再創世記 ~その特徴は「天使の血筋」に当てはまらない~

タカナデス

文字の大きさ
上 下
34 / 174
第1章

*1 観客席から(閑話)

しおりを挟む



俺は帝都にある最も大きな商会、『ブラウン商会』で働いている。

『ブラウン商会 運輸部門 東部地方 管轄補佐』

長い肩書きだが、これが俺の役職だ。
わかりやすく言えば東部地方に荷物を運ぶ際の責任者補佐だ。資金部門とかは別にあるから、本当にただ荷物を運ぶだけだがな。
けどこの仕事のお陰で東部地方はそこそこ詳しい。

明日、シリアドネ公国の首都で武術大会が開かれるらしい。いつも時期が合わなくて見られなかったが、明日は首都に留まる。だから初めて観戦できる。





・・・・・・





「おぉ~い、こっちこっち!」

仕事仲間の呼ぶ声がする。先に席を取っておいてくれたらしい。しかも気の利くことに麦の発泡酒も、サルサ付きジャガイモチップスやチーズ入り香辛料パンなんかも買っといてくれてある。

『悪い、遅くなった!』

「おー大丈夫だ。勝手にいくつか買ったが、よかったか?」

『あぁ、どれも大好物だ。ありがとな。』

俺たちは乾杯し、初戦の様子を眺め始めた。

「おぉ~これが例の武術大会かぁ。やっと見れたな」

『あぁそうだな。初戦でもそんなレベル低くないんだな。さすがシリアドネだなぁ!』

軍のレベルが高いせいか、初戦もなかなか強そうな人ばっかだ。
端の方で黒髪の少年が戦ってたりするが、ああいうのがどんどん落とされていくんだろう。

 まぁ、暫くは飲んでよう。

俺らは暫く食べ飲みを繰り返し、漸く腹が膨れてきた頃には5回戦目が終わっていた。

「あら?今どうなってんだ?」

『次何回戦だ?ちょっと他の人に聞くか』

俺は近くに座っていた4人組くらいの男性客に喋りかけた。

『すいませーん、次って何回戦ですかね?』

「あ?次は6回戦だよ!兄ちゃんら、飲んでばっかであんま見てないな?」

『あはは!いや~。どうすか?今年は強いすか?』

「んあーまだなんともなぁ。けど今年はチビこいのが残ってんだよ」

おっさんら4人と乾杯をし直した。

『ほぉ?いくつくらいのが?』

「あーどうだろ。遠目ではよくわからんが、まだ少年ぽかったぞ。珍しいくらいに真っ黒の髪の。」

「あ、ほれ!出てきた。あいつだよ!」

おじさんらに言われ競技場を見ると、初戦でも一瞬目に入った男の子だった。

『え?あのガキ残ってるのか?』

「あぁ。これが全然余裕そうなんだよなぁ。あ、もう勝った。勝つのも早んだよ」

 まじか。あのガキ、全然強いじゃないか。
 あの年齢であんなに戦い慣れてることなんてあるか?

「全く攻撃が当たらないし、疲れてる様子も見えないし、飄々としてるんだよ」

『へぇ……もしかしたら決勝戦まで残るかもしれないなぁ!』

「ははっ準決勝からは今までとレベルが違うよ。そんな上手くいくとは思えないがな~!」

結局そのおじさんらと一緒に観戦することになり、お酒も料理もどんどん注文した。

彼らは毎年観戦してるらしいし、ここに住んでる人らしい。説明も上手でこちらは大助かりだ。





・・・





「あのガキ、結局準決勝まで残ったかぁ」

『ほら!あのガキ意外とやるんだよ!すごいな!』

周りは徐々にあの黒髪のガキを応援し始め、別のところでは、ガキがどこまで残るかの賭けも始まった。

「準決勝の相手は…ありゃ軍人だな。それも特攻部隊だ!あー、あのガキはもうだめだ!」

『特攻部隊ってなんすか?』

「凶悪な芸獣が出た時とか、芸獣の群れが出た時に一番最初に突っ込んで殺せるだけ殺す部隊だよ。速さもパワーも根性も抜群なやつらだよ」

 へぇ~そんなのが相手か…こりゃあ災難だな…

賭けでは殆どの人が軍人の方に掛けていた。


『「はじめ!!!」』


準決勝の試合が始まり、長剣を持った軍人が少年に突っ込んでいった。

「うぉぉぉ!速ぇ!!」

「ヒュー!!いけぇ!!」

少年は足に大きく溜めを作り、

次の瞬間、軍人を上回る速さで突っ込んでいった。

「なぁ!??!」

 すごっ…!一瞬目が追いつかなかった…!!

軍人の方も急に距離が詰められ、構える暇がなかったんだろう。
そのまま少年の横を通り過ぎ…倒れた。

「なっ………一撃……?!?!?!」

「うっそだろ………そんな…あり得るのか?」

『……あのガキ…ハンパじゃねぇな…!!!!』

 これはすごい。
 いや、これほど強いとは思わなかった……!

ここにいるのは酒飲みの観客らなのに、皆が飲み物を置き、食べもせずじっとその少年を見ていた。

「もしかしたら優勝もあるかもしれないぞ…」

もう誰もがその少年にくぎ付けだった。


なのに、当の本人は俺らの事なんか微塵も見なくて、喜ぶ様子も見せなかった。





・・・





「あ~次は………本当にだめかもなぁ…」

『え?あれ誰なんだ?』

-決勝戦-

芸も使える唯一の試合だ。

 その最後の最後の相手、軍人っぽいな?

「あれは国軍の副総隊長だ。もうここじゃあ有名人だ。めっぽう強くて実戦経験も多い。『戦闘狂』だなんてあだ名がついてるくらいだよ」

『なっ!!なんでそんな人が大会に出てんだ??』

「腕っぷしが強いからずっと遠征に行ってんだよ。俺らは遠征行く前と帰ってきたときに街の中を行進するからあの人を知ってんだよ。きっとたまたまこの時期に首都に戻ってきてたんだろうな…」

 そんな…分の悪い相手だとは………
 けどある意味少年からしても光栄だろう。
 そんな有名で強い人が相手してくれんだから

「うーん…あの少年、死んだりしねぇよな?」

『え??そんなこと起こるのか?』

「ああ、今まで決勝戦で死んだ人間がいるよ。芸がもろに当たったりしてな。それに今回は相手が『戦闘狂』だからなぁ…」

 まずいじゃないか!あの少年…たとえ死ななくても、もう一生治らないケガだって負いかねない。そんなのはもったいない!

『治る怪我だけだといいんだがな……』

観覧席は皆固唾を飲んで見守っている。

「『 はじめ !!!  」』

会場のアナウンスと同時に軍人の方が飛び出す。

「あ、風だ!!…それもあんなに強く…!!」

俺らから見ると槍の周りに砂埃が舞い、台風のようになっている。あんなにレベルが強いのか!あんなのに当たったら本当に死ぬぞ!

「まずい!あの少年、動けなくなってるぞ!!」

「ああほんとだ!!おい!逃げろ!!!」

「うっ…もう見れねぇ!!」

皆が口々に逃げるように叫ぶ。けれどその声は届かない。

そして 少年は、焦った顔はしていなかった。

誰もが終わりだと思った時、信じられないことがおきた。
少年が嘘のような速さで避けたのだ。
軍人の方も大きく体勢を崩している。

「…お、おい。嘘だといってくれ……」

「俺はさっきから幻想の芸にでもかけられてんのか?」

『いや、あの少年。本当に只者じゃない…』

皆が一気にその少年の勝てる可能性を感じた。

 今まで気づかなかったが……
 あの黒髪の少年、金色の瞳をしてる……

なぜだかわからないけど、目が離せない。

「「「『ああああ!!!」」』」

少年がひどい火傷を負った!観覧席ではみんな声にならない悲鳴を上げた。顔を顰める者や目を逸らすものもいる。


皆が少年の次なる動き注目していた時、
少年の声が聞こえた。

『 治癒 !!! 』


 ………え?今、治癒って言ったか?


俺も、仲間も、おじさんらも、他の人も皆がポカンとした表情をしている。

 そりゃそうだろう。治癒なんてできない。
 使えるのは本当に一部だ。
 しかも普通、街にはいない。

いよいよ気でも狂ったかと思ったその時、
少年の体を金色の芸素が守るように囲んだ。

「なっ…………」

俺の周りで聞こえた声はそれだけ。

他の人は、声が出ていない。
出せないのだ 驚きすぎて。

皆が呼吸すらも忘れ、嘘のようなその少年をただじっと見ていた。

すると少年は目が追いつかないほどの速さで走っていった。

少年の周りにまだ漂っていた金に輝く芸素が、走っていく少年の体から尾を引き、それはまるで地上に流れる星のようだった。


あまりにも、美しい決勝戦の終焉に、

皆、言葉を発さなかった。



それなのに少年は、俺らの存在を気にするでもなくスタスタと帰っていく。

どうして喜ばないんだ?
どうしてこっちを見ない?
どうして嬉しがらない?

なぜか、猛烈に歯がゆくて……


『ブ、ブラボー!!!ヒュー!!!!!』


俺は周りの目を気にすることもなく、大声でその少年を称えた。

「ブ、ブラボー!!!!」

「わぁ!!少年、よくやった!!!!」

「すごい!本当にすごいぞ!!!」

「さっきのはなんだ?本当に治癒か?」

「いや、そんな!治癒なんてできんだろう。」

「けどあの火傷が治ったぞ?」

皆が口々にしゃべり始めた。少年に賛辞を贈る者、議論を始める者、様々だった。

少年は少し恥ずかしそうに手を振った。


 よかった  届いてる。 届いてる。

 お前 すごいんだよ。知ってるか?

 きっともっとすごくなるんだよ。

 気付いてるか?

 聞こえてるか?

 あぁ直接声をかけたい

 もっと伝えてあげたい

 もっと誇ってくれ

 ありがとう ありがとう


 最高だったよ







・・・・・・







 あの少年、アグニという名前らしい。

 きっと彼はすごくなる。

仕事と私情は挟まない主義だが、俺は定期報告書に武術大会のことと、アグニという名の少年を見つけたらすぐ推薦状を出して雇うべきだ、なんてことを熱烈に書いてしまった。


 けど全く後悔してないぜ!!











しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...