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201.回廊決戦!(1)

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長い1日が始まった。

城門が開き、外征がいせい隊が四方しほう出陣しゅつじんし、最終城壁に沿って移動していく。

最終城壁と第2城壁の城門はズレている。外敵がいてき侵入しんにゅうふせぐのににかなっている。

ただ、そのために回廊かいろうのスタート地点もズレる。

もちろん、すで人獣じんじゅうとの戦闘は始まっている。アスマやイーリンさんのやいばに反射した朝の陽光が望楼ぼうろうにまで届く。

「マレビト様。シーシ殿が……」

と、シアユンさんがゆびした方を見ると、南側城壁でシーシが大きく手を振っている。

俺が手を振り返すと、シーシは縄梯子なわばしごで最終城壁をり始めた。その下では外征がいせい隊が陣をって、人獣じんじゅうふせいでいる。同時に資材の降下こうかも始まる。

シーシの真紅しんくの髪が壁に隠れて見えなくなると、思わず左隣に立つシアユンさんの手を握ってしまった。

「あ……、すみません」

「いえ。大丈夫ですよ」

と、シアユンさんは優しく俺の左手を握り返してくれた。

右手には今朝の大浴場ハーレム風呂での、くにっていうシーシの感触がよみがえってる。無事に帰って来てくれっていう、俺のになっている。

両手をギュッと握りめたとき、伝令でんれいむ。

「南側城壁、東側城壁。とも回廊かいろう建設の第一段階始まりました!」

と、南側と東側の伝令をお願いしているツイファさんが報告してくれた。

望楼ぼうろうからではこまかなことまでは分からない。作戦の要所ようしょ要所ようしょ不測ふそく事態じたいが起きた時、伝令をお願いしている。

続いて北側と西側の伝令をお願いしているユーフォンさんからも同様の報告があった。

さすがにではない。

第一段階ではまず、城壁の外側にやぐらを組む。人や資材をろしていくためのやぐらだ。

地面にくいを打ち込む音が、カコーン! カコーン! と、ひびき始めた。

南側広場にはフェイロンさん、ヤーモン、ミンリンさん、それにフーチャオさんが陣取じんどる作戦本部が置かれ、いそがしく人が出入りしている。

シアユンさんに左手をキュッと強く握られた。優しげに微笑んでいる。

「マレビト様。気をめていると続きません」

「あ」

「お茶をおれしましょうか?」

初めて人獣じんじゅうとの闘いを観戦した晩と同じように微笑ほほえんでくれた。

「お願いします」

と、シアユンさんの手をはなすと、少し心細さを感じてしまった。

いや。まだ、始まったばかり。

東側ではアスマの半月刀はんげつとうが次々に人獣じんじゅうっている。南側にはイーリンさん。西側にラハマ。北にヨウシャさん。

それぞれに、強い。

城壁の上からは長弓ながゆみ短弓たんきゅう連弩れんどの弓兵が援護えんご射撃しゃげきを続けている。そして、出番を待つ剣士たち。なんと心強い光景こうけいか。信じて落ち着こう。

「どうぞ。温かいうちに」

と、シアユンさんが差し出してくれたお茶に口をつける。流し込むお茶のうるおいで、のどかわいていたんだと分かる。

組み上げられびてきたやぐらから、シーシの真紅しんくの髪が見えた。資材と職人さんたちがやぐらを使って、城壁の外に続々ぞくぞくろされ始めた。

いよいよ、回廊かいろうの前進が始まる――。

と、同時に人獣じんじゅう凶暴化きょうぼうか次第しだいに広がっている。城壁をよじ登ろうとするヤツも出てきて、短弓たんきゅう兵と剣士が対処たいしょを始めた。

しかし、ほとんどは回廊かいろう建設の先端せんたいを守る外征がいせい隊に向かっているか、共食ともぐいを起こしている。

回廊かいろう両脇りょうわきの壁が、城壁しに見えてきた。

寸法を合わせてある資材を、はめ込むだけで組み上がっていく回廊かいろうの壁。職人さんの掛け声に合わせて外征がいせい隊もジリジリと前進を続ける。

壁がった先端せんたんにシーシの真紅しんく髪と、ジンリーの薄紫うすむらさき髪が見えた。

「ジンリーは手元に置いたのか……」

「シーシ殿はむすめのように可愛がられてましたから」

と、シアユンさんが目を細めた。

「息もピッタリだ」

「本当に心強い限りです」

その2人の頭が屋根でおおわわれ隠れた。そしてまた、壁を立てる姿が見える。

壁を建て、屋根で覆う。

この繰り返しで、徐々に徐々に前進を続けていく。

盾で防ぎ槍で防ぐクゥアイの背中も見えた。朝日に銀髪がえている。

もう一度、シアユンさんの手を握ってしまった。シアユンさんは何も言わずに握り返してくれる。

最前線の緊迫感きんぱくかん望楼ぼうろうにまで届くかのようだった――。
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