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206.第2城壁防衛戦!(3)
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明日で満月を迎える夜空は明るい。
前線が第2城壁に移ったことで、長弓が宮城の屋根からでは届かなくなった。メイファンたち長弓兵も城壁の上に立つ。
何度もシミュレーションを繰り返してたけど、若干の隊列の乱れはやむを得ない。
けれど、ミオンさんが今晩の勝利を信じて兵士の服を洗濯していたように、俺も信じて見守るしかない。
「呪符は……?」
と、側に立つシアユンさんに尋ねた。
「祖霊廟に収めてあります」
俺を召喚するときにリーファ姫が用いた、巻き物のような長さの呪符。
かつて剣士府で俺が演説した時、シアユンさんは「見たこともない長さ」と表現した。優れた呪術師だというリーファ姫が、召喚の呪術になんらかの改良を加えていたのだろうと推測される。
その呪符を眠るリーファ姫にかざせば「答えを得られる」と、祖霊が言った。
だけど、そのことは俺とシアユンさんしか知らない。
「シアユンさん」
「なんでしょうか?」
「せめて、ツイファさんとユーフォンさんには伝えておいた方がいいんじゃないですか?」
「……ツイファもユーフォンも、リーファ姫を深く敬愛しております」
「ええ……」
リーファ姫が命を賭してマレビトを召喚することに反対した2人だ。引き換えに現れた俺にも当初、反感を抱いていた。
「たとえ良い報せであっても、激しく動揺させてしまうかと……」
そう言うシアユンさんの表情にも迷いが見られた。
「俺が心配してるのは、シアユンさんのことです」
「私ですか……?」
「俺はずっとシアユンさんに支えられてます。けど、そろそろシアユンさんを支えてくれる人も必要じゃありませんか?」
最初はリーファ姫の筆頭侍女という、権限の曖昧なところから支えてくれていた。けれど今は太保の役職にも就いてもらい、名実ともに城内のナンバーツーだ。
そこに来て、大きな存在であるリーファ姫のことまで独りで抱え込むのは、負担が大き過ぎる気がしていた。
「俺が異世界に召喚されたときには、既にリーファ姫は眠っていました。リーファ姫の事柄を、シアユンさんや皆さんと同じように感じることは出来ない」
「はい……」
「シアユンさんが気持ちを分かち合える人がいた方がいいと思うんです」
「マレビト様はお優しいですね……」
「そうですか……?」
「リーファ姫がお目覚めになられたら、城の主の座を奪われるかもしれないというのに」
「そっか! それはいいですね。代わって貰えるものなら、代わって貰いたいですよ」
シアユンさんは、クスッと笑った。
「承知いたしました。ツイファとユーフォンにも事情を打ち明け、協力を求めましょう。マレビト様にもお立ち会いいただけますか?」
「もちろんです!」
「私はリーファ姫を敬愛するのと同様に、マレビト様のことを主君としてお慕い申し上げております……」
と言ったシアユンさんが、みるみる全身を真っ赤にしていく。
あ、男性としても慕ってくださってるんですね。とても嬉しいですけど、そんなに照れられてしまうと、こっちも照れてしまいます。
「あ、ありがとうございます! 俺もシアユンさんを頼りにしてます!」
「はいっ!」
と、シアユンさんが真っ赤な顔で晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた頃、ジンリーが気が付いたとホンファとユエが報せに来てくれた。
薄着だった。
あ。もう、お色気大作戦を再開するんですね。
第2城壁防衛戦は予断を許さなかったけど、隊列の乱れは少なくなってきたように見える。
回廊決戦の開始から既に12時間は経っている。けど、夜明けまではまだまだ時間がある。
望楼からは少し見えづらくなった最前線に立つ皆んなの無事と勝利を祈っていた――。
前線が第2城壁に移ったことで、長弓が宮城の屋根からでは届かなくなった。メイファンたち長弓兵も城壁の上に立つ。
何度もシミュレーションを繰り返してたけど、若干の隊列の乱れはやむを得ない。
けれど、ミオンさんが今晩の勝利を信じて兵士の服を洗濯していたように、俺も信じて見守るしかない。
「呪符は……?」
と、側に立つシアユンさんに尋ねた。
「祖霊廟に収めてあります」
俺を召喚するときにリーファ姫が用いた、巻き物のような長さの呪符。
かつて剣士府で俺が演説した時、シアユンさんは「見たこともない長さ」と表現した。優れた呪術師だというリーファ姫が、召喚の呪術になんらかの改良を加えていたのだろうと推測される。
その呪符を眠るリーファ姫にかざせば「答えを得られる」と、祖霊が言った。
だけど、そのことは俺とシアユンさんしか知らない。
「シアユンさん」
「なんでしょうか?」
「せめて、ツイファさんとユーフォンさんには伝えておいた方がいいんじゃないですか?」
「……ツイファもユーフォンも、リーファ姫を深く敬愛しております」
「ええ……」
リーファ姫が命を賭してマレビトを召喚することに反対した2人だ。引き換えに現れた俺にも当初、反感を抱いていた。
「たとえ良い報せであっても、激しく動揺させてしまうかと……」
そう言うシアユンさんの表情にも迷いが見られた。
「俺が心配してるのは、シアユンさんのことです」
「私ですか……?」
「俺はずっとシアユンさんに支えられてます。けど、そろそろシアユンさんを支えてくれる人も必要じゃありませんか?」
最初はリーファ姫の筆頭侍女という、権限の曖昧なところから支えてくれていた。けれど今は太保の役職にも就いてもらい、名実ともに城内のナンバーツーだ。
そこに来て、大きな存在であるリーファ姫のことまで独りで抱え込むのは、負担が大き過ぎる気がしていた。
「俺が異世界に召喚されたときには、既にリーファ姫は眠っていました。リーファ姫の事柄を、シアユンさんや皆さんと同じように感じることは出来ない」
「はい……」
「シアユンさんが気持ちを分かち合える人がいた方がいいと思うんです」
「マレビト様はお優しいですね……」
「そうですか……?」
「リーファ姫がお目覚めになられたら、城の主の座を奪われるかもしれないというのに」
「そっか! それはいいですね。代わって貰えるものなら、代わって貰いたいですよ」
シアユンさんは、クスッと笑った。
「承知いたしました。ツイファとユーフォンにも事情を打ち明け、協力を求めましょう。マレビト様にもお立ち会いいただけますか?」
「もちろんです!」
「私はリーファ姫を敬愛するのと同様に、マレビト様のことを主君としてお慕い申し上げております……」
と言ったシアユンさんが、みるみる全身を真っ赤にしていく。
あ、男性としても慕ってくださってるんですね。とても嬉しいですけど、そんなに照れられてしまうと、こっちも照れてしまいます。
「あ、ありがとうございます! 俺もシアユンさんを頼りにしてます!」
「はいっ!」
と、シアユンさんが真っ赤な顔で晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた頃、ジンリーが気が付いたとホンファとユエが報せに来てくれた。
薄着だった。
あ。もう、お色気大作戦を再開するんですね。
第2城壁防衛戦は予断を許さなかったけど、隊列の乱れは少なくなってきたように見える。
回廊決戦の開始から既に12時間は経っている。けど、夜明けまではまだまだ時間がある。
望楼からは少し見えづらくなった最前線に立つ皆んなの無事と勝利を祈っていた――。
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