【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

111.立ち昇る熱気(2)

「剣士団が持ってる『治癒ちゆ』の呪符じゅふを使わせてくれたらなぁ、って言ってる人もいます」

と、湯船ゆぶねに浸つかるクゥアイが困こまったような笑顔で教えてくれた。

短弓たんきゅう隊の初陣ういじんから５日が過ぎている。皆みなに疲労ひろうが溜たまってきているのは、クゥアイの表情からも分かる。

だけど、『治癒ちゆ』の呪符じゅふは、もうない。

ただ、王都の異変いへんを意味する呪符じゅふの失効しっこうは、住民には伏ふせられている。

今は、剣士団の元々の権威けんいが「呪符じゅふを使わせろ」という声を抑おさえているけど、いつまでも続けられるものじゃない。

「でも、祖霊廟それいびょうの周まわりで育ててる薬草やくそうって、傷薬きずぐすりにもなりますけど、煎せんじて飲めば疲労回復ひろうかいふくにも効きくんですよ！」

と、クゥアイが嬉うれしそうに言った。種を蒔まいて８日。２日ほど前から収穫しゅうかくが始まってる。

「そうなんだ。クゥアイは植物しょくぶつのことに詳しいな」

「えへへっ。ずっと畑仕事はたけしごとして育そだちましたから！ もう少ししたら、獲とれる量も増えてくるんで、そしたら皆みんなに配くばれるようになると思います！」

うん。短弓たんきゅう隊に限らず、これは体力勝負だ。無尽蔵むじんぞうにも思える人獣じんじゅうたちを迎むかえ撃うつのに、体力や気力が尽つきたらお仕舞しまいだ。

いろんな知恵ちえを集めて、立ち向かうしかない。

そして、クゥアイを大好きな畑仕事に戻もどしてあげられる日を、早く迎むかえたい。

大浴場での議論ぎろんで思い付いたことがあれば、そのまま寝ずに工房こうぼうに向かって試作しさくをする日もあった。

細こまかな作業で目と肩かたがバキバキになってる俺に、ツイファさんがマッサージしてくれた。

「人間の身体からだのことは熟知じゅくちしておりますので」

と、いつもの澄すました笑顔で言うツイファさんだけど、賊ぞくに襲おそわれたあの夜の姿を思い起こすと、ちょっぴり怖こわくて、とてもカッコ良い。

でも、俺の肩に触ふれる手は、柔やわらかな女子の手で、あの夜のことは夢だったんじゃないかとさえ思えた。つい、ウトウトしてしまうくらいに気持ち良くて、すっかり疲つかれが取とれた。

「あの、このマッサージ……」

「なんでしょう？」

「皆みんなに教えてもらう訳わけにはいきませんか？ 色々、ご事情もあると思うので、可能な範囲はんいでいいので」

という俺のお願いに、少し考えたツイファさんは、今は同居どうきょしているシュエンに教えると言ってくれた。

「その後、シュエンが誰だれに教えるかは、シュエンの自由ですわ」

と、ツイファさんはクスッと笑った。

ご事情は俺には分からないけど、なにかを上手うまくやってくれているんだろう。少しでも短弓たんきゅう隊や長弓ながゆみ隊の疲労ひろうを癒いやす助けになるなら、ありがたい。

そうしてシーシの工房に籠こもって連弩れんどづくりに取り組んだ５日目。ようやく、弓の弦げんを引いて放す仕組しくみにたどり着いた。

レバーを倒たおすと弦げんが引かれ、同時にレールに矢が装填そうてんされる。

レバーを目一杯めいっぱいに引くと、弦げんを引くのに引っかけていた窪くぼみに、下から突起とっきが差さし込まれて、弦げんが解放かいほうされて、矢が放はなたれる。

不格好ぶかっこうだけど、レバーを倒すというワンアクションだけで、矢が前に飛んでいくものが出来た。

レバーを別に付けるっていう発想はっそうに至いたるまでに４日かかった。レールに装填される矢は、確実に前に向かって飛んでくれた。箱は次々に装填される矢を収おさめておくのに必要だった。

本物の連弩れんどと同じに出来てるのかは比較ひかくしようがないけど、とにかく矢が飛び、射抜いぬけるものが出来た。町工場の息子に生まれて、ものづくりが、そこそこ好きで良かったと思う。

一旦いったん、形が見えると、シーシが翌日には完成形かんせいけいに仕上しあげてくれた。

さすがです！ 天才ツルペタ姉さん！