【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

63.剣士府の演説(6)

「皆みなさんが大切に祀まつって、大切に想おもっている、祖霊それいが俺をこの国に呼んでくれたんだと聞きました。皆さんは、その大切な祖霊が定さだめた『シキタリ』を大切に守り、これまで祖霊に恥はじぬ生き方を貫つらぬいてこられた。そのことに、敬意けいいを表ひょうしたいと思います」

俺の話に、少なくない剣士さんが頷うなずいてくれている。良かった。正直なところ『祖霊』の位置づけが、いまいちピンときてない。けど、間違まちがいではなかったようだ。

「皆さんが命懸いのちがけで立ち向かってくださっている、あの人獣じんじゅうたちが、今、その大切な『シキタリ』を押おし潰つぶそうとしています。城に生きる人間が残らず人獣じんじゅうたちに押し潰されたら、誰が祖霊を祀まつるのか？ 誰が『シキタリ』を守るのか？ 今まさに『シキタリ』は、人獣じんじゅうたちによって壊こわされようとしています！」

短い時間で考え付いたロジックがこれだ。

『シキタリ』を破やぶろうとしているのは俺じゃなくて、人獣じんじゅう。

細部さいぶまで詰つめられてないけど、どうだ？ 届くか？

「だから！ 俺は、城に生きる人間全員で人獣じんじゅうに立ち向かいたいんです！ もう、誰にも死んでほしくない。皆さんにも死んでほしくない。たくさんの仲間を見送った皆さんからすれば、生なまぬるくて青臭あおくさいことを言ってるように聞こえるかもしれない。でも、本当にそう思っています」

「俺は納得なっとくいかない！」

という声が上がった。

異論いろんが出るのは想定内そうていない。声のした方に向かって、立ち上がって意見を聞かせてくれるように促うながした。皆に座ってもらったのは、このためでもある。全員が立ってる中での議論は、場がグチャグチャになる。

立ち上がったのはオレンジ髪の小柄こがらな男の剣士。俺が最初に投石とうせきした獅子ライオン型人獣じんじゅうと闘っていた剣士だ。あの時も、投石した俺のことを激しく睨にらみ付けてた。

「俺は納得いかない。人の命を奪うばうのは剣士、それが『シキタリ』だ。人獣あいつらは二本足で立ってる。闘うのは剣士でないと『シキタリ』を守ったことにはならねぇ」

と、オレンジ髪の剣士は吐はき捨すてるように言った。剣士たちの中には頷うなずいている者もいる。

「平民どもが石を投げるのも止やめさせるべきだ。剣士の闘いを穢けがしてる」

その時、別の剣士が立ち上がった。

「コンイェン。俺の考えは少し違う」

立ち上がったのは、俺が二度目に投石したときに闘っていた、短髪たんぱつでガタイのいい剣士だった。

「なんだ、ヤーモン。言ってみろ」

「剣士団はもう、７割が人獣じんじゅうにやられた。喰くわれた。ジーウォ城の住民が全滅ぜんめつすることも、考えられる状態だ」

「だからなんだ？ 『シキタリ』を守って全滅するなら、それが祖霊それいのお導みちびきだ。第一、『シキタリ』を破やぶって生き残ったところで、『シキタリ』を守って死んでいった仲間に申し訳が立たねぇ。冥界めいかいで祖霊に合せる顔もねぇ」

「俺は、皆みなが死んだら『シキタリ』を守る者もいなくなるという、マレビト様の言葉に一理いちりあると思う」

「そんなのは詭弁きべんだ！ だいたい、マレビト様、マレビト様って皆みな言いうが、本当にあいつはマレビト様なのか？」

……そんなの、俺が聞きたい。

「召喚したリーファ姫は生きてるって言うじゃねぇか？ 本当に召喚は成功してたのか？ この城は人の出入りが多い。誰も知らないヤツを、適当てきとうにマレビト様って祭まつり上げただけじゃねぇのか？ 『シキタリ』を破やぶれなんて言うヤツを、祖霊は本当にお遣つかわしになるのか!?」

皆の視線が、俺に集まった。……そんな目で見られましても。