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60.剣士府の演説(3)

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のちほど剣士府けんしふに向かうと約束し、フェイロンさんとイーリンさんを見送みおくった。

俺はまず、シアユンさんに同行してもらい、宮城きゅうじょうの北側にフーチャオさんをたずねた。

メイユイは前室ぜんしつ待機たいきしてくれていたので、護衛ごえいたのみ忘れることはなかった。まんまと、メイユイの作戦通りだ。護衛してほしくない訳ではないけど。

日の出とともに建設けんせつが始まっていた仮設住宅かせつじゅうたくは、半分以上、完成していた。

現場監督げんばかんとくらしきおっさんが、あせぬぐいながら日没にちぼつまでには全部できると、気持ちのいい笑顔で教えてくれた。

すでに完成していたフーチャオさんの区画くかくに行くと、メイファンがはしゃいでいた。

ふわっと、背中に今朝けさの大浴場での「むにゅん」がよみがえったけど、顔には出てなかったはず……。

メイファンの弓が、波紋はもんを呼んでいるとは聞かせたくなくて、フーチャオさんを外にれ出した。

あらましを説明すると、フーチャオさんはニヤリと笑った。

「勝負に出たな、マレビト様」

そう、勝負だ。当たってもくだけてはいけない。城の中のみんなの気持ちをひとつにするのに、けては通れない勝負だ。俺はフーチャオさんの目を見ながらうなずいた。

心の奥の奥の奥の方では「今朝けさ、娘さんたちにしてもらっちゃいました! すんませんしたっ!」と、土下座どげざしてたけど、顔にまでは出さない。

後ほど、剣士府けんしふで立ち会ってもらうことを約束してわかれた。

それまで、メイファンの耳に変なことが入らないように、そばに付いててあげてほしいとお願いしておいた。

司空府しくうふにミンリンさんをたずねると、少し青い顔をして立ち合いを了承りょうしょうしてくれた。

交渉事こうしょうごと苦手にがてなんだもんな。自分が交渉こうしょうするのでなくても、あまりそういう場所に行きたくないよね。

でも、城の最高幹部さいこうかんぶ勢揃せいぞろいしてるって形がほしい。

話しをさせてもらう参考に、フェイロンさんに一般的いっぱんてき剣士像けんしぞうたずねると「あががるために剣士になった者も多い」って、教えてもらった。

すでに、剣士のほとんどが平民出身へいみんしゅっしんだとは聞いてた。

宮城きゅうじょうと同じ最終城壁内に宿舎しゅくしゃをもらい、平民より一段高いちだんたかあつかいを受けているのは確かだ。

たぶん、特別扱とくべつあつかいされることが当然と思っている人が多い。実際じっさいほか職種しょくしゅの人たちの出来ないことを引き受けてくれている。職種という表現が妥当だとうかどうかはさておき。

心のどこかでは、最終城壁の中で、避難民に仮設住宅を用意していることさえ、おもしろくなく思っていても不思議じゃない。王族が使うような布地ぬのじの服を着始きはじめたことも。

三卿さんきょう一亭いっていが全員で立ち会う。しかも、自分たちのである剣士府けんしふに足を運んでくれる。

たぶん、今のジーウォ城でこれ以上の特別扱いはない。

ミンリンさんには苦手なことをさせて悪いけど、ここはどうしてもお願いしたい。

せっかく司空府しくうふに来たので、シーシの工房こうぼうにもった。少し睡眠すいみんが取れたのか、スッキリした顔でシャキシャキ走り回っていた。

城壁になら篝火かがりびに屋根を取り付ける作業は目途めどが立ち、今晩の戦闘には間に合うと報告を受けたので、いくつか頼みごとをした。

ほかに、鍋付きサーチライト型篝火かがりび最終形さいしゅうけいと、実戦投入じっせんとうにゅう過程ステップ設置せっち場所、設置方法について、めた打ち合わせが出来た。

今日の剣士さんたちとの話の行方ゆくえさだかではないけど、進められることは進めておきたい。

さらに、矢の増産ぞうさんは、すでに3,000本まで出来てるって胸をられた。ツル……。

ツルペタ姉さん、やっぱり、すごいなんだわ。個人が天才ってだけじゃなくて、組織そしきを動かせる立場でないと、ここまで進められないよね。

とりあえず、すごくめておいた。とてもうれしそうに笑ってくれた。

司徒府しとふにウンランさんをたずねると、ニコニコと人の良さそうな笑顔で快諾かいだくしてくれた。

いいわぁ。和むわぁ。小太りのおっさん。

こんなおっさんになりたいわぁ。

太りたくはないけど。

け足で用件を済ませ、一旦いったん、自分の部屋にもどった。

剣士府けんしふからむかえの人が来ることになっている。

それまでの間、ふっと息をいて、剣士のみなさんに伝えたい言葉を、ゆっくり考える時間がとれた。

空は少しだけ赤みをび始めている。

今夜も、あの激しい戦闘が待っている。あのおそろしい人獣じんじゅうたちが、やって来る。

異世界に来てから知り合った、みんなの顔を一人ひとり思いかべる。

も思い浮かぶけど……、このさい、それも受け入れよう。今、一人だし……。

里佳りかに相談したいなと、思った。

里佳なら何て答えるだろう? 日本と異世界って、遠く離れてしまって今はかなわないことだけど。

日本に帰れたところで、どうだ? 

俺が一方的におもいいをつのらせて、関係をこわしてしまった。好きでたまらなくなって、フラれた。前と同じように相談したり、できるだろうか?

心にぽっかり、大きな穴が開いてる。……その穴の中では、あわだらけの純潔じゅんけつ乙女おとめたちがキャッキャしてる。むにゅん、むにゅん、ぽいん、ばいーん……。

……なに? 最後のイメージ?

見ると、空が赤みをしている。……寝てたのか。

昼夜逆転ちゅうやぎゃくてんの生活が続いてるからな。ふっと落ちることがあっても、おかしくない。でも、頭は少しクリアになった。

やがて、剣士府けんしふからの迎えとして、イーリンさんがやって来た。

緊張きんちょうで顔を強張こわばらせるイーリンさんに、ニコッと笑いかけて、俺は部屋を出た。
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