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102.紫の残像(2)
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ツイファさんが脱ぎ放ったドレスの内側には、びっしりと短剣やクナイが仕込まれているのが見えた。
紫のビキニ姿になったツイファさんの身体も翻り、入口の扉めがけていくつものクナイが飛んだ。
同時に開いた扉から飛び出した黒い影が、クナイを弾き返して部屋の中に転がり込む。
黒い影が転がりながら放ったクナイを、今度はツイファさんが弾き返し、さらにクナイを投げ返す。
壁際の灯りにほのかに照らされる黒い影が1つ2つと増える。
ツイファさんは焦る様子もなく、細くしなやかに伸びる腕に巻かれた帯から抜いた短剣を、黒い影に向かって投げつける。
「ぐえっ」
という、声がして黒い影のひとつが倒れた。
「これが、王家最大の秘密なのでございます」
と、シアユンさんが俺に囁いた。
「王家の秘密……?」
「そうです。【人の命を奪うのは剣士】とシキタリに定められておりますが、王族方の命を狙う者もおります。そういった賊から王族を守り、賊の命を奪う者。それがツイファたち【闇の者】でございます」
シアユンさんが、反対側にいるシュエンやユエには聞こええない程度の小声で、俺に囁いている間に、ツイファさんの投げたクナイが黒い影のひとつに命中し、動きを止めた。
残る黒い影はひとつ。
「シキタリに反する存在であるが故、王族や私ども侍女以外に、その存在を確と知る者はおりません。破却されたはずの武器を用い、賊を密かに闇に葬るのです」
窓際で激しく短剣を突き合うツイファさんの肢体が、うっすらと差し込む月明かりに照らされた。
俊敏な動きのすべてを俺の目で捉えることは出来ないけれど、目を奪われる。
「どうか、ツイファがそうであるということは、口外なさいませんよう」
「わ、分かりました……」
最後に残った黒い影は手強いらしく、激しい突き合いが続いている。外から入る戦闘音と雨音に、カンッとか、チッといった金属が接触する音が交じる。
「あの『賊』も【闇の者】ですか?」
「いいえ。【闇の者】が王族に手出しすることはありません。その契あればこそ、祖霊を恐れずシキタリに反し、人の命を奪うことが出来るのです。黒い影は恐らく、単に刺客でしょう。剣士くずれかもしれません」
……単に刺客。なんて怖い言葉だろう。
でも、長く続く戦闘の中、シアユンさんは落ち着きを失っていない。それだけツイファさんの強さを信頼しているということか。
あのツイファさん。いつも澄まし顔でテキパキと仕事をこなしてくれて、シュエンも引き取ってくれた優しいお姉さんのツイファさん。クスクス笑いながらメイユイを窘めるツイファさん。
むきゅっとはさんでた……、のはいいとして、そのツイファさんが、強く、速く、そして躍動している姿に、俺の理解は追い付かず、ただ茫然と眺めている。
紫でツヤのあるビキニ姿で、ほどいた紫髪を乱しながら、歩幅を広く伸ばして腰を落とし、敵の攻撃を躱しながら、斬撃を撃ち込んでいる。
素早く鋭く動き、宙を舞う、紫色が残像になって俺の目に焼きつく。
本当に、この世界の全体像は、まだまだ見えてない。
いや、存在そのものが秘密と言われては、知らないままであった可能性も高い。
「あの賊の正体は……? 誰かが……?」
と、俺はシアユンさんに小声で尋ねた。
「恐らく王子のうちのどなたかが潜ませていたものでしょう」
「王子……? リーファ姫の兄弟ってことですか?」
「ええ……」
と、シアユンさんは厳しい表情で、ツイファさんと激しく突き合っている黒い影を見詰めた――。
紫のビキニ姿になったツイファさんの身体も翻り、入口の扉めがけていくつものクナイが飛んだ。
同時に開いた扉から飛び出した黒い影が、クナイを弾き返して部屋の中に転がり込む。
黒い影が転がりながら放ったクナイを、今度はツイファさんが弾き返し、さらにクナイを投げ返す。
壁際の灯りにほのかに照らされる黒い影が1つ2つと増える。
ツイファさんは焦る様子もなく、細くしなやかに伸びる腕に巻かれた帯から抜いた短剣を、黒い影に向かって投げつける。
「ぐえっ」
という、声がして黒い影のひとつが倒れた。
「これが、王家最大の秘密なのでございます」
と、シアユンさんが俺に囁いた。
「王家の秘密……?」
「そうです。【人の命を奪うのは剣士】とシキタリに定められておりますが、王族方の命を狙う者もおります。そういった賊から王族を守り、賊の命を奪う者。それがツイファたち【闇の者】でございます」
シアユンさんが、反対側にいるシュエンやユエには聞こええない程度の小声で、俺に囁いている間に、ツイファさんの投げたクナイが黒い影のひとつに命中し、動きを止めた。
残る黒い影はひとつ。
「シキタリに反する存在であるが故、王族や私ども侍女以外に、その存在を確と知る者はおりません。破却されたはずの武器を用い、賊を密かに闇に葬るのです」
窓際で激しく短剣を突き合うツイファさんの肢体が、うっすらと差し込む月明かりに照らされた。
俊敏な動きのすべてを俺の目で捉えることは出来ないけれど、目を奪われる。
「どうか、ツイファがそうであるということは、口外なさいませんよう」
「わ、分かりました……」
最後に残った黒い影は手強いらしく、激しい突き合いが続いている。外から入る戦闘音と雨音に、カンッとか、チッといった金属が接触する音が交じる。
「あの『賊』も【闇の者】ですか?」
「いいえ。【闇の者】が王族に手出しすることはありません。その契あればこそ、祖霊を恐れずシキタリに反し、人の命を奪うことが出来るのです。黒い影は恐らく、単に刺客でしょう。剣士くずれかもしれません」
……単に刺客。なんて怖い言葉だろう。
でも、長く続く戦闘の中、シアユンさんは落ち着きを失っていない。それだけツイファさんの強さを信頼しているということか。
あのツイファさん。いつも澄まし顔でテキパキと仕事をこなしてくれて、シュエンも引き取ってくれた優しいお姉さんのツイファさん。クスクス笑いながらメイユイを窘めるツイファさん。
むきゅっとはさんでた……、のはいいとして、そのツイファさんが、強く、速く、そして躍動している姿に、俺の理解は追い付かず、ただ茫然と眺めている。
紫でツヤのあるビキニ姿で、ほどいた紫髪を乱しながら、歩幅を広く伸ばして腰を落とし、敵の攻撃を躱しながら、斬撃を撃ち込んでいる。
素早く鋭く動き、宙を舞う、紫色が残像になって俺の目に焼きつく。
本当に、この世界の全体像は、まだまだ見えてない。
いや、存在そのものが秘密と言われては、知らないままであった可能性も高い。
「あの賊の正体は……? 誰かが……?」
と、俺はシアユンさんに小声で尋ねた。
「恐らく王子のうちのどなたかが潜ませていたものでしょう」
「王子……? リーファ姫の兄弟ってことですか?」
「ええ……」
と、シアユンさんは厳しい表情で、ツイファさんと激しく突き合っている黒い影を見詰めた――。
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