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155.城壁上の偉業(3)

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「ここはダーシャン王国の中にあっても、別の国……、ジーウォ公国こうこくとして独立どくりつしました」

という俺の言葉に、アスマは少しまゆを動かした。

「ジーウォ公国は、アスマさんたちを歓迎かんげいしたい」

いきなり本題に切り込み過ぎかとも思ったけど、今のタイミングをのがすと言い出せないような気もした。

人獣あいつらは人間であれば、見境みさかいなくってしまう。地下牢ちかろうでキツネ型の人獣は、みなさんのことをねらい続けたはずです」

みるみるうちに、アスマの表情におそれの色がかんだ。

武器も取り上げられた地下牢で、木格子きごうしやぶろうとする人獣じんじゅうと向き合い続けた、24日間。

どれほどこわい思いをしたことだろうか。

「はじめは……、シャンのまじなが新しいまじないで我らをなぶろうとしているのかと思った……。が、すぐに人の気配が一切しなくなっていることに気が付き、ただただおびえて過ごした……」

「一緒に……、闘ってくれませんか?」

「……」

「共通の敵と闘うことは、きっと、アスマさんが女王として目指した『和解わかい』にも、一歩近づくことになります」

アスマは俺の目をジッと見詰めたまま、考え込んでいる。

「すぐに返事が出来ないのは分かります。申し訳ないけど、今日はこのまま地下牢に戻ってください。マリームさんとラハマさんも同じ部屋になるようにとりはからいます」

俺は言葉を切って、空を見上げた。

「3人で……、よく話し合ってみてください」

という俺の言葉に、アスマはハッと表情を変えた。

「……分かった。よく話し合う」

「ありがとうございます」

「……そのような機会きかいをいただけたことに、感謝する。ジーウォ公」

と、アスマは頭を下げた。

俺が手をげて、フェイロンさんとエジャに知らせると、アスマは再び手枷てかせめられ目隠しをされ、地下牢に戻っていった。

……つ、疲れた。

外征がいせい隊は既に城壁の中に戻って来ている。

俺は城壁をり、下で待ってくれていたメイユイと一緒に宮城きゅうじょうに戻る。

シュエンに「ガツンとショックを与えたら」と言われて色々と考えをめぐらせた。

だけど、人獣じんじゅうれに囲まれてる事実以上にショックなことが思い浮かばなかった。

そして、それは見事にアスマの心のかべを1枚やぶった。

いやぁ……、蛮族って呼ばれてたのが、意外と文明国でビックリしたなぁ……。

そう言えば、アスマが俺のことを「ジーウォ公」って呼んだとき、一瞬「誰?」ってなった。初めて呼ばれたしなぁ……。

シュエンから聞かされてたかな……?

そして、実はひそかに、俺はひとつの個人的偉業いぎょうげていた。

達成感でいっぱいだ。

アスマの立派なふくらみを、一度もチラ見しなかったのだ。

かなり意識して頑張った。

マジメでシビアな話をしてるときに、チラっと胸を見たりしたら台無だいなし、と思って、あらかじめかなり固い決意を持っていどんだ。

そして、やりげた。

メイユイに見えないように、小さくガッツポーズしてしまう。

馬鹿馬鹿しいけど、やり切った感が半端ない。

誰にも言えない、個人的偉業いぎょうだ。

……つ、疲れたぁ。

あとは褐色かっしょく女子3人の話し合いが上手くいくことを祈っていよう。
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