上 下
8 / 10

8.なんちゃって青春

しおりを挟む
高校の中庭。

昼休み、こっそりとお弁当を食べるのが、私・早瀬チカの日課だった。

ひとりは好きだ。

いや、ひとりが好きだ。

誰の顔色を伺う必要もなく、好きなことだけを自由にできる。

ぼっち、なんて揶揄されることは気にしない。ぼっちにしかできない、高校生活があるのだから。

私はひとりを満喫することを決めていた。実際に、そうしてきた。



そう、彼に目をつけられるまでは……



「なぁ、どうしてもだめ?」

ベンチに座り、膝にお弁当を載せている私の前で、クラスメイトの鈴木恭介は地べたに座り込んで何度も同じことを繰り返す。

この距離、この角度。
スカート丈の短い女子なら、慌てて膝を閉じることだろう。

私には関係ないけれど。


「だめとかそういうことじゃなくて」

「じゃあ、いいの!?」


期待する眼差しに、私は思わず怯んでしまった。

入学して半年、クラスメイトとまともに話したこともないのに、どうして私に構うのか。

じっと見つめられるのに耐えられなくて、視線を逸らしてしまう。

これだからイケメンは困る。


「私じゃなくても、いっぱいいるじゃん。……人気だし」


群がる女子や戯れる男子。彼が一声かければ、誰だって手をあげるはず。

私じゃなくてもいい。

でも彼は、ここ数日まったく引かなかった。

「俺は早瀬がいいんだけど」

やめて。

勘違いしそうになる。

好きでも何でもないけれど、ストレートな言葉は心がぐらりとした。

私の決意が揺らいでいることを知ってから知らずか、鈴木は攻撃を繰り出してくる。

「好きなんだ」

「昨日も聞いた。おとといも、その前も」

「だったら……!」

「少し考えさせて」

「待てない。今もこうしてしゃべってるより、すぐやりたい」

「何言ってんの。ここ、学校だから」

冗談だと受け流して、私は箸を進める。こんなことに付き合っていたら、食べる時間がなくなってしまう。

自分の中で、ほぼ答えが出ているものを必死でごまかすのはなかなかキツイと知った。

学校で教われないことを、学校で教わっている……

「早瀬も好きなんでしょ?ずっと見てたから知ってるよ」

「見てたって何を!?」

ごはんが喉に詰まりそうになる。

「何って、決まってるじゃん」

にやりと笑った彼は、スッと立ち上がって遠慮なく私の隣に腰かけた。

そして、私のシャツの胸元を指差した。

「見たよ?がっつり開いてんの」

「くっ……!」

もう言い訳はできない。

私は残りの弁当を平らげると、すぐにそれを片付けて、胸ポケットに入れてあるスマホを出した。


そして。


どうしても確認したいことを、真剣な表情で尋ねる。


「今…………レベルいくつ?弱い男とはやらないから」


画面には、レアコスを着た戦士のスクショ。バイトに明け暮れ課金して手に入れたレア装備である。

彼もまた、スマホを取り出しニヤリと笑った。

「解禁二週間でレベル259。パーティー平均200」

「あんたっ……!廃人並みじゃない!!よく朝起きられるね!?」

ソロならもっぱら深夜にログインするに限る。タイムボーナスが入るからだ。

「カラオケもボーリングも断ってこれだよ。部活入ってなくてホントよかった」

「だね」

「で?早瀬は……ってやっぱ強ぇぇなオイ!平均273って初期からやってんの!?課金?」

「今後はパーティー戦ボーナスももらえるから、効率よくアイテムゲットできるね」

「だよな!でもこれすっごい人気だから、にわかなヤツ多くてさ~」

「わかる。アプリ落とした程度のやつらがおもしろさ語ってんのとか……こっちはこのためにスマホ持ってるのに」

「姉さん、修業させてください。よろしくお願いします」



ソロは好きだけれど、たまにはこういうのも悪くない。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

ポンコツ気味の学園のかぐや姫が僕へのラブコールにご熱心な件

鉄人じゅす
恋愛
平凡な男子高校生【山田太陽】にとっての日常は極めて容姿端麗で女性にモテる親友の恋模様を観察することだ。 ある時、太陽はその親友の妹からこんな言葉を隠れて聞くことになる。 「私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない」 親友の妹【神凪月夜】は千回告白されてもYESと言わない学園のかぐや姫と噂される笑顔がとても愛らしい美少女だった。 月夜を親友の妹としか見ていなかった太陽だったがその言葉から始まる月夜の熱烈なラブコールに日常は急変化する。 恋に対して空回り気味でポンコツを露呈する月夜に苦笑いしつつも、柔和で優しい笑顔に太陽はどんどん魅せられていく。 恋に不慣れな2人が互いに最も大切な人になるまでの話。 7月14日 本編完結です。 小説化になろう、カクヨム、マグネット、ノベルアップ+で掲載中。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...