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第1章
2 旅へ
しおりを挟む俺は本当に世界を知らなくて、世間知らずで…
光そのもののような白金色の髪と黄金の瞳の、空から降りてくるその人をなんと表現したらいいのかわからなかった。
まるで……
はっ、まずい!今俺落下中だった!!
………え、ちょっと待って。
あの人も一緒に落ちてきてる?!
えっ嘘だろ…!?
「助けにきたわけじゃないんかあああーい!」
『あっはははははは!!!』
遠吠えのように叫んだら楽しそうな笑い声が聞こえた。そうして一定の距離のまま、俺とその人は滝つぼに落ちていった。
・・・・・・
「はぁぁぁぁ…死ぬかと思った…」
絶対に死ぬ高さだったけれど、奇跡的に助かった。一緒に落ちてきた人も無事なようで、とりあえず近くの岸に上がった。
『はい、じゃあこっち向いて』
ぐいっと、その人が俺の肩を掴んできた。
「え、っと…なんでしょう?」
人慣れしていない俺はドギマギしながらも素直に立っていると、その人は美しい笑顔を携えたままゆっくり片手を挙げた。すると温風とともに自分の服の水分が飛び、一気に水の重さが消えた。
「え…すごい。ありがとうございます!!」
『いえいえ。一緒に落ちちゃったからね、これくらいはさせて。ついでに折角だから一緒にご飯でもどう?』
・・・・・・
滝つぼから少し離れたところで今日は一緒に森の中を過ごすことになったんだが…
この人、すごい。
さっき、何かつぶやいて木をぶった切った。
そして切った木に火を付けようとしたら、一瞬で火をつけた。
水汲んできてと言われたので水を汲んで戻ってきたら、その間に野兎を4匹も捕まえてた。
え、この人絶対すごい人じゃん。
全然人を知らない俺でもわかる。
絶対すごい人。
『改めて、さっき助けなくてごめんね~乾杯!』
「あ、いえいえ。ありがとうございます。乾杯…」
何この水。美味い…。
この人がどっかから拾ってきた草を混ぜて煮込んだ飲み物。爽やかだけど落ち着くし、口に広がる香りがいい。
「あの、これ、なんですか?」
『ん?あ、これ?これはハーブの一つでカミュールっていうんだよ。その辺によく生えてるよ』
「へえ、初めて飲んだ…物知りなんですね。あ、ところでお名前は…?」
『え?あ、まだ自己紹介してないね!シリウスっていうんだ。よろしくね。』
「シリウスさん。あ、俺はアグニって言います。よろしくお願いします」
『あーごめん実は知ってるんだ』
少し申し訳なさそうにしながら首をかしげ、さらりと白金色の髪が肩から流れる。
「え、そうなんですか?」
『うん。スリーターの大公とは昔馴染みでね。君が旅に出るから見ていてほしいって言われたの』
そんなん知らなかったぞ!
けどよく考えたら俺は村から出る時はいつも護衛の兵が一緒だった。今回の長期の旅にはいないっておかしいのか。
「すいません、全然知りませんでした」
『だろうねえ。だからまさか許可が下りた次の日に出ていくなんて思わなくて追いつくのに苦労したよ~』
うわー…それは悪い事しちゃったな。
でも俺に伝えてない方が悪いからいっか。
「あの、シリウスさんは何者なんですか?軍人じゃない…ぽいですし、、、」
『ん?んー…世界をずっとふらふらしてる感じかな。軍人じゃないよ』
「けど、強いですよね?さっき木ぶった切ってるの見ましたよ」
『あーあれ?あれは別に誰でもできるよ。風の芸で「鎌鼬」って技だね』
カゼノゲイデカマイタチ…ほお。
それをつぶやいてたのか?
「あれ、俺もできますか?」
『君なら全然できるよ。教えてあげようか?』
「ほんとですか!あれ俺もできるようになりたいです!」
『いいよいいよ~。けど君、相当な箱入りそうだね?村の外に出るの初めてなんでしょう?』
「あ、初めてじゃないですよ。村周辺なら何回か。15歳の1度目の冬に出た以来なんですけどね」
『15歳の…一度目の冬?』
「あ、今俺16歳の1度目の年なんです。」
『あー………これは、これは。村の人とあんま話してないのかい?』
「…はい。なんかいつも下向かれちゃって。1年に4回、毎年春に掃除にきてくれるんですけど、それ以外は…喋らないですね…」
『でしょうねえ。でなきゃそんな訳のわからない歳の数え方しないもん。そうか~。あの子、随分と忠実だな~……』
シリウスは、はあ~……と深いため息とともに前かがみになった。
ん?世間ではこの年の数え方しないのか?
でもお父さんに教わった数え方だからな。
間違ってたぞ、お父さん。
そんなことを考えていたら、シリウスがじっと俺を見ているのに気づいた。
『ねえ、アグニ。君は随分と狭い世界で生きていたんだね?』
そしてまるで挑発するかのような魅惑的な笑顔で言った。
『 世界を知りたくないか? 』
「………世界?」
『そう、この世の全て。私と一緒ならば世界の全てを知れる……かもしれないよ。君は長い間ずっと一人で、寂しかったでしょう?』
早くに父が死んでずっと一人だった。村の人は優しかったけど、仲良くはしてくれなかった。
「……教えてくれるのか?」
『もちろん。けれど、君が自分で世界を知りなさい。私はその手伝いをしよう』
・・・知りたい。
ずっと一人でいて、人も、世界も、森で生きる方法も知らない。
『君はこれからたくさんの人に出会うだろう。人を知り、土地を知り、世界を知り……その上で僕は、君がこの世界を愛せるかを問いたい』
「………世界を愛せるか?」
『まぁどうせ今回の旅の護衛役は僕がするから暫くは一緒の行動になるよ。そしてここに戻ってきてから、また僕と一緒の旅に出るか村に残るかを考えたらいいさ。どうだい?』
シリウスが俺に手を差し出す。
これは世界への誘いだ。
俺は差し出された手を強く握り返した。
「ああ。よろしくな、シリウス!!」
これから世界を知る冒険が始まる。
俺の「知りたい」を埋める旅だ。
知りたいという感情はこれほどまでに胸を高ぶらせるかと、この時初めて知った。
・・・・・・
「ところで…シリウスって男?」
『何言ってるんだい?どう見ても男だろ?』
「あ、やっぱそうなんだ。」
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