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第1章
16 ヨハンネの心 生きる自由と死ぬ自由
しおりを挟むここは町も人も本当に綺麗で大好きな場所だった
冬の寒さは厳しいけれど、それでもなんとかやっていけたの。町は平和だったもの。
・・・・・・
「ヨハンネ、ごめんなさいね。畑仕事に奉公まで…あなたばかりに無理をさせて。私の足が悪くなければ…」
いいのよ、お母さん。全然大丈夫
「ヨハンネ、いつもありがとうな。お前が畑手伝ってくれて本当に助かるよ」
いいのよ、お父さん。全然苦しくないわ
「お姉ちゃん格好いい!お姉ちゃんが世界一好き!」
ふふっありがとう。私も世界一好きよ。
みんな頑張ろうね。
・・・・・・
「…だめだ。ここの土は栄養が無さすぎる…それに冬が長くて全然育たない…」
諦めないで頑張ろうよお父さん。私もいるわ
「村の方で流行り病があるらしいわ。…こんな時ばかりは、無視されててよかったわね。・・・なんてね」
そうよ。村の人なんてどうでもいいわ。
お母さん、無理しないで
「…お腹すいたね、お姉ちゃん。けどお姉ちゃんの方がいっぱい動いてるんだから、私のも食べていいよ」
ううん大丈夫。優しい子ね。お姉ちゃんは大丈夫よ
・・・・・・
『ゴホゴホッ…じゃあね。』
「はい!!ほんとにありがとうございます!!」
「ありがとうございます!! あぁヨハンネ!見て!今村のおばさんがお芋を3つもくださったの!今日は夕飯があるわよ」
「わーい!お芋だぁ!!久しぶりに食べるね、お姉ちゃん!!」
村の人?まあ、お芋ね。
ああ、よかったわ。
みんなと一緒に食べれることが よかったわ。
・・・・・・
「ゴホゴホッだめよ、ヨハンネ。近寄らないで。流行り病かもしれないわ。…本当にごめんなさいね…」
「ゴホッ うっ…。あ、お姉ちゃん、大丈夫だよ」
「ヨハンネ。畑は俺がやるから、一度あの町へ帰ってみてくれないか?もしその町に何か残っていたら、持って帰って欲しい。すまないな…お前もまだ症状が出てないだけかもしれないんだから、気を付けなさい」
みんな…無理しないで
私はまだ大丈夫よ。 まだ頑張れる、本当よ。
ねえ、だから……… 一緒に生きましょう。
・・・・・・
わぁ…!! なんて美しいの。純白の世界!
ここだけまるで別世界ね
あの家の暗さとは全然違う
ああ いいなぁ
あれ?え? 人…?
やだ、怖い。人が凍ってる!
どうして…助けなきゃ…!でもどうやって?!
…どうしてみんな、そんなに穏やかに笑ってるの?
ここで死んだら、そうなるの?
この時の止まった世界で 生きてるの?
そうか。みんな 夢の中にいるのね
きっとそこは幸せなんでしょう
だからそんな風に笑顔でいられるのね
いいなぁ
私も 行きたいなぁ
だめ。私は家族がいる。みんながいる。
ここに残るわけにはいかないの。
この世界にはいられない。
帰るのよ私は。 あの現実へ………
・・・・・・
ねえ
どうしてみんな起きないの?
お母さん、床で寝てたら冷たいでしょう?
お父さん、下を向いてないで こっちを見て
お布団にいるのに どうして冷たいの?
ねえ
私は いつから独りになっていたの?
ねえ
みんなで頑張ろうって言ったじゃない
みんなでって言ったじゃない
どうして
もういや!! こんな世界!
お願い! 夢を見せて!!
私も あなたたちの中に入れて
・・・・・・・・・・・・・・・
「きゃああああああ!!!!!助けて!!」
「ヨハンネ!!すぐ助ける!待ってろ!!」
ヨハンネがヘビの芸獣に捕まった。どうしよう。あの芸獣は何が使えるんだ?氷…は扱うんだろうな。なら対抗して炎か?
「シリウス!炎の芸であのヘビやろうを倒す!それでいいと思うか?」
俺が剣を抜刀しながら問うとシリウスは首にかけていたマフラーを口元まで上げ、寒そうにしながら答えた。
『ん?ああ、いいんじゃない?やってみ~』
「なんでそんな吞気なんだよ!」
「はははは早く…!!助けて…!!」
ヨハンネがシリウスに向かってそう言う。しかしシリウスは不思議そうな顔をした。
『あれ?死にたかったんだろう?今がチャンスだよ!よかったじゃないか』
その言葉を聞いたヨハンネの顔色は見るからに青く、衝撃を受けたような顔をしていた。
「ちがうわ!私はこんな死に方は望んでない!!」
『ん?望む?勘違いも甚だしいなぁ。』
「え…な、なに?…」
『聞くが、君の父は、母は、妹は、望んだ死を得られたのかい?違うだろう?生きる自由を奪われた君の家族ですら当人の望む死を得られなかったんだ。それなのに生を捨てた君が、望む死を手に入れられると思ったのかい?』
ヘビの芸獣は未だこちらの様子見に徹しており攻撃はしかけてこない。けれども口に咥えられているヨハンネはいつ食べられるかわからない。
急がないとまずい…!!!!
そんな俺の焦燥をよそに、シリウスが続ける。
『知らないなら教えてあげるよ。自由に死ねるのは、それ相応の「力」がないと不可能なんだよ。権力、能力、運の強さや、この世では芸力なんかもね。それらの中で、君はいったい何を持っているんだい?』
ヨハンネが絶望の表情をする。しかしもう言い返せないのだろう。絞り出すような声が聞こえた。
「……お願い、たすけて……」
ヘビの芸獣がいよいよ動き出した。ヨハンネを咥えていたヘビの頭が、そのまま彼女の腹に牙を突き刺す。
「ぐぎぁぁああぁああぁ!!!!!」
「ヨハンネ!!」
俺は急いでそのヘビに飛び込み、剣に風と炎をまとわせ、振るう。けれど俺の方を向いていたもう片方のヘビの頭から氷の波動が飛んできて俺の攻撃を防ぐ。
しかし俺はそのまま剣に芸を宿しており、振るった剣を次は逆の向き、下から上に振り上げた。
すると上手くヘビに攻撃が当たり、悲鳴をあげる。そしてヨハンネを口から落とした。ヨハンネが落ちるところへ辛うじて間に合い、抱きとめる。出血がひどい、けど生きている。
『アグニ、ヨハンネをこっちに持ってきなさい』
そう言うシリウスの方へ風の芸を利用して飛んで戻り、ヨハンネを引き渡す。
「シリウス、ヨハンネを治療して…生かしてくれ。」
『ははっ。わざわざそんなこと言わなくてもわかってるよ。それより芸を試してみなさい。あのヘビを牢屋に入れてみな』
「……ああ。ヨハンネを頼むぞ」
シリウスから離れ、ヘビの芸獣に向き直る。
俺の出方を伺っている。きっとすぐ氷で攻撃される。
けど、させない。
「 ギフト 『炎獄』 」
俺の中から芸素が抜けていく。
そしてその芸素がヘビの周りに炎の壁を築き上げる。
シャアアアア!!!!
ヘビが周りの壁に氷を吐くが、炎に溶かされ意味をなさない。
「悪いな。 どうやら俺の方が強いらしい」
剣に炎を宿し、ヘビの胴部分を渾身の力で薙ぎ払う。
ヘビは倒れ、ヘビの周りを囲っていた炎は町全体に大きく舞い広がった。
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