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216.里佳の事情④

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「な、なんで裸なの……?」

「家族旅行……」

勇吾からの3回目の交信は、温泉旅館で入浴中に来た。こんなこともあろうかと、内風呂うちぶろのある部屋に変えてもらっておいて良かった。

「あ、ああ、そっか……。卒業式の後に行くって言ってたっけ……」

「うん……」

ちょっと照れ臭いけど、もう勇吾は私の彼氏なんだし見られて困るのも変だよね。子供の頃はよく一緒に入ってたし。

そんなことより……。

「どうだった? 外城壁は奪還出来できた!?」

勇吾はグッと親指を立てた!

「すごーい!」

「里佳のおかげだよ! シーシがステンレスを作ってくれて、木材との合わせ技で外城壁の上をグルッと回廊かいろうで囲むことが出来たんだ」

この交信でものが送れるんならマシンガンでもロケットランチャーでも戦車でも送ってあげたかった。

でも勇吾は私の伝えた小さな情報を、最大限にかして勝利してくれた。

「今は残った人獣じんじゅう掃討そうとうしてるけど、ようやく終わりが見えて来たよ」

勇吾の笑顔からは一軍いちぐんしょう風格ふうかくを感じる。私の彼氏は、あの過酷かこくな状況をね返してくれた。

胸が一杯になって、涙がこぼれた。

「食糧は? 食べる物はある?」

「うん。今、クゥアイやスイランさんたちが頑張ってくれてる」

「そっか」

勇吾のげる名前に、私は聞き覚えがない。私がそっちの住民だったはずなのに変な感じだ。

「掃討のついでに、メイファンやミンユーたちが狩りもして来てくれてるんだ」

「へぇ、そっか……」

「そか! フーチャオさん。二人とも村長むらおさのフーチャオさんのむすめさんで、元々狩人かりうどたちなんだ」

「フーチャオ! なつかしい……」

「元気だよ。今は復興ふっこうに向けて陣頭じんとう指揮しきってくれてる」

「そうか、良かった」

「そうそう! フーチャオさんの奥さんのミオンさんって知ってる?」

「うーん。1回、挨拶あいさつしてもらったかなぁ……」

「フェイロンさんの幼馴染で、フェイロンさんって、ミオンさんにフラれて王都で剣士になったんだって!」

勇吾は長年の戦友を語るように、私の知ってる人の、私の知らない物語を教えてくれる。

嬉しそうな勇吾を見られて、本当に良かった。

「あのね、勇吾」

「なに?」

「今はまだ、何も分からないんだけど、勇吾がこっちに帰って来れるとしたらさ……」

「うん……」

「大学の入学式に間に合うんじゃないかな……?」

「え?」

「3月中に帰って来ようと思ったらね」

「うん」

日本こっちの1日が、異世界そっちでは28日だから」

「そっか……」

日本こっちであと25日くらいあるから、異世界そっちでは700日。2年くらいある」

「おお……。それだけあれば、何か分かるかもしれないね」

「それでね、私、必死に思い出したんだけど、ジーウォの東に私に呪術じゅじゅつ手解てほどきをしてくれた老師ろうし隠棲いんせいしてるはずなんだ……」

「そっか……」

「老師なら何か分かるかもしれない」

「うん……」

勇吾はしばらく考え込んでから、言いにくそうに口を開いた。王都からわたされてた治癒ちゆ呪符じゅふが全て失効しっこうしており、王都の状況は絶望的だとげられた。

「その中に、老師さんの呪符じゅふはあったのかな……?」

「ううん。なかった。老師は探知たんち呪術じゅじゅつを得意にする人で、治癒ちゆ呪術じゅじゅつを使えなかったから」

「そうか! 分かった。じゃあ、人獣じんじゅうを掃討出来たら探しに行ってみるよ!」

「うん、そうしてみて」

「私が言ったらダメなことだけど……」

「なに?」

「会いたいな……」

勇吾は私が異世界むこうに召喚したのだ。随分ずいぶん身勝手みがってなことを言っている。

けれど、勇吾は優しく微笑ほほえんでくれた。

「俺もだよ」

「うん……」

基準きじゅんでは4日しかってないけど、勇吾は私が知ってる勇吾より、ずっとずっと大きな男になってた。

勇吾の方がはるかに大変な状況にいるのに、交信が途絶とだえるまで、私を気遣きづかうように明るく私の故郷ダーシャンの話を続けてくれた。

ちゃぷん。

ひとりの湯船に戻された。

ああっ。好きだ。

勇吾のことが好きだ。

映画のラブシーンでも顔を真っ赤にしてた、あの初心うぶな勇吾が、裸の私を見ても平然へいぜんとしてた。物事ものごとどうじない男になってた。

会いたいなぁ……。
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