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第1章
11 洞窟③
しおりを挟むシリウスは俺にそう言い、背を見せて歩き始めた。
もう、しらね…
怒りを抑えながらもシリウスの後ろを歩き始めようとしたが…
ああ……酸に溶かされてたのか…
足が動かない。というか、もう……無理
「……シリウス」
なんとか声を絞りだすと、シリウスは振り返って少し驚きの表情を見せた。
『ああ、そうね。動けないね。はいはい』
シリウスは俺の前に立つと片手をかざし、唱えた。
『君にギフトをあげよう。 治癒 』
シリウスのその言葉が引き金となり、俺の体を金色に輝く芸素が包んでいく。
あったかい。気持ちがいい・・・
気付けば体は元通りに戻っている。
いや、なんならさっきより元気になってるかも
「……ありがとう」
直前まで怒っていた手前、少し決まりの悪さを感じながらもお礼を言うとシリウスは柔らかく答えた。
『どういたしまして。治癒も練習しようね』
「今どうやって治したんだ?」
前を歩くシリウスに問う。
『言ってなかったけど、芸にはより明確な技がある。今の治癒もそうなんだけど、それらは芸素を集めて集中するだけでは起こらない。発動に必要な言葉があるんだ』
「言葉?なんなんだ?その言葉。」
『 ギフト 』
「……ギフト?」
『そう。「ギフト」という言葉を発し、その後に特定の芸の名を口にする。そうすると、より実践的で明確な芸ができるんだ。例えばこんな風に。』
分かれ道の入り口まで戻り、シリウスに促されるまま上の方の道を見るとその入り口は透明の水の板が張られていた。
その板のせいで内側にいるアリの芸獣が出てこれなくなっている。アリはその水の板に酸や攻撃をしかけるが、何も起こらない。
「 ?! なんだこれ?!」
『これは「水鏡」という芸。基本盾として使う。今は上にいたアリが出てくるのを止めるために使っているけどね。水に酸が当たっても問題はないから、彼らは出てこれないんだよ』
…すごい。こんな綺麗な芸は初めて見た。
俺がやったようなでたらめに火や風を出すのとは違う。
これを・・・こいつはできるのか・・・
呆然としながら目の前の水の板とその奥にいるアリを見ていると、シリウスが無邪気な笑顔で言った。
『よし!じゃあ上は僕の芸で仕留めてあげるよ。よく見ておきなさいね。』
シリウスはその水の板…水鏡の前に立って唱えた。
『私が君らにギフトを与えよう。受け取りなさい。』
『 霧刺 』
そういうと透明だった水鏡が白色に代わり、霧のように散り始めた。
その霧に当たったアリが悲鳴をあげる。
シリウスは無言でずっと見ている。
アリの体液が飛び散り、倒れていく。
自分の体を包む霧にアリも酸を吐きかけたり攻撃をするが、水が相手には敵うことはなく……
その場はすぐ、静寂につつまれた。
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