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第1章
4 初の芸獣
しおりを挟む「なあ、芸って具体的になんなの?」
シリウスとともに森を抜け、岩肌の小高い丘を登っている途中、いつまでも説明してくれないシリウスにしびれを切らして聞いてみた。
すると前を歩くシリウスが大きい荷物越しに振り返り、爽やかな笑顔で答えた。
『ちょうどいいタイミング。ほら、芸獣だよ』
そこには茶色の毛で獰猛そうな赤い目をしたネズミがいた。ネズミといっても、村で見た犬と同じくらいの大きさだ。・・・けど・・・
「うそ、あれが?あれが人殺すの?」
よくわからないけどそこまで強くもなさそう…
『まああのネズミの芸獣はそこまで強くないし、被害も多くないかな。けど、死ぬ人はいるよ。』
よし、やってみよう。なんかいけそうだ。
そう思って自分で作った長剣をネズミに構える。
構えたはいいが、、、どうしよう?
突っ込んでみていいのか、向こうから近寄るのを待つのか…どうすればいいのかわからずシリウスの方を見ると、シリウスは岩の上に腰を下ろし、水を飲みながらこっちを見ていた。
ええ?!指導とか無し?!
「おいシリウス!こっからどうすればいいんだよ!」
シリウスに向かって大声で叫ぶと、シリウスはすっと指を前に向けて答えた。
『前見てないと死ぬよ』
・・・やばい!!!
急いでネズミの方を向くと、すでにネズミはこちらに走ってきており、目前に迫っていた。
剣を構え直した時、ネズミのいる方向から体が吹き上がるくらいの風が巻き起こった。
地面から足が離れ体勢を大きく崩す。
けれどネズミは速度を変えず自分に走ってきていた。
そして口の中から針のような鋭い歯が何本も見え、大きく口をこちらに開けて差し迫ってくる。
「うわあああああ!!こんな牙持ってるなんて知らねえよ!!!」
無我夢中で剣をネズミの口にあて、抑える。
いくつかの歯が自分の腕をかすめ血が滲む。
まじかよ。こんなん全然人死ぬだろ!!
弱いほうでこれかよ!
「シリウスー!!!どうすればいいー??!!」
ネズミを見続けたまま、後方にいるはずのシリウスに大声で問いかける。
『あーそのまま頑張ってみたらいいと思うー!』
「はああいい?!今もうピンチなんですけど!??」
『えー大丈夫だよぉ…まったく。今休んでるんだから続けててよぉ』
シリウスが面倒くさそうに答える声が聞こえた。
あいつ…!!本当に許さん…!!
けどまじどうしよう。この牙えげつないな~
けど……もう見慣れてきたな。
大口を開けてこちらを向いているネズミを剣で抑えながら思った。
ちっ。剣から火でも出てこいつを燃やせれば・・・
その様子を少し想像した。
すると身体の中が少しすっきりするような、空腹になるような感覚が襲った。
そして急に剣から炎が上がった。
え、、、燃えた?!!!剣大丈夫?!
そんなことを思っていると、炎は大きく燃え、ネズミを包みこんだ。
ギキィィィィィ!!!!
ネズミが大きく鳴き、俺から遠のく。
ネズミが先程の技を使ったのか、身体の周りに風が巻き起こる。けれどもそれは火を一層燃え上がらせる一方で・・・
結局そこには、黒焦げになったネズミの死体が残るのみとなった。
『あ~あ、結局最後自分の芸で焦げちゃったね~。これじゃあ食べられないなぁ…』
シリウスが岩から風が舞うように飛び降り、自分の隣に立ってぶーぶー言いだした。
「なんで助けてくれないんだよ!!」
ちょっと結構泣きそうになったぞ!
なんて言えるはずもないが文句は言わせてもらう。
『でも、ほら。さっき君が出した炎が「芸」だよ。何かが起きたのは感じたでしょう?』
「・・・やっぱあれがそうなのか。」
『うんうん。実際説明してもよくわからないでしょ?けど感じ方さえわかればもう大丈夫。というか君は常に芸を出してたんだけどね』
え?そんなことないけど?
言っていることがよくわからなくてシリウスの方をじっと見る。
『君は鍛冶をしている時、知らず知らずのうちに火の加減を操ってたんだよ。最初に火を付けたらその後ずっと適切な温度調整できてなかった?』
え、まって。言われてみればそうかも。
え?あれって芸なの?
「待って、でもその時とは感覚がちょっと違うぞ?」
『今回は、「火を出す」っていう大変な作業が加わったからいつもと感じ方が違ったんだと思うよ』
「そうだったのか…じゃあ俺できてたんだ・・・!」
火を出すなんてそんな凄い事今までできるはずもないと思ってたから、嬉しくて顔がにやけてしまった。
するとシリウスは黄金の瞳はそのままに、美しく口角だけを上げて答えた。
『何言ってる?このネズミ食べられたのに燃やすって何?氷とか風とかもっと他にあったよね?しかも別の種類のネズミには牙に毒があるんだよ?それで身体動かなくなったらどうしてたんだ?それに戦い方も知らないくせに目を離して最初風に当たって…どんだけ人を待たせるんだ?』
え、待って。もっと他にって何…?
毒あるやつとか知らないし…ええぇ…
この人・・・スパルタだ!
「……はい、すいません」
言い返しても絶対得にならないってわかったので素直に謝罪することにした。
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