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第2章
*2 ある場所では(閑話)
しおりを挟む帝都 ハーロー洋服店 オーナー室
ドアの外からノックが聞こえ、入るよう指示する。すると、よく知る従業員が一礼して入室した。
「オーナー。アグニという名前の方、ご存知ですか?その方から直接オーナー宛に荷物が届いたのですが」
「……なに?」
「お知り合いですか?あ、メモもありますね。『きちんと退治したよ』だそうです。……礼儀がなってないですね……」
「ちょっ!ちょっと貸してくれ!」
このメモの字。見覚えのある、あのお方のだ。
そしてアグニはあの少年・・・
ま、まさか……!!
大きな木箱の荷物を急いで開けて……言葉を失った。私の様子を不審に思った従業員が荷物の中を覗いた。
「な!!!オーナーっ!!これ…これ!!!」
「……ああ。本当に信じられないな……」
あのお方は確かに言っていた。
( 『どう?今騒がれてるトラの芸獣の毛皮とか欲しくない?』 )
いや、もちろんだ。欲しい。
しかしまさか…言葉通り捕ってこられるとは…
木箱の中には完全な状態のトラの毛皮が入っていた。首の部分以外に全く傷がない。
こんな完璧な状態で狩ったのか?
そんなことできるのか?
「オーナー。もしかしてこれって…シャルル公国で大規模な討伐隊が組まれてるトラの芸獣、ですか?」
「あぁ……その毛皮で間違いないだろう…」
「えっでも。とても凶暴で討伐が難しくて、次は軍人100人規模の中規模隊を討伐に出すって話でしたよね?もう終わってたんですかね?…差出人のアグニという方はどなたなんですか?こんなにすごいものを入手するなんて……」
「セリで落としたわけじゃない。この少年が討伐したんだ。…たぶん、2人で。」
「…………ハイ?それは……いくらなんでも…」
「わからないが…確かなのは、私はとても良い投資をしたということだ。」
正直、あの少年のことはよくわからない。シリウス様のように「天使の血筋」ではないようだしこの世界で評価されるような明るい髪色でもない。
けれど、あのシリウス様が気を許しておられた。それにあんな態度をとってもシリウス様は全くお怒りにならなかった。
もちろんあのお方はお怒りになどならない。ただ、この世の端からも消えたいと思わせるような威圧感を出すだけだが。
「オーナー。ちょっと…私…見なかったことにしますね……」
「ははっ。疲れただろう。休んでなさい。」
「はい…ありがとうございます…失礼します」
私も、休もうかな。
それにしても……
「とんでもない少年が、娘の同級生になるわけか…」
その未来を見たいような、見たくないような、何かが起こる前の期待感と不安感が胸をざわつかせる
「とりあえず……シリウス様には予定の倍の額の代金を送金しとかなければな…」
そんなことを思うのもつかの間、今さっき出ていった従業員が顔を青くして再び部屋に入ってきた。
「なんだ?どうした?」
「オーナー。……シーラ様が……いらっしゃいました。」
「………もちろん通しなさい。」
シリウス様、
また無断で出ていってたんですね…
・・・・・・・・
シャルル公国 王宮 会議室
『……だからそう考えるならば危険かもしれないが海にも船を出して、海から狙った方がいいのではないか?』
金色の髪を頭の下の方で一つに束ねた、緑の目の男が言う。
「シャルル王子、海はあまりにも危険ですよ。それに崖が高すぎて船からでは狙えません」
『けれど崖の中に入ってしまえば、もうあのトラのテリトリーだろ?もうこれ以上死傷者は出したくない。』
「んー……難しいですね……」
「シャルル、僕の国の軍をやっぱ貸すよ。芸が得意な者を揃えてさ」
青目に青い髪、褐色の肌の男がそう言う。
『うーん…いや大丈夫だ。ありがとうアルベルト。今回上手くいかなかったら、頼むかもしれないけどな』
「フォード公子様、お申し出、大変ありがとうございます。」
「いやいや。けど…こんなに凶暴な芸獣が出るなんてなぁ。今までずっと隠れてたんだろうか?」
『そうだなぁ…逆に今まで被害が出ていなかったのが不幸中の幸いだな。』
「シャルル王子!!!」
急に会議室に入ってきた男の方を全員が向く。
『なんだそんな慌てて…トラに何か動きがあったのか?!』
シャルルと呼ばれたその男が急いで立ち上がって聞く。
「あ、いえ。トラの芸獣は大丈夫です。けど、動き?はありました!」
『あ?どういうことだ?』
皆が会議室に入ってきた男の次の発言を待つ。すると、その男は眉を寄せ、首をかしげながら答えた。
「あの……もしかしたら……トラの芸獣、討伐されたかもしれません。」
「『「 は?? 」』」
「討伐されたって…誰に?」
アルベルトと呼ばれていたその男は青い目を瞬かせて問うた。
「あ、えっと…それが何者かわからないのです。」
『ん?どういうことだ?』
「……先ほど、首都シャルルの街でトラの芸獣の死体だと思われるものを持って歩いている男女二人組がいたそうです」
「『「 は??? 」』」
説明している男は汗をぬぐいながら続ける。
「その2人組はトラの芸獣を持って運送会社に持って行ったそうです。その後、街を後にしたとのことです。」
『もう街を出たのか?後は追ったのか?』
「諜報官が後を追ったのですが…撒かれたそうです」
『なに?撒かれただと?』
「シャルル。君のとこの諜報官は、風の芸を使えるだろう?」
『当たり前だろう!どうして撒かれたんだ?』
シャルルが問うと、聞かれた男性は首をかしげながら答えた。
「どうも風の芸の他にも芸を使っていたそうです。身体強化かもしれないとのことでした」
『なに?風の芸に加えて、身体強化だと?』
「それは確かかい?そんな合わせ技を使えるなんて…」
シャルルとアルベルト、その他の者も驚きの表情を見せる。
「はい、私も信じられないのですが……。それと、大変申し上げにくいのですが……その…2人組の女性の方は、フォード公国の民族衣装を着ていたそうです。」
「なんだって?」
その発言を聞いてアルベルトが一層驚きの表情を作る。
『アルベルト。一応聞くが指示は出してないだろう?』
「あぁもちろん。しかも、残念ながら我が国の軍に、今聞いたレベルの芸ができる女性の軍人はいない。」
『まぁ服はどこでも手に入る。顔を隠す目的で着ていたのかもしれないな。』
「けど、もし本当にフォードの国民なら……是非軍にスカウトしたいな」
『それは俺の軍でもしたいよ。……突発的かつ危険レベルの高い芸獣の捕獲は他国民でも全く罪にならない。つまりその2人組には一切の非はない。とても気になるが…追跡も困難なようだし』
「あ、その2人組、西の方へ向かっていったそうです。」
「西……帝都ではないんだね」
『ん~情報が足りないな。惜しいことをした』
シャルルとアルベルトは座り直し、報告に来た軍人は礼をし去っていった。しかしその後すぐ、別の軍人が大急ぎで入ってきた。
「シャルル王子!!!」
『はぁ…今度はなんだ?』
シャルルもアルベルトも苦笑いでそう返す。その会議室にいた者は皆再び視線を入口に集めた。
「はぁはぁ……あの、「天使の血筋」の…「世界一の美女」の……あの方が……街にきたそうです」
「『「「 はぁ??!!!! 」』」」
さきほどよりも皆、よほど大きな声をあげた。
『なっ!!!!シ、シーラ様か??!!!!』
「ううう嘘だろ?!!!シャルル!!!!」
『皆!!緊急事態だ!!急いで客室の準備!応接室の準備!隊長は小規模隊を連れてお迎えにあがれ!軍人は礼服を着ろ!!!あぁ、それと王に報告!!!!急げ!!!』
「「「「「 はい!!!!!!! 」」」」」
会議室…いや、王宮中が大慌てになった。けれど皆の顔はキラキラと光っていて、その客人が歓迎されていることは言わずともしれた。
もう討伐されたトラのことは後回しにされていた。
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