…まぁお前強かったもんな!よろしく頼む!」
「はい!よろしくお願いします!」
そうしてヘストと向かい合って構える。構えてすぐ、ヘストが突きを出してきた。
「…!!!」
今の一瞬でヘストが攻撃、俺が防御の型になってしまった。ここから立場を逆転するのは難しい。両手や片手を上手に組み合わせるヘストの戦い方は今まであまり見たことがなく扱いづらさもあった。
早さもなかなかなものだ。けど・・・軽い。
暫く追い込まれているように演技をしつつ、ヘストが片手での攻撃を連続で繰り出したタイミングで、一気に重さをつけて剣を打つ。
「っつ!!!!」
手に重さが響いたのだろう。ヘストが痛そうな顔をした。けれど剣を離さなかった。
おおっさすが!
けど、これで攻守逆転だな。
そこからはすぐだった。重さを加えたら急に弱くなり、ヘストが尻餅をつき、試合は終了。俺はヘストに片手を差し出して礼を言う。ヘストは悔しそうな顔をした後、ニヤッと笑って俺の手を握り返し、起き上がった。
「ほんとに強いなお前。後で練習付き合ってくれ」
「もちろん!喜んで。」
・・・
「アグニ、ヘストはどうだった?力が弱い他に何か問題は?」
マースの元に戻るとすぐにそう聞いてきた。
「んー動きが速い弊害なのかもしれませんが、腰の落とし方が甘い気がします。」
「あいつの剣は独学なのかもしれないな。これで全員だが、どれが1番使えそうだ?」
「そっすね…それこそヘストさんかもしれません。すでに動けるので。」
「そうか。わかった、ありがとう。怪我したやつがいたらヨハンネさんがそこにいるから連れてってくれ」
「あ………はい。」
噂のヨハンネさんの方を見ると、教会の服を着ているシリウスが立っている。
あいつまたヨハンネの名前使ってんのか!
しかも俺が連れて行くまでもなくすでにみんなシリウスの方にいる。この場で唯一の女子…だとみんな思っているのでチヤホヤされているのだ。
そんな様子を見ていたら、軍服を着た若めの男が走ってきた。
「マース大隊長!海岸に戦闘民族が現れました!!」
「!!なんだとっ!」
「まだ向こうは攻撃してきてませんが、どうするのかわかりません。連隊長が傭兵隊を海岸へ連れてこいと仰っています!」
「わかった、すぐ向かう。傭兵隊!!30秒で準備しろ!!すぐ海岸へ向かう!!」
「「『「 おう!!!! 」』」」
・・・
海岸に着くと壊れた小船と4名の真っ黒な髪と目の男女が警戒心丸出しで立っていた。その周りを正規軍が囲むように立っている。マースがその4人を睨み付けている軍人の元へ近づいていく。
「連隊長!傭兵隊ただいま参りました。」
「うむ。連中はまだ攻撃をしてきていない。けれど少しでも余計な動きをしたらすぐ攻撃しろ。」
「わかりました。では傭兵隊には周りを囲ませます」
「そうしてくれ」
「はっ!」
あ、今気づいたけどこの前会った人だ。
連隊長だったのか。
連隊長の指示通り、マースは俺らに周りを囲ませた。・・・けれど・・・
「マースさん。彼ら、船壊れて困ってるんじゃないんですか?助けはしないんすか?」
俺の目にはそう見える。
逆にそうとしか見えない。
しかしマースは警戒を緩めるでもなく、きっぱりと告げる。
「だからなんだ?船が壊れてたら俺らに攻撃してもいいのか?俺たちに許可なく近づいていいと思うのか?」
「え……ダメなんすか?」
「…はぁ??」
マースは俺をバカをような目で見てきた。
え?なんで??
向こうは困ってるんだろ?
なら助けて欲しいって近づくだろ?
それもダメなのか??
マースはため息とともに言葉を吐き出した。
「はぁ……相手は非帝国民だ。人だと思うな。芸獣と同じだ。……芸獣は見つけたらすぐ討伐するだろ?こちらがすぐに攻撃しないだけましだろう。」
え?
彼らは人ではないんですか?
……どうしてそうなったんだ?
俺はその言葉が衝撃的で呆然としてしまった。しかしすぐに事態は動いた。向こうがずっと構えていた槍を上段に構えた。
けど・・・ただ構え直しただけだったのだ。
たったそれだけだった。なのに
「動いた!攻撃態勢だ!芸師!!火矢を発射しろ!!」
はぁっ!!!!?
連隊長の指示が飛ぶ。
俺は驚き、そしてあまり考えることもなく言葉を発していた。
「ギフト!!!!! 水鏡!!!!!」
彼の民族の前に巨大な水の盾が立つ。
それに当たった火矢はシュ~という音と煙を出し盾の中に吸い込まれていった。
「なっ……!!!!!」
連隊長やマース、そして当の黒の一族たちも目を見開いて俺を見る。
「は~びっくりしたな!当たってないよな?大丈夫?船壊れただけだよな?」
身をかがめて座っていた彼らの元に俺は近寄って話しかけた。彼らはじっと俺の顔を見続けて、数回頭を上下に動かした。
なんだ。言葉わかるんじゃん。
「船直せば大丈夫だよな?別に攻撃しないよな?」
再度そう聞くと、再び頭を上下に動かした。
「よし……マースさん!船直せば戻ってくれるそうです!何か借りれる船ありませんか?!」
俺が遠くから呼びかけるが、すぐに返事は帰って来ない。どうしようかと悩んでいると、シリウスが連隊長とマースの元に近づき、何かを喋りその後すぐシリウスがこちらに来た。黒の一族は近づいてくるシリウスに再び警戒心を見せた。
しかしシリウスはそんな彼らの事を見向きもせず、俺に告げた。
『君はもう少し、人というものを理解したらいいね』
「あ?どういうこと?」
『ふー…とりあえず、彼らを向こうの島まで送る。そのことについて話すから、こちらに戻ってきなさい』
「……いやだ」
『アグニ。』
「俺が離れたら、その間に軍がまた攻撃するかもしれないだろ!」
『……その攻撃をまた防げばいいだろ?』
「それじゃあ、怪我はしなくても…怖いだろ…」
『ふっ。君は優しいねぇ~。いいから早く来な』
わざとらしい笑顔を作ってシリウスが去っていった。俺も行かなければ話し合いが始まらない。けど離れたら危険なのはわかる。
「……ごめんな。ちょっとの間、待てるか?これ置きっぱなしにしとくからさ」
俺が水鏡を指しながらそう答えると、彼らは素直にうなずいた。
・・・
「お待たせしました。俺が向こうに送りに行きます。」
開口一番にそう告げると、連隊長もマースも渋い顔をした。
「当たり前だろう!君は非常に勝手な行動をとった。その責任を取るべきだ!しかし傭兵一人には任せられん。……マース、一緒についていけ。それと正規軍からもう二人連れていけ。」
連隊長がそう指示を出すと、シリウスがにこやかに間に入った。
『私も行きます。治癒師がいたほうが、もしもの時良いでしょう?』
「う、うむ。…では、お願いします。無理をせず、危険ならすぐ芸を出してください」
『…はい。もちろんです。』
こうして俺らは、黒の一族の島へ向けて出港した。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる