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8.なんちゃって青春
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高校の中庭。
昼休み、こっそりとお弁当を食べるのが、私・早瀬チカの日課だった。
ひとりは好きだ。
いや、ひとりが好きだ。
誰の顔色を伺う必要もなく、好きなことだけを自由にできる。
ぼっち、なんて揶揄されることは気にしない。ぼっちにしかできない、高校生活があるのだから。
私はひとりを満喫することを決めていた。実際に、そうしてきた。
そう、彼に目をつけられるまでは……
「なぁ、どうしてもだめ?」
ベンチに座り、膝にお弁当を載せている私の前で、クラスメイトの鈴木恭介は地べたに座り込んで何度も同じことを繰り返す。
この距離、この角度。
スカート丈の短い女子なら、慌てて膝を閉じることだろう。
私には関係ないけれど。
「だめとかそういうことじゃなくて」
「じゃあ、いいの!?」
期待する眼差しに、私は思わず怯んでしまった。
入学して半年、クラスメイトとまともに話したこともないのに、どうして私に構うのか。
じっと見つめられるのに耐えられなくて、視線を逸らしてしまう。
これだからイケメンは困る。
「私じゃなくても、いっぱいいるじゃん。……人気だし」
群がる女子や戯れる男子。彼が一声かければ、誰だって手をあげるはず。
私じゃなくてもいい。
でも彼は、ここ数日まったく引かなかった。
「俺は早瀬がいいんだけど」
やめて。
勘違いしそうになる。
好きでも何でもないけれど、ストレートな言葉は心がぐらりとした。
私の決意が揺らいでいることを知ってから知らずか、鈴木は攻撃を繰り出してくる。
「好きなんだ」
「昨日も聞いた。おとといも、その前も」
「だったら……!」
「少し考えさせて」
「待てない。今もこうしてしゃべってるより、すぐやりたい」
「何言ってんの。ここ、学校だから」
冗談だと受け流して、私は箸を進める。こんなことに付き合っていたら、食べる時間がなくなってしまう。
自分の中で、ほぼ答えが出ているものを必死でごまかすのはなかなかキツイと知った。
学校で教われないことを、学校で教わっている……
「早瀬も好きなんでしょ?ずっと見てたから知ってるよ」
「見てたって何を!?」
ごはんが喉に詰まりそうになる。
「何って、決まってるじゃん」
にやりと笑った彼は、スッと立ち上がって遠慮なく私の隣に腰かけた。
そして、私のシャツの胸元を指差した。
「見たよ?がっつり開いてんの」
「くっ……!」
もう言い訳はできない。
私は残りの弁当を平らげると、すぐにそれを片付けて、胸ポケットに入れてあるスマホを出した。
そして。
どうしても確認したいことを、真剣な表情で尋ねる。
「今…………レベルいくつ?弱い男とはやらないから」
画面には、レアコスを着た戦士のスクショ。バイトに明け暮れ課金して手に入れたレア装備である。
彼もまた、スマホを取り出しニヤリと笑った。
「解禁二週間でレベル259。パーティー平均200」
「あんたっ……!廃人並みじゃない!!よく朝起きられるね!?」
ソロならもっぱら深夜にログインするに限る。タイムボーナスが入るからだ。
「カラオケもボーリングも断ってこれだよ。部活入ってなくてホントよかった」
「だね」
「で?早瀬は……ってやっぱ強ぇぇなオイ!平均273って初期からやってんの!?課金?」
「今後はパーティー戦ボーナスももらえるから、効率よくアイテムゲットできるね」
「だよな!でもこれすっごい人気だから、にわかなヤツ多くてさ~」
「わかる。アプリ落とした程度のやつらがおもしろさ語ってんのとか……こっちはこのためにスマホ持ってるのに」
「姉さん、修業させてください。よろしくお願いします」
ソロは好きだけれど、たまにはこういうのも悪くない。
昼休み、こっそりとお弁当を食べるのが、私・早瀬チカの日課だった。
ひとりは好きだ。
いや、ひとりが好きだ。
誰の顔色を伺う必要もなく、好きなことだけを自由にできる。
ぼっち、なんて揶揄されることは気にしない。ぼっちにしかできない、高校生活があるのだから。
私はひとりを満喫することを決めていた。実際に、そうしてきた。
そう、彼に目をつけられるまでは……
「なぁ、どうしてもだめ?」
ベンチに座り、膝にお弁当を載せている私の前で、クラスメイトの鈴木恭介は地べたに座り込んで何度も同じことを繰り返す。
この距離、この角度。
スカート丈の短い女子なら、慌てて膝を閉じることだろう。
私には関係ないけれど。
「だめとかそういうことじゃなくて」
「じゃあ、いいの!?」
期待する眼差しに、私は思わず怯んでしまった。
入学して半年、クラスメイトとまともに話したこともないのに、どうして私に構うのか。
じっと見つめられるのに耐えられなくて、視線を逸らしてしまう。
これだからイケメンは困る。
「私じゃなくても、いっぱいいるじゃん。……人気だし」
群がる女子や戯れる男子。彼が一声かければ、誰だって手をあげるはず。
私じゃなくてもいい。
でも彼は、ここ数日まったく引かなかった。
「俺は早瀬がいいんだけど」
やめて。
勘違いしそうになる。
好きでも何でもないけれど、ストレートな言葉は心がぐらりとした。
私の決意が揺らいでいることを知ってから知らずか、鈴木は攻撃を繰り出してくる。
「好きなんだ」
「昨日も聞いた。おとといも、その前も」
「だったら……!」
「少し考えさせて」
「待てない。今もこうしてしゃべってるより、すぐやりたい」
「何言ってんの。ここ、学校だから」
冗談だと受け流して、私は箸を進める。こんなことに付き合っていたら、食べる時間がなくなってしまう。
自分の中で、ほぼ答えが出ているものを必死でごまかすのはなかなかキツイと知った。
学校で教われないことを、学校で教わっている……
「早瀬も好きなんでしょ?ずっと見てたから知ってるよ」
「見てたって何を!?」
ごはんが喉に詰まりそうになる。
「何って、決まってるじゃん」
にやりと笑った彼は、スッと立ち上がって遠慮なく私の隣に腰かけた。
そして、私のシャツの胸元を指差した。
「見たよ?がっつり開いてんの」
「くっ……!」
もう言い訳はできない。
私は残りの弁当を平らげると、すぐにそれを片付けて、胸ポケットに入れてあるスマホを出した。
そして。
どうしても確認したいことを、真剣な表情で尋ねる。
「今…………レベルいくつ?弱い男とはやらないから」
画面には、レアコスを着た戦士のスクショ。バイトに明け暮れ課金して手に入れたレア装備である。
彼もまた、スマホを取り出しニヤリと笑った。
「解禁二週間でレベル259。パーティー平均200」
「あんたっ……!廃人並みじゃない!!よく朝起きられるね!?」
ソロならもっぱら深夜にログインするに限る。タイムボーナスが入るからだ。
「カラオケもボーリングも断ってこれだよ。部活入ってなくてホントよかった」
「だね」
「で?早瀬は……ってやっぱ強ぇぇなオイ!平均273って初期からやってんの!?課金?」
「今後はパーティー戦ボーナスももらえるから、効率よくアイテムゲットできるね」
「だよな!でもこれすっごい人気だから、にわかなヤツ多くてさ~」
「わかる。アプリ落とした程度のやつらがおもしろさ語ってんのとか……こっちはこのためにスマホ持ってるのに」
「姉さん、修業させてください。よろしくお願いします」
ソロは好きだけれど、たまにはこういうのも悪くない。
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