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2巻
2-3
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ラティーフが手を叩くと、少しして扉が開く。扉から現れたのは、二人の兵士に支えられながら覚束ない足取りで入ってきた少年。十歳か、それより下くらいに見えた。苦しそうな表情で、顔色は随分と悪い。
その容姿は闇夜をすべて吸いこんだような真っ黒な髪。苦しそうに細められた瞳は蜂蜜のような黄金色だ。そして、何より目立っているのは尻から生えているだろう尻尾だ。
それはとても太く、細かい鱗が生えているのを見ると爬虫類の尻尾に見える。
とかげのような黒い尻尾を生やした彼が化身であることは、この場にいる全員がわかった。
間違いなく、彼こそが話に出ていた新たな化身だ。
支えていた兵士がそっと手を離すと、少年は崩れ落ちるように床へと座りこんだ。
――これは……酷いな。
俺が視た少年は、禍々しい黒い霧が全身に纏わりついていた。瘴気にかなり侵されている。
それは、神堕ち寸前だったころのセルデアを思い出す光景で、酷い有様だ。
ユヅ君もそれが視えたのだろう、驚きから小さく息を呑んだ音が聞こえた。
「彼の名はホロウと言う。どうだ、神子。視えているか?」
「……はい。あの、すぐにでも浄化してもいいでしょうか?」
ユヅ君の声は切迫感に満ちており、それを察したラティーフは頷いた。
ユヅ君は、早足でホロウのもとへ向かうと、そっとその手を握る。すると、少しずつだが黒い霧が薄まっていくのがわかる。ユヅ君が浄化しているようだ。
当たり前ではあるが、他人が浄化しているのを初めて見たので、素直に感動してしまう。
ホロウは浄化されていくことを感じるのだろう。信じられないという顔で、ユヅ君を見つめている。それを見守っている時、俺の身体に異変が起きた。
突如、ぐらりと世界が大きく歪む。
……なんだ、これ。
全身に疲労感が一気に広がり、頭が重くなる。さらに倦怠感も加わり、四肢が重く感じられていく。立ち眩みを感じ、そのままよろめいた。
「サワジマ!」
それをすぐに支えてくれたのは、セルデアだ。因みに、この国では俺の名前は澤島ということで統一してもらっている。
「も、申し訳、ありません。移動中の疲労が押し寄せてきたようです」
なんとか言い訳を口にするが、疲労感は消えていない。セルデアが眉を顰めながら案じ顔で、こちらを覗きこむ。
「陛下。申し訳ありませんが、この者を下がらせてもよろしいでしょうか?」
「……許そう。部屋はすでに用意してある。そこに寝かせてやればよい」
「多大な温情、感謝いたします」
セルデアは一度頭を下げたあとに、俺を抱き上げる。それこそゆっくりと横抱きにしてくれたおかげで、図らずともお姫様だっこされた姿を、この国でも俺は晒すことになってしまった。
しかし、今の俺には嫌がるほどの気力はなく、されるがままだ。
「……大丈夫だ、私が貴方を守る。絶対に貴方だけは」
セルデアの小声は俺を慰めるような言葉ではあったが、自分に言い聞かせているようでもあった。俺は口を開く気力すらなく、それには答えられなかった。
ただ大人しく目を閉じる。俺はセルデアに身体を預けながら、今自分が陥っている状態には覚えがあった。
それは決して起こることがないはずのものだ。しかし、それによく似ていた。
――神子の力を使い過ぎた際に起こる症状。
■■■■
「い、異常はございません。旅の疲労が溜まっていたかと思います」
「そうか……」
「そ、それではこれで失礼いたします!」
そう言って慌てて部屋から飛び出していったのは、ラティーフが手配してくれた医師だ。先ほどから、にこりともしないセルデアの圧力に耐えかねて、逃げるように出ていった。
確かに今のセルデアは鬼気迫るものがあり、医師の反応は仕方ないだろう。
「だから心配し過ぎだ、セルデア。少し疲れただけだって」
今俺は、用意された一室にあるベッドの上だ。側付き神官のために用意された部屋にしては広く、思った以上に豪華だった。屋根付近にある複数の小さな窓に、宝石細工の施された家具たち、どれをとっても高級感が漂っている。
先ほどの小さな窓から差しこむ陽光はなく、日はすでに落ちて真っ暗だ。
「しかし……」
「もうなんともないって。大丈夫だ。だからお前ももう行ってこい」
セルデアが、俺をここに担ぎこんですでに数時間以上経過している。その間にユヅ君たちも心配して見に来てくれたが、もうセルデア以外いない。
それは、彼らがラティーフが開催した宴に参加しているからだ。さすがに宴の主役にもなる神子のユヅ君がいない訳にもいかない。そして、それは他の面々も変わらない。
先ほど倒れた俺は身体を休めるように、という言葉を貰い免除されたが、エルーワ国の面子は全員がその宴に招待されている。セルデアも例外ではない。
しかし、セルデアは俺の病状がわかるまで離れないと言って、未だに参加していない状態だ。
「今なら間に合うだろ?」
セルデアの眉間に皺が、ぎゅっと数多く刻まれる。鋭い目つきは不愉快そうに細められ、ただ沈黙を貫く。
……また、そんな怖い顔をしちゃって。
これでもセルデアの気持ちはわかっているつもりだ。彼の心の奥では、今頃化身の本能と強固な理性が戦い合っているだろう。
セルデアの本心としては、倒れた俺から一時も離れたくないと思ってくれているのだろう。しかし、対外的にも、エルーワ国の貴族としても、皇帝が開催した宴に出ることは重要だということも理解している。
本当に真っ直ぐで不器用な男だ、こいつは。
「本当に大丈夫だって。何かあったら伝えてもらうよ……こいつ、ラナンに」
「ラナン?」
俺が懐に指を突っこむと、察しがいい白蛇が指先に巻き付く。それをゆっくりとセルデアの前に見せると、挨拶するように舌をちろちろと覗かせた。
「そう、ラナン。お前に貰った白蛇の名前、ラナンにしたんだ」
別にかっこいい意味や、文字遊びで考えた訳ではない。ふっと頭に浮かんだ名前をぱっと付けただけだ。
強いて理由をあげるならこの名前が頭から離れなかったのだ。自分でも意味がわからない。とにかく、俺は名付けというものが得意ではないようだ。残念だが、白蛇にはこの名前で納得してもらうしかないだろう。
「そうか」
セルデアは、俺の口からラナンという名を聞くとふっと柔らかく、一瞬笑った。
「だから、安心してくれ」
「……わかった。貴方の言葉を信じよう。宴が終わり次第、すぐにこちらへ戻ってくる」
「ああ、気長に待ってる」
セルデアが俺の手を掴んで、そっと手の甲に唇を落とす。恭しく触れる素振りさえ絵になるのは、こいつの美しい容姿があってこそだ。
しかし、いくら絵になるとはいっても、口付けをされる相手は俺であり、なんとも落ち着かない気分になる。普通のキスの何倍も恥ずかしいと考えてしまう俺は、おかしいのだろうか。
こういうことが自然とできてしまうあたり、セルデアは生まれながらの貴族なのだと再認識させられる。
名残惜しそうに手を離したセルデアは、その後も二︑三度くらい振り返りながら渋々と出ていった。
その背中を見送ってから、見慣れない天井をぼんやりと眺める。天井には規則に沿った幻想的な幾何学模様が描かれていた。それを視界に収めながら考えるのは、謁見の間で倒れそうになったことだ。
「あの、感覚……」
倒れそうになったあの時は、神子の力を使った反動に近いと思ったが、よくよく考えれば有り得ない話だ。
――俺には、もう神子の力は使えない。
セルデアの瘴気を浄化した際に極限まで使った代償としてなのか、その力は消えた。のちにメルディがしっかりと調べたあとに言ったのが、一種の防衛反応が働いたのではないかということだ。
神子の力は、生命力を使う。生命力といっても通常の神子は過剰分を使うだけであり、何の問題もない。
ただ、俺の場合は扱える力が大きかった分、使う生命力も大きかった。実際死ぬ直前まで生命力を使ったので、俺自身が無意識に力を使うのを嫌がっているのではないか、ということだ。
それに関して納得できる点もある。元々俺は神子でいることにも嫌気が差していた。
片手を天井へと伸ばして、昔のように掌に力をこめてみる。しかし、そこには何も現れない。
「……本当に疲れていただけか」
だらりと手を下げると、無意識に溜め息が漏れた。確かに、乗りなれない馬車であれだけの長時間をかけて移動したのは生まれて初めてだ。疲労がなかったとは言い切れない。
なら、身体を休められる内に休めておいたほうがいいだろう。そう自分に言い聞かせて目蓋をそっと閉じた。
どれくらい目を閉じていたのかわからない。ふと、意識が戻ってから自分が少しだけ寝ていたことを自覚する。
目を開いて辺りを見渡すと、そこにセルデアの姿はない。体感的にも、そこまで長く寝ていたつもりはない。予想では大体一時間くらいだとは思っていたが、さすがに正確な時刻まではわからない。
俺はゆっくりとベッドから起き上がり、喉元を手で撫でる。
「……喉、渇いたな」
室内を見渡すが、水差しらしいものが見当たらない。その間も喉の渇きが増していき、俺は水を探すべく、ついにはベッドから降りた。
床に足がついても、先ほどのようにふらついたりはしなかった。やっぱり、疲れていたのか。
そのまま少し部屋の中を歩いて探すが、やはりそれらしいものは見つからない。
「ないな……」
自分の項を掻きながら首を傾げる。こうなれば、部屋を出るしかあるまい。
ただ単に俺が水差しを見つけ切れていないだけだろうが、無駄に広い部屋を無作為に探すよりは、誰かに聞いたほうが手っ取り早い気がする。
そうと決まればと、すぐに部屋の扉を開き外へ向かった。
外に出た先の廊下は、この宮殿の大きさを改めて理解できる程広い。廊下は中庭を囲む回廊となっており、中庭方面には壁がなく外気が直接頬を撫でていく。
……そういえば俺をここに連れてきたのはセルデアで、俺はここがどこなのか知らない。いや、見てはいたがあの時は覚えている余裕なんてものがあるはずもなく、朧げだ。
人を探しに離れたら……下手すればここに戻れなくなるか?
さすがにそれは困る。迷子が恥ずかしいというのもあるが、セルデアに余計な心配をかけてしまう。
「……んー、諦めるか」
踵を返して、そのまま部屋に戻ろうとした時だ。
「――……ううぅ」
突如聞こえた苦しそうな呻き声に、びくりと肩が跳ね、思わず足を止めた。その声は足を止めた後も聞こえている。この声、どこから聞こえてるんだ。
一旦部屋に戻るのをやめて、辺りを見渡す。よく目を凝らすと廊下の曲がり角辺りに人影が見えた。壁に凭れかかるようにして座りこんでいるように見える。
……体調が悪いのか?
呻き方といい、誰かが倒れている可能性は十分にある。さすがに放置しておくほどに薄情ではないので、様子を見るために、俺は恐る恐る廊下へと出た。
人影へとゆっくりと近づいていく。そして、ある程度の距離に近づいた時にそこにいる人物の顔が見えた。
――それは見知った顔だった。
「……陛下?」
そこにいるのは、今頃宴を楽しんでいるはずの主催者、ラティーフだ。
壁に凭れかかりながら、廊下の床に膝を抱えて座りこむ姿に戸惑いを隠せない。なぜここにいるのかはわからないが、緊急を要する事態だと大変だ。
慌てて近寄るが、ラティーフから漂う匂いに気付いてすぐ側で足を止めた。鼻を小さく鳴らして再度匂いを確かめる。明らかに酒臭い。
「なんだあ、早いじゃないか」
その時ラティーフが顔を上げるが、その顔は赤らみ、目は焦点が合っておらずぼんやりとしている。少々舌足らずの口調を聞いて、現状はすぐに理解できた。
――こいつ、完璧に酔っているな。
なぜここにいるかはわからないが、酔いが回りきっているのは誰の目から見ても明らかだ。猛烈に部屋に戻りたい気持ちが全身に押し寄せてくる。
「みず、みずはどこだ」
「ええと、申し訳ありませんが、こちらもそれを探していまして」
「うう……」
ラティーフは問いかけながらも、俺の返答はまったく耳に入っていない様子だ。この様子だと俺だということも認識していないように見えた。
彼がこんな場所に独りきりでいるはずはないと、辺りに目を配る。
「……もうやだ」
「はい?」
ふと悲愴感の漂う声に、洟を啜るような音が混じる。その音の方向にいるのは間違いなくラティーフだ。
「だから、俺には向いてないって言ったじゃん……」
「……」
「偉そうに演じるのだって、楽じゃないんだよう……だから向いてないんだって」
ラティーフは、弱々しくそう言いながら膝を抱える。その姿には先ほど、謁見の間で感じた王者の風格などは一欠片も残っていなかった。
それに対して、俺が驚くことはない。
俺が知っているラティーフ・ ウスティノフはこういう男だった。
ラティーフは、元々皇帝にはふさわしくない気質の持ち主だった。基本的に後ろ向きの性格で臆病者であり、いつも皇帝になりたくないと泣き言を口にしていた。
しかし、心身共に丈夫な男子はラティーフしかおらず、彼以外に皇帝を継げるものがいなかった。
強い皇帝を求める父親と周りに追い詰められ、ラティーフが選んだのが演技だ。ラティーフは、自分と周りを誤魔化すために、レラグレイ帝国にふさわしい皇子を演じることにしたのだ。
元々演劇や催し物が大好きであった彼が、その情熱を注いで演じたからこそできるものだった。
昔、俺とラティーフが仲良くなれた理由は、俺が異世界から来た人間であったからだと思う。この世界と関わりが深くない俺であれば、演技する必要がないとラティーフが感じたのだろう。
彼はよく、演技なく接することができた同世代の友人は俺だけだと言っていた。
「……酒で、ボロが出るのはまずいだろう」
これらの言葉で、なぜここにラティーフがいるのかを理解できた気がした。宴で酒を飲み過ぎたせいなのか、ボロが出る前に慌てて離れたのだろう。
主催者が離れた宴ならば、そろそろ終わりとなるはずだ。そうすればセルデアも戻ってくる。
とりあえず、水を求めている訳だから持ってきてやるべきだな。
「少し、お待ちください」
ラティーフの肩を慰めるように一度だけ撫でる。
一瞬、礼儀知らずだと罵られる可能性も考えたがラティーフはそれを気にしている余裕はなさそうだ。俺は、その場から離れ、用意された自室に戻ることにした。
改めて水差しを探しに行こうと思ったからなのだが、自室の前に辿り着いたところで、それは聞こえた。
「陛下、水をお持ちしました」
振り返ると、従者らしき人間がラティーフに駆け寄っていた。どうやら彼の側にいなかったのは、水を取りに行っていたからのようだった。
それもそうか。あの状態のまま一人で、ここまで来るのは難しいだろう。
ラティーフが、それを受け取っているのが遠目でも見ることができた。なら俺は用なしだ、黙って部屋の中に入ることにした。
別の誰かがいるのなら、俺が出しゃばる必要はないだろう。セルデアも帰ってくるのがわかっているし、大人しく部屋で待つことにした。
ふと、目線を手元に落とす。それはラティーフの肩に触れた手だ。
偶然とはいえ、久しぶりに出会った友人は変わっていなかった。変わってしまっている俺は、それが少しだけ嬉しくて、口元を緩めて小さく笑った。
「本当に治ってよかったよ」
「ご心配をおかけしました、ユヅル様」
次の日の早朝、俺が今いるのはユヅ君の自室だ。ユヅ君の自室の内装は俺のところと大きく変わらない。しかしその広さは倍以上あり、ベッドもキングサイズ程ある。
俺は、椅子に座るユヅ君の髪を、木製のブラシで整えていた。
俺がこうしている理由は、神子の側付き神官としての役目を果たすためだ。
役目といっても、俺が側付きの仕事を知っている訳がない。今は側にいるイドの指示に従いながら動いている状態だ。
本当ならイド一人で事足りるそうだが、俺も今は働いている素振りが必要だった。その理由はユヅ君の横にいる人物にある。
その人物は、ユヅ君の服を力強く引く。
「わっ。ホロウ、あんまり強く引いちゃだめだよ」
「……うん。ごめんね、ユヅ」
ユヅ君に注意されるが、ユヅ君の服をしっかりと掴んで放そうとしない。黒い尻尾を持つ新たな化身であるホロウは、浄化してもらってからユヅ君にべったりだった。
俺が倒れた後から、今のようにユヅ君の後ろを付いて回っているらしく、小さな手でユヅ君の服をぎゅっと掴んで一時も放さない。
それこそ昨夜は寝る時も一緒だったというから、その懐きようは凄まじい。
ホロウにとって、ユヅ君は瘴気から解放してくれた救世主だ。その気持ちがわからないでもない。
さらに彼は天涯孤独らしく、頼れる身内はいないそうだ。元々、森の奥で祖母とひっそり暮らしていたが祖母が死んだことによって街におり、その際に化身として発見されたのだという。
とにかく、ホロウにすべての事情を話す訳にもいかないので、今の俺は側付き神官としての演技を続けるしかない。
俺はブラシで、ゆっくりとユヅ君の黒髪を梳かしていく。絡むことなく、ブラシが通っていく。俺の髪にはない、さらさらした髪がとっても羨ましい。これが若さなのだろうか?
「それで、昨日の宴で決まったことなんだけど、俺たち今日はレラグレイ帝国を観光することになったんだ」
「観光……ですか?」
「そう、陛下が先に我が国について知ってほしいって」
俺たちの滞在期間は一週間と決まっていた。その間に、瘴気の件や、それに伴う変化についての話し合いが行われる予定だったのだ。
しかし、ラティーフはそれらの話し合いの前に、自らの目で我が国を知ってほしいと言ったそうだ。
なるほど。そうなると、今日一日は観光で終わりそうだな。
「だから、見て回るってことになったんだけど……」
ユヅ君は言い淀んでしまい、どこか気まずそうに俺の顔を窺う。何か言いたそうにしているのはわかるが、さすがにそれだけでユヅ君の意思を汲むことはできずに首を傾げた。
「ホロウ様。ホロウ様も衣服を着替えましょう」
「え。で、でも……」
「すぐそこに、着替えがありますから大丈夫ですよ。ユヅル様も側におられます」
イドが、未だにユヅ君から離れようとしないホロウに呼びかける。ホロウは戸惑いながら、ユヅ君の顔をじっと見つめていた。
よほどユヅ君から離れたくないらしい。その様子は卵から孵った雛鳥のようだった。
ただイドの言う通り、彼にも着替えが必要なのは間違いない。ユヅ君は慰めるように頭を撫でてから「行っておいで」と声をかけた。すると、ためらいはあったが、ホロウは素直に頷いてイドのほうへと向かった。
ホロウが離れたところを見計らって、ユヅ君がこちらを振り返る。俺は、なんとなく意図を察して、身を屈めるとユヅ君がそっと耳打ちしてきた。
「……宴の際にルーカスたちもホロウに挨拶をしたんだけど、その時からセルデアが怖いって。一緒にいたくないってホロウが泣くんだ」
「……ああ」
俺はそれに対して、弁護する言葉を持ち合わせていなかった。
あのくらいの年齢では、セルデアに対して恐怖を抱くのは仕方ないことだ。セルデアがもう少し子供向けの優しい笑顔ができればいいのだが、難しいだろう。無理して笑わせると逆に泣かせる結果になる。
ならば話術で、と思うがあの不器用人間が会話で和ませることなどできそうにない。それに関しては、身をもって実感している。
俺はただ静かに頷くしかできなかった。
「それでも今日のことでセルデアに相談したら、自分が一人でここに残るって言って……」
俺がそれを聞いて真っ先に思ったのは、セルデアらしい、ということだった。彼にとって自分自身の優先度は限りなく低い。セルデアにとっては、見知らぬ少年が自分より優先されるべきだと考えたのだろう。
ったく……アイツは。
ユヅ君は、眉尻を下げて俯く。きっとユヅ君の心の中は申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。
本当ならばホロウのほうを残して行くべきだ。しかし、今やホロウはユヅ君にべったりで、それを無理矢理に引き離すことはさすがの俺でも心が痛む。
あのくらいの歳の子に、きつく言い聞かせるのも……な。
移動程度なら、この国に来た時のように馬車二つでも可能だが、見て回るのに共に行動できないというのはいろいろなリスクも伴うはずだ。きっとセルデアも、それがわかっているからこその答えだろう。
なら、俺が答えることも決まっていた。
「だったら、俺も残るよ。セルデアの側には俺がいるから安心してくれ」
「……郁馬さん」
ユヅ君の声は弱々しい。俺がその選択をすることを彼もわかっていたのだろう。
これに関してユヅ君が悪い訳ではないのに、罪悪感を抱えているのがわかった。逆に十代の子にここまで気を遣わせて、申し訳ないくらいだ。だからこそ安心させるように、綺麗に梳かした髪を優しく撫でた。
「……気遣ってくれてありがとう。大丈夫だよ、気にせず行っておいで」
ユヅ君は少し驚いた顔をしてから、はにかんだ。
気を遣ってもらっているのに少々申し訳ないが、俺としては大変ありがたい話ではあった。
体調を崩した件もあるが、それ以外にも元々俺はインドア派の人間だ。セルデアの屋敷内でしか動けなかった時も苦痛に感じたことは一度もなかった。ゆっくりできるチャンスがあるのならば、それを逃す手はない。
セルデアを呼んで広い部屋で思う存分、怠惰に過ごそうと心に決めた。
「ユヅ!」
ホロウがイドに新たな衣装を着せてもらい、駆け足でこちらに戻ってくる。そして、すぐさまユヅ君に飛びつくように抱きついた。
その小さな腕で、力いっぱいユヅ君を抱き締めながら、俺を睨みつけた。
俺に奪われるとでも思ったのか、逸らすことのない目には確かに敵意があった。小さな子がすることだ、俺としては微笑ましいとしか思えない。
ただ、こちらを見つめる金色の瞳は陽光を浴びて、恐ろしい程に美しいなとだけ強く感じていた。
ユヅ君の支度の残りはイドが行うということで、俺はユヅ君の自室を後にすることにした。扉を開いた瞬間、人影がすぐに見える。
「サワジマ」
声をかけてきたのは、セルデアだ。廊下の柱に寄りかかるように立っていたが、俺を見るなり近くに駆け寄ってくる。その姿に俺も自然と口元が緩んだ。
もしかして、ずっと俺を待っていてくれたのだろうか。
「サリダート公爵」
名前を呼んでから、軽く頭を下げる。ここは廊下だ、誰が通るかわからない。普段のように接するのはいろいろと問題がある。
だからこそ俺は、ただの神官としてセルデアに接しなくてはいけない。
――しかし、こうして呼び合うのも懐かしいな。
再召喚されたばかりの時のことを思い出す。あれだけセルデアが嫌いだった自分が、今やただ見るだけで、こんなにも堪らないほどに幸せな気持ちになるとは。
セルデアも同じ気持ちを抱いたのか、少しだけ懐かしそうに目を細めてから、小さく頷いた。
「この度は、私もこちらに残ることとなりました。何かあればお声がけください」
「……いいのか?」
「はい、構いません」
セルデアは一瞬だけ目を丸くしたが、俺の返答を聞いて少しだけ眉尻を下げて微笑む。
そこには、微かな後ろめたさが滲んでいた。俺がセルデアのために残ったと気付いているのだろう。しかし、半分は自分のためでもある。
気にするな、という意味をこめて首を振るとセルデアは深々と頷いた。
「……では、この後の時間は空いているだろうか?」
その言葉に待ってましたと心が騒いで、背筋も真っ直ぐに伸ばす。
俺の今からの予定としては、このままセルデアを連れて自室でゆっくりすることだ。昼寝という選択肢も悪くないだろう。
「もちろんです」
俺が喜々として頷くと、セルデアはその鋭い目を細める。そして、おもむろに俺に向かって手を差し出した。
「では、よければ私と出かけないか?」
「え」
その誘いは予想外だった。
思わず固まった俺を見て、セルデアは小首を傾げる。しかし、差し出した手を引っこめるつもりはないようだった。
「宴で聞いたのだが、この近場に海の現身が普通に食べられる場所があるらしい」
「え! ほ、本当ですか?」
この世界の食べ物は、地球と同じものも、見たことも食べようとも思わないものも普通に存在している。
この世界でいう海の現身は、俺の世界でいうイカだ。
イカは、エルーワでは神聖な食べ物とされ、収穫祭の早朝という一定条件下でしか食べることを許されていないのだ。
イカが好物の一つである俺としては、嫌がらせにしか思えない決まりだ。しかし、そのイカがこの国では普通に食べられるという。……食べられるというなら、もちろん食べたいと思っている。
俺の頭に浮かぶのは、リアンプというゲテモノだ。今でもあれを食べた感触を思い出すと自然と眉根を寄せてしまう。
それに、俺の目的は怠惰に過ごすことだ。出かけるのは想定外だ。少し返答に迷う。
「サワジマ」
動かない俺に対して、セルデアは差し出した手をしっかりとこちらへと傾けた。
「――約束だ。共にいこう」
そう言って彼は、俺を優しく誘う。
紫水晶のような瞳に澱みなどはなく、真っ直ぐな意思がしっかりと俺に伝わる。
確かに、俺とセルデアは一緒に俺の好物を食べようと約束していた。それこそ、ずっと前からしていた念願の約束だ。彼なりに約束をしっかり果たそうとしてくれているのだろう。いや、もしかしたら俺に好物を食べさせたいという優しさからかもしれない。
どちらにしても……本当に、純粋なやつだ。
俺も、そんなセルデア相手に断るという選択をする程にはひねくれていない。
だからこそ、小さく肩を竦めてから手を伸ばした。差し出されたセルデアの手にそっと自分の手を重ねる。
セルデアは俺の手をゆっくり握り締め、笑った。
その微笑みが、ほの暗い企みが成功したかのように見えたのは、いつものことだ。
その容姿は闇夜をすべて吸いこんだような真っ黒な髪。苦しそうに細められた瞳は蜂蜜のような黄金色だ。そして、何より目立っているのは尻から生えているだろう尻尾だ。
それはとても太く、細かい鱗が生えているのを見ると爬虫類の尻尾に見える。
とかげのような黒い尻尾を生やした彼が化身であることは、この場にいる全員がわかった。
間違いなく、彼こそが話に出ていた新たな化身だ。
支えていた兵士がそっと手を離すと、少年は崩れ落ちるように床へと座りこんだ。
――これは……酷いな。
俺が視た少年は、禍々しい黒い霧が全身に纏わりついていた。瘴気にかなり侵されている。
それは、神堕ち寸前だったころのセルデアを思い出す光景で、酷い有様だ。
ユヅ君もそれが視えたのだろう、驚きから小さく息を呑んだ音が聞こえた。
「彼の名はホロウと言う。どうだ、神子。視えているか?」
「……はい。あの、すぐにでも浄化してもいいでしょうか?」
ユヅ君の声は切迫感に満ちており、それを察したラティーフは頷いた。
ユヅ君は、早足でホロウのもとへ向かうと、そっとその手を握る。すると、少しずつだが黒い霧が薄まっていくのがわかる。ユヅ君が浄化しているようだ。
当たり前ではあるが、他人が浄化しているのを初めて見たので、素直に感動してしまう。
ホロウは浄化されていくことを感じるのだろう。信じられないという顔で、ユヅ君を見つめている。それを見守っている時、俺の身体に異変が起きた。
突如、ぐらりと世界が大きく歪む。
……なんだ、これ。
全身に疲労感が一気に広がり、頭が重くなる。さらに倦怠感も加わり、四肢が重く感じられていく。立ち眩みを感じ、そのままよろめいた。
「サワジマ!」
それをすぐに支えてくれたのは、セルデアだ。因みに、この国では俺の名前は澤島ということで統一してもらっている。
「も、申し訳、ありません。移動中の疲労が押し寄せてきたようです」
なんとか言い訳を口にするが、疲労感は消えていない。セルデアが眉を顰めながら案じ顔で、こちらを覗きこむ。
「陛下。申し訳ありませんが、この者を下がらせてもよろしいでしょうか?」
「……許そう。部屋はすでに用意してある。そこに寝かせてやればよい」
「多大な温情、感謝いたします」
セルデアは一度頭を下げたあとに、俺を抱き上げる。それこそゆっくりと横抱きにしてくれたおかげで、図らずともお姫様だっこされた姿を、この国でも俺は晒すことになってしまった。
しかし、今の俺には嫌がるほどの気力はなく、されるがままだ。
「……大丈夫だ、私が貴方を守る。絶対に貴方だけは」
セルデアの小声は俺を慰めるような言葉ではあったが、自分に言い聞かせているようでもあった。俺は口を開く気力すらなく、それには答えられなかった。
ただ大人しく目を閉じる。俺はセルデアに身体を預けながら、今自分が陥っている状態には覚えがあった。
それは決して起こることがないはずのものだ。しかし、それによく似ていた。
――神子の力を使い過ぎた際に起こる症状。
■■■■
「い、異常はございません。旅の疲労が溜まっていたかと思います」
「そうか……」
「そ、それではこれで失礼いたします!」
そう言って慌てて部屋から飛び出していったのは、ラティーフが手配してくれた医師だ。先ほどから、にこりともしないセルデアの圧力に耐えかねて、逃げるように出ていった。
確かに今のセルデアは鬼気迫るものがあり、医師の反応は仕方ないだろう。
「だから心配し過ぎだ、セルデア。少し疲れただけだって」
今俺は、用意された一室にあるベッドの上だ。側付き神官のために用意された部屋にしては広く、思った以上に豪華だった。屋根付近にある複数の小さな窓に、宝石細工の施された家具たち、どれをとっても高級感が漂っている。
先ほどの小さな窓から差しこむ陽光はなく、日はすでに落ちて真っ暗だ。
「しかし……」
「もうなんともないって。大丈夫だ。だからお前ももう行ってこい」
セルデアが、俺をここに担ぎこんですでに数時間以上経過している。その間にユヅ君たちも心配して見に来てくれたが、もうセルデア以外いない。
それは、彼らがラティーフが開催した宴に参加しているからだ。さすがに宴の主役にもなる神子のユヅ君がいない訳にもいかない。そして、それは他の面々も変わらない。
先ほど倒れた俺は身体を休めるように、という言葉を貰い免除されたが、エルーワ国の面子は全員がその宴に招待されている。セルデアも例外ではない。
しかし、セルデアは俺の病状がわかるまで離れないと言って、未だに参加していない状態だ。
「今なら間に合うだろ?」
セルデアの眉間に皺が、ぎゅっと数多く刻まれる。鋭い目つきは不愉快そうに細められ、ただ沈黙を貫く。
……また、そんな怖い顔をしちゃって。
これでもセルデアの気持ちはわかっているつもりだ。彼の心の奥では、今頃化身の本能と強固な理性が戦い合っているだろう。
セルデアの本心としては、倒れた俺から一時も離れたくないと思ってくれているのだろう。しかし、対外的にも、エルーワ国の貴族としても、皇帝が開催した宴に出ることは重要だということも理解している。
本当に真っ直ぐで不器用な男だ、こいつは。
「本当に大丈夫だって。何かあったら伝えてもらうよ……こいつ、ラナンに」
「ラナン?」
俺が懐に指を突っこむと、察しがいい白蛇が指先に巻き付く。それをゆっくりとセルデアの前に見せると、挨拶するように舌をちろちろと覗かせた。
「そう、ラナン。お前に貰った白蛇の名前、ラナンにしたんだ」
別にかっこいい意味や、文字遊びで考えた訳ではない。ふっと頭に浮かんだ名前をぱっと付けただけだ。
強いて理由をあげるならこの名前が頭から離れなかったのだ。自分でも意味がわからない。とにかく、俺は名付けというものが得意ではないようだ。残念だが、白蛇にはこの名前で納得してもらうしかないだろう。
「そうか」
セルデアは、俺の口からラナンという名を聞くとふっと柔らかく、一瞬笑った。
「だから、安心してくれ」
「……わかった。貴方の言葉を信じよう。宴が終わり次第、すぐにこちらへ戻ってくる」
「ああ、気長に待ってる」
セルデアが俺の手を掴んで、そっと手の甲に唇を落とす。恭しく触れる素振りさえ絵になるのは、こいつの美しい容姿があってこそだ。
しかし、いくら絵になるとはいっても、口付けをされる相手は俺であり、なんとも落ち着かない気分になる。普通のキスの何倍も恥ずかしいと考えてしまう俺は、おかしいのだろうか。
こういうことが自然とできてしまうあたり、セルデアは生まれながらの貴族なのだと再認識させられる。
名残惜しそうに手を離したセルデアは、その後も二︑三度くらい振り返りながら渋々と出ていった。
その背中を見送ってから、見慣れない天井をぼんやりと眺める。天井には規則に沿った幻想的な幾何学模様が描かれていた。それを視界に収めながら考えるのは、謁見の間で倒れそうになったことだ。
「あの、感覚……」
倒れそうになったあの時は、神子の力を使った反動に近いと思ったが、よくよく考えれば有り得ない話だ。
――俺には、もう神子の力は使えない。
セルデアの瘴気を浄化した際に極限まで使った代償としてなのか、その力は消えた。のちにメルディがしっかりと調べたあとに言ったのが、一種の防衛反応が働いたのではないかということだ。
神子の力は、生命力を使う。生命力といっても通常の神子は過剰分を使うだけであり、何の問題もない。
ただ、俺の場合は扱える力が大きかった分、使う生命力も大きかった。実際死ぬ直前まで生命力を使ったので、俺自身が無意識に力を使うのを嫌がっているのではないか、ということだ。
それに関して納得できる点もある。元々俺は神子でいることにも嫌気が差していた。
片手を天井へと伸ばして、昔のように掌に力をこめてみる。しかし、そこには何も現れない。
「……本当に疲れていただけか」
だらりと手を下げると、無意識に溜め息が漏れた。確かに、乗りなれない馬車であれだけの長時間をかけて移動したのは生まれて初めてだ。疲労がなかったとは言い切れない。
なら、身体を休められる内に休めておいたほうがいいだろう。そう自分に言い聞かせて目蓋をそっと閉じた。
どれくらい目を閉じていたのかわからない。ふと、意識が戻ってから自分が少しだけ寝ていたことを自覚する。
目を開いて辺りを見渡すと、そこにセルデアの姿はない。体感的にも、そこまで長く寝ていたつもりはない。予想では大体一時間くらいだとは思っていたが、さすがに正確な時刻まではわからない。
俺はゆっくりとベッドから起き上がり、喉元を手で撫でる。
「……喉、渇いたな」
室内を見渡すが、水差しらしいものが見当たらない。その間も喉の渇きが増していき、俺は水を探すべく、ついにはベッドから降りた。
床に足がついても、先ほどのようにふらついたりはしなかった。やっぱり、疲れていたのか。
そのまま少し部屋の中を歩いて探すが、やはりそれらしいものは見つからない。
「ないな……」
自分の項を掻きながら首を傾げる。こうなれば、部屋を出るしかあるまい。
ただ単に俺が水差しを見つけ切れていないだけだろうが、無駄に広い部屋を無作為に探すよりは、誰かに聞いたほうが手っ取り早い気がする。
そうと決まればと、すぐに部屋の扉を開き外へ向かった。
外に出た先の廊下は、この宮殿の大きさを改めて理解できる程広い。廊下は中庭を囲む回廊となっており、中庭方面には壁がなく外気が直接頬を撫でていく。
……そういえば俺をここに連れてきたのはセルデアで、俺はここがどこなのか知らない。いや、見てはいたがあの時は覚えている余裕なんてものがあるはずもなく、朧げだ。
人を探しに離れたら……下手すればここに戻れなくなるか?
さすがにそれは困る。迷子が恥ずかしいというのもあるが、セルデアに余計な心配をかけてしまう。
「……んー、諦めるか」
踵を返して、そのまま部屋に戻ろうとした時だ。
「――……ううぅ」
突如聞こえた苦しそうな呻き声に、びくりと肩が跳ね、思わず足を止めた。その声は足を止めた後も聞こえている。この声、どこから聞こえてるんだ。
一旦部屋に戻るのをやめて、辺りを見渡す。よく目を凝らすと廊下の曲がり角辺りに人影が見えた。壁に凭れかかるようにして座りこんでいるように見える。
……体調が悪いのか?
呻き方といい、誰かが倒れている可能性は十分にある。さすがに放置しておくほどに薄情ではないので、様子を見るために、俺は恐る恐る廊下へと出た。
人影へとゆっくりと近づいていく。そして、ある程度の距離に近づいた時にそこにいる人物の顔が見えた。
――それは見知った顔だった。
「……陛下?」
そこにいるのは、今頃宴を楽しんでいるはずの主催者、ラティーフだ。
壁に凭れかかりながら、廊下の床に膝を抱えて座りこむ姿に戸惑いを隠せない。なぜここにいるのかはわからないが、緊急を要する事態だと大変だ。
慌てて近寄るが、ラティーフから漂う匂いに気付いてすぐ側で足を止めた。鼻を小さく鳴らして再度匂いを確かめる。明らかに酒臭い。
「なんだあ、早いじゃないか」
その時ラティーフが顔を上げるが、その顔は赤らみ、目は焦点が合っておらずぼんやりとしている。少々舌足らずの口調を聞いて、現状はすぐに理解できた。
――こいつ、完璧に酔っているな。
なぜここにいるかはわからないが、酔いが回りきっているのは誰の目から見ても明らかだ。猛烈に部屋に戻りたい気持ちが全身に押し寄せてくる。
「みず、みずはどこだ」
「ええと、申し訳ありませんが、こちらもそれを探していまして」
「うう……」
ラティーフは問いかけながらも、俺の返答はまったく耳に入っていない様子だ。この様子だと俺だということも認識していないように見えた。
彼がこんな場所に独りきりでいるはずはないと、辺りに目を配る。
「……もうやだ」
「はい?」
ふと悲愴感の漂う声に、洟を啜るような音が混じる。その音の方向にいるのは間違いなくラティーフだ。
「だから、俺には向いてないって言ったじゃん……」
「……」
「偉そうに演じるのだって、楽じゃないんだよう……だから向いてないんだって」
ラティーフは、弱々しくそう言いながら膝を抱える。その姿には先ほど、謁見の間で感じた王者の風格などは一欠片も残っていなかった。
それに対して、俺が驚くことはない。
俺が知っているラティーフ・ ウスティノフはこういう男だった。
ラティーフは、元々皇帝にはふさわしくない気質の持ち主だった。基本的に後ろ向きの性格で臆病者であり、いつも皇帝になりたくないと泣き言を口にしていた。
しかし、心身共に丈夫な男子はラティーフしかおらず、彼以外に皇帝を継げるものがいなかった。
強い皇帝を求める父親と周りに追い詰められ、ラティーフが選んだのが演技だ。ラティーフは、自分と周りを誤魔化すために、レラグレイ帝国にふさわしい皇子を演じることにしたのだ。
元々演劇や催し物が大好きであった彼が、その情熱を注いで演じたからこそできるものだった。
昔、俺とラティーフが仲良くなれた理由は、俺が異世界から来た人間であったからだと思う。この世界と関わりが深くない俺であれば、演技する必要がないとラティーフが感じたのだろう。
彼はよく、演技なく接することができた同世代の友人は俺だけだと言っていた。
「……酒で、ボロが出るのはまずいだろう」
これらの言葉で、なぜここにラティーフがいるのかを理解できた気がした。宴で酒を飲み過ぎたせいなのか、ボロが出る前に慌てて離れたのだろう。
主催者が離れた宴ならば、そろそろ終わりとなるはずだ。そうすればセルデアも戻ってくる。
とりあえず、水を求めている訳だから持ってきてやるべきだな。
「少し、お待ちください」
ラティーフの肩を慰めるように一度だけ撫でる。
一瞬、礼儀知らずだと罵られる可能性も考えたがラティーフはそれを気にしている余裕はなさそうだ。俺は、その場から離れ、用意された自室に戻ることにした。
改めて水差しを探しに行こうと思ったからなのだが、自室の前に辿り着いたところで、それは聞こえた。
「陛下、水をお持ちしました」
振り返ると、従者らしき人間がラティーフに駆け寄っていた。どうやら彼の側にいなかったのは、水を取りに行っていたからのようだった。
それもそうか。あの状態のまま一人で、ここまで来るのは難しいだろう。
ラティーフが、それを受け取っているのが遠目でも見ることができた。なら俺は用なしだ、黙って部屋の中に入ることにした。
別の誰かがいるのなら、俺が出しゃばる必要はないだろう。セルデアも帰ってくるのがわかっているし、大人しく部屋で待つことにした。
ふと、目線を手元に落とす。それはラティーフの肩に触れた手だ。
偶然とはいえ、久しぶりに出会った友人は変わっていなかった。変わってしまっている俺は、それが少しだけ嬉しくて、口元を緩めて小さく笑った。
「本当に治ってよかったよ」
「ご心配をおかけしました、ユヅル様」
次の日の早朝、俺が今いるのはユヅ君の自室だ。ユヅ君の自室の内装は俺のところと大きく変わらない。しかしその広さは倍以上あり、ベッドもキングサイズ程ある。
俺は、椅子に座るユヅ君の髪を、木製のブラシで整えていた。
俺がこうしている理由は、神子の側付き神官としての役目を果たすためだ。
役目といっても、俺が側付きの仕事を知っている訳がない。今は側にいるイドの指示に従いながら動いている状態だ。
本当ならイド一人で事足りるそうだが、俺も今は働いている素振りが必要だった。その理由はユヅ君の横にいる人物にある。
その人物は、ユヅ君の服を力強く引く。
「わっ。ホロウ、あんまり強く引いちゃだめだよ」
「……うん。ごめんね、ユヅ」
ユヅ君に注意されるが、ユヅ君の服をしっかりと掴んで放そうとしない。黒い尻尾を持つ新たな化身であるホロウは、浄化してもらってからユヅ君にべったりだった。
俺が倒れた後から、今のようにユヅ君の後ろを付いて回っているらしく、小さな手でユヅ君の服をぎゅっと掴んで一時も放さない。
それこそ昨夜は寝る時も一緒だったというから、その懐きようは凄まじい。
ホロウにとって、ユヅ君は瘴気から解放してくれた救世主だ。その気持ちがわからないでもない。
さらに彼は天涯孤独らしく、頼れる身内はいないそうだ。元々、森の奥で祖母とひっそり暮らしていたが祖母が死んだことによって街におり、その際に化身として発見されたのだという。
とにかく、ホロウにすべての事情を話す訳にもいかないので、今の俺は側付き神官としての演技を続けるしかない。
俺はブラシで、ゆっくりとユヅ君の黒髪を梳かしていく。絡むことなく、ブラシが通っていく。俺の髪にはない、さらさらした髪がとっても羨ましい。これが若さなのだろうか?
「それで、昨日の宴で決まったことなんだけど、俺たち今日はレラグレイ帝国を観光することになったんだ」
「観光……ですか?」
「そう、陛下が先に我が国について知ってほしいって」
俺たちの滞在期間は一週間と決まっていた。その間に、瘴気の件や、それに伴う変化についての話し合いが行われる予定だったのだ。
しかし、ラティーフはそれらの話し合いの前に、自らの目で我が国を知ってほしいと言ったそうだ。
なるほど。そうなると、今日一日は観光で終わりそうだな。
「だから、見て回るってことになったんだけど……」
ユヅ君は言い淀んでしまい、どこか気まずそうに俺の顔を窺う。何か言いたそうにしているのはわかるが、さすがにそれだけでユヅ君の意思を汲むことはできずに首を傾げた。
「ホロウ様。ホロウ様も衣服を着替えましょう」
「え。で、でも……」
「すぐそこに、着替えがありますから大丈夫ですよ。ユヅル様も側におられます」
イドが、未だにユヅ君から離れようとしないホロウに呼びかける。ホロウは戸惑いながら、ユヅ君の顔をじっと見つめていた。
よほどユヅ君から離れたくないらしい。その様子は卵から孵った雛鳥のようだった。
ただイドの言う通り、彼にも着替えが必要なのは間違いない。ユヅ君は慰めるように頭を撫でてから「行っておいで」と声をかけた。すると、ためらいはあったが、ホロウは素直に頷いてイドのほうへと向かった。
ホロウが離れたところを見計らって、ユヅ君がこちらを振り返る。俺は、なんとなく意図を察して、身を屈めるとユヅ君がそっと耳打ちしてきた。
「……宴の際にルーカスたちもホロウに挨拶をしたんだけど、その時からセルデアが怖いって。一緒にいたくないってホロウが泣くんだ」
「……ああ」
俺はそれに対して、弁護する言葉を持ち合わせていなかった。
あのくらいの年齢では、セルデアに対して恐怖を抱くのは仕方ないことだ。セルデアがもう少し子供向けの優しい笑顔ができればいいのだが、難しいだろう。無理して笑わせると逆に泣かせる結果になる。
ならば話術で、と思うがあの不器用人間が会話で和ませることなどできそうにない。それに関しては、身をもって実感している。
俺はただ静かに頷くしかできなかった。
「それでも今日のことでセルデアに相談したら、自分が一人でここに残るって言って……」
俺がそれを聞いて真っ先に思ったのは、セルデアらしい、ということだった。彼にとって自分自身の優先度は限りなく低い。セルデアにとっては、見知らぬ少年が自分より優先されるべきだと考えたのだろう。
ったく……アイツは。
ユヅ君は、眉尻を下げて俯く。きっとユヅ君の心の中は申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。
本当ならばホロウのほうを残して行くべきだ。しかし、今やホロウはユヅ君にべったりで、それを無理矢理に引き離すことはさすがの俺でも心が痛む。
あのくらいの歳の子に、きつく言い聞かせるのも……な。
移動程度なら、この国に来た時のように馬車二つでも可能だが、見て回るのに共に行動できないというのはいろいろなリスクも伴うはずだ。きっとセルデアも、それがわかっているからこその答えだろう。
なら、俺が答えることも決まっていた。
「だったら、俺も残るよ。セルデアの側には俺がいるから安心してくれ」
「……郁馬さん」
ユヅ君の声は弱々しい。俺がその選択をすることを彼もわかっていたのだろう。
これに関してユヅ君が悪い訳ではないのに、罪悪感を抱えているのがわかった。逆に十代の子にここまで気を遣わせて、申し訳ないくらいだ。だからこそ安心させるように、綺麗に梳かした髪を優しく撫でた。
「……気遣ってくれてありがとう。大丈夫だよ、気にせず行っておいで」
ユヅ君は少し驚いた顔をしてから、はにかんだ。
気を遣ってもらっているのに少々申し訳ないが、俺としては大変ありがたい話ではあった。
体調を崩した件もあるが、それ以外にも元々俺はインドア派の人間だ。セルデアの屋敷内でしか動けなかった時も苦痛に感じたことは一度もなかった。ゆっくりできるチャンスがあるのならば、それを逃す手はない。
セルデアを呼んで広い部屋で思う存分、怠惰に過ごそうと心に決めた。
「ユヅ!」
ホロウがイドに新たな衣装を着せてもらい、駆け足でこちらに戻ってくる。そして、すぐさまユヅ君に飛びつくように抱きついた。
その小さな腕で、力いっぱいユヅ君を抱き締めながら、俺を睨みつけた。
俺に奪われるとでも思ったのか、逸らすことのない目には確かに敵意があった。小さな子がすることだ、俺としては微笑ましいとしか思えない。
ただ、こちらを見つめる金色の瞳は陽光を浴びて、恐ろしい程に美しいなとだけ強く感じていた。
ユヅ君の支度の残りはイドが行うということで、俺はユヅ君の自室を後にすることにした。扉を開いた瞬間、人影がすぐに見える。
「サワジマ」
声をかけてきたのは、セルデアだ。廊下の柱に寄りかかるように立っていたが、俺を見るなり近くに駆け寄ってくる。その姿に俺も自然と口元が緩んだ。
もしかして、ずっと俺を待っていてくれたのだろうか。
「サリダート公爵」
名前を呼んでから、軽く頭を下げる。ここは廊下だ、誰が通るかわからない。普段のように接するのはいろいろと問題がある。
だからこそ俺は、ただの神官としてセルデアに接しなくてはいけない。
――しかし、こうして呼び合うのも懐かしいな。
再召喚されたばかりの時のことを思い出す。あれだけセルデアが嫌いだった自分が、今やただ見るだけで、こんなにも堪らないほどに幸せな気持ちになるとは。
セルデアも同じ気持ちを抱いたのか、少しだけ懐かしそうに目を細めてから、小さく頷いた。
「この度は、私もこちらに残ることとなりました。何かあればお声がけください」
「……いいのか?」
「はい、構いません」
セルデアは一瞬だけ目を丸くしたが、俺の返答を聞いて少しだけ眉尻を下げて微笑む。
そこには、微かな後ろめたさが滲んでいた。俺がセルデアのために残ったと気付いているのだろう。しかし、半分は自分のためでもある。
気にするな、という意味をこめて首を振るとセルデアは深々と頷いた。
「……では、この後の時間は空いているだろうか?」
その言葉に待ってましたと心が騒いで、背筋も真っ直ぐに伸ばす。
俺の今からの予定としては、このままセルデアを連れて自室でゆっくりすることだ。昼寝という選択肢も悪くないだろう。
「もちろんです」
俺が喜々として頷くと、セルデアはその鋭い目を細める。そして、おもむろに俺に向かって手を差し出した。
「では、よければ私と出かけないか?」
「え」
その誘いは予想外だった。
思わず固まった俺を見て、セルデアは小首を傾げる。しかし、差し出した手を引っこめるつもりはないようだった。
「宴で聞いたのだが、この近場に海の現身が普通に食べられる場所があるらしい」
「え! ほ、本当ですか?」
この世界の食べ物は、地球と同じものも、見たことも食べようとも思わないものも普通に存在している。
この世界でいう海の現身は、俺の世界でいうイカだ。
イカは、エルーワでは神聖な食べ物とされ、収穫祭の早朝という一定条件下でしか食べることを許されていないのだ。
イカが好物の一つである俺としては、嫌がらせにしか思えない決まりだ。しかし、そのイカがこの国では普通に食べられるという。……食べられるというなら、もちろん食べたいと思っている。
俺の頭に浮かぶのは、リアンプというゲテモノだ。今でもあれを食べた感触を思い出すと自然と眉根を寄せてしまう。
それに、俺の目的は怠惰に過ごすことだ。出かけるのは想定外だ。少し返答に迷う。
「サワジマ」
動かない俺に対して、セルデアは差し出した手をしっかりとこちらへと傾けた。
「――約束だ。共にいこう」
そう言って彼は、俺を優しく誘う。
紫水晶のような瞳に澱みなどはなく、真っ直ぐな意思がしっかりと俺に伝わる。
確かに、俺とセルデアは一緒に俺の好物を食べようと約束していた。それこそ、ずっと前からしていた念願の約束だ。彼なりに約束をしっかり果たそうとしてくれているのだろう。いや、もしかしたら俺に好物を食べさせたいという優しさからかもしれない。
どちらにしても……本当に、純粋なやつだ。
俺も、そんなセルデア相手に断るという選択をする程にはひねくれていない。
だからこそ、小さく肩を竦めてから手を伸ばした。差し出されたセルデアの手にそっと自分の手を重ねる。
セルデアは俺の手をゆっくり握り締め、笑った。
その微笑みが、ほの暗い企みが成功したかのように見えたのは、いつものことだ。
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