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第1章
32 我が家
しおりを挟む『は~疲れた~』
「おい最初からソファに飛び込むな!」
無事に俺たちはスリーター公国の俺の家に辿り着いた。
この、名のついてない村に。
やっぱインカ村の東にあったよなぁ?
名前がないって…どういうことだろ?
けどまぁ、久しぶりの我が家だ!
締め切って出たからやっぱ埃が溜まってるな
掃除しなきゃ…
部屋に荷物を置いて、すぐ掃除道具置き場に行く。箒を手に取り、部屋を掃き始めた俺を見て、シリウスが不思議そうな顔をした。
『何してるの?』
「……お前は掃除したことないんか?」
『ないかも。けどそうじゃなくて、箒使う必要ある?』
・・・はっ!!!
そうか。芸!!!
「それって芸で掃除できるってことか?!」
『うん。世の人が芸石を付ける主な目的は日常生活を楽にするためだよ?箒に風の芸を纏わせてみなよ』
な、なんと……!!!
これは画期的だ!世紀の発明だ!!!
誰だ芸を見出したやつ!ありがとう!!!
箒の周りだけに上手に風の芸を出すと、箒の大きさが3倍になったくらい上手く掃ける。その後水の芸で床全体を濡らし、モップをかけた。
掃除の時間が半分以下に短縮された。
「…かっ……画期的だ……!!」
『みんながみんな芸上手なわけじゃいし、風の芸はどうしても出来ないって人とかもいるからさ。こんなにすんなりいくことはないけど、でもみんなこうしてるよ』
「シリウス……今1番お前の弟子になってよかったと思ってる。」
真顔でそう伝えると、シリウスは頭を掻いた。
『えぇ~??そんな…照れるなぁ~』
・・・
帰ってきたことを報告しにシリウスが王城へと行っている間に、鍛冶を始めてしまおうと思う。
この旅で手に入れた素材は4つ。
竜ちゃんの青銀色の鱗
アリの芸獣の黒水晶の卵の殻
ヘビの芸獣の真っ白な金属質の牙
そして妖精の森で手に入れた芸素の混ざった砂鉄
砂鉄は絶対に使うけど、その他のやつはどう組み合わせるか考えないとだな。しかもお孫さん誕生の祝いの剣なわけだから、華やかにしなきゃだろうからなぁ。黒ベースの剣とかはだめだろうしな。うん。きちんと悩もう。
・・・
結局、芯に金属質の蛇の牙を使い、砂鉄を用いて、竜ちゃんの鱗を装飾に使用した剣を作った。薄く金色に輝く剣のところどころに青銀の水晶が装飾されて…いっそ神々しいまでの出来栄えだ。しかも強度もあるし、芸の効果も莫大だ。しかし軍人にしか振り回せないくらい重くなった。なので本当に「飾る用の剣」になってしまうだろう。
帰った時には花々が咲き誇っていたが、剣を作り終わる頃には季節がまた1つ動き、暑さで汗を拭うようになっていた。
『アグニ。明日、王城に上がれって。』
「あぁ、わかった。」
シリウスの言葉を聞いて頷く。
明日、いよいよ王に剣を献上する。
献上するだけでも少し緊張するが、もう一つ伝えようと思っていることがある。
『大丈夫。僕もその場にはいるからさ。』
「…おう。頑張る。」
・・・
スリーター公国の王城には数回招かれたことがある。
父とも行ったらしいがぶっちゃけそれは覚えてない。
王は「天使の血筋」ではないので城に金色の装飾はされていない。けれども美しい白壁に、朱色で統一された柱や屋根は荘厳で美しかった。
「こちらがご令孫に献上致します、祝剣になります」
『……良い剣だ。大変素晴らしい。ご苦労であった』
「恐れ入ります。」
スリーター公国の王、大公閣下は直々に剣を取られて様子を見られた。きっと使う素材のことはシリウスから聞いていたのだろう。なので驚いている様子は言葉には出なかったが、目を見張り、何度も剣を検め、感嘆のため息を出していた。
よかった。満足してもらえたみたいだな。
……よし。
『アグニよ。褒美を与えたい。何か入り用なものはないか?』
俺が発言をしようとしたタイミングで大公様から聞いてきた。ちょうどいい。
「…はい。ございます。私アグニ、誠に恐縮ですが……専属の鍛治師を退任致したく、お願い申し上げます。」
言えた。
言えた。
さぁ、どうだろ……?
俺は再び頭を下げる。すると、大公様と俺の中間辺りで民族衣装姿で立っていたシリウスが大公様の方を向き、発言する。
『大公様。私が…帝都へ連れていこうと思います。』
その言葉を聞いて大公が問うた。
『ほぉ…彼を帝都へ?』
『もちろん帝都以外にも。諸国を見せます。彼は……長く勤めて参ったでしょう?もう十分に羽ばたいてもいい頃ですよ』
シリウスの言葉を聞いて、大公様は足を組みながら大きくため息を吐いた。
『……任せてもいいのだな?』
『えぇ。私が監督役になってきちんと彼を見守ります。』
「……どうか。お願いいたします…!!!!」
長い沈黙の後、大公様が立ち上がっていった。
『アグニ、長きに渡る勤め、誠にご苦労であった。退任を認める。世を渡り、さまざまな事を学んでこい』
「!!! ありがとうございます!!! 」
・・・・・・
こうして、俺はスリーター公国の鍛冶師を辞め、
世界を知る旅に出ることになった。
大公様は退任を認めてくださる他にも退職金や、今回の褒美金としと相当な額の報酬をくれた。こんだけの金額があれば当分暮らしには困らない。
いよいよ…俺はただの旅人だ。
さぁ、とりあえずまずは……帝都へ!!
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