234 / 297
231.里佳の事情⑧
しおりを挟む
勇吾が私を正妃とし、側室を取ることに同意してくれた後、純潔の乙女たちと1人ずつ向き合った。
私の中には日本で育った18年の価値観と、ダーシャンで育った18年の価値観が混在している。里佳でもあり、リーファでもある。
勇吾が好きだ!! 独占したい!!!
という気持ちも、もちろんある。
だけど、私がマレビトを召喚しなかったら、この国はあのまま終わらせることも出来たのだ。生き残らせてしまった者たちへの責任も感じている。
「し、失礼いたします……」
と、最初に案内されて来たのは、ピンク色の髪をした狩人の女子。メイファンだった。
平伏しようとするメイファンを止め、手を取って微笑みを投げ掛ける。
「どうか、大浴場のときと同じようにして下さい」
「は、はい……」
と、1対1で向き合うと、まだまだ恐縮させてしまうのは、やむを得ない。メイファンのせいではない。
手を握らせてもらったまま、目を見てゆっくりと話しかける。
「え――っ!!!」
と、メイファンが喜びの声を上げてくれたのは、私が里佳であり勇吾の幼馴染であることを告げたときだ。
そして、お互いの気持ちを確認し合ったことを伝えると、目に涙を浮かべてくれた。
「良かった……。マレビト様、ホントに良かったね……」
と、すすり泣くメイファン。
このように純潔の乙女たちが勇吾のことを大切に想い、勇吾を助けてくれなければ、勇吾もまた人獣に喰われて終わっていたかもしれないのだ。
「私が言うのも変なんですけど、マレビト様のことをよろしくお願いしますね」
と、メイファンは私の手をキュッと握ってくれた。そして――、
「ホントにホントに、マレビト様は幼馴染さんのことが大好きで大好きで堪らないんです!!!」
と、私に勇吾のことを頼んでくるメイファンに、感謝の気持ちしか湧いてこないのだ。
「これまで、マレビト様をよくぞ支えて下さいました。メイファンが長弓で助け、大浴場で癒してくださらなければ、今日の平穏はありませんでした」
「いや、そんなあ」
と、頬を赤くして照れ笑いするメイファンのことが可愛くて仕方ない。いや、生き残ったジーウォの住民の誰もが愛おしい。
メイファンの手をギュッと強く握り返した。
「メイファンがお嫌でなければ、これからはマレビト様、ジーウォ公を側室として支えていただけませんか?」
「えっ……?」
「マレビト様にもご了承いただいておりますし、正妃となる私もそれを望んでおります」
「でも……」
「どうか遠慮することなく、なんでも仰って下さい」
「私、平民ですし……。公の側室なんて……、そんな……」
「メイファンはマレビト様がお嫌い?」
「そんなこと! ……ないです」
私がにっこりと微笑んで見詰めると、メイファンは頬を赤くして目線を下げる。
「…………好き……です」
「ね。それなら、遠慮することはありません。マレビト様を支えてこられたメイファンには、身分など関係なくその資格は充分にあります」
「ほんとに……、いいんですか……?」
「はい。それに、その方がマレビト様が建国されたジーウォ公国らしいと思いませんか?」
「…………夢みたい」
と、目には涙が込み上げ小さく嗚咽を漏らしたメイファンを、そっと抱き寄せた。
「これからは、私もメイファンと一緒にマレビト様のことを支えさせてくださいね」
私の言葉に、わんわん泣き出したメイファンの背をさすり、私も貰い泣きしてしまう。
◇
今のジーウォ城は皆、忙しい。
都合の付いた者から順に私の部屋に案内されてくる。その一人ひとりの手を取って語らい、涙し、抱き合う。
――分かりました。
――ありがとうございます。
――側室になるのだ!
――お願い致します。
皆、私の申し出に即断即決していく。
勇吾への愛の深さだけではなく、そうしなければ、あの人獣の災禍の中を生き残れなかったのだ。過酷な日々が身に付けさせた所作に、また感謝の気持ちが湧き上がる。
もちろん、勇吾に身体を捧げることが不本意だった娘もいる。
世間体や親の命令で不承不承、あの大浴場に参じていたのだ。雰囲気に合わせてキャッキャとしながらも、目立たないよう 息を潜めてやり過ごしてきたのだ。
そういう娘たちには、既にシキタリを果たしたと宣言してあげた。
毎日一緒に入浴し、キャッキャと楽しげな雰囲気をつくってくれただけでも、どれだけ勇吾の張り詰めた心を癒やしてくれたことだろう。
シキタリの守護者たる王族の私から許されたとあれば、これからは大手を振って自分の人生を自由に生きられるだろう。彼女たちの幸せを祈らずにはいられない。
最後になったシアユンは、全身を真っ赤にして固まってしまった。
――こんな可愛いところもあったんだ。
「これからも仲良くしてね」
と、抱き締めると、そっと抱き締め返してくれた。
私の知るダーシャンに住民をすべて集めて布告するような文化や制度はない。けれど、ジーウォの住民は23人の花嫁が並ぶ私たちの結婚を温かく祝ってくれた。
思わず皆んなに手を振ると、振り返してくれる。
私も勇吾がつくったジーウォ公国の一員になれたようで、胸がいっぱいになった。
私の身体は2つある――。
世界の理を超えてマレビトを召喚した代償だ。今はまだ、どちらの世界に2人の未来を見付けたらいいのか分からない。そんな未来があるのかも分からない。
ただ、今はこの身に受ける祝福を、素直に喜んでいたい。
「ニシシ! 初夜くらい2人でお風呂に入ればいいのだ!」
って、シーシに言われて勇吾と2人、顔を真っ赤にしてしまった。
広い大浴場で背中を流し合い、そして、寝室に戻り、結ばれた――。
――あっ! 子どもが出来た。
と、分かった。この世界では女性が望めば自由に妊娠出来る。なんて簡単で便利な身体! あえて言うけど雑な世界!
勇吾が祖霊と霊縁で結ばれたことが分かり、膨大な呪力が駆け巡る。その呪力が私をも包み込んでいく。
――えっ? 私にも?
と、驚いていると、私たちを包む呪力が極彩色の光を放ち始めた。
その極彩色の光に護られるように、ゆっくりと私たちの身体が浮かび、天井もすり抜け、夜空を昇り始めた――。
私の中には日本で育った18年の価値観と、ダーシャンで育った18年の価値観が混在している。里佳でもあり、リーファでもある。
勇吾が好きだ!! 独占したい!!!
という気持ちも、もちろんある。
だけど、私がマレビトを召喚しなかったら、この国はあのまま終わらせることも出来たのだ。生き残らせてしまった者たちへの責任も感じている。
「し、失礼いたします……」
と、最初に案内されて来たのは、ピンク色の髪をした狩人の女子。メイファンだった。
平伏しようとするメイファンを止め、手を取って微笑みを投げ掛ける。
「どうか、大浴場のときと同じようにして下さい」
「は、はい……」
と、1対1で向き合うと、まだまだ恐縮させてしまうのは、やむを得ない。メイファンのせいではない。
手を握らせてもらったまま、目を見てゆっくりと話しかける。
「え――っ!!!」
と、メイファンが喜びの声を上げてくれたのは、私が里佳であり勇吾の幼馴染であることを告げたときだ。
そして、お互いの気持ちを確認し合ったことを伝えると、目に涙を浮かべてくれた。
「良かった……。マレビト様、ホントに良かったね……」
と、すすり泣くメイファン。
このように純潔の乙女たちが勇吾のことを大切に想い、勇吾を助けてくれなければ、勇吾もまた人獣に喰われて終わっていたかもしれないのだ。
「私が言うのも変なんですけど、マレビト様のことをよろしくお願いしますね」
と、メイファンは私の手をキュッと握ってくれた。そして――、
「ホントにホントに、マレビト様は幼馴染さんのことが大好きで大好きで堪らないんです!!!」
と、私に勇吾のことを頼んでくるメイファンに、感謝の気持ちしか湧いてこないのだ。
「これまで、マレビト様をよくぞ支えて下さいました。メイファンが長弓で助け、大浴場で癒してくださらなければ、今日の平穏はありませんでした」
「いや、そんなあ」
と、頬を赤くして照れ笑いするメイファンのことが可愛くて仕方ない。いや、生き残ったジーウォの住民の誰もが愛おしい。
メイファンの手をギュッと強く握り返した。
「メイファンがお嫌でなければ、これからはマレビト様、ジーウォ公を側室として支えていただけませんか?」
「えっ……?」
「マレビト様にもご了承いただいておりますし、正妃となる私もそれを望んでおります」
「でも……」
「どうか遠慮することなく、なんでも仰って下さい」
「私、平民ですし……。公の側室なんて……、そんな……」
「メイファンはマレビト様がお嫌い?」
「そんなこと! ……ないです」
私がにっこりと微笑んで見詰めると、メイファンは頬を赤くして目線を下げる。
「…………好き……です」
「ね。それなら、遠慮することはありません。マレビト様を支えてこられたメイファンには、身分など関係なくその資格は充分にあります」
「ほんとに……、いいんですか……?」
「はい。それに、その方がマレビト様が建国されたジーウォ公国らしいと思いませんか?」
「…………夢みたい」
と、目には涙が込み上げ小さく嗚咽を漏らしたメイファンを、そっと抱き寄せた。
「これからは、私もメイファンと一緒にマレビト様のことを支えさせてくださいね」
私の言葉に、わんわん泣き出したメイファンの背をさすり、私も貰い泣きしてしまう。
◇
今のジーウォ城は皆、忙しい。
都合の付いた者から順に私の部屋に案内されてくる。その一人ひとりの手を取って語らい、涙し、抱き合う。
――分かりました。
――ありがとうございます。
――側室になるのだ!
――お願い致します。
皆、私の申し出に即断即決していく。
勇吾への愛の深さだけではなく、そうしなければ、あの人獣の災禍の中を生き残れなかったのだ。過酷な日々が身に付けさせた所作に、また感謝の気持ちが湧き上がる。
もちろん、勇吾に身体を捧げることが不本意だった娘もいる。
世間体や親の命令で不承不承、あの大浴場に参じていたのだ。雰囲気に合わせてキャッキャとしながらも、目立たないよう 息を潜めてやり過ごしてきたのだ。
そういう娘たちには、既にシキタリを果たしたと宣言してあげた。
毎日一緒に入浴し、キャッキャと楽しげな雰囲気をつくってくれただけでも、どれだけ勇吾の張り詰めた心を癒やしてくれたことだろう。
シキタリの守護者たる王族の私から許されたとあれば、これからは大手を振って自分の人生を自由に生きられるだろう。彼女たちの幸せを祈らずにはいられない。
最後になったシアユンは、全身を真っ赤にして固まってしまった。
――こんな可愛いところもあったんだ。
「これからも仲良くしてね」
と、抱き締めると、そっと抱き締め返してくれた。
私の知るダーシャンに住民をすべて集めて布告するような文化や制度はない。けれど、ジーウォの住民は23人の花嫁が並ぶ私たちの結婚を温かく祝ってくれた。
思わず皆んなに手を振ると、振り返してくれる。
私も勇吾がつくったジーウォ公国の一員になれたようで、胸がいっぱいになった。
私の身体は2つある――。
世界の理を超えてマレビトを召喚した代償だ。今はまだ、どちらの世界に2人の未来を見付けたらいいのか分からない。そんな未来があるのかも分からない。
ただ、今はこの身に受ける祝福を、素直に喜んでいたい。
「ニシシ! 初夜くらい2人でお風呂に入ればいいのだ!」
って、シーシに言われて勇吾と2人、顔を真っ赤にしてしまった。
広い大浴場で背中を流し合い、そして、寝室に戻り、結ばれた――。
――あっ! 子どもが出来た。
と、分かった。この世界では女性が望めば自由に妊娠出来る。なんて簡単で便利な身体! あえて言うけど雑な世界!
勇吾が祖霊と霊縁で結ばれたことが分かり、膨大な呪力が駆け巡る。その呪力が私をも包み込んでいく。
――えっ? 私にも?
と、驚いていると、私たちを包む呪力が極彩色の光を放ち始めた。
その極彩色の光に護られるように、ゆっくりと私たちの身体が浮かび、天井もすり抜け、夜空を昇り始めた――。
15
お気に入りに追加
894
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる